企業ホームページ運営の心得

嘘くさくならない作文の作法と「すごい」の使い方

ホームページ作りでは文章力が大切、とくにセールスコンテンツでは売り上げを左右します
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百八十六

Web屋とホームページに必要な力

Web屋さんにとってもっとも必要な能力は何かと問われれば「営業力」と即答します。商売なら稼ぎ、儲からなければ意味がありません。残念ながら技術だけではパンは食えず、金を生まない作品ではお菓子も買えません。そしてWeb(ホームページ)を作るうえでもっとも大切な能力はと尋ねられれば、「文章力」とこれまた即答します。

何冊も本を出している「作家」さんのメルマガが支離滅裂で、ブログが独りよがりであることは珍しくありません。内容は「味」として処理するとしても、「です。ます」と「である。なのだ」が理由なく混在しているのには閉口します。それでも「作家」でいられる理由は最後に述べますが、私たちが目指すのは作家ではなく「商売人」。

着眼点を変えれば商売用(コンテンツ)の作文力がグッと上がります。

文章が嘘くさくなる

コンテンツの文章は大きく分けて2種類です。1つは「会社概要」や「使用方法(マニュアル)」など修飾のいらない文章です。会社概要に「偉大なる会長様がお生まれになったのは」と書いてはお客がひきますので、淡々と事実だけを並べればよいでしょう。問題となるのが、売り込み、体験談、商品説明などを目的とした「セールスコンテンツ」の場合です。「売れない」と相談されるコンテンツは十中八九、嘘くさい文章が並んでいます。

理由は「すごい」「とても」「驚く」といった形容詞が安売りされているからです。「すごい」とは相対の表現で、基準となる対象がなければ「すごい」のレベルがわかりません。すると「売りたい」がための下心から「すごい」と煽っているのではと邪推されてしまうのです。「すごい」を使う場合は、「何と較べて」といった「根拠」を必ず添えてください。これは「商売用作文(セールスコンテンツ)」では基本中の基本です。

ペルソナ、平田祐介の登場

セールスコンテンツのポイントは「うれしい」「たのしい」といった「感情」にフォーカスすることです。ハッキリ言えば「商品の良さ」は利用してみなければわかりません。しかし、買うことによって得られる「うれしい」「たのしい」という「感情」は理解できるからです。たとえば、「掃除機」なら、スペックや最新機能を高らかに謳いあげるのではなく、掃除が楽しくなる方法や、新しい掃除機にはしゃぐ飼い犬の様子などを取り上げるということです。そしてこれらの言葉は感情形容詞、つまりは基本に忠実に「根拠」を示します。

※5W1H

Who(誰が)、When(いつ)、Where(どこで)、What(何を)、Why(どうして)、How(どのように)

具体的には基本の「5W1H」にそって書きます。まず、「誰が」を設定します。その商品やサービスを得ることによって「うれしい」「たのしい」となるのはお客です。このお客を具体的にイメージすることがセールスコンテンツの「作文」のキモです。本稿なら「平田祐介」、いわゆる「ペルソナ」です。

セールスコンテンツの極意

「平田祐介」とは2年前に本サイトの特集企画で設定した「ペルソナ」で、32才の会社員です。共通体験や価値観は世代などの属性で異なります。たとえば、ペルソナがファーストガンダム世代なら「初めてガンプラを手にした時のような」とすることで歓びや興奮を伝えると期待できますが、平田祐介は少し下の世代なので「はじめてミニ四駆を」と、語るほうが理解しやすいであろうということです。「共通体験」は「感情」を揺さぶりやすい便利なツールで、具体的な「ペルソナ」設定が重要である理由です。

5W1Hに戻ります。「Who」と「What」の2つはペルソナと商品・サービスが当てはまります。そこで残りの4つ、次のことをペルソナに語らせるのです。

いつ、どこで、どうして、どのように“うれしかった”か

言い換えれば「シチエーション」を詳述するということです。シチエーションで肉付けするのは「感情」を共有するための舞台装置です。

小学校5年生の秋、近所の駄菓子屋にあった、わずか300円の144分の1スケールのガンダムを買えなかった自分へのうれしいご褒美

……失礼、これは私がガンダムグッズを買う時の妻への言い訳です。

ユーストリームの時代に文章

「これからはユーストリームなどの動画の時代。文章なんていらないぜ」という反論もあるでしょうが甘すぎます。

関西テレビの取材を受けた時のこと。本サイトに寄稿した「グーグルマップは地図の読めない女にはいらない」という記事の要点を1分間ほどにまとめてコメントをくださいとリクエストされましたが、論点を整理して短い時間にまとめ、それを「噛む」ことなく述べるのは至難の業で、NGを繰り返す度に恥ずかしさが積み上げられ、耳の上から下まで赤くなりました。

ユーストリームなら“ダダ漏れ”でいいじゃないか

想像してください。まったく編集されていない赤の他人の結婚式や、見知らぬ子供の運動会の映像を見せ続けられる「苦痛」を。映像は……いや、「客の興味を惹く映像」は文章以上に難しいのです。

Sweet Emotion

動画はさらに、撮影技術に編集力、被写体の愛嬌に、声質まで影響する難易度の高いコンテンツです。それに較べれば文章は「文字」だけです。しかも「うれしい」「たのしい」といった「感情」にフォーカスすれば、小難しい理屈も、小洒落た文学表現もいりません。

商品やサービスによってお客が得る「感情」にフォーカスすることでセールスコンテンツをワンランク上に押し上げます。さらにペルソナが経験したであろう「共通体験」で感情を揺さぶります。そしてセールスコンテンツとは? という問いに少し気取って答えれば「Emotion」、すなわち感情という「気持ち」なら伝えやすいということです。

最後に、冒頭に触れた「作家」さんの文章の大半は「編集者」が「校正」して商品にします。ある編集者は酒席でこうこぼしました。

あの先生の原稿をネットに晒してやりたい

……こういう「Emotion」を編集さんに与えないようにと日々是精進と。

今回のポイント

文章は感情を伝えるもの。

共通体験を見つければこまかな説明を省けることもある。

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