「豚組なう」で怒られる? クチコミを舞台裏からみるマーケティング
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百八十七
ツイッターの成功事例……かな
ブログが普及したことで数々の「作品」が話題となり、携帯電話の「ケータイ小説」は多くの人気作家を生み出しました。ここからブログやケータイがあれば誰でも作家になれるという幻想が生まれましたが、世に出た人は「文才」があったからで、ブログやケータイは主従の従に過ぎません。
かつて「ヒルズ族」が大手を振って歩いた六本木にある飲食店「豚組しゃぶ庵」の運営会社社長、中村仁さん(@hitoshi)の著書『小さなお店のツイッター繁盛論』を読了し「マーケティング」の巧みさに唸りました。ツイッターとWeb業界の特性、さらに「ネットの住民」の「ツボ」を刺激する仕掛けが見事です。「豚組なう」とツイートさせる「誘導」も「マーケティング」の1つで、クチコミとは「仕掛ける」、あるいは「仕向ける」ものだと再確認できます。
しかし、この手法は米国ではグレーゾーンとなりました。米国に置き換えれば、「豚組なう」に罰金が科せられるかもしれないのです。
国内適用の可能性
2009年12月に米国で施行された俗に言う「クチコミ広告規制」とは、すべてのメディアでの「レコメンデーション(推奨)」について、金品その他での利益供与を「明記」しろというものです。「宣伝」を「紹介」と偽る「ステルスマーケティング」などから、消費者を保護するために施行されたもので「すべてのメディア」にはブログはもちろん、ツイッターも含まれると考えられます。つまり、「サービスの一品」を提供されたことを明示せずに「豚組なう」に続けて店舗を礼賛すると、触法する可能性がでてくるのです。
もちろん、日本国内では安心して「豚組なう」とつぶやいてください。Webの世界には「米国で流行したサービスは日本でも流行る」という言葉もあり、最近は「フェイスブック」の啓蒙家がこの言葉を濫用しますが、「火遊びするとおねしょする」と同様の「迷信」であることは「セカンドライフ」からも明らかです。
日本では、2010年3月にWOMマーケティング協議会がクチコミマーケティングのガイドラインを策定しており、「クチコミマーケティングを行う際には、金銭・物品・サービス提供など、事業者との関係性を明示しなくてはならない」とされていますが、現状「クチコミ広告規制」が日本で施行される可能性はとても低いと考えています。
とはいえ、本来であれば、規制の有無にかかわらず関係性の明示は明確にしておくべきもので、新聞の広告表示を例にプロのメディアでは従来から取り組んでいるものです。
クチコミに論拠はいらない
「クチコミ」は個人の「主観」という「てい(体)」で扱われます。思想信条と表現の「自由」は憲法で保障され「なんぴと」たりとも犯すことができません。すると、直前に奢られた焼き肉に「主観」が歪められたとしても、本人がそう思ったのだから嘘ではない……と理論武装ができるのが「クチコミ」なのです。
ニコニコ動画の番組で、ホリエモンとして一世を風靡した堀江貴文氏に対して、「2ちゃんねる」の創立者の1人としてネット世界で名高い「ひろゆき」氏がこう指摘しました。
この人、特定のキーワードでツイートするとお金もらえるようなスポンサーもってるからね
堀江氏は否定も肯定もしなかったので事実はわかりませんが、広告業界から見れば「よくある話」です。もっとも、広告の契約内容を、第三者に語ったとすれば、そちらは問題になりますが。
ソーシャルの裏側
クチコミの任意団体「WOMマーケティング協議会」が策定した「ガイドライン」には「良心に基づいた行動する」と理念にあります。良心も悪意も「主観」に過ぎず、「クチコミ」そのものが「主観」です。結論を述べれば日本の「クチコミ」は「野放し」です。
善悪を判ずるのが目的ではなく、現状を踏まえてどうすべきかを述べるのが本稿の目的。大人の矜持としてあえて言葉にするなら「良心に基づいたクチコミ」を目指したマーケティングを仕掛けましょうということ。そしてクチコミマーケティングとは「誰かに語らせること」です。
お客が自発的に語るのがクチコミだ
とは正論です。しかし、マーケティングにおける「クチコミ」とは「仕掛け」によって「語らせる」ことであって、客が勝手にしゃべりだすのを祈ることはしません。
マーケティングを学ぶべき
クチコミを扱った書籍の多くのオチは「メディアに取り上げられる」ことです。これも「語らせる仕掛け」の1つですが、「立地」「セグメント化」「プロモーション」といった仕掛け次第では、メディアは必須条件ではなくなります。これらを軸に冒頭の「小さなお店のツイッター繁盛論」を読み解くと、繁盛はマーケティングの勝利であり、ツイッターありきでないと確認できます。そして「豚組なう」のマーケティング手法は、ツイッターをフェイスブックや他のサービスに置き換えても使えます。具体的な方法については書籍をご覧いただくとして、「語らせる」に主眼を置いたマーケティングの良書です。ただし、本書を片手に「ツイッター」の前に張り付いているだけでは店は繁盛しませんが。
念のため述べておきますが、中村仁社長と一面識もありませんし、ツイッターのフォローもしていません。しゃぶしゃぶを食べに六本木に足を運ぶには足立区舎人は遠すぎ、だいいち「しゃぶしゃぶ」は「自宅で家族と食べる」のが一番と考えるので、そもそも興味がありません。
今回のポイント
良心に立つか、法的線引きを論拠とするか。
クチコミは「マーケティング」ありきで。
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ソーシャルもやってます!