統合デジタルマーケティング時代のUXとコンテンツプランニング
「デジタルマーケティング」ということばが広がっているが、単にデータを活用したマーケティング手法ととらえていないだろうか。また、セグメント別に場当たり的に実施していないだろうか。それではせっかくのデータが活かされていないことになってしまう。
オウンドメディアでのコンテンツ策定やペルソナの設定などがきちんとできていないと、満足いくUXの提供にはつながらないからだ。
博報堂アイ・スタジオでは、オウンドメディアを中心に、あらゆるタッチポイントにおける統合的な視点で、ビジネスKPIの達成を見据えた「統合デジタルマーケティング」を提唱している。「Web担当者Forum ミーティング2015 秋」では、「統合デジタルマーケティング時代のUXとコンテンツプランニング」セッションにて、その考え方と具体的な事例を、博報堂アイ・スタジオの伊藤 智之氏、白石 葵氏が解説した。
統合デジタルマーケティングとは?
博報堂アイ・スタジオは、デジタル制作を強みにした博報堂グループの制作会社だ。Web制作にとどまらず、新テクノロジー、データ、グローバル領域など、さまざまなソリューションを提供している。また、昨今のデジタルマーケティングの進化に合わせて、データドリブン・クリエイティブ部というセクションができている。登壇するのはこのデータドリブン・クリエイティブ部のメンバーである。
最初に博報堂アイ・スタジオの「統合デジタルマーケティング」の定義について解説した。まとめると、こうだ。
- 視点デジタルマーケティングを手段としてビジネスゴールにコミットする
「とにかくバズる施策!」や「CTRを上げるバナー!」など、施策ありきで考えるのではなく、ビジネスゴールから逆算して、施策の目的、KPI、個々の施策をセットでプランニングする。
- アプローチ「カスタマージャーニー設計」「データドリブンマーケティング」「課題解決のためのクリエイティブ」の3つすべてをプロデュースする
3つのアプローチは行ったり来たりを繰り返して業務を行う。詳細は図のようになる。
流入前のUX最適化を考える
次に伊藤氏は、カスタマージャーニー設計についての具体的な例を紹介した。企業のマーケティング活動は、取得・詳細化できる情報が増えたことによって、複雑な時代に突入している。これを伊藤氏は「統合デジマ時代」(統合デジタルマーケティング時代)と呼んでいる。「統合デジマ」とは、マス広告、リアル店舗などでの販促、イベント、Webサイトなどのダイレクトマーケティングを個別最適で行うのではなく、統合的に一貫性をもって進めるというマーケティングの考え方・戦略のことだ。伊藤氏は、これを簡略化した概念図で示した。
図の見方は、外側の青い丸にユーザー/生活者が触れて、商品やブランドを認知したり、興味喚起されたりする。その後に、青い矢印をたどって、オウンドメディアに流入してくる。そこで企業は、ユーザー/生活者の行動データを蓄積・活用してサイト内行動を誘発する。このような統合デジマ時代に私達がやるべきことは、「データドリブン的UX最適」である。これをフローに置き換えたのが次の図だ。
しかし、この時、コンバージョンに向かうサイト内フローはすべて同じでいいのだろうか。
統合デジマ時代において、デジタル周りはとても複雑だ。さまざまな人、目的、場所、デバイス、モチベーション、経路、頻度で動いており、当然ひとつのフローでいいわけがない。
そこで、さまざまなデータを活用してユーザーをいくつかのペルソナに分類し(セグメンテーション)、それぞれのUXを検討する必要がある。たとえば、以下の図のようにである。
購入検討が浅めのペルソナにはニーズに合わせた情報に数多く触れてもらい、モチベーションを上げてもらう。図では上の3人がそれだ。
購入検討が深かったり、数回の訪問履歴があったりするペルソナには、必要最低限の情報に触れてもらう(上から4番目と5番目の人)。
購入検討が始まったばかりのペルソナには離脱とリターゲティングを前提にする(下の1人)。
以上がUXの最適化だが、これでおしまいではない。情報ニーズ、購買検討ステータス、サイトの訪問回数・頻度などが異なれば、行動喚起要素も異なる。ということは、サイト内も大事だが、生活者の購買検討行動が始まる「サイト流入前」からUX最適化を検討して然るべきではないのか。
架空の自動車メーカーを例にして、具体的に説明しよう。まず、3種類のペルソナを設定する。
ペルソナ(A)
- 自動車購入歴はなし。半年前から自動車購入を検討している。
- 車種はSUVで、デザインが好みだが価格が高いX社と、あまり好みではないが価格が低いY社で迷っている。
- 1か月前、両社のWebサイトで見積シミュレーションを実施した。
ペルソナ(B)
- 自動車の買い替えを検討している。
- 夫が独身時代から乗っているX社のクーペでは子どもが乗り切れないのと荷物を多く乗せられないのが不満。
- 自動車メーカーにこだわりはないが、下取りや値引きの可能性を考慮すると、夫のクーペと同じX社が第1候補。
ペルソナ(C)
- 「モテたい」という理由で、ぼんやりと自動車購入を検討している。
- 各自動車メーカーの得意領域について詳しく知らないが、モテそうなので外国の自動車メーカーが気になっている。
データから読み取れるのは、おおよそ以下のような点だ。
各ペルソナにいくつかの要素があるが、このうち、各ペルソナにとって行動喚起に有効そうな要素をさぐり、そこから効きそうな施策を考えてみよう。
ペルソナ(A)
見積シミュレーション後、1か月コンバージョンしていないことから、行動喚起に有効そうな要素は「金銭面の課題がありそう」だと考えられる。金利優遇キャンペーンがいいのでは。
ペルソナ(B)
乗り換えなので、乗り換え時の購入サポートにひかれる可能性がある。
ペルソナ(C)
車に求めているのは異性からの好意だから、「女性からの支持率No.1!」のような広告が有効かも。
ということで、考えられるUXは次のようなものだ。
また伊藤氏は、「さらに踏み込むと、Aにはリターゲティングバナー、Bにはメルマガ、CにはSEMが有効そう」という。
この話のポイントは、「UX」というとオウンドメディア内の話に終止しがちだが、統合デジマ時代は流入前のデータもとれるので、そこから最適化しようということだ。
流入を増やすためのコンテンツ改善3つのステップ
流入のためのUX最適におけるコンテンツクリエイティブは、どのように行うべきなのだろうか。それが、次の白石氏の話だ。
こちらは、医薬品サイトのコンテンツ改善事例で解説した。ある鎮痛薬サイトが、特定ワードによる流入増をめざすというものだ。サイト内で頭痛・生理痛の情報を提供しており、現状一定のアクセスがあるが、これをさらに増加させ、コンテンツ閲覧をフックにした商品プロモーションを強化するため、検索エンジン対策を実施したいというもので、SEOの視点から取り組んだ。
まずSEOのトレンドについてだが、現在は検索順位を上げるための内部/外部施策は排除され、ユーザーに重点を置いてサイトを改善することが推奨されている。情報構造の最適化や有益で質の高いコンテンツの提供が求められ、UXを良くすることがSEOになるということだ。具体的には、以下のように行った。
①ユーザーの検索ニーズを探る
検索ワードと共に入力される言葉は、ユーザーの検索意図を端的に表している。検索の補助機能であるサジェストは、その内容をボリュームやトレンドから分析し、検索意図に合致しそうなリストとして提示してくれるため、検索ニーズを推測するためのデータとして活用できる。
そこで、ユーザーの行動自体を探るために、サジェストワードとその検索ボリュームを抽出し、内容を分析した。
「頭痛」と組み合わせて検索されているワードは、
- 対策 38%
- 症状 38%
- 原因 24%
背景をさらに細かく分析すると、頭痛に重い病気の可能性がないか心配があるためか、原因/症状/対策が均等に調べられており、専門病院の情報もニーズが高い。
「生理痛」の場合は、
- 対策 62%
- 症状 28%
- 原因 10%
生理痛は病気ではないとわかっているためか、原因や症状の確認よりも、セルフケアや生活習慣改善など、対策関連の情報ニーズが高い。
②コンテンツマップを描き直す
次に、ブランドのエンゲージメント強化につながりそうな理想のシナリオを考える。それぞれ以下のようになる。
理想のシナリオが描けたら、現状がどうなっているかを調べるため、ツールを使い、サジェストワードごとの検索順位を確認、競合と比較した。その結果を元に、ユーザー行動シナリオと合わせて掲載すべきコンテンツの取捨選択を行う。たとえば
- 「生理痛+症状」は僅差で競り勝っているので、頭痛・腰痛などの関連情報を拡充する
- 「生理痛+原因」は僅差で競り勝っているので、ライフステージ別など別の視点から説明した情報も追加する
- 「生理痛+病気」は独占状態だが、これを維持するために病気につながる症状への言及を増やし、不安に寄り添う
といったことだ。掲載すべき内容が決まった段階でコンテンツマップを作成する。現状サイトとの違いを確認し、追加・変更するページの洗い出しや、回遊導線、ゴールを再設定する。
③ライティングの最適化
コンテンツ自体の最適化も必要だ。ツールを使い、サジェストワードごとの検索結果から上位20ページに何が書かれているか共起語を分析した。
一人の人が書いていると、意図せずワードが偏ることがあるので、文章内に含まれるワードの偏りをなくしてコンテンツの普遍性を高めたり、共起語として浮上しないオリジナルの情報を追加することでオーソリティサイトとしての評価を目指した。
コンテンツ改善のポイントとして、白石氏は以下の点を挙げた。
- UXは検索する前から始まっている
どんなニーズを持ってサイトに来訪しているか、流入時点でのユーザーニーズと行動シナリオを描きながら最適化する。
- 工夫次第で使えるデータは集まる
大がかりな調査をしなくても、たとえばサジェストデータの活用からでも情報ニーズの分析によるコンテンツ改善はできる。
また、「ここからPDCAにかけていくことも重要」とした。
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