コンテンツ戦略だけでは不十分、その理由は……(前編)
これは、すばらしい記事です。Web担編集長が読みながら100回うなづいたぐらいの。コンテンツマーケティングやマーケティングテクノロジ、そしてマーケティング戦略の基盤としてあるべき、「テクノロジが変えてしまった人々」における企業のあるべき姿を語っています。
3回にわたってお届けするこの記事で説いていることは、Web担当者が1人ですぐに何かできるものではないかもしれません。しかし、Web担の読者であるあなたこそが、この記事で書かれている内容を本当に腹落ちし、周りの人を巻き込みながら、少しずつでも変えていける立場ではないでしょうか。
Web担 安田
テクノロジは人々をつなげた。では、企業と顧客の関係は近づいたのか?
1989年、中学2年生の終わり頃、私はハマーパンツをはき、前髪を大きく逆立てて、ヘアスプレーの「アクアネット」を何本も買い込んでいた。授業中には友達同士でメモを回し、みんなで示し合わせて放課後にドクターペッパーを飲み、ハーシーのSKORバーをかじり、大きなラジカセでデビー・ギブソンのアルバム『エレクトリック・ユース』を聞いていた。特にツイている日には、家に帰ると、当時「付き合って」していた男の子から留守番電話にメッセージが入っていたものだ。
幸運なことに、1980年代末以降、テクノロジは驚異的なペースで進化している。必要なら、サイズやスタイルが同じ世界中の人たちからファッションのアドバイスをもらうことができる。友人に連絡したければ、ショートメッセージを送ればいい。さらには、「とんでもなく巨大な髪型」がアクアネットでさえキープできないとなれば、ソファに座って、ジャック・ジョンソンのコンサートをストリーミングで流し、アクアネットの新しい使い方について書かれた『ヴォーグ』の記事をPocketで読みながら、本当に必要なら、携帯電話でアクアネットのハードタイプを注文することだってできる。
こうしたテクノロジの進歩によって、世界がより速くなり、より小さくなり、よりつながれたことは間違いない。そもそも、電話会社は1億5000万人をつなげるのに89年かかったのに、信じられないことに、Facebookが10億人をつなげるにはたったの8年しかかからなかった。
興味深くて、実のところかなり皮肉なのだが、世界はますますつながってきているのに、企業とその顧客について言えば、多くの点でこれ以上ないほど関係が離れてしまっている。
企業の成長に必要なのは、顧客の信用と「つながる価値のある企業」の構築
企業と顧客を隔てる距離が途方もなく長くなっているのも不思議ではない。特にテクノロジ業界では、多くの企業で長期的な視点に立った構築がなされておらず、優先順位もまったく間違ったところに置かれている。
今日の多くの企業では、なにがなんでも成長に重きが置かれる。テクノロジ企業は過大評価され、企業として目指すものについて非現実的な幻想を描いている。
私がアクアネットのヘアスプレーを使っていた古き良き時代には、フォーチュン500企業が市場価値10億ドルに達するまでの期間は平均20年だった。
- グーグルはそれを8年で達成した。
- Facebookは5年。
- UberとWhatsAppは2年。
- Snapchatはわずか22か月だ。
ほとんどの企業にとって、このペースでの成長を期待するのは非現実的なのに、これが新しいロールモデルになっている。次の「ユニコーン企業」(評価額が10億ドル以上の非上場のベンチャー企業)を目指す企業は、間違った指標を重視し、本当に重要なことを見失っている。本当に重要なのは、時間をかけて顧客の信用を勝ち取り、つながる価値のある企業を構築することだ。
重要なのは制作するコンテンツだけではなく、懸命に構築しようと努めるブランドや企業が人々にもたらす体験であることを、マーケターとしての私たちは往々にして忘れがちだ。
新たな年を迎えるにあたり、私たちは目的を持ったブランドの構築を目指す必要がある。シームレスで信頼に足る体験を確実に提供しなければならない。何をするにしても、マーケティング活動の原動力はテクノロジではなく、人々であらねばならない。
目的を持ったブランドを構築する
いま企業が行っているコンテンツ戦略では、企業が生成しているコンテンツが、オーディエンスの要求や願望とかけ離れているだけでなく、目指そうとしているブランドや企業ともまったく違ったものになっている場合があまりにも多い。
コンテンツマーケティングは長年にわたり、「More is better」(多ければ多いほど良い)精神の犠牲になっている。企業の目的や見通しを意識した延長上にコンテンツを開発するのではなく、量の追求になってしまっている。
多くの調査研究が、大量にあることが必ずしも最善の戦略ではなく、実際には量よりも質のほうがリスクは少ないことを裏付けているなかで、企業は自らが制作するコンテンツの中身と制作の動機に意識を傾けるようになってきた。
残念ながら、多くの企業においてコンテンツ戦略とは今なお、検索順位を上げるために大量のコンテンツを生み出すことだとみなされており、信頼を築きあげ、顧客やコミュニティが本当に必要としているものを提供するという、利他的な意思表示としてはとらえられていない。
コンテンツ戦略は今もなお重要であり、コンテンツが最適な検索結果として誰もが見つけられるものでなければならないのは確かだが、すばらしいコンテンツがあるだけでは、何の保証にもならない。
検索やソーシャルでオーディエンスにオーガニックリーチする力が失われ続け、テクノロジによって人々が広告をブロックできる機会が増え、さらに顧客とつながる手段がますますデジタル化するなかにあって、私たちはテクノロジにまさる魅力を持ち人間味のあるブランドを構築しなければならない。
本物で関連性が高く、信頼できる確かなブランドになって、こちらから出向かなくても、顧客のほうから探しに来るような存在になる必要がある。
コンテンツは、それが、
- ウェブサイト上の文言でも
- 製品ページのアイテムでも
- ブログの投稿記事でも
- メールのプロモーションでも
- ソーシャルメディアでのやり取りでも
- 顧客との会話でも
- パッケージのデザインでも
- オフラインイベントでのチームのプレゼンスでも
- 対立を修復する行動でも
どういうコンテキストでも、すべてがチャネルや媒体の枠を越えたシームレスな体験の一部でなければならない。そのどれもが、目的を持ったブランドによる体験を構築することを目指す、マーケティング戦略の一部でなければならない。
強力なブランドや効果的なマーケティング戦略の中心には、必ず金銭を超えた企業としての意義がある。新興企業に限らず、多くの企業はまずこの意義をいかに認識するかに悩み、ついでその意義を自らの立ち位置にどう組み込むかを理解することに苦闘する。何が競合との差別化要因で、誰が製品の適切なオーディエンスかといったことは、なかなか確信が持てない。こういった問題を把握していなければ、どれほど予算を投じたところで、顧客とつながるのはきわめて難しくなる。
企業の位置づけを明確にするためのフレームワーク
アリエル・ジャクソン氏は、企業の位置付けを確固としたものにするためのいくつかの質問とシンプルな枠組みを用意している。「対象顧客(For)」「どういった人(Who)」「どういったもの(That)」「~とは異なる(Unlike)」というキーワードを使って考えるフレームワークだ。
この公式を使えば、素早く、明確に、非常に人間味のある方法で(これがいちばん重要だ)、自社の位置付けや目的を伝えることができる。以下はハーレーダビッドソンの例だ。
まず、この枠組みに言葉を当てはめるために、ジャクソン氏は以下の質問に答えることを推奨している。
あなたの製品またはサービスは、どんな風に使えるかという点で、何が他と違うのか?
あなたはなぜ、それをやっているのか?
見込み客を最も広い範囲で考えると、だれになるか? まず「Androidユーザー」や「車のない人」のような範囲から始めて、その後、より具体的に発展させ、最後は個々のモデルユーザーの属性を考えよう。
それらの顧客が抱えている不都合は何か。できる限り明確で具体的にすること。これらの不都合は、顧客のどんな感情に結び付くのか。
同じような問題を解決している企業は、他にどこがあるか。ただ競合企業を列挙するだけではなく、活動を比較した場合の彼らの強みや弱みも挙げてみよう。
バズワードは一切避けること。位置付けを一言で説明できるとすれば、それは「人間的」であるべきだ。
ジャクソン氏はさらに、より意味のある位置付けを展開したり進化させたいなら、それは企業として世界に残したい足跡から生まれるものでなければならないとも提言している。
位置付けについては、この世界のどこにフィットするかを認識して、次の質問にも答えなければならない。
ダヴのブランド構築の軸とコンテンツにみる「企業の価値」
企業の存在理由と存在目的を知ることは、目的を持ったブランドの構築に役立つだけでなく、マーケティング戦略や顧客およびコミュニティとのつながりにも著しい違いをもたらす。
数年前、ダヴは目的を再定義して、ブランド構築の中心となる一段と大きな意義を見出した。
2004年以降、金銭を超えた意義はダヴというブランドを支える原動力となり、リアルビューティーキャンペーン活動の中で多くの媒体を通じて表現されてきた。その中には、以下のような実際の顧客を起用した広告もある。
さらには、世界中で次のようなビルボード広告を展開し、参加し考えようと呼びかけた。
真の美しさはどう見えるかについて11年以上も対話を続けてきて、ダヴはメッセージの伝え方を次々と進化させることによって、関連性を持続させている。ダヴはこのアプローチによって、ブランドへの支持やロイヤルティを高め、多くの賞を獲得し、さらには利益を25億ドルから40億ドルへ大幅に増やした。
ダヴのアプローチに対しては、多くのメディアがその信頼性に疑問を投げかけているとはいえ、ダヴは単に認知を広めようとしているのではなく、メッセージの背後にある意義に向かって行動を起こしていることを明確に示した。ダヴは、ガールスカウト、米国ボーイズ&ガールズ クラブ、Girls Inc.と提携し、美しいとはどういうことかに関する議論のみならず、いじめへの気づきを促す活動に資金提供して支援している。
結局のところ、利益をはるかに超えてダヴが手にした最大の成果は、目的の達成を目指して努力することだ。より多くの女性が自分のボディを愛し、心地よく感じられるよう支援するという目的の達成を目指して。
ブランドの目的認識は、顧客との関係の構築の第一歩に過ぎない
企業およびブランドとして掲げる信条は、製品や企業としての行動を前進させるだけでなく、マーケティングの原動力にもなる。さらに重要なのは、コミュニティの人々とのつながりを呼び起こす起爆剤になることだ。
要するに、人々はこれからもっと多くのもの、より多くのコンテンツ、より多くの製品、より多くの選択肢に接していくことになるのだろう。
「顧客と意味のある関係を築く」ことは、やりたいのならやればいいというものではなく、必ずやらなければならないものだ。
ブランドとしての目的を認識し伝えることは、そういった関係の構築から見ると、ほんの一部に過ぎない。残りの部分は、シームレスで本物の体験を届けることだ。
この記事は、前中後編の3回に分けてお届けする。今回は、ダブを例として「目的を持ったブランド」の構築について説明した。中編となる次回は、Wear Your Labelという新興のファッションブランドを例に、「本物でシームレスな体験の提供」について見ていく。→中編を読む
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