ニキペディア元編集長 藤原尚也氏に聞く、コンテンツマーケティング成功のコツ
潜在顧客へのリーチ拡大を目的にオウンドメディアを運営するマーケターにとって、コンテンツマーケティングをどのように進めていくかは大きな課題だ。
その成功確率を高めるためには、そもそもの方向性を定めるペルソナやKPIの設計と、それに基づいた検索意図を押さえたコンテンツ企画がポイントになる。
ニキビに関する総合情報サイト「ニキペディア」の元編集長でもあるアクティブの藤原氏と、同サイトのコンテンツ制作を支援したFaber Companyの月岡氏が、「Web担当者Forum ミーティング 2016 秋」において、「ニキペディア元編集長に聞く、コンテンツマーケティング成功のコツ」と題して、ターゲット設定やキーワードマネジメント、KPI設定など、コンテンツマーケティングの成功確率を高めるポイントについて語りあった。
オウンドメディアに「TOPページ」という概念はない
コンテンツマーケティングに取り組みたい、すでに取り組んでいるマーケターには、
潜在顧客へのリーチをもっと増やしたい
コンテンツの重要性は理解しているが、どう進めたらよいかわからない
といった悩みがあるのではないだろうか。
藤原氏は、アクティブ合同会社でデジタルコンテンツ、デジタルマーケティングのコンサルなどを手がける。ニキビケア製品のプロアクティブで知られるガシー・レンカー・ジャパン在職時にはデジタル戦略を担当し、オウンドメディア「ニキペディア」を立ち上げた。
これは、ニキビをはじめとする肌荒れの悩みをもつ10代~20代女性をターゲットに、スキンケアに関するコラムを掲載したもので、藤原氏によると「コンテンツ数は200弱」とそれほど多くないものの、月間約90万PVのアクセスを集める代表的なコンテンツマーケティングの事例だ。
一方、月岡氏は、Faber Companyにてニキペディアのコンテンツ制作を支援した。同社は、「海外SEO情報ブログ」鈴木謙一氏も在籍しており、SEO支援やコンテンツマーケティング支援にも積極的に取り組んでいる。
藤原氏は、ニキペディア立ち上げ時のポイントとして「スマホファーストの設計」を挙げた。ターゲットとなる10代~20代の女性は「テレビCMを見てスマホで商品を検索、購入する消費スタイル」だという。
また、藤原氏は次のように強調する。
コンテンツマーケティングにはTOPページという概念はない
スマホが主流のコンテンツ消費では、サイトへの入口はコンテンツのページそれぞれが中心になる。「検索サイトや、ニュースサイト内のネイティブ広告、キュレーションメディア、SNSなど、自分のタイムラインに流れてくる興味のある情報に触れる」ことでサイトに人が集まるのだ。
つまり、オウンドメディアをはじめとしたコンテンツマーケティングでは、従来のデスクトップPCを想定した「TOPページありき」でサイト構造を考えるのではなく、「コンテンツベース」で集客していくよう、考え方を変えていく必要があるのだ。
そして、コンテンツで集めた「自社商品に興味を持つであろう見込客」を他のコンテンツに閲覧してもらったり、ステップメールやリターゲティングなどを駆使して育成(ナーチャリング)し、「購入(コンバージョン)」に近づけていくよう設計することが必要となる。
コンテンツ制作において重要な「検索意図(インテント)」の把握方法
次のポイントは、ターゲットユーザーを明確にするためのペルソナ設計だ。藤原氏は次のように述べる。
「ストーリー作り」では、企業目線ではなくユーザー目線が大事だ
自社商品を様々な角度で紹介、説明することがコンテンツマーケティングと思われがちだが、これは「企業目線」だ。ユーザー目線とは、ターゲットユーザーの関心に寄り添うこと。
そこで、藤原氏は次のように考えることが大事だと説明する。
サイトに訪れる人は、ニキビで悩んでいる人が圧倒的に多い。そこで、悩んでいる人に何を伝えれば関心を持ってもらえるか
また「解決策の提案」も忘れてはいけない。藤原氏は次のように語る。
ユーザーにとって最適な解決策は、自社商品かもしれないし、皮膚科の受診かもしれない。あるいは競合商品かもしれない
ニキペディア内では競合商品の紹介もしているが、競合商品を紹介するというのは、一企業のオウンドメディア運営ではなかなかできない施策。しかし藤原氏は次のように指摘する。
オウンドメディアに自社商品の情報ばかりだと、検索、来訪したユーザーは、自社商品に興味のある人ばかりということになってしまう
圧倒的に母数がいるのは自社を「認知していない」層。自社商品を認知していない、質の高い見込客を獲得するには、自社の宣伝ばかりではなく、ユーザーの関心事に合致した情報が網羅されていることが欠かせない。
自社商品の情報は少なくして、競合を含めたそれ以外の情報を多くする。ニキビに困っているであろうユーザーの知りたいことを理解することが重要だ
続いて月岡氏は、ペルソナ設計について
- 検索ユーザーをイメージ
- シチュエーション
- 他社からの差別化
の3つのポイントを挙げ、実際に「ニキビ デコルテ」という検索キーワードを想定したペルソナ設定例を紹介した。
ポイントは、
- 検索時の状況・心境
- 悩み
- 原因
- 解決策
- その根拠
- まとめ
という項目ごとに整理することだ。これらの項目は、そのままコンテンツの構成となる。この内容で構成を整理しておけば、あとは肉付けすればコンテンツができあがる。さらに、Googleのアルゴリズムを考えたときにも論理的にユーザーニーズを網羅することができるので、こうした整理は効果的なのだという。
ここで月岡氏は背景となるGoogleのアルゴリズムについて補足した。Googleのアルゴリズム「ハミングバード」は、検索キーワードの意味、意図を理解するもの。たとえば、「掃除機 壊れた」で検索した場合、Googleの検索結果ページ上位に表示されるのは「故障かな?と思ったら」というページ。動かない状況ごとに、考えられる原因が網羅されている。つまり「目の前の動かない掃除機が本当に壊れたかどうか知りたい」というユーザーの「意図」を汲んでいる。
一方で、、似たようなキーワードだが「掃除機 修理」の検索結果は全く異なり、メーカーのサポートページが上位に表示される。これは「壊れてしまったので、どうすれば修理できるか」という意図だとGoogleが推定した結果だ。
このように、プラットフォームとなる検索エンジンの特徴を理解しつつ、コンテンツ企画の本質は「どんなユーザーが、どのようなシーンで、何を知りたいと思っているのか」をきちんと把握することが重要である。
コンテンツ制作に欠かせない「キーワードマネジメント」のコツ
続いてのポイントは、コンテンツ制作に関するものだ。藤原氏によるとポイントは大きく3つある。
- 「1コンテンツ=1KW=1ペルソナ」という原則
1つのコンテンツに対して、それを読んでくれるであろうユーザー(ペルソナ)を定め、そのユーザーが検索するであろうキーワードを決める。1コンテンツで複数のキーワードを盛り込むと、内容がぼやけてしまう。なぜそのキーワードで「検索しているのか」というユーザー視点が重要だ。
- 結論を先にした構成
ユーザーは、検索結果をクリックして表示されたページでまず目に入るものが、欲しいと思っていた情報と違うと、即座に離脱してしまう。ページの最初に重要な情報を書くよう、次のような構成を心がけている。
悩み(原因)→原因→解決策→根拠→まとめ
- タイトルと文字量
タイトルにはユーザーに対する数字などの分かりやすい「ベネフィットを提示」するようにし、コンテンツ内では内容が薄くならないようある程度の文字量を確保する。
月岡氏は、こうしたポイントを踏まえた実際のコンテンツ改善例を紹介した。コンテンツは、「ニキビ 食べ物」というキーワードを想定して書かれたものだ。
改善前の記事は、「ニキビができやすくなる食べ物」をテーマに、「バランスのある食事が大事」との結論でまとめていたが、当該キーワードでの検索順位は15~20位だった。
これを、キーワードの検索意図は何かをもとに再検証。具体的には、Googleのサジェストキーワードで、キーワードの検索頻度と関連性をチェックした。また、実際に上位に表示されたサイトなどをチェックして「ユーザーニーズが何か」をつかみ、より深掘りしていく。
分析の結果、「ニキビ 食べ物」で検索したときに、「ビタミンC」「ビタミンA」などビタミンに関するトピック/テーマが重要であると抽出された。つまり、ユーザーの知りたい情報である「ニキビに良い効果のある情報」が、改善前のコンテンツには欠けているのではないか、という仮説を導いた。
そこで、「ニキビを改善するであろう栄養素やそれを含む食べ物」に関するトピックなどユーザーの検索ニーズに沿う形でコンテンツリライトを行い、結果、検索順位は一気に4位まで上昇し、アクセスは改善前の10倍になったという。
コンテンツのKPIはシンプルに「検索順位」
また、コンテンツのKPI、KGI設定について、藤原氏は「KGIがまずあり、そこからKPIを導く」というように役割を明確にし、「KGIとKPIは分けて考える」ことを提唱する。
「集客」と「売上貢献」というのは本来、役割が異なる。藤原氏は次のように語る。
デジタル施策では、あらゆるKPIを1人の担当者や1チームに背負わせる傾向がある。しかし、集客と売上は全く異なるものでそれを両方追うのは難しい。集客に求められることは、質の高いコンテンツを作ることに尽きる
この場合の質の高さを表すKPIは「検索順位」に置いているという。コンテンツページのUU数やCV率は一切求めなかった。その理由を藤原氏は次のように説明する。
求めたのは検索で上位に表示されることだけ。質の高いコンテンツはユーザーに評価され、引いては検索エンジン上も評価される。担当したコンテンツが何位にあるか、順位が上がってこなかったら、検索上位のページと何が違い、何が足りないのかを考えてもらった。
さらに、藤原氏は、コンテンツのマネタイズの仕組みとして、オファリングバナーによるコンバージョン促進策を紹介した。これは、ニキペディアの記事ページに、「プロアクティブの無料モニター募集中」というオファリングバナー表示するもので、スキンケアに関連したキーワードでコンテンツに集客したユーザーを、モニター応募のランディングページへ誘導するもの。
このとき、「ランディングページにはアクセスしたもののモニター応募しなかったユーザー」は、リターゲティングで応募を促進。さらに、「モニター応募はしたものの、その抽選に落選した人」にも期間中にステップメールを送信した。このように綿密なるコンバージョンへの導線設計もなければ、コンテンツマーケティングは上手くいかないと断言した。
最後に、藤原氏はコンテンツマーケティングへの動画活用の可能性についても言及した。
動画コンテンツは、スマホによる「ながら視聴」のスタイルに親和性が高いが、コンテンツマーケティングで活用する際には、バズらせようという動画では購買にはつながらない
そういう動画の活用ではなく、
悩み→原因→解決策→体験談→試す→買う
という、これまでのコンテンツ施策と同様に、ユーザーの関心や購買フローに沿った内容であることが必要なのだ。
月岡氏も、動画に向いたコンテンツとして、次のヒントを示した。
最近だと「レシピ系」のクエリなど、検索エンジンの検索結果上位に動画コンテンツが表示されているものは、動画が求められている可能性が高い
そのうえで、次のようにセッションを締めくくった。
これまでのテキストを中心としたコンテンツマーケティングから、よりユーザーの検索体験を向上させるために、動画などのコンテンツも評価されだしている。ユーザー側のスマホシフトも進み、Googleも「モバイルファーストインデックス」を発表した。今後のコンテンツマーケティングでは、特にスマートフォンのユーザー行動を意識したユーザーインターフェース設計やユーザーエクスペリエンス向上の施策も加味する必要があるだろう。
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