Web広告研究会セミナーレポート

サッポロビールとKDDIが語るBtoC/BtoB事業におけるCXの実践と課題

サッポロビールとKDDIがCXの実践を語った
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

CXの実践は顧客理解をベースに進めることが基本だが、事業内容に応じて購買プロセスごとの顧客体験は大きく異なる。

4月月例セミナーの第二部は、サッポロビールの森勇一氏と、KDDIの森本祐吏氏をパネリストに迎え、「BtoCとBtoBにおけるCXの実践と課題」をテーマに各社の取り組みが語られた。

BtoCのCX実践:データをもとに個の顧客理解を深める――サッポロビール

モデレーター
株式会社富士通総研
コンサルティング本部 デジタルマーケティンググループ シニアマネジングコンサルタント
田中 秀樹 氏

CXの成功事例では、これまでにない体験や感動を与えた例がよく紹介される。顧客とリアルに接していたり、接点が多い企業は進めやすいかもしれないが、間接的にしか接していない企業はどうすればいいのか(田中氏)

セミナーのはじめ、田中氏はパネルディスカッションでの問題意識と、2社に登壇してもらった理由を説明CXの課題を提議したうえで、CXの中心となる顧客理解にフォーカスして話を進める。第一部でビービットの武井氏が説明したように、CX改善のステップは、顧客を理解して課題を把握し、改善のための施策立案・実施・評価のPDCAをまわしていくことが基本となる。

まずBtoCの顧客理解はどのように行われているのか、サッポロビールの森氏が酒類のカスタマージャーニーを紹介する。

ビール飲用のカスタマージャーニー
サッポロビール株式会社
マーケティング開発部
デジタルコミュニケーショングループ
課長代理
森 勇一 氏

酒類のプロモーションは、テレビCMや交通広告などのマス広告が主流だ。コンビニやスーパーに足を運んだときにブランドを想起してもらえれば理想的だが、飲むビールをその日の気分で選ぶ顧客も多く、必ずしも広告と商品が結び付くわけではないと森氏は話す。

飲食店での取り扱い(BtoBtoC)ではもあるが、「サッポロビールの黒ラベルを飲みに行こう」と飲食店レストランを選ぶケースは少ない。どの店に行くかは、和食や洋食といった食べたい料理から選ぶものだ。そこでは店で提供出されているビールを飲むため、顧客に銘柄の決定権はない。

こうしてみると、酒類メーカーが直接顧客と接する機会は少ないことがわかる。

我々が関与できるところは、認知と共有の前後ぐらいしかない。検討・購入・受取などでも関与できるかもしれないが、ビールを飲んでいるシーンにメーカーが出ていっても、話は聞いてもらえない(森氏)

こうした課題のなか、サッポロビールは数年前からデジタルマーケティングの強化を図っている。2013年にはデジタルマーケティング部門室を設立し、部門で分れていたマーケティング組織を統合した。以降、ユーザーの関心に沿ったコミュニケーション施策に力を入れ、現在はデジタルマーケティングツールやビッグデータを活用して、生活者の求めるモノ・コトを把握した個のアプローチに力を入れている。

より顧客理解を進め、ファンを拡大しながら、1人ひとりの顧客とのつながりを深めていくことが、サッポロビールのBtoC事業におけるデジタルマーケティング部門のミッションだという。

たとえば成果の1つとして、個のアプローチを強化したことで、Web会員のなかには「キャンペーンに関心の高い人」と「コンテンツ(読み物)に関心の高い人」がいることが新たにわかり、興味関心に応じてメルマガを出し分けるようになったという。

今後の課題としては、デジタルマーケティング施策を活用しながら顧客経験価値を高め、シェアの拡大につなげていくとしている。

BtoBのCX実践:チャネルをまたいだ顧客へのアプローチ――KDDI

KDDI株式会社
ソリューション事業本部
ソリューション事業企画本部
ソリューションマーケティング部 主任
森本 祐吏 氏

顧客理解を進めていくと、オンラインとオフライン、スマートフォンサイトとPCサイトなど、顧客が複数チャネルを相互に行き来していることがわかってくる。

こうした複数チャネルにまたがった顧客に対する施策は、どのように考えればいいのか。BtoB事業の取り組みをKDDIの森本氏が紹介する。

BtoB製品の購買サイクルの例。★印はKDDIにおけるCXの重点課題
CX上の課題を改善するための施策

この資料はBtoB製品の一般的な購買サイクルだが、CX上の重点課題にあわせた施策を立案・実行して顧客の脱落を最小化することが、KDDIのソリューションマーケティング部の課題でもあるという。

BtoB製品の購買プロセスでKDDIがいま抱えている課題として、森本氏は全社で統合的なマーケティング活動ができていないことを挙げる。「営業」「営業企画」「サービス企画」「マーケティング」「オンラインショップ」など、それぞれの部署が、それぞれの顧客接点を軸にマーケティングを語り、動いているのだ。

ジャーニーマップも顧客接点ごとに複数運用している状況で、リアルを優先するあまりWebのタッチポイントが抜け落ちていた例もあった。こうした状況を防ぐためには、実際の顧客データをもとに、各部署と会話しながらジャーニーマップを作っていくことが重要だ。

顧客ごとに複数のジャーニーマップを描く必要はないのか。森本氏は「本来カスタマージャーニーは1つあればいい」と述べ、カスタマージャーニーを作ることをゴールにするのではなく、どのような施策を行うのか、共通認識を持つために使うべきだと説明する。また、カスタマージャーニーの更新タイミングについても、一本化された精緻なものがあればいいと話す。

現在、改善施策の一環として統合マーケティングに向けたプライベートDMPの導入を進めており、将来はビッグデータをもとにしたAIによるカスタマージャーニーの自動作成にも期待しているという。

CX改善で必ず問題となる部署間連携の秘訣とは

BtoCとBtoB両者の取り組みを受けて、モデレーターの田中氏は「オンラインとオフラインの購買を行き来する顧客に対して、全社としてどのようにコミュニケーションするのか」と問いかける。

森氏は、ビールの飲用体験のなかで、「ソーシャルメディアの書き込みを見た顧客が商品に興味を持っても、商品が検索に引っかからなかったり、店舗の商品棚になかったりすれば機会損失となってしまう」と話し、複数ある顧客接点が横展開してスムーズにつながるための組織間の連携が課題だと説明する。

顧客の生活シーンにあわせ、接点ごとにのコミュニケーションすることが重要であり、デジタル領域と店舗などを統合した施策を計画しているという。

顧客接点のつながりでも満足を感じてもらう

また森本氏は、大企業において複数の部署がシームレスに連携するために重要なことは、各部署が話し合う場を設け、それぞれの目標やミッションを考えながら共通のゴールを設定し、実データをもと元に巻き込んでいくことだと話す。

KDDIはさまざまな事業を行っており、そのなかには先細りが予測される事業もある。だからこそ、自分たちで変革を行う必要があるというモチベーションがあり、部署間の連携がしやすいという。

各部署の差異をまとめて連携を促すためには、サッポロビールのデジタルマーケティング室部門のように、各部署から人材を迎えた橋渡し役の部署を設置することもポイントだと田中氏は話す。

実際にサッポロビールの組織改革を見てきた森氏は、「デジタルマーケティング室部門のような部署が間に入り、各部署の話を聞いて妥協点を一緒に考え、Webの構造や数値をベースにわかりやすく説明することが重要」だと説明した。

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「サッポロビールとKDDIが語るBtoC/BtoB事業におけるCXの実践と課題」2017年4月26日開催 月例セミナーレポート 第2部

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