意味あるPDCAの実践と「アジャイルマーケティング」のススメ
デジタルマーケティングの強みの1つは、勘や経験に頼らず、データをもとにビジネスを判断するデータドリブンマーケティングを実践できることです。Web担当者Forumの読者であれば、データをもとにした施策立案や検証のPDCAサイクルが重要なことはご存じでしょう。しかし、実践は言葉にするほど簡単ではありません。
- 手を動かすので精一杯、分析や改善まで手がまわらない
- 何種類ものクリエイティブを試すなんて無理
- リアルタイムに改善? 検証と改善は施策が終わってから
こんな経験はありませんか。そこで今回紹介するのは、ネットサービス、ベンチャーや先進企業でこぞって取り入れられている「アジャイルマーケティング」というコンセプトです。
大きな改善よりも小さな検証と成長を重ねる
「アジャイル(Agile)」を辞書で引くと「敏捷な」「回転が早い、賢い」などのキーワードが並びます。
このアジャイルという概念は、もともとソフトウェア業界で使われてきたものです。2000年代にソフトウェア開発分野で出てきた「リーン」「アジャイル」の考え方であり、2011年に出版された『The Lean Startup』(日本版は2012年)をきっかけに日本でもブームになったので、こちらが記憶に残っている人も多いでしょう。
これをマーケティングに適用したのがアジャイルマーケティングなのです。近頃は、『Hacking Marketing』という書籍でも展開されています。
アジャイルマーケティングをかいつまんで一言で表現すると、「データドリブンマーケティング」の延長であると私は考えています。
顧客とビジネスの変化、反応をデータで捉え、戦略の決定、実践結果のデータ分析、ABテストをもとにビジネスを判断して進めていくデータドリブンマーケティングをベースに、「マーケティングの速度をあげ」「大きなウォーターフォールから、小さなスプリントへ」とシフトします。そして、「実験とカイゼンの高速なサイクル」へとプロセスと考え方を変えていく、それがアジャイルマーケティングです。
アジャイルマーケティングを取り入れて成功するには、次のようなポイントがあります。
意見や過去からの慣習ではなく、検証された学びを用いる
縦割り組織ではなく、プロセスに応じた顧客視点の横断組織コラボレーションを重視する
よりスピードをあげ、より短いスプリントで段階的に実行をする
少数の大きな賭けよりも、多数の小さな実験による反復と段階的な成長を繰り返す
融通の利かないプランニングから、柔軟な変化へ対応する
小さな多様性を持つチームに権限を持たせる
もう少し、身近な例を挙げてみましょう。
過去からやっていたから、上司の意見だからといった、馴れ合いに引っ張られるのではなく、きちんと現在の顧客の調査・反応をもとに評価する
一気に大きくサイトをリニューアルするのではなく、ナビゲーションやトップページなど一部の要素を段階的にABテストで検証・改善していく
大きなキャンペーンを走らせ、数か月後、1年後などの終了時に検証をするのではなく、小さくスタート、または早い段階で反応・効果の検証をすることで、より良い方向に調整していく
広告の使い方、クリエイティブなど様々なパターンを日々検証しながら、より良い反応と効果を求めていく
いつでも顧客を中心にデータを活用する
筆者は現在、アドビで自社サイト販売の売り上げに責任を持つマーケターとして、「分析」と「テスト」に重点を置いて活動をしています。主に扱っているのは、Photoshop, Illustratorといったクリエイティブツール群のAdobe Creative Cloudや、PDFのAcrobatを代表としたAdobe Document Cloudなどのサービスです。
アドビが今なお継続的に成長している理由は、時代にあった各種ソリューションを提供することに加えて、過去のパッケージ販売の時代の常識を否定し、「今」の「顧客の声」を重視して「アジャイル」のプロセスを重視していることも、大きな要因だと考えています。
少し話は変わりますが、筆者は新卒時代、P&Gに所属していました。当時のP&Gの成長基盤にあったのは、優れた製品と技術、膨大なリサーチをベースにした徹底的な顧客理解、データをもとにした正しい戦略構築と実践でした。製品を市場に出す前に徹底的に調べることで、失敗の可能性を下げ、成功率を高めるというやり方です。ただ、これは莫大な調査費用と時間がかかるものであり、簡単には真似できないものでもありました。
一方、現在のデジタルマーケティングは、勘と経験だけに頼らず、顧客の気持ちや行動を「データ」で以前よりも簡単に捉えることができます。CRM・アクセス解析・マーケティングオートメーションといったソリューションを活用することで、各種「データ」の取得と「テスト」という施策が、従来よりも容易にすばやくできるようになっています。
デジタルの時代の今は、顧客や市場の変化の激しい中、じっくりと市場に出す前に調査をかけるよりも、「MEMO=Market Early, Market Often:早めに、頻繁に市場に出す」こと、実際に世の中に製品を出し、広告やWebサイト、ソーシャルメディアなどを活用して、お客様のリアルな反応を「データ」として捉え、分析とテストによってチューンナップをしていくことが重要になっているのです。
回らないPDCAには意味がない
ただ、この「データドリブン」「アジャイル」の基本となる「PDCA」や「テスト」というプロセスをしっかりとできていないという声を多くのマーケター、Web担当者から聞くことがあります。
PDCAはやみくもに回しても成果は得られません。また、複数のプロジェクトと多岐にわたる忙しさから、やりっぱなし「PDDDD」になっているケースも少なくありません。
Checkのためのデータ取得が容易になった今だからこそ、PDCAの1番目であるPlanningをしっかりすることが必要です。テクノロジーが進化したとしても、どんな要素をテストして何を計測するのか、スケジュールはどうするのか、施策を打った後のPDCAを回すための予算やリソースまで確保できているのかなど、事前の計画・設計は欠かせないのです。
より確実な仮説設計のための「顧客を理解する」ことはもちろんですが、何でもできる(と思われている)Webだからこそ、正しい目的、戦略、そしてそれを評価する指標と目標を設定すべきです。そうすることで、社内メンバーや代理店とのプランが様々な方向に広がりすぎたり、色々頑張ったけど評価がよくわからないといった状態に陥ることを防ぐことができます。
社内でデジタルを使うこと、実施することが目的になっていませんか?
前任者のWeb担当者がやっていたという理由で、サイトの状況や役割を理解せずに、同じ仕事をそのまま引き継いでいませんか?
次から次に社内からまわってくる依頼。Web担当者は、オペレーター的な扱いで評価をされていないなどの悩みはありませんか?
私が担当する講座では、こうした課題において、外資企業で使われる「OGSM(Objective/Goal/Strategy/Measurement)」を改良した「OGSTM(Objective/Goal/Strategy/Tactics/Measurement)」モデルを紹介しています。
- Webサイト、広告、キャンペーンを行う「Objective(目的)」をしっかりと経営陣・マネジメントと握る
- 経営指標に近い明確な数字を「Goal(目標)」として設定する
- それらを達成するための「Measurement(指標)」の組み合わせを設定する
- その計測指標を達成するために必要な「Strategy(戦略)」を考える
- その戦略に沿った具体的な「Tactics(戦術)」を設計する
デジタルマーケティングの世界では、新しい技術や手法が次から次へと出てきますし、そういった情報を扱う書籍、セミナー、広告代理店からの提案に接する機会は非常に多いと思います。
ただ、それらを正しく自社のサービス、お客様、ビジネス状況において、適切かどうか、どう組み合わせるべきなのか正しく判断するのはWeb担当者・マーケターたちです。自身の活動をきちんと価値を生む方向に持って行き、活動や組織、そして担当者自身を正しく評価してもらうだけの力を身につけることが重要です。
ここで説明したOGSTMモデルのことは、11月末に開催するセミナー「企業Web担当者 初級講座」でも詳しく解説します。
講座は「Web広告」を主題としていますが、単に表現や技術的な解説をするだけではなく、それぞれの特性と背景を含めて理解します。その上で、上記で述べたような各種フレームワークを使いながら、正しくプランニング、運用を行うためのプロセスを学ぶだけでなく、実際にビジネスで使えるようになるための多数のワークショップを組み合わせた講座なります。
この記事に取り上げた各種キーワードやお悩みに1つでも気になるところがあれば、ぜひ「企業Web担当者 初級講座(第11期)」の受講を検討してください。
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