5ステップで作るWebサイトの手順。事業分析からマーケティング施策まで考慮したサイト設計とは?
新サービスの提供開始などで新規にWebサイトを制作・公開するときに、押さえておくべきポイントをご存じだろうか。それはサイトを作り始める前のマーケティングの基礎となる事業分析です。このステップを入念に行うことで、サイトの制作作業や、公開後の達成状況の確認・改善がスムーズかつ的確に行えます。
実際にどのような分析を行い、制作に落とし込んでいくのか、事例に則してみていきましょう。
こんにちは。ウェブ解析士マスターの古橋香緒里(ふるはしかおり)です。株式会社フェイスインテリジェンスという会社で、中小企業のWeb活用のお手伝いをしています。
今回は、市場拡大を目的とした事業分析から、Web制作に落とし込むまでのワークフローを事例をもとに紹介していきます。事例として扱うのは、AIを導入した「クラウド会計」という競合ひしめく分野で、後発製品としてリリースした「JOBるぽ!」のサイトです。
何を提供するかを考える:クラウド会計ソフトの事業分析
→分析結果はWebサイト上の訴求内容やキャッチコピーに反映誰に提供するかを考える:事業分析に基づくセグメンテーション/ターゲティング
→情報を発信する対象を決めるどのように提供するかを考える:コンセプトダイアグラムでビジネス全体を可視化
→1を2にどのような方法でアプローチするか決めるサイトがうまくいっているか評価する仕組みを考える:目標達成のプロセスを計測できるようにKPI設定
→データが取れるようにウェブ解析ツールの設定をする3を成果物に反映する:コンセプトダイアグラムを参考にサイト設計
→サイト構成が決まる
0. プロジェクトの背景
事例として取り上げる「JOBるぽ!」を運営するアーバン・コーポレーション株式会社は、25周年を迎えた社員数230名の会社です。本社は横浜にあり、システム開発と経理代行が主力事業です。同社はこれまでに蓄積した開発力と経理業務のノウハウを活かして、クラウド会計・勤怠給与ソフトの開発を進めていました。
会計ソフトは経理担当者や税理士、経営者が利用するもので、企業の会計データを集約・集計し、財務情報の把握と決算書類を作成するために使います。
会計ソフトには、主に「インストール型」と「クラウド型」の2つがあります。これまでは、パソコンにインストールして使うインストール型の会計ソフトが主流で、費用は数万円から数百万円程度と比較的高価でした。一方のクラウド型は、無料から月額数千円程度で気軽に導入できるため、スタートアップ企業などを中心に導入が進んでいます。
私たちの会社は、4年前からこのプロジェクトに参画し、サービス自体のビジュアル面のロゴ、ネーミング、UI構築などを担当していました。2018年2月に本格的にサービスをリリースすることになり、マーケティング活動の土台となるWebサイトの制作も担当しました。
では、ここから新たに「JOBるぽ!」のサイトを作った際に行ったワークフローを順に解説していきます。
1. 何を提供するかを考える:クラウド会計ソフトの事業分析
「新規のWebサイトを作る」ために、まずクラウド会計ソフト全体の事業分析をします。
売るのは「クラウド会計ソフト」ですが、「消費者にどんな価値を提供するのか」を考える必要があります。そこから「競合と比較して自社がどんな強みを持っているのか」を把握していきます。
把握した強みは、Webサイトでの訴求内容やキャッチコピーに反映されます。また事業分析をすることで、サービス情報でどんな情報をより強調していくのか、といった優先度づけにもつながります。
市場規模を調べる:クラウド会計ソフトのシェアは15%
会計ソフト全体における「クラウド型」のシェアは、スタートアップ企業を中心に利用者が増えているものの、2017年9月時点で15%※程と十分に大きいとはいえません。
【MM総研】クラウド会計ソフトの法人導入実態調査より
https://www.m2ri.jp/news/detail.html?id=260
このような状況で、後発製品をリリースする場合、先発ソフトと類似した訴求をしても需要の伸びは期待できません。また、市場が伸び悩んでいる原因を考えれば商機につながるヒントを見つけられるのではないかと考えて、調べることにしました。
市場が伸び悩む要因、大きくは2つ
クラウド会計ソフトの市場が伸び悩む原因は大きく分けて2つ考えられます。
要因1 クラウド会計ソフトは手入力による処理が遅い
会計業務で大変な作業といえば、企業が活動して行くために必ず発生するお金やものの流れを会計上決められた項目に仕分けて記録していく作業です(たとえば、「給料を払った」「PCを買った」「売上額がいくら」など)。この作業は「仕訳」と「記帳作業」と呼ばれています。
クラウド会計ソフトの最大の強みは、この仕訳と記帳作業を効率化できることです。金融機関と連携し、AIによる自動仕訳で簡単に記帳が完了するからです。
しかし、金融機関を通さない現金取引や手形取引が発生した場合、その情報を会計ソフトに手入力しなければいけません。その手入力による処理が、インストール型のものよりも遅くなってしまうという弱点が、クラウド会計ソフトにはあるのです。
そもそもクラウド会計ソフトは会計業務を自動化することを目的として作られているので、手入力しないことを前提に設計されています。そのため入力速度への配慮がないのです。インターネット上の口コミでもこの点について言及されていますが、先発サービスを使ってみるとやはり処理が遅いことがありました。
要因2 企業に会計ソフト導入の決定権がないこともある
長年の経理代行業務経験から見えてくることなのですが、税理士さんに決算・確定申告など煩雑な会計処理を依頼している場合は、税理士さんがすでに利用しているソフトを導入するケースも多いのです。
これは会計ソフトの導入権が企業にないというわけではなく、どの会計ソフトが良いかわからないために、税理士の勧めるものを利用している企業が多いということです。
訴求ポイントは「先発企業との違い」
そこで上記で挙げた2つの要因を解決できれば、後発製品であっても商機があると考え、「先発企業との違い」をサイト内で大きく訴求することにしました。
要因1「クラウド会計ソフトは手入力による処理が遅い」という弱点を解決するために、現金取引が多い企業には、記帳を代わりに行う「記帳代行オプション」を提供。
要因2「企業に会計ソフト導入の決定権がないこともある」という点に関しては、税理士を必要とする企業には「税理士による申告サービス」を提供。
さらに、競合との違いや製品のポジションを明確にするために、税理士と先発のサービス、「JOBるぽ!」の3つのサービス範囲を次のように明示しました。
先発のクラウド会計ソフトは一部の業務を効率化できるのに対して、「JOBるぽ!」は税理士のように会計業務全般をサポートできることがわかります。
税理士とほぼ同等のサービスを提供できるということで、会計ソフトを求めるニーズに売り込む方法のほかに、会計業務を任せる(=税理士を求める)ニーズへも売り込めるのではないかと考えました。
- 会計ソフトを求めるニーズに売り込むのか
- 会計業務を任せたい(=税理士を求める)ニーズに売り込むのか
「会計業務を任せたい」という需要はどのくらいあるのか?
ニーズが違えば売り込む市場も異なります。そのため、「会計業務を任せたいニーズ=税理士へのニーズ」がどのくらいあるのかを次の3つの方法を使って調べてみました。
a) Googleトレンド
検索傾向が視覚化されたデータで確認できる「Googleトレンド」。検索期間などを選んで、比較したいキーワードを入力すると下図のように折れ線グラフが表示されます。
今回は、「税理士法人」と「会計ソフト」のキーワードに関してどのような検索が行われているかを確認したところ、会計ソフトより税理士の検索ニーズが多いことがわかりました。
b) SimilarWeb
Webサイトへのアクセス動向を簡易的に確認できる「SimilarWeb」(シミラーウェブ)。無料でアカウントを作成し、調べたいサイトのURLを入力するとサイトのアクセス数の予測値が表示されます。
これを使って検索結果の上位に表示される税理士紹介サイトとシェアNo.1のクラウド会計ソフトサイトを比較したところ、税理士紹介サイトはシェアNo.1のクラウド会計ソフトサイトの10倍のアクセスがありました。
c) 「税理士」の検索結果
「税理士」とGoogleで検索して表示される広告には、マッチングサイト(企業へ税理士を紹介するサイト)が並びました。
これらの分析により、会計業務を任せる(=税理士を求める)ニーズへの需要が見込めると判断し、「記帳代行と税理士による申告サービスを包括したクラウド会計サービス」としてマーケティングをすすめることになりました。
2. 誰に提供するかを考える:事業分析に基づくセグメンテーションとターゲティング
次に、「会計業務を任せたい」というニーズを持っているのは、どんな企業なのかを明確にする必要があります。ターゲットが明確になれば、マーケティング施策を実施するときの判断基準が定まります。
今回は、すでに税理士と成約している中小企業からターゲットを絞り込むために、中小企業庁「平成26年度 中小企業における会計の実態調査」をもとに、セグメントごとの企業の比率を確認しました。
それぞれのセグメントにおいて、ある程度以上の比率があること、かつ自社の強みが活きる(=メリットが提供できる)ことを念頭にターゲットの選定を行い、次のように決定しました。
- 年間売上高1億円~30億円
- 毎月自社で記帳業務を行い、決算のみ税理士に依頼している企業
3. どのように提供するかを考える:コンセプトダイアグラムでビジネス全体を可視化
次に、ここまでの2ステップで決めた「会計業務を任せたいニーズを持ったターゲット」に対してどのようにアプローチしていくべきかを決めます。
たとえば、「日々の記帳が面倒だ」と感じている経理担当者に、どんな情報をどんなメディアで提供すれば「JOBるぽ!よさそう」と思ってもらえるか、さらにはサービスの利用につながるのか、といったことを施策やコンテンツに落とし込んで行きます。
ここで利用したのが、「コンセプトダイアグラム」という手法です。
コンセプトダイアグラムは、ゴールまでの道しるべのように全体を俯瞰しながら施策やコンテンツを検討できて、顧客の気持ちの変化と、態度変容を起こすための具体的な「施策」を図解したコミュニケーション戦略マップです。
顧客が製品を認知してから理想のゴールに至るまでを5つのステップ(黒枠)で表し、態度変容を起してもらうための施策(青枠)をあげ、戦略全体を可視化しました。
これにより、顧客が「JOBるぽ!」を知って活用するに至るまでの態度変容の様子がひと目でわかるようになります。
コンセプトダイアグラムの詳しい解説は、『コンセプトダイアグラムでわかる[清水式]ビジュアルWeb解析』(著:清水誠氏)を参照してください。
コンセプトダイアグラムから導き出した最初のステップ「会計・総務の雑務が面倒」と思っている人に「JOBるぽ!よさそう」と思ってもらう施策としては、細かい機能説明はせず、導入後の働き方をイメージできる画像コンテンツと動画を作りました。
4. サイトがうまくいっているかを評価する仕組みを考える:目標達成のプロセスを計測できるようKPIを設定
コンセプトダイアグラムができたら、各ステップの進捗状況を確認することが必要です。そのためステップごとにKPIを設定します。
KPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)は、目標達成プロセスの実施状況を定量的に示すものです。
KPIを設定してデータを取得することで、どのステップにどれだけのユーザーがいるか、どこがうまくいっているのか/いないのかが数値でわかります。こうすることで、Webサイトの目的に対する達成状況を一目で把握できるようになり、施策の優先順位がつけやすくなります。
たとえば、各ステップのKPIをみたとき「使って利便性を感じる」まではうまくいっているけれど、「本格的な活用」や「他のサービス利用」には至っていないとします。その場合、「アカウント登録はしているものの活用していないユーザーに利用を促す」などの施策が考えられます。
「JOBるぽ!」ではGoogleアナリティクスのカスタムディメンションに会員IDを設定しているため、仕訳登録件数といった外部データをGoogleのデータインポート機能で取り込めば、ピンポイントで広告を配信することもできます。たとえば、「仕分登録件数が少ない人に広告配信ができる」ということです。これにより、広告費をかけ過ぎずに的確な施策が打てます。
5. 成果物に反映する:コンセプトダイアグラムを参考にサイト設計
コンセプトダイアグラムで検討した各ステップのユーザーに提供するコンテンツを書き出していきます。このようにすることで、策定したコンセプトダイアグラムをサイト構成にスムーズに反映できます。
また、「どんなコンテンツを作るのがいいか」「どんな表現がいいか」といったことをこの段階で悩むことがなくなります。
各ステップの顧客にどんな情報を提供すれば態度変容を起こすことができるか、また関心の深さと階層の深さを連動させ、深い階層にはより詳細なコンテンツを配置していきます。
このように発信する対象と重要度が明確であれば、コンテンツが増えた場合も整理されたディレクトリ構成を保つことができます。
広告との連携を考慮する
サイト構成を考える際、広告の流入先も考えておく必要があります。「JOBるぽ!」はオフライン・オンラインともに広告を展開していくため、それぞれの流入に対応できる構成にする必要がありました。
たとえば前出のサイト構成図の上部に示しているように、新聞広告やディスプレイ広告のような認知促進型の広告からの流入は第1階層へ誘導し、リスティングなどの理解促進系の広告は第2階層へ誘導します。
さらにもっと具体的なニーズを持っている人は第3階層へ誘導します。具体的なニーズに対応した広告としては、たとえば次のような検索キーワードや広告クリエイティブを想定しました。
「会計ソフトを探している人」は会計サービスへ誘導し、「クラウド会計ソフトをすでに利用している人」は競合製品のキーワードで「記帳代行ページ」へ誘導し、「税理士を探している人」には「税理士による申告サービス」へ誘導するといった具合です。できるだけ、ランディングページを量産せずに運用できる構成にしました。
会計業務の堅く煩雑なイメージを和らげる色彩設計
最後にサイトの配色を考えていきます。「JOBるぽ!」はロゴの検討段階から、会計業務の堅く煩雑なイメージを和らげる目的で、可愛らしいキャラクターを設定していました。
「JOBるぽ!」は会計業務をおまかせできることをうたったサービスであり、バックオフィスで実際に「JOBるぽ!」を使って作業を行う方は、会計が得意だとは限らないためです。また、勤怠給与管理のサービスは、社員の方が打刻や勤怠記録をつけるためにほぼ毎日目にするものですから、親しみやすく明るいキャラクターを用いることにしていました。
色彩設計においては、可愛らしいキャラクターを配置しつつも、信頼性や安心感を損なわない配色にする必要がありました。そこで、信頼感を与える青色をメインカラーとし、安心感を与える緑色をアクセントカラーとして配色しました。トーンを明るめにすることで、可愛らしいロゴとも同調させつつクールさを保つ配色にしています。
以上、事業分析からサイト設計までのフローを紹介しました。
最後に
今回紹介した「JOBるぽ!」のWebサイトは2018年2月1日に公開されました。
Webサイトの公開はスタート地点に過ぎず、これからが本番です。設計の際に策定したコンセプトダイアグラムやKPIを見ながら目標の達成状況を把握し、運用・改善していくことになります。
以上、Webサイトの新規立ち上げにあたって事業分析を行うことのメリットや、そのためのフローについて解説してきました。皆さまの参考になれば幸いです。
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