ファーストクラスに勝手に期待して裏切られたとdisる投稿に見るCXの難しさ
今日は、良いCXの実現で忘れがちな「事前期待」のコントロールについて。「誕生日サービスに期待して国際線のファーストクラスに乗ったのに、何も祝ってくれなかった」というユーザーの声を、あなたはどうとらえますか?
大好きな航空会社だから、期待してファーストクラスに……
今年の2月ごろに、少し話題になったトピックがあります。
ある航空会社のファンが、
誕生日の良い思い出になることを期待して、自分の誕生日に、大好きなエアラインの国際線ファーストクラスに乗った。
それなのに、乗務員がだれも誕生日を祝ってくれなかった。サービスに失望した
という不満を旅行クチコミサイトに書き込んだという話題があったのです。
- ファーストクラス乗ったのに、誕生日祝われなかった! 「泣いてしまいました」男性乗客、怒りの星1つ(J-CASTニュース)
https://www.j-cast.com/2018/02/15321356.html?p=all
このトピックに対して、多くの人は次のような反応をするのではないでしょうか。
- 「勝手に期待して勝手に裏切られてるだけ」
- 「面倒くさい人だ」
- 「クレームだ」
- 「サービスを求めすぎ」
しかし、良いCX(カスタマーエクスペリエンス)を考えるにあたって非常に大切なポイントがこの件にはあると、私は感じます。
CXのよしあしに関係する2つのポイント
「ファーストクラスに勝手に期待した人」の話が、なぜCXに関係するのでしょうか。それには次の2つのポイントがあります。
- CXは受け手それぞれの感じる相対評価でもある
- CXの根底は事前期待
今回のトピックに直接関係するのは後者の「事前期待」のほうですが、前提があるので1つ目から説明していきます。
CXは受け手それぞれが感じる相対評価でもある
1つ目の点は、「CXとは、受け手がそれぞれ感じる体験のことであって、サービス自体の客観的な評価ではない」ということです。
ここには2つの観点があります。「他社での体験と比べられる」ということと「受け手によって感じ方が異なる」ということです。
1つ目は、顧客はあなたの企業だけを相手にしているのではなく、同業他社や、他業種のサービスも体験したうえで、それらと比較しながら体験を評価しているということです。
2つ目は、体験というのはすべての人が同じ感じ方をするのではなく、同じサービスでも受け手によって感じ方は変わるということです。
例で説明しましょう。たとえば、あなたの会社がローカルに5店舗のファミリーレストランをもっているとします。そのファミレスでは、ポイントカードにスタンプが10個貯まると次回500円割引になる顧客サービスを以前から提供しています。
これ自体は、「お得だね」ということで顧客に喜ばれていたサービスです。
しかし、全国展開の大手ファミレスチェーンでは、ここ数年でさらに進んだサービスを提供するようになってきました。スタンプはアプリで提供していてポイントカードが複数枚に分散することもないですし、過去の注文内容に応じてお得なクーポンを届けてくれるサービスも提供しています。誕生日のサービスクーポンも、プッシュ通知で届けてくれます。
お客さんのなかには、大手ファミレスチェーンのお店にも行き、アプリをインストールして使っている人もいるでしょう。
そうした人は、あなたのお店のポイントカードが「なんか古くさい」「面倒」「クーポンとか届けてくれないよね」と感じてしまうかもしれません。あなたの提供しているサービスは何も変わっていないのに、他社がより喜ばれる体験を提供するようになったことで、相対的に体験の評価が下がってしまうことはあり得るのです。
しかし、大手ファミレスチェーンに行かずにあなたのお店だけに通っている人なら、そうした不満を抱くことはないでしょう。同じサービスでも人によって(コンテキストによって)体験が変わるのです。
CXの根底は事前期待
私は、CXが良いかどうかの本質の1つに「事前期待に対してどうだったか」があると思っています。要は、受け手が体験をどう感じるかに関して、事前期待が大きな影響をもつということです。
これは、レストランの評価にも通じます。「めっちゃ良いよ」という情報をあちこちで聞いてすごく期待して行った店は、よほど良い味やサービスでないと「すごく良かった」とはなりづらいですよね(「うん、良かった」はありますが)。逆に、「微妙かも」と思って行った店の味が予想よりも良かったら「すごく良かった」と思いがちではないでしょうか。
製品やサービスでも同様だと思っています。企業側は同じ体験を提供していても、ユーザーの事前期待が高すぎると「思ってたのと違う」と評価が下がる傾向があります。
集客やコンバージョンを期待する広告では、製品やサービスをできるだけ良く見せようと、良い点をバンバン訴求しますよね。でも、実際に申し込んでみたら広告で言っていたのとぜんぜん違う内容だったら、どうでしょうか。ユーザーのもっていた事前期待を裏切ることになりますよね。
そうなると全体としてのCXは下がってしまい、NPSをとっても批評者のスコアしか付けてくれないでしょうし、ソーシャルなどで悪評が立つでしょう。
企業が開催するセミナーでも同様です。「こんなすばらしい内容をお伝えしますよ」と事前期待を上げまくってしまうと、セミナーに参加した人が「時間の無駄だった」「思ってたのと違う」と感じることが増えるでしょう。
そういった意味では、冒頭の記載した「ファーストクラスに“勝手に”期待した人」は、何らかのチャネルで伝え聞いたサービス内容が記憶にあったのでしょう。
もしかしたら、他の人による「飛行機に乗ったら、誕生日のお祝いをしてもらえた!」というソーシャル投稿が原因かもしれません。その投稿の主にとっては「思っていなかったことをしてもらえた」、つまり事前期待を超えるサービスであり、良い体験だったことでしょう。
しかし、そうした投稿を見て「誕生日に航空機に乗っていると祝ってもらえる」と期待していた件のユーザーにとっては、そのサービスがないことが「事前期待を下回る体験」になってしまったのでしょう。
事前期待とサービス内容のバランスや、事前期待のコントロールというのは、顧客が「感じる」体験を良いものにするために、実はすごく大切なことなのではないでしょうか。
誕生日サービスに「勝手に」期待したユーザーを「クレーマーだ」と切り捨てるのは簡単な話です。しかし、それを「サービスに対する愛着をもったファンの事前期待」の1つだととらえると、また視点が変わってきます。
企業は、自社の製品やサービスを「良い」「すばらしい」と訴えることに慣れてしまっていることでしょう。しかし、事前期待のコントロールという点では「事前期待が高まりすぎないように適切に伝える」「本来は顧客ではない人が来ないようにする」といったことも大切なのではないでしょうか。
ソーシャルもやってます!