a2iに聞く新体制 アナリティクスの究極は、お客様を瞬時に理解・対応できる世界?
アナリティクスの究極って、店員さんがお客さんと接しているかのように、お客さんのことを瞬時に理解して、一番良い対応をしてあげるということだと思うんです。そんなデータ解析の世界にできるだけ近づきたいなと思っています。
そう話すのは、今年10周年を迎えた「アナリティクスアソシエーション」(a2i)代表の大内範行氏です。
2008年に「アクセス解析協議会」の名称で活動を開始し、セミナーやイベント、交流会などを通じて、日本のデジタルマーケティング領域にアナリティクスを根付かせる活動を継続してきたa2i。
2018年4月より新しい体制を発足させ、次のフェーズへ向かうa2iに、これまでの歩みと、これから目指すものを聞いた。
a2iはアナリティクスの重要性とおもしろさを啓発する
――まずはアナリティクスアソシエーション(a2i)立ち上げからこれまでの10年についてお話しいただけますか?
大内範行氏(以下「大内」): a2iを立ち上げた2008年ごろは、そもそもアクセス解析(アナリティクス)の業務が社会的に認知されておらず、担当者は社内に相談相手もいないような状況でした。なので、a2iの果たす役割として、「アナリティクスが重要かつおもしろいんだよ」ということを知ってもらい、普及させようという狙いがありました。
それから当時、私はSEOの仕事をしていたのですが、ブラックSEOが猛威をふるい、業界が非常に荒れてしまった時期でした。アナリティクスに関しては関係者の集合知によって市場をきちんとしていきたいという思いもありました。
――a2iの主な活動項目は、セミナーやサミットなどでしょうか?
大内: そうですね。立ち上げ当初セミナーは、副代表を務めてきたクロスフュージョンの衣袋宏美さんが企画・運営を担当してきました。サミットなど大型の企画に関しては私(大内)も入り、その両方を真摯のいちしま泰樹さんが支えるといった体制でした。
10年間を通じて、当初の狙いはかなり達成されてきたと思っています。同時に、新しくアナリティクスの領域に入ってくる方が増え、そのステップアップをどのように支援できるかなどが課題になってきています。
その意味で、阿部圭司さん(アナグラム)や小川卓さん(HAPPY ANALYTICS)のように、a2iのセミナーが初めての登壇で、そこからメジャーになっていった人たちの存在は、この10年における成功例ではないかと勝手に思っています(笑)。
成瀬祥太氏(以下「成瀬」): 実は私も、a2iへの参加を通じて成長することができたひとりです。立ち上げ時からa2iを支援してきたパートナー企業(クリエイティブホープ)の社員なのですが、6年前の入社時に「a2iのセミナーに行ってこい」と言われ、それから現在まですべてのセミナーに参加してきました。
当初は今日同席しているメンバーが業界の重鎮だとも知らず、ごく普通のおじちゃんだと思って接していたら「その本を書いたのは私だよ」と言われて驚くっていう経験もしました(笑)。何を話しているかもわからないような状態から、a2iで多くのことを教わってきました。それが今、本業であるB2Bのマーケティング支援に生きています。
――私の知る範囲では、インターネット広告の業界で同じように新人教育をどうするか、成長の場をどうセットするかが課題になった時期がありました。今でも、かな。どの産業でも同じような過程を経るのですね。
「a2i」第2章の始まりは、副代表・衣袋さんの卒業宣言
――2018年4月に新しい体制になったということですが、何がきっかけだったのでしょうか?
大内: 立ち上げ当初からの副代表であった衣袋さんから、10周年のタイミングでそろそろ卒業したいという申し出がありました。立ち上げ当初から一緒に歩んできたので、a2i自体を終了することも一瞬考えました。
ただ、先述したようにa2iはアナリティクスに関わる人たちの「成長の場」という側面もありますので、a2iをきっかけに成長を遂げたメンバーと一緒に、もう少し続けてみることにしました。衣袋さんの代わりは誰にもできないので、それぞれに強みを持ったメンバーが集団で作り上げていく体制に変えてみる、ということです。
同時に、新たにイー・エージェンシー、プリンシプル、ビービットの3社にパートナーとして団体の運営を助けていただけることになりました。
――新しい体制の「目玉」はなんでしょう?
大内: セミナーの企画・運営に関して、本日のインタビューに出てもらっている皆さんを「セミナー編成委員」に選出し、月ごとに担当を決め、テーマ決めから人選、スピーカーとのやりとりまで行う形にしました。もちろん各人にまかせっぱなしではなく、話し合いながら詳細をつめていきます。
いちしま泰樹氏(以下「いちしま」): 新体制になって以降、5月は森野さんが企画したGoogle Analytics の初級~中級編、6月は渋谷さん担当でB2Cのモバイル関連、7月は大内さんの特別セミナー、8月は寳さんの広告、9月は成瀬さんのTableau/ビジネス・インテリジェンスといった予定で進行しています。
※詳しいスケジュールはこちら https://a2i.jp/schedule/
大内: この体制にしてから、セミナーで取り上げる事例の数が増えました。各編成委員がどういうセミナーがおもしろいと感じていただけるのかを真剣に考える中で、自然と事例が増えているということでもあるかと思います。
渋谷さんが苦しみながら企画した6月のセミナーは、満足度100%という過去最高の数値をたたき出しましたが、やはり事例が好評でしたね。
渋谷泰一郎氏(以下「渋谷」): リクルートライフスタイル(「じゃらん」ほか)やIDOM(「ガリバー」)の担当者にご登壇いただきましたが、いずれも知名度の高いサービスで、参加者にとってもイメージが浮かびやすい状況だったかと思います。
登壇者さんには、戦略的な話から、現場でごりごりA/Bテストを回すといったところまで詳しくお話いただきました。いろいろな目的を持った参加者がいらっしゃる中でも、それぞれに満足するポイントがあったのではないかと感じました。
――話していただく内容について、登壇者とは調整しました?
渋谷: はい。「組織の話よりも実務的な話を多くしてください」とお願いしました。a2iのセミナー参加者は現場で実務に取り組んでいる方が多いので、組織論よりも現場感のある話の方がフィットするだろうと考え、その方向で調整しました。
――大きな会社だと組織を動かすのにも難しさがあって、スピーカーはそれを話したがるんだけど、細かな取り組み事例の方が刺さるからそちらを増やしてくださいみたいな話をしたわけですね。なるほど。
「a2i」第2章の4つの変化
大内: 新体制の目玉はセミナー編成委員ですが、その他にも4月からいろんなことを変えてきています。1つ目は、「sli.do」を導入して、質疑応答時の登壇者への質問をオンラインで集約するという試みです。
いちしま: 4月のアナリティクスサミットで元大阪ガスの河本薫さんが独自に利用されていたのを見て、5月のセミナーからa2i全体でさっそく導入してみました。
セミナーという限られた時間の中で、手を挙げて発言していただくのは参加者にとっては負荷です。sli.doを導入したことで、寄せられる質問数が増えましたし、集まった質問から似たような質問をピックアップして効率よく回答できるようになりました。登壇者、参加者、運営側すべてにメリットがあるように思います。
大内: 2つ目の試みとして、運営に関するコミュニケーションをすべて「Slack」に移しました。ふだんは皆さん離れた場所で執務していて、ミーティングなどを簡単に実施できませんが、これまでのところSlackとビデオ会議でうまく回せています。
3つ目の試みとして、セミナーの点数付け(スコアリング)です。これまでは満足度などアンケートの結果しか見ていなかったのですが、アンケートの回収率や当日の申し込み人数、そこからの参加率なども見るようにしました。
――当日の天候なども加味したり……?
大内: はい、機械学習ならぬ「人間学習」にかけています(笑)。あとは女性の参加比率なども取っています。
森野誠之氏(以下「森野」): 私は10年前から参加していますが、初期のセミナー参加で女性は、ほとんどいませんでした。1割くらいだったでしょうか。
いちしま: 今は4割弱まで増えました。
――参加者全体の3分の1は超えているんですね。
大内: この10年でずいぶん増えましたが、なんとかこれを4割、5割にもっていきたいと考えています。
渋谷: 4つ目の新しい取り組みとしては、セミナー参加者にレポートを書いていただく「セミナーレポーター」の仕組みを始めました。活動報告としてa2iのサイトに掲載するものです。
大内: 先日、その取り組みのレポートを初めて公開しましたが、とても充実した内容に仕上がっています。先ほどお話しした、満足度100%を取った6月のセミナーが、その新しい取り組みのレポートです。
いちしま: その活動報告を掲載するa2iのWebサイトもリニューアルしています。CMSの変更により、運用がスムーズになりました。
a2iの会員属性は10年前とほぼ変わらず
――少し話を戻して、現在のa2i会員はどんな方が中心なんでしょうか? その属性は、この10年間で変化しましたか?
大内: 会員が所属する企業の規模感で言えば、立ち上げ当初から大企業もあれば中小・零細企業もあり、そのばらばらな感じは現在に至るまで変わりません。アナリティクスへの関わり方についても、事業会社の中で担当している人と、代理店や制作会社など支援側にいる人が半々で、これもずっと変わっていません。
いちしま: 2015年に会員向けアンケートで聞いた結果でも、事業会社側と支援側がちょうど半分ずつでした。あと、事業会社の中でどの部門にいるかを聞いたのですが、マーケティングだったり広報だったりとまちまちでした。
――所属部門に関しては、立ち上げ当初と比較して変化があったのでは?
大内: データとしては残っていませんが、おそらく当時は「インターネット事業部」や「情報システム系」の方が多かったのではないでしょうか。現在は「データ解析」や「マーケティング」などの部署が増えている印象です。
あとは個人事業主が増えましたね。今日のメンバーの中でも、森野さん、いちしまさん、渋谷さんは独立組です。
渋谷: 私は2014年に独立しましたが、森野さんによく相談に乗ってもらっていました。
――ロールモデルとなるような人と知り合えたということですよね。すばらしい。
意外と交わならない? 広告とアナリティクス
――それ以外に10年間で感じる変化とは?
大内: 編成委員には広告側から寳さんに入ってもらっていますが、広告の人間とデータ解析の人間が、近いように見えて意外に……
寳洋平氏(以下「寳」): 交わらない。
森野: 別物ですよね、完全に。
大内: 傾向として、広告代理店系の方の参加は増えており、関心は高まっていると思うのですが、広告のセミナーと解析のセミナーで参加者が全然別になっていて、交わらない感じがあります。
――マーケティングの人にとって広告はパーツのひとつでしかないんですが、広告の人にとっては広告が全部だったりして、そこに溝があるかもしれません。
森野: 広告の人は入口と出口しか見ないですが、アナリティクスは中しか見ないという違いがありますね。また、広告の人は予算を持っているが、解析をする人は予算を持っていない。この差はもう明確なものがあり、広告側の人はお金へのこだわりや成果に対するどん欲さが圧倒的に違うという印象です。
寳: 広告は広告として広がりや深みがありますが、その深いところでの共感を求める方がa2iに来るとどうもマッチしない、ということはありそうです。なので、私の役割として、その両者をつなげたいという思いがあります。
私自身はa2iのセミナーやサミットへの参加を通じて、マーケティングのように全体をみる視点と、広告のような部分最適のところの両方を理解することができ、それが自然なこととして身に付いたのだと思っています。
アナリティクスはプロジェクトの「ハブ」となる
――アナリティクス自体が珍しかった10年前に比べると、今では企業内で解析すること自体が一般的になったのではないでしょうか?
渋谷: そうですね。アナリティクスは施策を回すときに社内外含めていろいろな人と関わります。そのため、PDCAを行う上でのコミュニケーションの「ハブ」のような立ち位置になってきたと思います。
データを見ながら、「SEOがうまくいっているね」「オーガニックが増えたね」とかという感じで、施策を推進していくようなイメージですね。だからこそ、「データだけを見る」というよりは、「マーケティングの視点を持ち」全体を見ながらゴールに向かって様々な部署や外部を巻き込んで進んでいかないといけないな、と感じています。
――データ領域からプロジェクトや施策を進める、大事な役割ですね。
大内: 私が考えるに「リーダーシップ」には、3種類あるかなと。
- 方向性を決めてひっぱっていくリーダー
- 売上数値などの目標達成にがんばるリーダー
- チームを支えてポテンシャルを引き出すリーダー
アナリティクスは数字を追っているように見えますが、これら3つのなかだと、実は「チームを支えるリーダー」つまり実際には人を支える役割がアナリティクスなのかなと思います。
渋谷: そうですね、アナリティクスは、潤滑油のような役割だと感じます。
いちしま: 解析をする人って施策を自分で打てるわけではないんです。あくまでも受け手の立場なんですが、チーム全体を支える土台のような役割という表現はしっくりきますね。
これからのa2i
――最後に皆さんから一言ずつ今後の抱負をお願いします。
渋谷: 自分の名刺には「アナリティクスディレクター(Analytics Director)」と書かせてもらっているんです。「アナリティクスだけをする」という役割から、「アナリティクスに軸を置きながらプロジェクト全体で貢献していく」という意味です。私としては、どうすればアナリティクスがチームや組織でうまく活用できるのかということをテーマにa2iに関わっていきたいと思います。
成瀬: アナリティクスは、深掘りしようとすればいくらでもできます。でも、行き過ぎてはいけません。専門用語だらけのデータでは相手に伝わりません。つまり、その情報では何も判断ができないということです。だから、解析に詳しくない人に通訳することも、アナリティクスに携わる人に求められているスキルかなと感じています。そうすると、新しい化学反応が起こると思うんです。これをテーマにa2iに貢献していければと思っています。
寳: a2iとともに、自分も成長して、ステージが上がってきたように思います。たとえば、事業会社とのかかわり方も、広告の一部をお手伝いするという役割から、徐々に全体像を広く見るといった役割へと変化しています。運用型広告の運用は、事業全体からすると一部分です。しかし、運用型広告を最適化するには、PDCAを回しながらテストを繰り返していきます。このプロセスはマーケティング全体でも役立つはずですし、共通点も多いはずです。部分最適から全体最適へという「視野を広げる」ということをテーマにしていきたいですね。
いちしま: 実は、アナリティクス領域から、デジタルマーケティングの戦略立案、デジタル広告の運用などをまるっと引き受ける活動をやろうとしているんです。今までは、1人プラスアルファで仕事をしていたので、それに応じた規模感の仕事が中心でした。でも、アナリティクスという観点からマーケティング全体を見られればいろんなものが機能するはずなんです。新しく始める活動で得られた知見をa2iにフィードバックしていけたらなと思っています。
森野: 今一番課題だと感じていることは、商売のことを全然考えずにテクニカルなアナリティクスに走っている人が多いことです。競合だらけの超レッドオーシャンで、「Webでどうにかしたい」というのは、そもそも商売が強くないと無理なんです。なまじデータが普及し過ぎたため、データで何とかなるみたいな幻想を抱いている。商売を伸ばすための手段がアナリティクスで、アナリティクスからスタートしてほしくないですね。業務のスタートがアナリティクスだという意味とは違いますよ!
大内: アナリティクスの究極って、店員さんがお客さんと接しているかのように、お客さんのことを瞬時に理解して、一番いい対応をしてあげるということだと思うんです。そこをちゃんとできるようなデータ解析の世界にできるだけ近づきたいなと思っています。
――皆さんの熱い想いが伝わりました。ありがとうございました!
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