業績拡大で何かと注目される機会の多い、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake(以下、マクアケ)」。今や「マクアケで○%達成!」という言葉が商品やサービスの魅力を表すフレーズとして使われるほど、大手から小規模事業者まで幅広く利用されるようになってきました。
2013年5月にサイバーエージェントの新規事業としてスタートしてから、株式上場を経て、なぜマクアケはこれほど多くの事業者やユーザーから支持されるに至ったのでしょうか。
今回はマクアケ共同創業者/取締役の坊垣佳奈さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:豊田 哲也)
「応援購入」の可能性に対する夢と情熱
――事業の立ち上げ前、これほど多くの人に支持されるサービスに成長すると思っていましたか。
明確な根拠があるわけではなく感覚に過ぎないのですが、実はある程度自信はありました。確かに事業開始前は「クラウドファンディング=寄付」のイメージが強かったこともあり、日本で寄付という概念や行為が定着するだろうかと懐疑的な気持ちはありました。
一方で、当初から作り手の思いやプロダクト開発の背景、ストーリーなどを知って、共感した上で購入する流れが注目されつつあるとも感じていましたので、私たちが提案する「応援購入」の方向性は時代の変化を捉えているのではないかとも考えていました。
もっとも、サイバーエージェントのグループ会社として、上場するフェーズまで想像できていたわけではありません。
マクアケ社内の様子。
――共同創業者の方、3人とも応援購入の方向性で一致していたのですか。
一致していました。議論が多少あったのは、ジャンルをガジェットなど特定のカテゴリーに絞るかどうかくらいです。応援購入の考え方は特定のジャンルだけに起きているわけではありませんから、現在の形に自然と整理されていきました。
――サイバーエージェントの子会社で上場したケースはマクアケ以外にありますか。
過去にはないと思います。他の資本も入ったグループ会社ならありますが、サイバーエージェントの100%出資で、創業メンバー全員がサイバーエージェント出身というケースでは初めてですね。
――その点、藤田(晋・サイバーエージェント代表)さんは最初から想定していたのでしょうか。
想定していなかったと思います。当初は「これはCSR事業の一環だな」くらいのコメントをされていた記憶があります(笑)
――今はどうですか。
今はどうでしょう…。任せてもらっていますので何もおっしゃらないのですが、いろいろな方の出資をつないでくださったりしていますので、ある意味では認めていただけた部分もあるのではないかと思います。
やはり事業である以上、ボランティアでは駄目で、利益を上げることが大切です。しかし、ただ稼げばいい、儲かればいいという事業にもしたくありませんでした。
経営者の多くはもともと、成し遂げたい夢や世の中をもっと良くしたいという情熱を持って事業を立ち上げると思うのですが、現実的な問題にいくつも直面するうちに、時には負の側面を抱えたまま利益至上主義に走ってしまう人もいるのではないかと感じます。それがエスカレートすると、競争や生産性のみをひたすら追求する、行き過ぎた考え方に向かってしまうおそれがあります。私は以前からそのような考え方に違和感を持っていました。ですから、マクアケの事業を成長させることで、消費行動の点から世の中の在り方や価値観に少しでも一石を投じる機会を作りたいという考えもあります。
大手企業も参入するテストマーケティングの需要
――2020年9月期の決算発表では、購入総額が146億6400万円と前期比約2.7倍に増加し、トップラインも利益も大きく伸びて話題になりました。その背景については、どのようにお考えですか。
いろいろな要素が重なった結果です。やはりコロナ禍において、店舗に出向きづらい状況下で、自宅にいながらオンラインで買い物ができる点は業績拡大の大きな要因となりました。
また、事業者さんについても、コロナの影響で困っているからお金を集めたいというニーズに加えて、世の中の変化に合わせて事業を急速にシフトしていく必要性に迫られ、その一環でマクアケの活用に目を向けていただくことができました。例えば、オンラインで販売できる商品やテイクアウトできる飲食店メニューの開発、アパレルなら新たなマスクの製造などです。急激な変化の中で生まれたアイデアベースの商品をいきなり大量生産するのはリスクが高いので、ニーズがあるかどうか一旦市場に出して試してみたいと考えたときに、マクアケがぴったりはまるサービスだったのではないかと思います。
――現在はイチからサービスの立ち上げを支援するのではなく、テストマーケティングに重点を置いている印象です。
そうですね。ものづくりの領域でいきなり量産して売り出すのはリスクが大きいですが、マクアケを活用すれば、先にお金が入ってきて、その資金を元に必要な分の製造に入れます。在庫を抱えることなく、ニーズも把握できて、かつ自分たちだけでは獲得できなかったユーザーがマクアケにはすでにたくさんいますので、初期からお客さまを獲得しやすい状況にあります。
そんなふうに初期のさまざまなハードルを越えやすいツールという認知がコロナ禍において広がったことで、事業者さんのプロジェクトが増加し、そこにユーザーのオンライン消費拡大が重なり合った形です。加えて、一般的なECサイトでは見つからない、ユニークな商品を購入しやすい点もユーザーに好感をもって受け止められています。そうした点すべてが業績拡大につながったと考えています。
――マクアケは大手企業のプロジェクトも多いですね。
大手企業はまさにテストマーケティングとしての活用です。大手ですから資金面も生産体制もある程度余裕があるはずですが、逆に組織が大きい分、スピーディな動きが取りにくく、決裁1つ取るにも時間がかかってしまうケースがあります。ネックの1つが「それは売れるの?」という議論です。その点、マクアケを通せば資金面などのリスクを最小限に抑えられるので、大手企業でもプロジェクトを実行しやすいようです。現在は、アイデアレベルでマクアケに出してみて、うまくいったら事業化したり子会社化したりする感覚でご利用いただいている印象です。
――話を聞いていると、マクアケは今、Amazonマーケットプレイスのテストマーケティング版のようなところで第一想起を取りに行っている感じですか。
近いかもしれません。ただ、大きな違いは「応援購入」の「応援」のところです。外側のスペックだけでなく、作り手の思いや開発ストーリーへの共感、そこから生まれる応援の気持ちがユーザーの商品購入に際しての判断材料になっています。そこがマクアケの特徴です。
リピート率7割を支える2つの理由
――1円でも節約したい人がたくさんいる中で、いくら応援したいという気持ちがあったとしても、本当に続くのかなという疑問もあるのですが、いかがですか。
1円でも安く買いたいものと、そうでないものがあると思います。大量生産されて均一化されている商品なら安いほうが選ばれやすいかもしれませんが、一方で、例えば日常的に使用するマスクなどは素材や肌触り、耐久性を重視して購入する人もたくさんいらっしゃるはずです。
その辺を賢く考えて、無駄なく大切にものを選ぶ人間の感覚は以前からありました。マクアケの応援購入もその流れを汲んでいると考えています。
それは注目されているD2Cの領域でも同様で、ものを買う際に企業のスタンスや経営者の考え方、ユーザーとの双方向性のコミュニケーション、丁寧なカスタマーサポートなどを含めた総合的な点からブランドや商品が選ばれやすくなっていると聞きます。
そうした消費行動を成立させているのがオンラインです。オンラインは血が通いにくいイメージがあるかもしれませんが、実は従来の店頭販売のほうが作り手と買い手が顔を合わせる機会は少なかったと思います。一方、オンラインならデジタルの形で直接コミュニケーションが取れますので、作り手と買い手の距離は近くなり、エモーショナルな感覚が意外と伝わりやすくなっています。
コロナの影響もあって、作り手と買い手によるエモーショナルなコミュニケーションの在り方は一層進んでいる気がします。例えば食事をする際も、いつもの店ではなくて、困っている飲食店を応援したい気持ちで選ぶ人もいると思います。そのため、コロナが加速させた世の中の変化とマクアケでの買い物体験がヒットしたのが業績拡大にプラスに働いたと捉えています。
日本のデザイン家電ブランド「Amadana」と「UNIVERSAL MUSIC」の共同企画「Amadana Music Project」によるスピーカー内蔵レコードプレーヤー。
――応援購入、応援消費は一過性ではないかという批判もあります。
コロナ収束後、生活スタイルはある程度元に戻るかもしれませんが、一度変化した人間の感覚はそれほど容易には戻らないと思います。私自身、そのことは実感していまして、応援購入の消費体験を知ると、顔が見える作り手とのつながりを感じて、ものに愛着が湧いてきます。逆に、有名ブランドだからという理由だけで購入していた感覚に違和感を覚えることもあります。少なくとも私の場合、この感覚はもう戻らない気がします。そういう方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
――それと関連しているかもしれませんが、ユーザーのリピート購入の割合が7割と高いのはマクアケの特徴だと思います。リピート顧客を獲得するためにどのような点に注力していますか。
マクアケが持つ応援購入という消費体験自体や、一般のECサイトでは扱っていないオリジナリティの高い商品を購入できる点そのものが、高いリピート率につながっていると捉えています。通常、「商品やサービスが良かった」「ブランドを気に入っている」などと感じたからリピート購入が生じるのだと思いますが、応援購入についても同様に、ユーザーが「マクアケでの買い物が楽しかった」「またマクアケで商品を買ってみたい」という気持ちになれるからリピートしてくださっていると考えています。
もう1つ大きな点は、プロジェクトの実行者さんの中に商品をバージョンアップしながら毎回マクアケに出してくださっている方がいることです。一度購入して良かったと感じたユーザーの中には、実行者さんがバージョンアップするたびに購入してくださる方もいます。その2つが高いリピート率を支える背景になっている認識です。
――ユーザー獲得のためにSEOもしっかり行っている印象があります。
SEOは初期にかなり対策しました。現在、SEO担当者がいるわけではないですが、おかげさまでたくさんの方にページを見ていただけていて、多数のコメントが付きますので、特に対策をしなくても検索結果の上位に表示されやすくなっています。
マクアケのプロジェクトで人気を呼んだKnotの腕時計。
手厚いコンサル力の魅力と、想定される課題点
――プロジェクトを実行するかどうか迷っている人に対して、マクアケならではのメリットとしてプレゼンしていることは何ですか。
一番はコンサル力です。まだマクアケをあまりご存じない方に「ツールはこれで、使い方はこうです。では頑張ってください」と伝えるだけでは、なかなかうまくいかないでしょう。運用が非常に重要です。そのため、マクアケでは「キュレーター」というコンサル担当が必ず1人付いて、ご相談に乗りながらページや写真、リターン設計(プロジェクトが成功した際に行うユーザーへのお礼)から、進行中の施策、情報発信の仕方まで丁寧にサポートします。また、メルマガやSNSなどマクアケのオウンドメディアからも送客支援を行っています。メルマガといっても、世の中に存在しなかった新しい商品の紹介ですから、一般的なメルマガよりユーザーの反応率は高く、1通の配信で数百万円集まることもあります。
プロジェクト成功のポイントは大きく3つで、このうちの1つでも欠けるとうまくいかない確率が上がります。
・商品やサービスの良さ、魅力
・購入ページのクオリティ
・集客力
商品については、アドバイスはできても私たちが手を出せませんので、ここは実行者さんにお任せする形です。その際、すでに存在する一般的な商品と差別化できる点が少ないとユーザーの目に魅力的に映らず、売り上げがやや苦戦する傾向があります。
また、購入ページのクオリティが低いと、商品やサービスが良くて、集客に成功しても、ユーザーには魅力的に映らずに、購入までたどり着くことが難しくなります。プロジェクトを成功させている実行者さんの多くは、購入ページに開発の経緯や商品に込めた作り手の思いを丁寧に書き込んでいます。
集客についても、うまくいかないと購入ページが存在するだけになってしまいます。その点、マクアケではPRを内製で行っていまして、メディアに取り上げていただいたり、効果的なメルマガを打てたりする点を評価されています。
つまり、プロジェクトを成功させるための仕組みづくりに関するコンサルの手厚さが私たちの特徴であり、これだけコンサルに人件費をかけているのは、クラウドファンディングサイトでもECサイトでもほとんど存在しないのではないかと思います。
――「課題点は何でしょうか?」という質問に、坊垣さんは「課題点を見つけたらすぐ解決に動くので、ありません」と答えると聞きました。それでも何か、将来的に少し懸念していることはないですか。
課題は常にたくさんあります。しかし、それを課題と感じる前に1つずつ解決をしていますので、現状で大きな課題はないと考えています。ただ、改善すべき点や、プラスアルファで実行すべきことは山ほどあります。
それでもあえて挙げるとすると、新しいものが生まれる場への理解をもっと高めていくことです。例えば、商品に原因があるわけではなく、使い方を間違えたことに問題があるのにユーザーがケガをしてしまった場合、ユーザーの情報発信の仕方によっては、作り手が炎上してしまうおそれがあります。そうしたことがテストマーケティングの場である以上、既製品よりは確率的に起こりやすいとすると、我々も商品に対するチェックを厳重に行うと同時に、「新しいものを生み出していく場」としての理解をさらに良い形で浸透させていく必要があると考えています。
片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援。
地方と海外、両軸でさらなる事業拡大へ
――今後の展開を教えてください。
地方と海外、両方での展開を本格化させていきます。地方にはマクアケについてご存じなかったり、プロジェクトに載せたいけど載せられていなかったりする企業・団体や個人、そしてまだマクアケでの「応援購入体験」をしたことのないユーザーがたくさんいらっしゃると思います。テレビCMも始めていますが、すべての地方で十分流し切れているわけではありませんので、全国的な認知度を高めることが急務です。
海外展開も重点ポイントです。日本のものづくりを支援するためにも、日本の良いプロダクトが海外で売れる流れをもっと作り出す必要があります。そのため、マクアケでの決済を海外から海外通貨でできるようにしたいと考えています。
地方と海外、その2つの方向性をしっかりと実行していけば、ビジネスの規模はまだ何倍にも大きくなる事業だと思います。
――最後、坊垣さん個人のビジョンを教えてください。
地方のものづくり支援に接点を持たせていただいている関係で、地域活性化、地方創生に関してお話ししたり、自治体の方のご相談に乗ったりする機会が増えています。私自身が地域活性化に関する実力をもっと付けて、これからもっと貢献していきたいという思いが1つあります。
もう1つは女性の活用についてです。マクアケの創業に女性である私が入っていることについて言及されることがしばしばあります。そのため、私の経験から得た知見を活かして、企業の管理職や役員への女性登用という観点でアドバイスやご協力ができるのではないかと考えるようになりました。
実際に、ある人事系の会社で、女性起業家を集めて、その中から女性の社外取締役を探している企業に適切な人をマッチングする事業の企画立案を一緒にさせていただいています。女性活用の推進という点も個人的にはこれからやっていきたいところではあります。
ただし、あくまでもマクアケの事業をいかに伸ばしていくかが主軸であることは変わりありません。事業につながることなら積極的にやっていきたいし、自分の力を必要としていただけるところがあればお役に立ちたいという認識です。
――本日はありがとうございました。
Profile
坊垣 佳奈(ぼうがき・かな)
株式会社マクアケ 共同創業者/取締役。
兵庫県生まれ、茨城県育ち。同志社大学卒業後、2006年サイバーエージェント入社、サイバー・バズ立ち上げに参画。2010年同社取締役。その後、サイバーエージェントのゲーム事業子会社2社を経て、2013年5月マクアケ設立、取締役就任。
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