BtoBマーケティング未経験、2年足らずで月300件のリードを獲得! 一人担当者は何をしたのか?
企業向けのデジタルマーケティング支援を行うナイル株式会社では、Googleのアルゴリズム変動によってセッション数が3分の1に低下し、その影響でサイト経由のお問い合わせも激減してしまった。
同社では、長らく専任のBtoBマーケターが不在であったが、BtoBマーケティング未経験の大澤心咲氏(デジタルマーケティング事業部 マーケティングユニット マネージャー)が一人マーケターとして担当することにより、2年かからずに月300件を超える新規リード・問い合わせを獲得するまでになった。大澤氏がどんな施策を実施してきたのか詳しく聞いた。
目標はハッキリと! データを紐解けば見えてくる
――はじめに、大澤さんの現在担当されている業務内容を教えてください。
大澤: ナイルには、法人向けにウェブマーケティングのコンサルティングなどを行うデジタルマーケティング事業、「Appliv」をはじめとした自社メディアの展開、オンラインで完結するカーリース「おトクにマイカー定額カルモくん」の大きく3つの事業があります。
私が所属しているのは、1つ目の法人向けのサービスです。この法人向けサービスでは、2020年4月から私が担当するまで、専任のマーケティング担当者が長らく不在でした。そしてひとりマーケターの経験が著書『ひとりマーケター 成果を出す仕事術』を出版するきっかけになりました。
――専任マーケターとして、一番大きなミッションは何だったのでしょうか?
大澤: ミッションはとにかく、問い合わせを増やすことでした。Googleのアルゴリズム変動でサイトのセッション数が3分の1くらいまでガクッと下がってしまった影響で、サイト経由の問い合わせが激減していました。
――それは危機的状況ですね。ちなみに、大澤さん自体は、BtoBのマーケティングの経験はあったのですか?
大澤: それが全くの未経験でした。
――え、そうなんですね。上司から抜擢された理由を聞いたことはありますか?
大澤: 上司は、問い合わせを増やす手法にこだわりがないタイプが良いと思っていたようです。弊社の場合、コンサルタントの強みの一つにSEOがあります。SEOで問い合わせを増やすことに固執してしまうと、それが問い合わせにつながらなかったとき、その人の評価が下がるうえに、ミッションが達成できません。
また入社時の面接で、「発注側の業務を経験してみたい」と話しており、それも異動の決め手になったかもしれません。
――大澤さんは良い意味でコンサルタント業務に固執してなかったんですね。そこを上司も見抜いていたと。それが融合して成果が出たから、書籍を出すまでに至ったということですね。BtoBマーケティング未経験で任された中、最初にやったことはなんですか?
大澤: 最初は初年度に自分が作るべき問い合わせ件数がどのくらいかシミュレーションしていました。何件の問い合わせがきたら、そのうち何件が商談につながって、受注に至るのか……といったものです。
――シミュレーションを作るとき、何に苦労しましたか?
大澤: 当時、営業データを詳細に見たことがなく、社内ローカルな数字の見方に苦戦しました。「マーケティング担当者は、数字に強くないとダメ」と思っている方が多いと思いますが、四則演算ができれば十分です。必要なのは数値の意味を正しく理解する力です。
施策は試行錯誤! 困ったら顧客に聞くのも有効
――シミュレーション後に、どんな施策から実施していったのですか?
大澤: セッションが3分の1になったとはいえ、ナイルのオウンドコンテンツがやはり武器だと感じ、このセッションを活かしてコンバージョンを増やす施策を実施しました。具体的には、「CTAをわかりやすくする」「問い合わせフォームの文言を見直す」「A/Bテストでボタン使用率の調査」などです。ただ、あるタイミングでお問い合わせ数の伸びに限界を感じるようになりました。
――その頭打ち感は、いつ位の話ですか?
大澤: 異動して4か月ほどたった頃です。頭打ち感の解決のために、顧客ヒアリングを実施したり、お問い合わせフォームの分析をしたりしました。顧客ヒアリングでは、過去に自分が担当した顧客に、「なぜナイルに問い合わせてくれたのか?」と直接聞きました。
また、フォームでは、多くの人が予算入力やお問い合わせの詳細入力の項目で戸惑っていることがわかり、双方を通じて「フォーム改善では及ばない領域があり、担当者の意思だけではどうにもできないことがある」んだと感じました。
そこから、コンバージョンを増やすために、「問い合わせ用の資料ダウンロード」や「ウェビナーへの申し込み」に注力し、資料ダウンロード数を指標に入れて、優先的に資料ダウンロード数を増やす施策に変えていきました。
――資料作りやウェビナー作りは、人的リソースがかかる施策ですが、どのように展開していったのですか?
大澤: 大きく二つあります。一つ目は、日報を書いて、小まめに「資料作りにはリソースが必要」と上司に伝え、外注費の予算拡充を継続的に交渉していました。二つ目は、ゼロから自分で作るのではなく、社内にある資料を使うようにしていたことです。具体的には、社内の研修資料を活用したり、自社のオウンドコンテンツを活用したりしていました。
――どんな資料から作成したのですか?
大澤: まず、超ホットリードを増やすために、ナイルのサービスを紹介する資料から作っていました。たとえば、「どうやってセッションを増やす?」「BtoBは展示会をやるべき?」「社内説得ってどうするの?」などユーザーの悩みを解決する資料作りは、ナイルのサービス紹介資料を作ってから着手しました。
――ナイルの良さを知ってもらう資料から作ったのですね。どのくらい資料を作ったんですか?
大澤: 今は40種ほどあるのですが、当時、一人で行っていた時は10種程度でした。それでも、かなりの手ごたえがありました。資料ダウンロード数が純粋に増加したというのもそうですし、資料ダウンロード者へ電話をかけてみると、かなりの成果を上げられました。
――資料ダウンロードした人に大澤さんご自身が電話を掛けたということですか?
大澤: はい。資料ダウンロードをしてくれてもすぐに問い合わせてくれないと真剣に悩んだ時期があったんですけど、試しに自分で電話をかけてみると、意外と打ち合わせが取れました。
――すごいですね。電話してみるとお客様の対応って冷たかったりしますか?
大澤: SNSだと電話を嫌がる方も見かけるんですけど、私の場合はむしろ逆で「当日中にお電話いただけるなんてありがたいです」と感謝されることがありました。現在は、インサイドセールスの仕組みを導入しています。そのため毎月、大量に電話をするので、ごくまれに冷たい方もいらっしゃいますけどね(笑)。
――大澤さんが商談まで、同席することはありましたか?
大澤: はい。同席というより、むしろ私の方で最初の商談をして、BANT条件を固めその後、営業に渡していました。でも途中から、商談予定が詰まってきたので、上司と分担して商談を行い、徐々にBANT条件を固めなくても営業が対応してくれるようになりました。
――素晴らしいですね。ちなみに、成果につながってきたのは、いつ頃からですか?
大澤: 2020年4月に異動してから、12月あたりには商談が出始め、1月にはどんどん増えていきました。なので、1年かからないで、資料ダウンロード数の増加、インサイドセールスの初期の形はできていましたね。
爆発的リードの取り方! 地道な継続なくして施策成功はない
――大澤さんの著書『ひとりマーケター 成果を出す仕事術』には、大澤さんはリードを月300件に増やしたとあるのですが、そのキーポイントは上記以外にありますか?
大澤: 先に時系列から説明します。上記で説明していた2020年内の段階では「リード(資料ダウンロード・問い合わせ)」は月100件を突破し始めたタイミングでした。それが2021年の後半に月250件を超えるようになったのですが、これはチームメンバーが増えたことで、休止状態だったナイルのウェビナーを定期的に開催できるようになったり、ダウンロードできる資料の種類を増やしたためで、それを含めた形の「リード」です。
爆発的にこの「リード」を増やせた理由としては、地味でもセッション数を増やすために記事の制作とメンテナンス(リライト)をし続けてきたことだと思います。放置していると順位が下がり続け、資料をダウンロードしてくれる人も徐々に枯渇してしまうので、さまざまな施策が成功するためにも、少しでも予算をかけ続けて良かったなと今は振り返っています。
――すべての記事をメンテナンスすることは難しいと思うのですが、取り掛かるためのアタリはどのように付けていましたか?
大澤: 一般的なんですけど、「ビッグワードで過去に10位以内の流入を獲得していたが、今は20位ぐらいに下がってしまっているもの」はとにかくリライトを繰り返していました。ビッグワードで取れている記事は、やはり多くはないので割とやることは絞れていましたね。
――どのようにリライトを継続的に繰り返していたんですか?
大澤: ライターさんに指示書を作成して外注してました。「競合他社の記事を比較して、こういう要素が不足している」「このキーワードだと最新の情報に定期的に更新する方がいい」など、このやり方が合っているのか間違っているのかは公開してみないとわからないですが、ブログの記事は何回でもリライトできるので、気負わずに指示書を作るようにしていました。
キャリアプランに悩める「ひとりマーケター」へ
――著書『ひとりマーケター 成果を出す仕事術』を出して、皆さんからどのような声が寄せられましたか?
大澤: 社内交渉でお悩みになる方も多いんですが、一番聞かれたのは「キャリアプランが見えません」という悩みでした。「先輩もいないし、このままずっと一人で同じことをやっていくのかな」という不安が多く寄せられました。
――意外ですね、Web担でもキャリアの話で悩んでいるというのは寄せられるんですけど、まさか大澤さんにも寄せられていたとは。大澤さんも皆さん同様、ロールモデルがいなかった訳ですが、キャリアに対して不安はなかったんですか?
大澤: そこまで深刻ではなかったんですけど、やっぱり同僚がSEOの専門性をぐんぐん高めているのに、私は常にフレッシュなSEOの情報をキャッチアップできていないことにはちょっと不安がありました。ただ、私自身、特別希望の職種もなければ、強い出世欲や具体的なキャリアプランも敷いていなかったので、そこまで悩んでいなかったっていうのはあります。
やはり、「ひとりマーケター」はやることが特別決まってないですし、予算が少なくて専門的な運用もできませんってなることも多いので、キャリアプランがちゃんとある人の方が悩みは感じるだろうなと思っていました。
――大澤さんは、「キャリアの先行きが不透明」と「ひとりマーケター」の方から質問されたとき、どのようなアドバイス・お声かけをされますか?
大澤: 「広告、SEO、編集者などに就きたい」というこだわりがあるなら、1年や1年半で区切りを決めて転職や異動は考えていいと正直思っていると伝えています。
一方で、「こだわりはないけど、漠然と不安」というパターンなら、結果が出るまでフルコミットし「ひとりマーケター」をやり切ってもいいんじゃないかなと思います。結果を出すためにさまざまな手段を試せますし、業務の委託先、外注さんとでもチームとして仕事に取り組めるとやはり楽しいですし。
大澤心咲氏が「ひとりマーケター」にエール!
――最後に、不安との闘いが多い「ひとりマーケター」に対して、エールをお願いします。
大澤: 不安はあるかもしれないですけど、やってることは絶対に無駄にならないと思います。あと、「ひとりマーケター」は意外に世の中にたくさんいます。皆さん「他のマーケターの人たちはどうしてる?」と、どん欲にネット上で情報を集めたり、無料カウンセリングをやってくれる会社に行ってみたりなど、知恵を振り絞ってコスパよく取り組まれています。
たくさんの予算を回せるマーケターは確かに格好いいですけど、制限がある中で結果を出して真面目に仕事をすることも格好いいことです。自分を卑下せずに自信を持って仕事に取り組んでもらえたらと思います。
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