ネット広告の闇を探る! 企業も無視できないSNS広告詐欺とMFAサイトの実態
ウェブ広告は、今なお「カオス」の状態だ。スマホを開けば、著名人になりすましたSNS広告、薬機法に触れるダイエットサプリの広告など、悪質な広告があふれている。
そうした現状に警鐘を鳴らすのが、デトリタスの土橋氏とCHORDの明坂氏だ。「デジタルマーケターズ・サミット 2024 Summer」に登壇した両氏は、詐欺的なデジタル広告の最新事例やその背景にある構造的問題、そして広告主が今すぐ取れるアクションについて解説した。
デジタル広告の違反・詐欺事例
まずは、悪質なデジタル広告の事例を見ていこう。
著名人のなりすまし広告
肖像をSNSで無断使用された実業家の前澤友作氏が、Metaを提訴したことで話題を呼んだが、著名人の肖像を無断使用し、本人になりすます投資詐欺広告が近年多くなっている。手口が巧妙化してきており、AI音声を利用した動画広告やビデオ通話での勧誘といった事例も増えてきている。
薬機法、景品表示法違反
「どんなに食べても痩せる」など、あたかも食事制限や運動なしに短期間で痩せられるような表示を行った場合、薬機法(旧薬事法)や景品表示法違反となる可能性が高い。次のスライドは、アフィリエイト広告で不当表示を行っていたとして行政処分を受けた事例だ。
公式サイトを騙ったリスティング広告
他社の公式サイトに偽装した広告を出稿し、別サイトに誘導するという手法がある。実際にあった事例としては、「ヤフー」というワードで検索すると、Yahoo!公式サイトよりも上位に、なりすましサイトのリスティング広告が表示され、偽サイトに誘導するというものがあった。
MFA(Made-for-Advertising)
MFAは、広告のために作られたウェブサイトを指す。コンテンツの表示面積が全体の2割くらいしかなく、残りが全部広告で埋め尽くされているようなサイトだ。
全米広告主協会ANAの調査(2023年6月)によると、アメリカではウェブ広告(オープンウェブプログラマティック広告)全体のインプレッションのうち、MFAサイトが21%を占めていたという*。無視できない規模感であることがわかるだろう。
サポート詐欺・ワンクリック詐欺
サポート詐欺、ワンクリック詐欺もウェブ上でよくみられる詐欺手法だ。クリックをすると「契約しました」「ウイルスに感染しました」などと表示され、「解決するために電話してください」など、あたかも味方かのようなスタンスで誘導する。そして金銭を要求したり、違法なソフトをダウンロードさせてデータを抜き取ろうとしたりする。
悪質なデジタル広告がもたらす被害
ではここからは、違反広告によって引き起こされている被害の実態について、立場ごとに解説していこう。
消費者の立場
消費者にとって、ネット広告は「被害の入り口」だと土橋氏は指摘する。投資詐欺の被害額は年間468.1億円(警視庁資料)、定期通販の苦情は年間8万5,000件程(国民生活センター ウェブサイト)存在するが、これらの主な入り口はネット広告であると考えられる。
定期通販の苦情としては、「初回1,000円」などの宣伝文句を見てお試しで購入したが、知らないうちに定期購入の契約になっており、解約に違約金が必要となるようなケースが代表的だ。
消費者は、自分の生活を守るために「広告を脳内スルーせざるを得ない」状態になっています(土橋氏)
なりすましの被害者の立場
先ほど紹介した「著名人なりすまし広告」の場合であれば、その著名人はさまざまな被害を受ける。たとえば、なりすまし広告の詐欺被害者からクレームや脅迫が届いたり、ブランドの印象が悪化してブランド毀損が起きたりする可能性がある。しかしながら、こうした被害に対して広告プラットフォームが補償してくれることはない。
広告主の立場
広告主の立場としては、広告単価が入札で決まる以上、違反広告の存在によって「単価の高騰」という被害を受ける。しかし、広告主が健全化の圧力をかけているという話はあまり聞かない。その点について土橋氏は次のように指摘する。
広告主は違反広告に対して「ふざけるな」と言う権利があるはずです。しかしそれを言っていないのは、自社の広告の適法性についても自信がない、だから目立たないように黙っていようという考えなのかもしれません(土橋氏)
より間接的な影響としては、違反広告によってそのメディアの信頼性が揺らぎ、ユーザーの警戒心が高まることでクリック率やコンバージョン率が低下し、結果的にコンバージョン単価が上がっていくことも考えられる。
資本市場への影響
詐欺広告からも売上を得ているMetaだが、投資信託の「オルカン」でのMetaの組み入れ割合は1.3%程度に達している。つまり、年金積立金やNISAで投資する個人資産の一部がMetaに投資され、Metaからの配当金を受け取っている形になっている。
Metaの利益の一部は詐欺広告によって得られたものですが、その利益が巡り巡って自分たちにも入ってきているということです。すごく薄くではあるのですが、実は国民のほぼ全員が詐欺広告のエコノミクスのなかにいるわけです(明坂氏)
悪質なデジタル広告がなくならない理由
違反広告が横行する「カオス」な状況にありながら、なぜ規制や取り締まりが進まないのだろうか? 問題が解決しない要因として、以下が考えられる。
景品表示法の限界
景品表示法では、行政処分の対象は「広告主」なので、広告主の企業とその経営者が対象となる。一方、広告主の株主や、広告主と取引関係にあるコンサルタントや広告制作事業者、プラットフォーマーを処分することは基本的にはできない。
その結果、たとえ広告主が処分されたとしても、株主が新しい「広告主」となる会社を立ち上げ、既存の取引先と違反広告を継続していくようなケースがある。
このスキームについては行政も認識はしており、消費者庁の報告書では「特に悪質な広告主の背景には、当該広告主の出資会社やコンサルタント会社の存在があり、広告主は出資会社やコンサルタント会社の隠れ蓑にすぎないという実態がある」(中略しつつ引用*)との記述もある。
プラットフォーマーがチェックしきれない
掲載面をもつプラットフォーマーの広告審査が追いつかず、それに乗じて違反広告を出す事業者が存在する。その構図を表したのが次のスライドだ。
【理想】
広告企業が広告を入稿→プラットフォーマーがチェックしてOKを出す→掲載される【現実】
広告企業が広告を入稿→プラットフォーマーがチェックしてOKを出す→掲載される→広告企業がLP(ランディングページ)を詐欺的なものに差し替える(URLはそのまま)
「現実」では、プラットフォーマーの審査後に広告企業がLPを詐欺的なものに差し替える、ということが起こっている。LPの差し替えというのは、URLはそのままで、LPの内容を変えてしまうということだ。
とはいえ、広告審査後にLPの内容を変更することは、「A/Bテスト」として広く行われていることでもある。LP内容の変更が一律に悪とは言い難く、広告プラットフォーマーとしては対処が難しい面もある。
広告プラットフォーマーのYahoo!(現、LINEヤフー)も、消費者庁の検討会(2021年)で「媒体社として広告審査を強化しても、業界全体の品質維持・向上への効果には限界があることを感じています」と審査の限界について言及している。
この言及内容は正直である一方、責任を投げ出している面もあります。悪い広告が出ていると認識しつつ、それを表示しているということなのですから(土橋氏)
もちろん媒体社も、広告考査の質を上げようと模索している。最近ではAIを活用し、肌の露出や射幸心を煽る表現などを検知するようになっている。「しかし効果は限定的であり、いたちごっこは今後も続くだろう」と明坂氏は予測する。
土橋氏はMetaなどプラットフォーマーの姿勢に対し、次のように厳しく指摘する。
広告の量が多すぎてAIを使ってもチェックしきれないと言っているが、そもそもチェックできない量の広告を受け入れていることが問題。受け入れるのであれば、大きなコストをかけてでもチェックすべきです(土橋氏)
エコノミクスの問題
エコノミクス(経済システムの設計)がMFAや違反広告の温床になっている面もある。
エコノミクスが及ぼす影響の代表例として、Xの「インプレゾンビ」がある。Xでは影響力が大きい有料会員ユーザーは、自分の投稿のインプレッション数に応じて報酬を受け取ることができる。その結果、パクツイ(パクリツイート)やAI投稿Botなどでインプレッションを稼ごうとするユーザーが現れ、「インプレゾンビ」として問題視されている。
インプレゾンビが出現するのは、インプレッションを稼ぐ労力よりも、インプレッション収益のリターンの方が大きいというエコノミクスに起因している。仮に収益を得られるアカウントを「過去半年間でスパム報告を1度もされたことがないアカウント」などに限定すれば、インプレッションを稼ぐ労力が大きくなり、インプレゾンビは成立し得なくなるだろうが、現状のままではエコノミクスの問題はなくならない。
悪質広告による売上への依存
さらに、一度景品表示法違反の「攻めた」表現で売上を立ててしまった事業者は、それに依存してしまい、やめられなくなる悪循環も起きている。
今後の見通しと、広告主の取るべきアクション
講演も終盤に入り、今後のウェブ広告業界の展望と、広告主の企業として取るべきアクションについて語られた。
広告モデルは崩壊する
「すでに消費者はウェブ広告が嫌いで、タップしなくなっている」と土橋氏。悪質な広告から自分の生活を守るためにも、消費者はウェブ広告をスルーせざるを得なくなっている。
続けて土橋氏は「なので、基本的に広告モデルは崩壊するはず」と主張し、月額課金が成立しているごく少数のメディアだけが生き残るだろうと述べた。
考査の厳しいプラットフォームの再評価
明坂氏は、「厳しい規制、倫理基準に基づいた広告考査を設けるプラットフォームは価値が見直されるだろう」と予想している。
その代表例がテレビだ。テレビではクリエイティブ考査と業態考査があり、クリエイティブに関しては消費者にとって有害にならないよう、「ビールの一気飲みを助長しないために、ゴクゴクは2回まで」のような独自基準が設けられている。業態考査ではビジネスモデルやサービス内容などが審査される。
そのため、テレビや、そこから派生しているTVerは価値が高まるかもしれない。「ウェブ広告でも、Yahoo!のブランドパネルのような掲載基準の厳しい面は価値が高まる」と明坂氏は予測している。
今後、広告主がすべきアクション
今後、広告主が「すべきアクション」として、次の3点があげられた。
1)カオス化するペイドメディアのエコノミクスに加担しない
悪質なデジタル広告のエコノミクスに参加せず、広告考査の信頼性が担保されたメディアへ出稿した方がよい。とはいえ、「Metaが詐欺師から広告収益を得ている」からといって、ただちにMetaへの広告を止められる事業者はほとんど存在しないだろう。それゆえ、カオス化するペイドメディアの問題は解決が難しい。
2)ペイドメディア以外の強化
トリプルメディア(オウンドメディア、ペイドメディア、アーンドメディア)のうち、自らコントロールしやすいオウンドメディア、あるいは世間から評判を得るアーンドメディアでのマーケティング活動に注力するとよい。ペイドメディアに依存しない集客の仕組みを構築してほしい。
3)継続的にメディア、行政への働きかけ
法律が変われば、プラットフォーマーも対応せざるを得なくなる。前澤氏や堀江貴文氏のような著名人が声を上げるか、あるいは業界全体が束になって声を上げるか、いずれにせよ声を上げないと現状は変わらない。
最後に2人は次のように述べ、講演を締めくくった。
プラットフォーマーは、チェックしきれない量の広告をあえて受け入れています。改善は期待しない方がよいでしょう(土橋氏)
カオスなデジタル広告の業界をきれいにして、消費者にとっても広告主にとっても良い社会を作っていければと思います(明坂氏)
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