コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の五
猿でもわかるダメコンサルタントの見分け方
「この価格では売れませんよ。もっと安くしなければ」
とあるサイトがコンサルタントに言われたセリフです。このコンサルと契約する直前に縁あってご相談を受けたのですが、簡単な粗利計算をしただけでもこれ以上安く売るのは「自殺行為」でした。
利益が出なければ商売ではありません。短期的な販促を除けば鉄則です。そこで私がしたアドバイスは「倍の値段にしてください」。
商品に自信があり、裏付けもしっかりとされたものでしたから値上げする余地が十分にあり、「倍」でも決して暴利をむさぼるというものではありませんでした。
異常に安くしていた元凶は、価格設定の際に参考としたものが、新聞折り込みチラシなどに掲載されている「特売価格」でした。つまり、「比較対象商品」の選定に誤りがあったのです。大量生産・大量消費を目指す商品ではなく、「品質」にこだわり、価値を認めた人にこそ試してほしいという商品ですから「倍の値段」でも、「定価」として考えれば高いものではありませんでした。
「安くしなきゃ」は特売の時のコンセプトです。平常営業のそれとは違います。そして原価計算もせずに「安くしなきゃ」というITコンサルタントにはご注意ください。目の前の利益を逸しますし、何よりインターネットの世界を知らないと考えて間違えないでしょうから。
インターネットは高いものもしっかり売れる世界です。
安いから買うという嘘。人は欲しい時に買う
インターネットで高いものが売れるのはわりと知られた話ですが、半可通の「ぷちホームページ屋」やコンサルタントの中には「安くしろ」という人が少なくありません。しかし、安くしたからといって売れる保証はなく、売れる理論上の確率が上がるだけでのことです。そして、値下げにより利益を圧迫します。
単純に落とし込むと、1割価格を下げると、値下げ前の1割多く売らなければなりません。また、「売れ上げが悪い」ことから値下げしたのなら、1割価格を下げれば1割以上の数量を売上げなければ、本当の目的である「増収増益」は達成できないのです。価格を下げるのは劇薬であり麻薬です。短期的に売り上げ減少を止めたり、一時的に上げることができますが、戦略的な視点がない安売りは身を滅ぼしてしまいます。
人は「安いから」ではなく「欲しいから」買うのです。価格は購買決定の条件にはなりますが、いつも一番とは限りません。
安ければ買う。という常識の背景には「マーケティングリサーチ」という名前の「アンケート結果」で行う、机上の数字遊びが多大に影響しており、また、ビジネスマン(や、その上司)が数字で示されることに弱いという習性があります。
値下げは深刻な危機を呼び寄せる
以前紹介した足立区鹿浜の行列ができる焼き肉屋「スタミナ苑」では昔からすべて国産牛を使用しています。BSE騒動で米国牛肉の輸入禁止とより、米国産の内臓肉が使っていた他の業者が国内産に流れてきた煽りを受け、仕入れ価格が高騰し、タン塩やホルモンといった内臓肉は売れば売るほど赤字という状態となりました。そこでやむを得ず、期間をおいて2度の値上げをしました。「高くなった」という人もいましたが、事情を話すと「仕方がないね」とわかっていただき、客離れはわずかで赤字を回避でき、その後はそれまで以上に行列が長くなっています。
一方、デフレの旗手だったマクドナルドは「平日半額」を恒常化したことにより、レジャー利用で客単価の高い土日祝日が「休日倍額」と受け取られ客が離れ、大打撃を受けました。マクドナルドとしては不景気で苦しんでいるサラリーマンの応援と、平日の稼働率を上げようという目論見だったのでしょうが、65円のハンバーガーが週末になると130円では、ぼったくられたような気がすることから「買い控え」られました。日数の割合も1週間7日のうち5日が65円で、2日が130円ですから「休日倍額」と単価の高いレジャー客にとっての不公平感は相当なものだったのです。
実は価格を上げるより、下げることにより経営危機に直面することが多いのです。お客さんに支持されている企業なら、値上げにより一時的に顧客離れを起こしても「ファン」や「サポーター」は必ずついてきてくれます。離れていくのは価格だけで評価していた客で、価格の上げ下げだけで浮気を繰り返しますから気にすることはありません。
また、値下げはいつでも簡単にできますので、最初から手の内のカードを全開にする「日本外交」のようなことはせずに、いつでも切ることのできる「特価」や「値下げ」というカードとして取っておくべきなのです。その為にもしっかりとした「定価」を設定する必要があります。
安売りは色んな首を絞めるので要注意
ホームページはインターネット支店です。そして通販で「商品」を扱うなら、仕入れや配送といった「物理的な作業」も発生します。安く売るのは数字を打ち直すだけですが、物理的な作業には人的コストが必ず発生します。コストを吸収するためにもホームページ上ではできるだけ高く売らなければなりません。
またこれは中小企業の「Web担当者」特有の問題ですが、安売りにより売れたとしても、「安い仕事」と思われてしまい運営に支障を来すこともあります。「安い仕事」の上、「Web担当者」がいるので、自分の手柄にならないのならと、ホームページに関する仕事を後回しにされたり非協力的だったりすることもあります。そのくせ、手柄だけ横取りされたり。これは実話です。
ネットに携わっていない人にとっては、目に見えないものは存在しないに等しく、手に触れないものは忘れても良いものという傾向があります。
ところが、たった1つでも「高いもの」が売れると状況が一変します。「インターネットで高いものが売れた」という事実が、社内でのホームページの認識を変えてくれるのです。
このホームページへの認識はWeb担当者の評価と連動します。だからこそWeb担当者はホームページで高く売る努力をし、高く売らなければならないのです。
次回は「高く売るためのヒント」を紹介します。
♪今回のポイント
ホームページでは高く売れ!
あなたの仕事を安い仕事と思われないためにも。
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