企業ホームページ運営の心得

中小企業の商売用ホームページ成功のキーマンは社長

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の四

遅ればせながらあけましておめでとうございます。

成人の日が過ぎてからでは雰囲気の出ない挨拶ですが、昭和世代にとっては15日までは何となくそんな気がするのではないでしょうか。杉村代議士に大仁田厚参議委員議員が指導しようとしていたように、「挨拶」は社会人の基本です。今年もよろしくお願いします。

勉強好きな社長ほどはまる罠がある

どうしよう、すごいプレッシャーだよぅ

今回は中小企業のホームページ運営において究極の話です。

「企業内Web担当者」が感じていても、口が裂けてもいえない真実のお話をさせていただきます。そしてできれば本稿は「社長」に見せてください。「本業」を別に持っている「兼任Web担当者」ならば特に。

ちまたに出回っているウェブ関連の専門誌や雑誌記事の多くが、大企業に代表される「組織」を念頭に企画されています。成功例や取り組みを紹介する際、やはり名前のある企業のほうがイメージし易いですし、出版マーケットとしても魅力的だからです。千差万別の零細企業のケースでは読者の共感を得にくい「職人話」となり、いわゆる「サラリーマン」とはかけ離れてしまうのです。「人」を語るのなら職人話もマーケットに馴染みますが、「導入事例」や「取り組み」という切り口では不向きだということです。

モチベーションの高そうなWeb担当社員が「自社のビジョン」について熱く語り、上司らしき人間が「彼」を褒め称えます。SEMにCGMと、聞いたことがあるようなないようなアルファベットが文中を飾り、「アクセシビリティ」に「バイラルマーケティング」とバブルを経験した昭和世代にはたまらない「カタカナ言葉」が踊ります。そして「ユーザーに喜んでもらうためには」「更なるサービス向上を目指して」と記事は結びます。

昭和世代の経営者は活字を盲信する傾向があります。

そこで昭和な社長は思います。「会社のウェブへの取り組みはこれが当たり前なのだ」と。

社長以上に会社を愛している社員はいない

ちょっと考えればわかることですが、社名も名前も出る取材で「ガッツリ儲けるため」や「俺の査定を上げるため」などとは口が裂けてもいえませんから、「理想論」となるのは否めないことです。週刊誌の暴露企画の「覆面座談会」とは違います。また、雑誌の欄外を見ると「PR」と入っている「記事広告」という広報記事もあります。

ブログに「私怨」と「私情」と「思い込み」が含有されているように、活字媒体には「大人の事情」が少なからず含まれています。もてあましていた不採算店を某上場企業に売却したところ、看板を付け替えただけなのに「新業態オープン」と希望に燃える記事が、全国紙紙面を賑わせていたことがあります。確かにその通りですが、この「新業態」のオープン直前に売却元の企業に「(店舗運営の)ノウハウを教えてください」と頭を下げていた舞台裏を知っていると「誤報じゃん?」と思うほど持ち上げています。「大人の事情」は根が深いのです。

創業社長やオーナー社長が陥りやすい錯覚が「社員は会社が好きで当然」という思い込みです。そのため、熱くウェブに取り組む社員の記事に「なるほど」とうなずき、情熱を注ぐプロジェクトリーダーに「その通り」と膝を叩きます。

しかし、「社長ほど会社を愛している社員はいない」のです。

もちろん、普通の社員にだってある程度の「愛社精神」はあります。企業に惚れ込んで入社した社員でなくても、集団への帰属意識や、同じ時間を過ごしている共通体験から「愛」は醸成されていくものです。しかし、「社長」の「愛の深さ」はその比ではありません。

愛が深ければ多少の困難に耐えることができます。創業社長などは自分の事業への愛の深さから時に奇跡を起こし伝説となります。しかし社員は違います。

中小企業の「Web担当者」は多くの場合、「少人数(多くは一人)で兼任のWeb担当者」です。

雑誌記事の取材を受けるのは、多くの場合がチームで業務にあたっていたり、ウェブ専属社員だったりします。チームや専属と「兼任のWeb担当者」と単純に比較するのは酷な話です。

ところが膝を叩いた昭和な社長は会社を愛していますから、多少の無理をしたって頑張るのは当然と考えがちです。しかし、孤独な兼任Web担当者に襲いかかるプレッシャーは想像を絶するものがあるのです。

内勤と営業はどこの会社でも仲が悪いことが多い

中小企業の兼任Web担当者にかかるプレッシャーは有形無形で襲いかかってきます。

近頃はネットに詳しい方も増えましたので少なくなりましたが、中小企業では「パソコンに触れる」という程度で「Web(ホームページ)担当者」に任命されることもあります。任命されたことにより「責任」は割り振られるのですが、「決裁権」が与えられなければ何もできないのです。

入社1年目のWeb担当者とホームページをリニューアルする案件のときの話です。どこから手をつければいいのかわからないと言うので、営業マンに「優良顧客リスト」を提出してもらうようにお願いしました。これは「顧客台帳からコンテンツ」の手法です。ところがこの「リスト」がなかなか出てきません。何度目かの打ち合わせの際に、「これでは(商売の)役に立つコンテンツはできない」と告げると、「実は……」と社内事情を語り出します。彼は「総務課」所属の人間で、他の部署の「営業課」に「命令」を出せない。そして「営業課」は結果は急かすのに一切協力してくれない。総務課と営業課は仲が悪い。よって協力してもらえないとのことです。

社内事情を話されても困ります。気持ちはわかりますが、私も商売で「商売用ホームページ」を作っているのです。効果の出ないホームページを作っていては死活問題ですから、「事情はわかりました。それでは○○さん。社長を呼んでもらえないでしょうか?」。

ビックリしている担当者に「零細とはいえども私も社長です。社内事情に振り回されるぐらいならこの話はお断りさせていただきたいのです」と告げると、状況は一変しました。担当者が会議室を出てからしばらくして、彼の上長の「総務課長」がやってきて、もう数日待ってもらえないかと言います。そして数日後、やっと顧客リスト(と便宜的に表現していますが、個人情報などは完全に伏せたものを使用しています)は出てきたのです。

社員は仕事とトラブルが大嫌いだという真実

私がどこの馬の骨以下のミジンコ並みに無名の頃の話です。

最近では、私の著書を読まれた社長に依頼されてお手伝いしているケースもあり、「社長プレッシャー」によってスムーズに必要データが用意されていることが多いのですが、当時は無名の「業者」ですから切り捨てたっていいわけです。ところが「リスト」は即座に出てきました。

これは「社長業」の方にはわかりづらい話かもしれません。

「社員(中間管理職も含む)」はトラブルを極端に嫌うと同時に、仕事を増やしたくないと願っています。もちろん、トラブルは誰でも嫌なものですが、嫌う「感覚」に大きな隔たりがあるのです。

このケースでは「見積もり」をとり「打ち合わせ」を重ねた末、「稟議書」を役員会議にかけて決定しました。すると一度役員会議で了承した「発注業者」を「替える」となると「理由」が必要となるのです。正当な「理由」を考えるのと、営業課に掛け合って顧客リストを提出させるのとどちらが、「トラブル」と「仕事」が少なくいかを天秤にかけた結果、「リスト」が出てきたのです。

この「Web担当者」だけなら、コンテンツができあがるのはいつになったことでしょう。

仮定の話として担当者が営業マンに「リスト提出」をしつこく迫ったとします。営業マンは抵抗を続けることでしょう。なぜなら、営業マンの多くは「デスクワーク」が苦手で、「稼いでいる」自負心も強く、クライアントに頭を下げ、雨の日も風の日も外を回ってる自分が、エアコンの効いた快適なオフィスにいてパソコンと睨めっこしているような「青びょうたん」からの「余計な仕事」などしたくないと思う傾向があるからです。「どぶ板営業」をしている会社なら特にこの傾向が現れます。

そして社内の空気も「営業マンに要求→提出する→いずれ自分にも出番が来るかも」となることが予想されます。これは仕事が増えることを意味します。すると良くても「静観」ですし、最悪の場合Web担当者が「悪役」にされることだってあります。社内での権限も実績もない「兼業Web担当者」です。幸運にもサイト開設から増収増益で何もしなくてもお金がジャンジャカ入ってくれば発言権も増すでしょうが、情報起業家の「自己啓発系のネタ」以外ではあまり聞かない話です。

多くの場合の企業ホームページは、はじめは小さくコツコツと試行錯誤をして、徐々に手応えをつかんでいくものです。その収益の上がらない「コツコツ」の段階で「悪役」となってしまうと、「本業はどうなっているんだ?!」という「逆襲」を受けることもあるのが兼業Web担当者の辛いところです。

最悪のウイルス「ノロノロウイルス」がもたらす無気力症

中小企業のホームページが活用されない理由として「面倒なことを避ける」が正当化されやすいことにあります。

雑誌記事の大会社では、「部署間の競争が常態化している」ことも活気を感じさせる理由として挙げられます。社内での競争は限度を超えない限り活力を与えてくれます。ウェブチームが雑誌取材を受ければ、他のチームが対抗心を燃やして結果を出し、その結果を知りウェブチームが奮起するという「好循環」です。

ところが中小企業では「強烈な向上心」を持っている野心家は、成否はともかくとっとと独立していきます。既存の常識にこだわらない野心家は周りを破壊する可能性のある劇薬ですから組織に向かず、必然的に出て行き、チームプレイが得意な「和」を貴ぶ人たちが企業に残ります。これは組織としては歓迎すべきことですが、チーム=和を守ることを第一義にしてしまい「今まで」を過剰に重視してしまうのです。

「今まで」存在していなかった「ホームページ」なる面妖なものは、「今まで」なかったのですからこれからもなくても大丈夫だろうと考え、この「ホームページ騒動」が過ぎ去るのをじっと待つという「サラリーマンの知恵」が遺憾なく発揮されるのです。

「ノロノロウィルス」です。

「今やっています」「思ったより時間がかかって」が初期症状。国会で良く見る「牛歩戦術」のようにノロノロ、ノロノロ。

発症すると組織の弱いところから症状が現れ、「若手のWeb担当者」など格好の餌食です。「結果が出ていない!」「カイゼン策は?」と何もしない人たちが弱い人を叩きます。

何もしない人たちの行為は「和」のためという潜在意識のもと、「仕事をしている」つもりであったり、「部下を思っていっている」と考えているので最悪です。

一所懸命だったWeb担当者はこう思います。「動き回っても動かなくても同じだったら、動かない方が利口だな」と。

国会のように継続審議が山積みとなるネタ会議

企業の名誉のために細部の設定を変えていますが、すべて本当にあった話です。

会社のホームページも担当者さえおけば上手くいき、関係各部署は当然協力するだろうというのは楽天的過ぎます。営業部の取扱品目が増えたので、「第一営業部」「第二営業部」と分けるのとは訳が違います。ホームページは「今まで」なかったものなのです。

こんなこともありました。社長の号令でホームページプロジェクトが立ち上がりました。各部担当者を決めて毎月コンテンツ会議を開き、活発に動いていました。ところが数か月もすると、次第に原稿提出が延び延びとなりました。各部の責任者も会議に顔を出さなくなり、1人減り、2人減り、そして最後は「Web担当者」も数人だけとなり、原稿未提出による「継続審議案件」だけが堆く積まれるようになりました。

「会議」は進め方にもよりますが、私が参加するものはすべて「ネタ会議」と呼び、自由闊達な「雑談」が基本となります。「現場の声」を集めるのが目的で、現場に近いほど日頃からお客さんと接していたり、またクレームや問い合わせの応対をしているので、ホームページの「想定訪問者」を設定しやすく、お客さんが欲しいであろう「ネタ」から考えることができるためです。順序立てて会議を進めてもなかなか出ない「現場の声」に宝が眠っています。

営業をしていると毎日訪問者が訪れ、問題も起こります。つまり毎月毎月コンテンツが生まれているようなものです。ところが「継続審議」ばかりではモチベーションは上がりません。

はてさてどうしたものかと考えあぐねていたこの「継続審議案件」が、ちょっとの工夫で一気に進むことがわかったのです。

社長を巻き込まなければ何も始まらない

社長と社員で和気あいあい

答えは大抵の場合、シンプルです。

「社長登場」です。社長がネタ会議に顔を出し、幹部会議で「ホームページはどうした」と触れ、社内メールで進行状況を確認します。

バブル完全崩壊以降のフラット世代にはわかりづらいのですが、「社長の威光」というのは平成の御代でもまだまだ健在です。社長が直接指示を出さなくても、折に触れ、ことあるごとに「どうなった」と言ってもらうことにより幹部社員たちの協力体制が変わったのです。

中小企業の商売用ホームページには「社長の協力」が必要不可欠です。

創業年数が長く、上意下達の傾向が強い会社ほど「社長を巻き込まなければ何も始まらない」のです。社長を巻き込めば、役員が動きます。役員が動けば担当長は神経を張り巡らせます。すると社内に「ホームページ制作/管理も仕事のうち」というコンセンサスができあがりました。今では停滞していた継続審議への対応に、「担当役員」が割り振られて原稿が続々と集まるようになり、順調に新しいコンテンツが生まれています。

社長ほど会社を愛している人はいません。ならばこそ「インターネット支店」となるホームページには社長の愛情を注がなければならないのです。多くの中小企業ではWeb担当者をおいただけで成功するのは難しいでしょう。それは「支店開設」の「担当者」の任命と同じと考えてください。平社員に兼業でやらせるのか、担当役員を置くのか、自分が出向くのか。成功確率が高いのはどれかということです。

一所懸命がんばっているのに「なんだか上手くいかない」と感じている中小企業のWeb担当者の方は、ウェブとは一見関係がないようですが、まずは社長と仲良くなり、巻き込んで引きずり込んで一蓮托生を目指してみてください。必ず結果に直結しますから。

コホン。本稿を最後までお読みいただいた「コンピューターが苦手な社長」にアドバイスを1つ。

苦手なコンピューターでも「わかる言葉で話せ」と職務命令を下す権利があなたにはあります。そのための若干の時間はあげてください。そして社員はあなたが考えるよりも、社長との距離感を感じているものです。一段階段を下りて声をかけてあげると喜ぶ社員は本当に多いのです。特に最近の「若手」は。

私たちが考えるよりはるかに優秀な人材が「若手」の中に眠っています。

♪今回のポイント

社長を巻き込もう!

会社愛を一番持っているのは「社長」なのだから。

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