200万人以上のサンプルによる世界規模の調査データを提供/コムスコア・ジャパン株式会社
コムスコア・ジャパン株式会社
取材・文:柏木 恵子
写真:吉田 大介
コムスコアは、米国バージニア州レストンに本社を置く、インターネット利用動向調査を主サービスとする企業だ。いわゆるネット視聴率の情報を提供する製品群、検索エンジンの利用状況に関する情報を提供する製品群、広告の認知度などを計測する製品群といった一連のサービスを提供している。2007年6月には日本法人のコムスコア・ジャパン株式会社を開設し、大企業を中心に導入企業を増やしている。同社のデータの利用方法や調査の特徴などについて、来日した同社インターナショナル執行副社長のウィル・ホッジマン氏とマーケティング・コミュニケーション担当上席副社長のマーヴィン・ポラック氏に、日本の状況について日本法人代表取締役の佐藤英丸氏に伺った。
コムスコア・ジャパン株式会社の基本的な情報は記事末尾を参照。
Webサイトの利用動向をさまざまな切り口でレポート
●編集部 どのようなデータをどのような企業へ提供しているのか、企業はそのデータをどのように使っているのかといったことを教えてください。
●ホッジマン 包括的なインターネット利用動向のグローバル調査である、「World Metrix(ワールドメトリックス)」というサービスメニューがあります。いろいろなタイプのデータをとることができますが、たとえば自社の広告が顧客にどの程度リーチしているか、どの程度影響があるかということがわかります。そういう情報を広告主や広告代理店に提供しているのです。あるいは、ネット上での購買に関するデータも収集しています。どのような人がどこで何をどれだけ購入しているか、その支払い方法はどういうものかといったデータ、動画やゲームが何時間消費されているかといったデータも提供しています。
クライアントは現在全世界で1150社となり、広告代理店のほか、広告主としてはソフトウェア会社やゲームメーカー、自動車産業、金融関係など幅広い業種で利用していただいています。大手放送局が、インターネット上で提供している自社の番組や動画の影響力を知るために導入しているという例もあります。
●編集部 具体的にどのように利用するのか、事例を教えていただけますか。
●ホッジマン 広告代理店の例でお話ししましょう。広告主に代わって広告を出し、その広告をいかに目的としている人に届けるかというのが広告代理店の仕事です。その場合はまず、その広告をどのような人に届けたいかというターゲットを設定します。たとえば、「女性、年齢は25~55歳、大学卒、少人数世帯で世帯収入は10万ドル」といったようにです。こういう対象に届けるには、どこに広告を出せばいいのかという判断材料になるものとして、「Media Metrix(メディアメトリックス)」というサービスのKey Measures(キーメジャー)という基本測定値のレポート機能があります(図1)。このレポートは、地域、ロケーション、期間、ターゲット、メディアの種類などを絞って、どのサイトにどのくらいの訪問者がいるのかといった情報を提供するものです。
たとえば、日本の2008年9月のニュースサイトおよび情報ポータルという条件で、ユニークビジターの総数はどれくらいで、1日平均の訪問者がどれくらい、総利用時間は、総ページビューは、1日当たりではどうなのか、訪問者1人当たりではどうなのかといった項目についてのランキングを出せます。広告代理店はこれを見れば、どのサイトに広告を出せばいいのかを判断できるというわけです。 また、Media Metrix(メディアメトリックス)にはメディアプランニングツール※という機能もあります。これは、最大の広告効果を得るためにはどの程度の掲載頻度が必要かといったことを計算するものです。CPM(Cost Per Mille:広告表示1000回あたりの料金)という指標がありますが、どのくらいの閲覧者にリーチするにはどの程度の広告料金が必要かといったことを計算します。これらは、広告代理店がプランニングの際に使う機能です。
さらに、出稿した広告の効果を測定する機能もあります。それが「Brand Metrix(ブランドメトリックス)※」です。閲覧者がその広告をクリックしたかどうかだけでなく、それによってどういう印象を受けたか、どの程度購買意欲が増したかといったことを測定し、ランキングします。たとえば、検索連動型広告とイメージ型広告で効果を比べて、次はどちらにするのがいいか、あるいはスポンサーシップ広告にするかなどの判断材料にすることができます。
●編集部 導入しているのは大企業が多いのでしょうか。
●ホッジマン マイクロソフトやグーグル、ヤフーといったフォーチュン100に入るような巨大企業もありますが、非常に小さなWebサイトの企業もありますよ。
●編集部 サービスの利用料金はどのくらいですか。
●ホッジマン クライアントごとに個別見積もりとなりますので、一概には言えません。契約は1年単位でおこなっています。年間のサービス料金は1万ドルくらいから何十万ドル、何百万ドルということもあり、対象とする国の数や商品数によって異なります。そのクライアントに専用の機能を提供することもあります。
テレビの視聴率と同様に、サンプルの動向を拡大集計
●編集部 どのような調査をし、どのようなデータを提供してくれるのですか。
●ホッジマン 特に不思議なことをしているわけではありません。どれだけの人がどれだけの頻度でどれだけの時間インターネットにアクセスしているかということを測定するわけですが、それにはまず母集団調査をします。サンプルをとって視聴率を調査し、それを拡大集計するわけですから、まず国ごとのインターネット利用者の状況調査などを行い、そのうえでサンプルとなるオンラインパネリストを募集します。そして、そのパネリストの方々のコンピュータに集計用のソフトウェアをインストールします。これは弊社のサイトからダウンロードしてもらうのですが、このソフトウェアから送られてくるパネリストの動向を集計するのです。このソフトウェアはいつでもアンインストールできますし、送る情報はパネリストが同意したものだけで、個人情報は含みません。
●編集部 そのソフトウェアによって、どのような情報が集まってくるのですか。
●ホッジマン 利用したアプリケーションやサービス、ドキュメントなど、コンピュータ上で何をしたかです。ミュージックプレーヤーを使ったとかビデオプレーヤーを使ったとか、インターネットでどのURLにアクセスしたかという情報を集めます。
●編集部 インターネット上の行動だけでなく、その人がコンピュータ上で何をしたかがわかるということですか。
●ホッジマン そうです。とてもおもしろいでしょう。プリンタは何がつかながっているとか、どの機種の携帯電話と連携したといったことも、グラフィックカードは何を使っていてどんなデジカメをつないだといったことも全部わかります。 Webセッションのデータも収集しますが、これはhttpsなどセキュアなセッションでも収集できます。支払いや銀行口座のチェック、何かの購入といった情報ですね。ただし、それは個人情報とは関連付けません。どのような人(年齢、性別、居住地域など)がどのサイトでいつ何をどれだけ買って、それをどのカードで支払ったかという情報であって、カード番号などは含んでいません。そもそもECサイトにとっては、カード番号などの個人情報まではマーケティングに必要ありませんから。
●編集部 そのソフトウェアは、現在何台のコンピュータにインストールされているのですか。
●ホッジマン 我々はコンピュータの数ではなく人で数えます。現在、パネリストは世界中の171か国に200万人、国別レポートとして作成しているのは37か国です。人で、というのはたとえば、1台のコンピュータを複数の人が使うこともありますよね。お父さんとお母さんと子どもが使うといったように。しかし、視聴率を測る場合、人数で知りたいわけです。
●編集部 ということは、パネリストの人がインターネットを利用するときに、測定を開始させるスイッチのようなものがあるのですか。
●ホッジマン そこがポイントなんですよ。非常におもしろい技術を使っています。
●ポラック 人間は、キーボートやマウスの使い方に癖があります。我々は「UDR2」という技術でタイピングの速さやマウスを動かす速さを読んでいて、ある程度時間が経つとその癖がわかってくる。そのユーザープロフィールを生体認証のように捉えているのです。だから、そのコンピュータを複数の人が使った場合でも、誰が使ったかわかるのです。
●編集部 より実数に近いということですが、拡大集計するわけですからそのデータの精度は気になります。日本でのサンプル数はどのくらいですか。
●ホッジマン 日本のパネリストは約1万人です。弊社のサービスを利用するクライアントは、当然サーバーログファイルによるアクセス解析も併用していますから、それと見比べて利用するでしょうし、サービス利用の更新率が93%と高いことからも、精度については満足していただいていると思います。 世界ではサンプル数が200万と十分大きいので、統計学的にも精度は保証できると思います。また、米国商務省が出すEコマース利用者数のレポートの6週間前に、我々も同様のレポートを出していますが、過去8年間を見ても誤差は3%以内と低く、その精度には自信を持っています。
他サイトの動向を見ることで新たなアイデアが生まれる
●編集部 一般的なアクセス解析との違いはどのような点でしょうか。
●ホッジマン アクセス解析はマシンを測っています。クッキーで計測していますから、それが人ではなくボットか、あるいは国外からのアクセスかといったことは区別しません。純粋に、クリック数やリクエスト数を測定しています。しかし、コムスコアのデータは、日本語のコンテンツにアクセスしたのが日本国内からなのか海外からなのかといったことまでわかります。
●ポラック アクセス解析だけの場合、設定によっては見込み客ではない国外からのトラフィックやボットのトラフィックもカウントされるので、実際の数より大きくなってしまいます。また、クッキーを使って数えているので、閲覧者がクッキーを削除した場合は新しい訪問者としてもう一度カウントしてしまいます。弊社がおこなった調査によると、ユーザーの1/3くらいは1か月に1回はクッキーを削除するといいますし、毎日削除する人もいます。そういう数を除外すると、実際のアクセス数は半分くらいになることもあります。コムスコアの視聴率データでは、より現実に近いデータが得られるということです。 もう1つのメリットとして、競合する他社サイトの状況も見ることができる点があります。アクセス解析では自サイトへのアクセスについてはわかりますが、他サイトの状況はわかりません。
●編集部 ネットリサーチ業界での標準のようなものはないのでしょうか。
●ホッジマン 国によっては、手法が適切か、信頼性が高いか、一貫性があるのかといったことを審査している協会があって、業界標準を決めているところもあります。米国ではMedia Rating Council(MRC)という組織が監査行っていて、我々もその監査を受けています。
●編集部 日本にはそういう監査はあるのでしょうか。
●佐藤 日本ではまだありません。そういう監査をどういうものにしていくかの道筋作りが議題の1つにはなっているようですが。ただ、こういう計測の調査方法や日本独自の定義があるわけではないので、ことさら日本で独自の監査が必要という切迫性はないでしょう。
国外サイトの情報を提供する国内でも有数のサービス
●編集部 日本法人の設立は2007年6月ということですが、日本でのビジネスの状況はいかがですか。
●佐藤 クライアントは大手インターネット企業、大手製造業、大手検索サイト、大手広告代理店、その他中規模のSEO企業など順調に増えています。成長しているところなので、この四半期にも増えるでしょう。
●編集部 日本の顧客ならではの特徴のようなものはありますか。
●佐藤 今のところ日本のお客さんは日本のデータに興味があるわけですが、いくつかの会社は自分たちがこれから海外に進出するのでその国インターネットの状況が知りたいということで見ていらっしゃいます。あるいは、自社のこの分野では米国が最先端だから、米国でのEコマースの状況を常に見ておきたいという場合もあります。現在、日本で海外の情報を提供しているのは我々だけだと思います。加えて、他社がランキング1000位程度までしか出していないところを、我々は5000位ぐらいまで出しているなど、データ量も多いですしね。
多くのお客さんが、我々のサービス1つだけを利用するのではなく、競合となる他社のデータと併用して比較して見ています。それぞれデータの定義が違いますから。サンプルとなるパネリストも調査方法も違います。我々の仕事としては、コムスコアはこういう定義でこういうデータを出しますというのを説明したり、機能がたくさんあるのでその使い方を説明したりといったことになります。このデータはこういうふうに使えますよ、と提案することが多いですね。
たとえば、自社のサイトに来ているお客さんが、他にはどういったサイトに行っているかというのは、自社サイトの分析だけではわかりませんよね。そういったデータもお見せすることができます。ヘビーユーザーとライトユーザーそれぞれのランキングも出ますから、うちはヘビーユーザーに強いけれどライトユーザーには弱いとか、あそこのサイトはライトユーザーに強いといったことがわかりますので、それならそのサイトと一緒になってアフィリエイトしませんかとか、そういう策を見つけることができます。
または、Amazonに代表されるような、本やDVD、その他エレクトロニクスなど種々の商品を扱うECサイトで、自社サイト内の重複状況を見るという使い方があります。DVDを買った人が、自社サイト内ではおもちゃを買っていない。けれど、他社サイトの情報にまで目線を拡大すると、他のECサイトではおもちゃを買っている。それならば、DVDを買ってくれた人に、おもちゃのプロモーションをしたらどうだろうかといったように、マーケティング担当者の方はサーバーログファイルのアクセス解析とも連携して、何をどうすればいいかということを、毎日いろいろと考えるわけです。お客さんによっては30人くらいでコムスコアのサービスにアクセスしているところもあれば、4~5人の少数精鋭でアクセスする企業など、いろいろあります。
クライアントが必要な情報を
インターネットの利用状況の変化に合わせて提供し続ける
●編集部 携帯電話の視聴率調査についてはどのように取り組まれていますか。
●ホッジマン 現在は、米国と欧州の主要5か国での取り組みになりますが、M:Metrix(エムメトリックス)というサービスがあります。PCの場合と同様、携帯端末の利用動向調査をするものですが、携帯の場合は非常に難しい。というのも、スティーブ・ジョブスには悪いけれど(笑)、PCはほとんど1つのOS(Windows)で動いています。しかし、携帯のOSは何百種類とあります。 まず整理しなければならないのは、通話部分は必要ないということです。我々が対象としているのは、ネット接続とかゲームとか音楽といった部分のデータだけです。そこに対して、2種類のアプローチをしています。1つはアンケート調査です。4万5,000件のアンケートを、米国および欧州の主要5か国で行っていて、米国、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペインで同じ質問をします。このアンケートも大変で、携帯電話は機種ごとに機能が異なりますから、調査のたびにどういう機種を使っているのか、どのような機能があるのかを聞かなければなりません。
もう1つのアプローチが、PCの場合と同様にソフトウェアをインストールしてもらって利用動向のデータを収集する方法です。これは、いわゆるスマートフォンにだけ対応しています。PCの場合と同様に、パネリストが提供に同意した情報だけを収集します。ソフトウェアの基本的な仕組みはPCの場合と同じですが、携帯は機種ごとにOSが違うので少しずつ違ったコードになります。現在対応しているOSはWindows Mobile、Symbian、Palmで、近々iPhoneとGoogle Androidに対応します。日本ではなぜかスマートフォンは人気がないですね。日本の携帯向けのサービスも考えていて準備はしていますが、いつということはまだ言えません。
私のプロフィールを見ていただくとわかりますが、私は携帯電話利用動向調査の大手であったM:Metrics社の共同創立者であり、2008年5月のコムスコアによるM:Metrics社の買収にともないコムスコアへ入社しました。そういった経緯もあり、いつの日かPCと携帯の調査データを統合したいという考えを持っています。
●編集部 SNSや動画サイトではページビューではなく滞在時間が重視されるようになるなど、サイトの評価基準が変わってきていると思いますが、コムスコアはどのように考えていますか。
●ホッジマン 将来的には、コンテンツに対してどのようなデバイスを通じてアクセスしたのかは気にしなくなるだろうと思っています。今は携帯からかPCからか、あるいはテレビからかなど手段を主に考えますが、そうではなくて人を中心に考えるようになるでしょう。それはかなり先のことですが。
近い将来の話では、それぞれの広告主によって求める情報はさまざまです。もちろんページビューを重視する広告主もあります。ただ、本当に知りたいのはどれだけ見てもらったかではなく、どういう印象を持ってもらったか、どういう価値を見いだしてくれたかということです。その効果を良くするためにどの程度のコストをかけるべきかを知るのが、利用動向調査やアクセス解析の主要目的です。ということは、ページビューよりもサイトと閲覧者の結びつき、つまりどれくらいの頻繁でサイトに来ているか、どれぐらいの時間をそこに費やしているかといったエンゲージメントが重要になるでしょう。我々としては、クライアントが欲しいと思っている情報を提供できるように、準備していくことが大事だと思います。
●編集部 ありがとうございました。
(※2008年11月現在、日本でのサービスが提供されているものに限る。一覧の製品・サービスは英語での表記。)
- World Metrix:インターネット利用動向のグローバル調査
- Media Metrix 製品群:
- Media Metrix:広告代理店や出版業者、マーケティング担当、金融アナリスト向けの利用動向調査
- Media Metrix Cmapaign R/FTM:ある特定のキャンペーンに関して、目標設定やその後の分析を行うツール
- Segment Media H/M/L:インターネットの利用頻度別の利用動向調査
- Search Solutions 製品群:
- qSearch 2.0:世界上位50の検索プロパティに関する検索利用状況の調査
- 所在地 ● 東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレースタワー18階
- 設立 ● 2007年6月1日
- 代表 ● 佐藤 英丸
- URL ● http://www.comscore.com/jp/
- 事業内容 ● インターネットの利用に関する消費者動向分析情報の提供および販売事業。インターネットを利用した情報の収集や分析、これらの情報の提供および販売事業。
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