ディスプレイ広告を「リレーションシップ・リターゲティング」して顧客コミュニケーションに組み込むという手法
ディスプレイ広告は、いまや顧客データベース内の取引情報や、企業からのコミュニケーションへの反応状況、自社サイト上での行動などの情報をもとにターゲティングし、それぞれのセグメントに最適なクリエイティブを調整する時代。
そうした「リレーションシップ・リターゲティング」ディスプレイ広告をコミュニケーションのシナリオに組み込むには、技術とCRMを連携させたマーケティングオートメーションが重要になる。
米レスポンシス社が開催したイベント「インタラクト2012」で語られた内容から、ディスプレイ広告における「リレーションシップマーケティング」の考え方や取り組みの事例を整理してお伝えする。
「Interact 2012」において、「リレーションシップ・リターゲティング」というディスプレイ広告のコンセプトが紹介された。
これは、顧客のデータ(デモグラフィック属性や、行動履歴)に基づいてターゲティングされた広告を出稿するというものである。
こうしたターゲティング広告自体は特に新しいものではないが、それをEメールなど他のチャネルと組み合わせて活用することで、いかに顧客とのエンゲージメントを強化しマーケティングROIを向上させるかについて考えてみたい。
進化し続けるディスプレイ広告
従来のディスプレイ広告は、「ターゲティング」という観点からみると十分でなく、あくまでも認知目的での利用に適したメディアだった。そのため直接の反応率は高くないが、それでも多くのコストがそこに投じられていた。
しかし昨今では、ディスプレイ広告においてもRTBなど技術の進化に伴って、顧客の行動やデモグラフィック情報によるターゲティングが可能になりつつあり、よりパーソナライズされた広告を出すことが現実的になってきている。
これにより、ディスプレイ広告を「大勢に対する初期の認知獲得」のためだけに利用するのではなく、(既存顧客も含めた)顧客とのコミュニケーションチャネルとして組み入れてリレーションシップの強化を図ることが可能になってきている。
レスポンシス社は、従来のディスプレイ広告(匿名の人向け広告)と、新しいディスプレイ広告(リレーションシップ・リターゲティング)とを対比させて、その違いを次のように現している。
上記のように、企業がすでに取得している情報を基にディスプレイ広告を出すことができるため、リターゲティング目的で、つまり自社の顧客に対して再来訪を促す目的での利用が可能になってきている。
「リレーションシップ・リターゲティング」ディスプレイ広告の取り組み事例
ここで、「リレーションシップ・リターゲティング」ディスプレイ広告の事例として、ダラー・レンタカーを紹介したい。
ダラー・レンタカーは、本連載の初回「『リレーションシップファースト』へのパラダイムシフトが起こりつつある米国のデジタルマーケティング」でも紹介したが、リレーションシップマーケティングに先進的に取り組んでいる企業だ。
ダラーが取り組む「eMinder」という予約リマインダープログラムでは、ディスプレイ広告も含む複数チャネルを活用している。「eMinder」プログラムにおけるディスプレイ広告は、Eメールと同じようにセグメント別にターゲティングされている。
セグメント設定は、予約顧客のデータや過去のコミュニケーション施策に対するレスポンスなど複数のデータに基づいており、以下のように分けられている。
Engaged ―― Eメールなどのコミュニケーションに対して反応がある顧客
Unengaged ―― Eメールなどのコミュニケーションに対して反応がない顧客
Not opt-in ―― (予約はしているが)Eメールなどにオプトインしていない顧客
そして、各セグメントに対して表示するディスプレイ広告のメッセージやクリエイティブは、テストを繰り返した結果、最適だと判断されたものが掲載されている。
この取り組みによって、予約後のピックアップ率が従来の22%増となった。米国ではレンタカーを予約して当日にキャンセルしてもキャンセル料が発生しないため、ピックアップ率が上がれば売上も上がる。そのため、こうした「eMinder」施策のROIは実に47倍にまで伸張した。
セグメントごとのディスプレイ広告クリエイティブ振り分けの事例のように思われるかもしれないが、実際にはそのターゲティングにおいて、企業からのメールを受け取っているか、受け取っている場合に企業からのメールを開封してクリックしているかといったCRM情報も含めている点に注目してほしい。
そして、ダラー・レンタカーがこうしたディスプレイ広告の実現にあたって複数チャネルを組み合わせたコミュニケーションを管理するために利用しているのが、レスポンシス社の「Responsys Interact Suite(レスポンシス・インタラクト・スイート)」なのである。
技術の進化に伴い、ディスプレイ広告の再定義が必要となる
レスポンシス社のスコット・ジョーンズ氏は、ディスプレイ広告について以下のように語っている。
サイト内の行動などリアルタイムのデータを活用できれば、ディスプレイ広告は動的かつ双方向のコミュニケーションが可能なプラットフォームとなり得る。
最初にユーザーがWebサイトを閲覧したときに、そのユーザーの嗜好、サイト上で閲覧しているコンテンツに合わせたクリエイティブのディスプレイ広告を表示することができれば、そのディスプレイ広告を通してサイト訪問者との「対話」を始めることができる。
しかしディスプレイ広告だけですべてを完結できるわけではない。ディスプレイ広告をマーケティングに組み込んで収益を上げるためには、Eメールなど他のチャネルと組み合わせたコミュニケーション全体の設計とオートメーション(自動化)が欠かせない。
これからのマーケティングのアプローチにおいては、従来のような広告とリレーションシップマーケティングとの境界線は取り払われていくべきだ。
このようにクロスチャネルでアプローチすることで、広告主が持っている顧客のデータをリレーションシップマーケティングに戦略的に活かすことができる。
ジョーンズ氏は、上記の論点からディスプレイ広告を“パーソナライズされたコミュニケーションを実施できる「データドリブン」なリターゲティングチャネル”として再定義すべきであるという点を強調している。
それと同時に、ディスプレイ広告におけるROI最大化の鍵となるのは、デジタルチャネルをシームレスに活用するための技術とCRMのオートメーションである、と述べている。
「リレーションシップ・リターゲティング」ディスプレイとして活用するためのポイントと課題
これからのディスプレイ広告の活用を考えるうえでポイントとなってくるのは、次の3点だと言えるだろう。
- ライフサイクルに応じたコミュニケーション全体の設計
- 複数のチャネルを顧客ステージやメッセージに応じて組み合わせる
- 実現にあたってはオートメーション(自動化)が必須
これは、初回で述べた「リレーションシップファースト」の取り組みのポイントと基本的に共通している。
Googleが発表したディスプレイ広告のトレンドレポート“Display Business Trends: Publisher Edition”によると、2011年にダブルクリックとGoogleアドセンスにより露出された広告のインプレッション消費全体において、日本での消費が占める割合は約6%となっている。これは、アメリカ、中国に次ぐ3位に位置する。上位25カ国の中でも特に中国と日本のシェアは著しく伸張していると報告されており、企業のマーケティングにおいてディスプレイ広告の重要性は増してきていることがわかる。
画一的なメッセージが消費者に届きにくくなりつつある今、マーケティングROIのブレークスルーのためには、チャネル特性を踏まえてクロスチャネルのコミュニケーションを設計する機能(つまり、組織や人)の強化や、分散しているマーケティング機能を統合的に活用するための組織づくりなどの課題に対して、優先的に取り組む必要がある。
次回は、Eメールマーケティングオートメーションについて紹介する。
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