カスタマー・エクスペリエンス向上とコスト削減を同時に実現する顧客対応サービスのポイント
カスタマー・エクスペリエンス向上はコストがかかるもの?
企業がカスタマー・エクスペリエンスを向上させることで他社との差別化を図ろうとすると、今まで以上のコスト負担が必要となり、その実行において多くの悩みを抱えることになります。
特に企業と顧客の重要な接点である、顧客対応部門(カスタマー・サービス)の領域においては、顧客の高い要望に応えつつ、カスタマー・エクスペリエンスを向上させ、同時にコストを削減させていくことが求められています。
ここでは、このような企業の状況を踏まえ、製品やサービスを利用する顧客自身による自己解決率を向上させて顧客対応業務の品質向上と効率化を進めることで、顧客に「感動体験」を提供しつつ、同時にコスト削減を実現するポイントについて解説します。
顧客対応が良ければ55%が他人に勧め、
悪ければ86%が二度と買わなくなる
営業マンが顧客に売り込みの電話を掛けると、嫌がられるものです。
しかしコンタクトセンターには、顧客はわざわざ電話やメールでコンタクトしてきてくれます。その重要な機会を活用して顧客の期待値を超える体験(エクスペリエンス)を提供することで、顧客にその企業のファンとなってもらうための取り組みや工夫が、すでに多くの欧米企業で始められています。
また、世界的なインターネットの爆発的普及と、スマートフォンやタブレットPCに代表されるインターネットへの接続デバイスの普及、そして、ソーシャルメディアでのリアルタイムでの情報共有といった環境の変化により、消費者はますます発言力を持ち、かつ消費者から企業への期待値は高まる一方にあります。
このような状況を理解するために、大変興味深い調査結果があります。米国の調査会社であるHarris Interactive社が2011年に実施したアンケート結果では以下のような報告がなされています。
- 86%の消費者が、嫌な顧客対応を受けたらその企業からは買わない(他の企業に切り替える)と回答
- 26%の消費者が嫌な顧客対応を受けたことをソーシャルメディアで投稿したことがあり、そのうち79%は苦情を無視されていたことがあると回答
この結果が示す通り、企業の顧客対応部門(カスタマー・サービス)は今まで以上に顧客とのより良い関係性を構築していくことが求められていることがわかります。顧客対応が悪かったことをソーシャルメディアで投稿するという点については、昨今のTwitterやFacebookなどの普及に伴い、企業が注視すべき点だと言えるでしょう。
また一方で、この調査では、
- 86%の消費者が、より良いカスタマー・エクスペリエンスにより多くのお金を支払う
という結果も報告されており、カスタマー・エクスペリエンスの向上は、企業の収益に直結する重要事項となっていることを示しています。
顧客対応部門でサービスを改善しつつコスト削減するのは無理?
従来の顧客対応部門(カスタマー・サービス)の対応について考えてみましょう。
以下に示す図をご覧ください。コンタクトセンターの受付時間を示しています。例として、平日・週末ともに午前10時に受付を開始して18時には受付を終了し、サポートチャネルは、電話・電子メールの2つとします。
この場合、企業が顧客に対して顧客対応(コンタクトセンター業務)を提供している時間は、全体のわずか33%となります。メール対応は、受付は24時間可能ですが、返信はコンタクトセンターが稼働している時間内での対応となるため、対応時間外とみなすことにします。
コンタクトセンター運営に関わる方の多くがご存じかと思いますが、従来、企業が顧客対応の品質や満足度を向上させようとする際に、主に企業では次の2つの取り組みが検討され、実行されてきました。
コンタクトセンターの稼働時間の拡大
これは、それぞれ異なる顧客の生活時間帯にできるだけ合わせるために、受付時間を予算が許す限り延長し、対応しようとするものです。
問い合わせたいときにコンタクトセンターが営業しているということは顧客にとっては喜ばしいことかもしれませんが、その運用コストは確実に増加します。企業が熾烈な業界の競争に生き残り、事業を継続していくために、莫大なコンタクトセンター運営費用をかけながら長時間の顧客対応を提供していくことは非常に困難が伴うことと言えるでしょう。
顧客対応時間内の取り組み
顧客対応時における、CRMシステムやCTI連携などツール導入による作業効率化、対応内容のモニタリングによる対応品質のチェックとその改善のための研修などです。
コンタクトセンター運営の歴史の多くは、この「受付時間内で、いかにして生産性と応対品質を向上させるか」の取り組みであったと言っても過言ではありません。
しかしながら、この分野については、すでに多くの企業のコンタクトセンターが主要な取り組みを行っている状況にあり、劇的なカスタマー・エクスペリエンス向上やコスト削減を期待することは難しいと言わざるを得ないでしょう。
顧客対応部門でのカスタマー・エクスペリエンス向上のポイント
では、カスタマー・エクスペリエンスを向上させながらコスト削減を実現するにあたり、具体的に企業が取り組まなければいけないことは一体何でしょうか?
その答えは、顧客が求める情報を、顧客が求めるタイミングで(コンタクトセンターの受付時間に左右されることなく)入手してもらうための新しい対応チャネルを設けることです。そのチャネルとしては「ウェブセルフサービス」を用意する、つまりコンタクトセンターに電話をかけるのではなくWebサイト上で情報を調べて問題を解決できるようにすることが、非常に有効な手段なのです。
前出の図にあった、コンタクトセンターが稼働していない67%の時間外に「ウェブセルフサービス」を提供し、企業側の都合で33%の時間しかカバーできていない顧客対応を実現することで、コストを増やすことなく顧客対応を改善できます。
また、顧客を「ウェブセルフサービス」へと積極的に誘導して自己解決を促すことで、いつでもどこでも顧客が知りたいこと・解決したいことが確認できるようになります。顧客自身による解決を向上することで、コールセンターの待ち時間がなく顧客満足度を向上させながら、コスト削減ができるのです。
顧客対応でカスタマー・エクスペリエンスを向上させコストを削減する4つのポイント
では、今回のテーマに立ち返り、顧客対応の側面でカスタマー・エクスペリエンスを向上させながらコスト削減を実現するうえで重要なポイント4つについて解説します。
- ナレッジベースの構築
- ナレッジベースを活用した顧客向けウェブセルフサービスの提供
- ナレッジベースを活用した内部スタッフ向けナレッジの提供
- マルチチャネルへの対応
1. ナレッジベースの構築
「ウェブセルフサービス」で顧客自身による自己解決率を向上させるには、企業や商品・サービスで用意しているサポートサイト/ヘルプページへ積極的に顧客を誘導し、自己解決を促すことが必須です。
仮に1件の電話/メール対応コストを1,000円とした場合、1日1000件の対応が可能なコンタクトセンターは、1か月(30日)にすると月額3,000万円のコスト負担が必要となってきます。
しかし、顧客が何か困ったときに確認するチャネルとして、企業や商品・サービスで用意しているサポートサイトやヘルプページへと顧客を積極的に誘導し、自己解決を促すことで、仮に1日300件の電話やメールを削減できるとすると、それで削減できるコンタクトセンターの費用は月額900万円、年間にすると約1億万円ものコスト削減が実現します。
しかし、積極的にウェブセルフサービスへ顧客を誘導しても、そこに掲載されているコンテンツが役に立たなかったりコンテンツが足りなかったりすれば、顧客は問題を解決できずコンタクトセンターに電話をかけてしますます。そのため、カギとなってくるのが「ナレッジベース」の構築と活用です。
ナレッジベースとは、「形式知としての文書やコンテンツを格納するデータベース」で、
- よくある問い合わせとその回答(FAQ)
- トラブルシューティングの手順
- 操作マニュアル
- 取扱説明書
などの情報を格納したものです。とはいえ、ただ情報を詰め込むだけでなく、その分野に不慣れな人であっても、既知の解決法の中から問題の解決策を見つける手段を提供するものである必要があります。
ナレッジベースを構築するにあたっては、日々顧客から受け付ける電話やメールの問い合わせ内容を分析し、顧客が知りたい、解決したいと思っている事柄に対する“コンテンツ”や“アンサー(答え)”をナレッジベース内に充実させなければなりません。
すでに多くのコンタクトセンターでは、顧客からどういった問い合わせがあったのかを「問い合わせのカテゴリ別」「製品カテゴリ別」「問い合わせの根本原因別(質問、苦情、要望、障害など)」ごとに集計・管理していることでしょう。これらのデータを活用し、たとえば問い合わせの多いカテゴリからアンサー(答え)を用意するようにしていきます。
また、サポートサイトやヘルプページにアクセスした顧客が、どういったカテゴリをクリックしているのか、どんなキーワードを使って情報を検索しているかをしっかりと記録しておくことも大切です。その情報を分析することで、顧客が調べたいと思った事柄を把握し、それらを解決できるアンサー(答え)を用意していくことで、より事故解決率を高められるからです。
逆に、ナレッジベースで過去のアクセス履歴などを確認し、使われていないナレッジ(役に立たないナレッジ)は無効化/削除していくなど、本当に役に立つもの・顧客にとって本当に必要なナレッジの精度を上げていくことが、ウェブセルフサービス率を向上させるために必要な取組みです。
また、ナレッジベースはウェブセルフサービスだけで利用するものではありません。顧客向けに公開しているアンサー(答え)をコンタクトセンターなどで電話/メール対応するオペレーターも実際の顧客対応時に利用するようにしておきます。もしアンサー(答え)がないために対応に苦慮した場合は、その質問に対するアンサー(答え)を追加で作成(もしくは既存アンサーの内容の見直しを)するように、スーパーバイザー(SV)やナレッジマネジャーに対して提案するプロセスを導入することも、役に立つナレッジベース構築のための重要な方法です。
2. ナレッジベースを活用した顧客向けウェブセルフサービスの提供
顧客が知りたい・解決したいと思っている事柄に関するナレッジベースを構築したら、そのナレッジをサポートサイトやヘルプページを通じて顧客に提供します。
しかし、ただ公開するだけでなく、顧客がコンテンツやアンサーを探すときに、必要なものをより見つけやすいようにすることが、自己解決促進には欠かせない要素です。
一般的なサポートサイト/ヘルプページのよくある問い合わせ一覧は、担当者が片手間で順番を並び替えているだけだったり、または古いナレッジをそのままにしていたりするケースが目立ちます。それでは顧客はせっかくサポートサイト/ヘルプページにアクセスしても、欲しい回答がすぐに探し出せない、もしくは見ても役に立たないアンサーばかりで結局コンタクトセンターに問い合わせをせざるを得なくなり、不満足な経験を強いられてしまいます。
そこで重要になってくるのが、サポートサイト/ヘルプページにおいて、アンサー(答え)が役に立つ順に常に並んでいる(または動的に並び変わるようにする)ことです。よくアクセスされる(見られる)といった視点だけでなく、時間的な要素も加味し、その瞬間瞬間で本当に顧客が知りたいと思っているアンサー(答え)ほど上位に表示されるといった工夫が必要です。
また、
- 顧客が理解しやすいカテゴリ分けにする
- 探しやすい検索機能を提供する(過去の検索の履歴から他の検索キーワードを自動的に表示させるなど)
- 顧客が閲覧したアンサー(答え)に対する関連する問い合わせを同時に表示させる
といったことも、よりサポートサイト/ヘルプページ上での顧客の利便性を向上させます。
さらには、アンサー(答え)を見ても解決に至らず、やむを得ず問い合わせフォームから問い合わせをするような場合でも、まだできることはあります。
というのも、顧客が問い合わせフォームに入力した問い合わせ内容、つまり実際に顧客が問い合わせたいと思っている事柄をその場で言語解析し、その問題を解決できる可能性があるアンサー(答え)をシステム的な提案回答として提供すると、そこで問題を解決できることもあるため、「ウェブセルフサービス」率を向上できます。
問題解決を促す方法は、ほかにもあります。それは、サイトを訪れた顧客がどういったところでうまくいかずに離脱していっているのかを把握して、そのシーンにあらかじめ解決策を示したり、問題を解決できる情報に誘導したりすることです。
たとえば、あるEコマース企業が顧客のサイト導線を分析したところ、うまくログインできず、結果としてショッピングに至っていない顧客が多いということをつきとめました。それに対するソリューションとして、サービスのトップページやヘルプページに「ログインにお困りの方へ」や「初めての方へ」といったリンクを設置し、想定される問題へのアンサーを充実させました。その結果、コンバージョン率(サイトを訪れたユーザーのうち実際に購買につながった割合)を上昇させることができたのです。
3. ナレッジベースを活用した内部スタッフ向けナレッジの提供
構築したナレッジベースは、電話やメールといった顧客対応の際にも威力を発揮します。ナレッジが充実していれば、コンタクトセンターにおける、
- 平均対応時間(AHT : Average Handling Time)の短縮
- 平均後処理時間(ACW : After Call Work)の短縮
- 一次解決率(FTR : First Time Resolution)の向上
が見込まれ、コンタクトセンターの生産性が格段に向上するため、結果としてコスト削減に大きな効果がもたらされます。
4. マルチチャネルへの対応
ナレッジベースの構築でコンタクトセンターの生産性が上がることで、たとえばチャット対応といった新たなチャネルを設けることも可能となり、カスタマー・エクスペリエンスをさらに向上させる攻めの一手を打つことができます。
これまでの顧客対応チャネルといえば、標準的には
- 電話
- メール
ですが、いよいよ日本でも、
- チャット対応
- ソーシャルメディア対応
が一般的になろうとしています。電話やメール、ウェブセルフサービスに加え、チャットやソーシャルといった、従来はなかった顧客対応チャネルを提供し、いつでも顧客が好むチャネルで欲しい情報が得られるようになれば、それは顧客にとって満足度の高いエクスペリエンスとなります。
あらゆる顧客接点のカスタマー・エクスペリエンスを考えていく
顧客の企業や商品・サービスに対する期待値が上がる一方の今日、企業と顧客のコンタクトポイントにおけるカスタマー・エクスペリエンスを向上することは、顧客に感動体験を与え、より良い関係を築き、結果として、企業における収益の改善・強化につながるものです。企業の重要な戦略の1つだといっても過言ではありません。
しかし “カスタマー・エクスペリエンス” vs. “コスト”の問題は、企業にとって避けて通れないものです。ナレッジベースを構築し、そのナレッジをサポートサイト/ヘルプページを通じて顧客に提供し、顧客自身による解決を向上させることができれば、顧客満足度を向上させながら、同時にコスト削減が可能となるのです。
またそのナレッジベースをコンタクトセンターでも活用することで、顧客に対して的確な対応ができ、かつ、コンタクトセンター業務の更なる生産性の向上が可能となり、ここでもコスト圧縮が可能となるのです。
企業としてのカスタマー・エクスペリエンス向上を考えたときに、従来の顧客接点(店舗やコンタクトセンターなど)のみの改善にとらわれるのではなく、ヘルプページやサポートサイトにも目を向け、「ウェブセルフサービス」を通じて顧客にとって本当に“役に立つ”コンテンツを提供し、またそれらをナレッジベース化することで、顧客にとっても企業にとっても望まれる効果が生まれるのです。
またナレッジベースを活用し、新たな顧客接点に取り組むことで、さらなる「感動体験」を提供でき、顧客との関係性をより深めていくことができるのです。
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