あなたにとってWebマスターとは?
テクノロジーの進歩にしっかりとついていくことはもちろんのこと、テクノロジーを見極めて、ビジネスに貢献できるサイクルを回していくことが大切です。
月間700万PV、110万アクセスのNECコーポレートサイトをはじめ、数多くのオウンドメディアを運営するNECのWebマスター田中 滋子氏に、仕事への取り組み方や心掛けていることを伺った。
組織の中でWebマスターとして成長するために
ビジネスにおける環境変化、M&Aなどによる業態の変化、組織変更などは、企業であれば日常茶飯です。こうした環境においても大好きな(?)Webマスターとして成長し続けていくにはどうすれば良いのでしょうか。
田中さんの経験と仕事への取り組み方にヒントがあると思います。
技術的なことを含めてWebに関する幅広い知識を持ち、周囲から頼られる存在になること
社内の人から信頼を得ることで、仕事が効率よく進みます。組織の大きさに関係なく自分のホームグラウンドサイトをしっかりと確立すること
田中さんの場合このホームグラウンドサイトとは「WISDOM(ウィズダム)」※というサイトです。このサイトは、登録会員数70万人もあり、B2Bサイトの好例としてセミナーのテキストにも掲載されるようなサイトなのです。※WISDOMについては、記事後半で紹介します。
物腰柔らかに、相手の話を聞くコミュニケーションの姿勢を保つこと
これは田中さんの人柄が関係しているかもしれませんが、決して自分の信念を曲げるのではなく、相手の話をしっかりと聞き、対話をすることで、ゴールとなる目的を実現することです。自分がWebの責任者だということを、きちんと社内外に周知すること
人によってはあまり明確にしないでWebマスター業に携わっている方もいますが、明確に周知することが大切です。周知することにより、社内からのウェブ利用に関する相談や情報が集まるようになります。また、企業としてガバナンスの点からも大切なことです。
Webマスターとして日々の仕事で心掛けていることを伺いました。
インターネットやウェブの新しいテクノロジーの登場には、常に目を光らせています。「ビジネス」と「テクノロジー」が揃ってウェブの力が発揮されます。Webマスターにとって新しい技術への知見を持っていることはもちろん、それをどう「ビジネスへ応用できるか」「営業貢献できるか」が大切で、常に考えています。
新しいテクノロジーが登場すると、その採用を求める声が、すぐに事業部からあがってきます。しかし、テクノロジーは一旦導入してしまうと、継続して使用しなければならないことを忘れてはいけません。テクノロジーはそのまま単独で使ったり、途中で簡単にやめるたりすることが難しいので、「短命に終わるものなのか」「安心して長い間使い続けられるものなのか」を判断するのも、Webマスターの大切な役目です。
Webマスターとして重要なことは、技術の進歩にしっかりと付いていくことはもちろんのこと、テクノロジーを見極めて、ビジネスに貢献できるサイクルを回していくことです。このサイクルを回すことができるようになって、初めて一人前のWebマスターとして認めてもらえるのではないでしょうか(田中さん)。
月間700万PV、110万アクセスのサイトを一元管理
田中さんは、NECに入社してシステム開発部門でユーザーサポートに携わった後、オープンシステム推進部門に異動してからずっとNECのウェブに携わっているそうです。現在大手企業のウェブの責任者としては、花王の本間氏と1、2を争うキャリアの持ち主です。
現在、月間700万PV、110万アクセスを誇るNECコーポレートサイト、国内グループ会社、グローバルサイトおよび国外の現地法人サイトなど全部で約70サイトを、田中さんをリーダーとする「宣伝グループWebコミュニケーション推進チーム」が統括・運営しています。
NECのコーポレートサイトから来る問い合わせ件数は、月に500~600件。その内容は、カタログ請求、営業の訪問依頼などさまざまです。問い合わせの内容、お客様の業種、規模、地域などにより、製品部門や営業部門、場合により販売店などへつなげるフォローを行います。「快適なナビゲーションの提供」「お客様とのコンタクトをどうやって増やすか」「営業への問い合わせの質をあげること」が今後の課題と謙虚に語ります。
また、田中さんチームの仕事の幅は広いです。
- NECコーポレートサイト、グローバルサイトの企画・運営・戦略の立案
- 会員向けB2Bサイト「WISDOM」の企画から制作運用
- サーバー、ネットワーク、CMS(コンテンツ管理システム)の運営をはじめとするインフラの整備
- 各種ガイドラインの策定を含めたガバナンスの役割
- NECコーポレートの公式ソーシャルアカウントの運用など
サイトを統合して得られたお客様からの好評
NECのウェブの始まりは業界でも早く、1994年です。主に広報部門などが中心となってコーポレートサイトとして「nec.co.jp」が立ち上がりました。その後、広報部門とは別に、各製品事業部が独自のサイトを立ち上げ、同じNECでありながら別々の運営が続いていました。
この別々の運営状態を何とかして統合して、1つのサイトにしようという動きが出てきたのが2004~2005年頃のことでした。この動きは、当時キャンペーンサイトを運営していた宣伝部門も一緒になり、Webを運営していたメンバーが一ヵ所に集結した形でした。
2006年までには、それまでの広報部門主導の「nec.co.jp」と事業部主導の「ソリューション系のサイト」の統合が行われて「NECコーポレートサイト」としてゆるやかに統合されました。
その後、さらにウェブの力を営業活動に生かそうと、国内のグループ会社のサイトも含め基盤とデザインの統合を進め、コンテンツを大きく見直し、トップページを改善したのが2009年頃です。国内サイトの統合に続いて、海外現地法人が別々に運営していたWebサイトに関しても2011年には統合が完了して、現在にいたっています。
サイトを統合するにあたって、部門や部署の管理体制も見直されました。
サイトの管理・運営の責任をどの部門で持つか、特に、ウェブ関連のサーバーやネットワークはIT部門に任せるという選択肢もありましたが、結論としてNECの情報発信機能は宣伝部門(現在田中さんが所属するCRM本部)に集約されることになりました。
その結果、ウェブに関するサーバー、ネットワーク、CMSなどの管理ソフトも含めたWebに関する全てが営業統括ユニットのCRM本部に統合されています。
サイトを統合したことで、これまで製品サイトごとにあった「事例紹介」コンテンツが一ヵ所に集まり、導入事例を重視するB2Bのお客様に好評をいただき、営業部門からも喜んでもらえたそうです。
また、毎年NECが主催して夏に行われる、LPGA公認の国内有数のゴルフトーナメントの「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」があります。このサイトは、NEC(http://jpn.nec.com/)と同じサイト内のサブディレクトリ(http://jpn.nec.com/event/nec-karuizawa72/)で運用することで、NECサイトから「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」サイトへの流入もあり、また、NECのブランディングにも大きく役立っているそうです。
新聞広告やテレビCMとウェブの連動も、同じ部門内のコミュニケーションで効率よく行われています(田中さん)。
この他にも、組織編成などにより、「NECのユーザー会を運営する部門」や「展示会などのイベントを担当する部門」も宣伝グループが所属するCRM本部の同じ傘下となっています。この管理体制は、NECとしてB2Bのお客様との接点を一元化して、最大効果をあげるという会社の意思が伝わる布陣になっていることがわかります。
通常はインフラ系のチームとコンテンツ系のチームが組織的に分かれているケースが多いのですが、このNEC方式は顧客、利用者の視点から全体を考えられるという大きな利点があるといえます。
別々の組織形態の場合、往々にしてインフラ側のメンテナンスや運用上の理由が前面に出てしまい、その影響がコンテンツ側に出てしまうことがあります。
他の企業では、「宣伝活動」と「ウェブを中心としたデジタルメディア」を一体化した活用に、今でも苦労しているところが多いと思います。NECでは、デジタルメディアの中心部門が宣伝グループに置かれているため、企業として取り組むべきマーケティング施策が効率よく機能しているようです。
JAXAサイトと連携した惑星探査機「はやぶさ」でソーシャルの醍醐味を知る
ソーシャルメディアへの取り組みに他の企業が逡巡していた頃、いち早く企業としてソーシャルメディア利用のガイドラインを作成し、それを「NECグループ ソーシャルメディアポリシー」として公開したのが2010年でした。
これは、その後、日本の各社、各組織団体のガイドラインのひな形にもなり、外部セミナーからも講演依頼が多数寄せられました。「こうしたこともNECのイメージ向上に役立ったと思います」と田中さんは言います。
また、2010年に帰還した惑星探査機「はやぶさ」はNECにとって、ソーシャルの醍醐味を知る良いきっかけとなりました。Ustream、Twitter公式アカウントを開設し、JAXAサイトと連携してさまざまな情報発信を行いました。Twitterを通して「NECも頑張れ!」と応援メッセージをいただいたことも良い思い出となったそうです。
NEC社内では公式アカウントの申請は、田中さんのチームで承認後、ウェブ上の「公式ソーシャルメディア一覧」に掲載するという手順を採用しています。
2014年3月時点で、公式アカウントとして登録されているのは次の通りです。
- Twitter:10アカウント
- Facebook:9サイト
- YouTube:5チャンネル
- Ustream:2チャンネル
現在、田中さんのチームで担当するFacebookについては毎週掲載プランを作り、NECの社史や海外現地法人の紹介などを行っています。
営業に貢献するウェブサイトを目指して2004年にスタートしたWISDOM
2004年末に、ビジネスに役立つ情報を提供するオウンドメディアとして「WISDOM(ウィズダム)」はスタートしました。
通常、NECのコーポレートサイトは、製品、ソリューション情報を探す方(多くがIT部門の方)が来訪します。WISDOMはIT部門以外のビジネスパーソンにも「NECのファン」になっていただき「NECブランドの認知と企業イメージ向上」を図り、その先で「NECの製品、ソリューションを知って興味を持ってもらう」ことを目的としています。
「WISDOM」を始めるきっかけとなったのが、2000年頃にスタートした、B2B向けに読み物コンテンツを定期配信するメルマガサービスでした。その後、Webをマーケティングに積極活用する目的の会員制Webサイト「ITスクエア」を経て、現在の「WISDOM」として運用されるようになりました。
何も知らずに「WISDOM」のサイトを訪れた人には、これがNECの登録会員数70万人のサイトだと気づきにくいかもしれません。ドメイン名も「biwidom.com」とNECの文字は、出てきません。
トップページの内容やタブをみてもなんだか「WEDGE」や時事ネタや政治経済情報のない「日経ビジネス」か「週刊ダイヤモンド」、タイトルだけさらっと見れば「文芸春秋」といった感じです。広告スペースが全くないのが、すっきりと心地よいです。一番下にさりげなく置かれたNECの文字を見て初めてこのサイトを運営しているのがNECだとわかる程度です。
WISDOMには、歴史から学ぶ経営マネジメント情報やITの最新動向、ほっと一息する楽しいコンテンツなど、手軽に読めるものがたくさんありました。
このWISDOMのコンテンツ更新を行うにあたって心掛けていることを、伺ったところ以下の2つのことを教えてもらいました。
- お客様にとって役立つコンテンツを作ること
- 企業として一方的な情報発信ではなく、お客様とコミュニケーションする目的でコンテンツを作ること
「役立つコンテンツ」はどのようにして決めるのかという質問には、「私が読みたいと思うコンテンツです(笑)」ごもっともです。
NECの技術力のPRとブランドイメージ向上に役立つオウンドメディア「NEC発見チャンネル! MiTA TV」
WISDOMに続いて、オウンドメディアの事例として、田中さんイチオシサイト「NEC発見チャンネル! MiTA TV」について伺いました。このオウンドメディアは、日頃メディアに取り上げられる機会の少ない事業部の技術力について、「三田エリー」というキャラクターがインタビューして紹介していくというサイトです。
約一年前から始まったこのサイトは、某テレビ番組で人気を博した「家政婦のミタ」とNEC本社の住所である「三田」そして「見た」をかけてサイト名が決まったそうです(笑)。この「三田エリー」どことなく田中さんの面影を感じます。
第一回が海底ケーブルの話でしたが、たいへん興味深いコンテンツとなっています。大企業の中にはさまざまな事業部門がありますが、すべての事業部門が自社サイトで情報発信されているわけではありません。
パソコンの新しいモデルが発表になればニュースとしても大きく取り上げられるでしょうが、海底ケーブルの新型中継装置発表といっても一般に大々的に報じられることは決してありません。NECの技術力のPRとブランドイメージの向上に役立つのはもちろんのこと、日頃メディアに取り上げられる機会の少ない事業部(この場合は海洋システム事業部)で働く従業員やその家族にとっても大いにモチベーションが上がる良い企画です。
今後の課題はチームのキャリアプラン
現在CRM本部には140名ほどが所属しています。そのうちWebコミュニケーション推進グループには、田中さんを含めた社員が約8名所属しています。このグループ自体が社内のさまざまな部門統合が行われた結果、生まれた組織なので各人の経歴はさまざまで、事業部経験を持つ社員も多いとのことです。
メンバーの今後のキャリアプランをどのように描くべきかが課題だと話してくれました。これは田中さん自身も含めてだそうです。
ワークライフバランスは恵まれています
取材の最後にワークライフバランスについて伺いました。
Webマスターという仕事に就くと勤務時間は有ってないようなもの、仕事と家庭のバランスが難しいというイメージを持っていましたが、NECの場合はその心配はないようです。仕事以外の時間は、自分の時間として、エアロビクスやランニング、合唱などを楽しんでいるそうです。「ワークライフバランスは恵まれていると思いますよ」と笑顔で取材に応じてもらいました。
田中さん、チームの皆さん、今後益々のご活躍を願っています!
ソーシャルもやってます!