NECブランド統一のためにCMSをグローバル展開、コンテンツの共有化で情報発信力を強化
グローバル展開する企業では、各現地法人が個別にWebを運用するためにブランドイメージが統一されないなどの問題が起きることがあるが、NECではブランドイメージの統一とともに、共通コンテンツを各現地法人に展開することで、お客様視点での情報発信を実現した。その過程をNECマネジメントパートナーの田中滋子氏が語った。
日本ヒューレット・パッカードが6月9日に開催した「Marketing Optimizationユーザー会」では、NECほか同社のユーザー企業が登壇し、マーケティング事例を共有した。なお、11月には米国サンディエゴで、最新マーケティングテクノロジーやユーザー事例イベント「HP Engage」も開催される。
NECのグローバルWebサイト統合の必要性
CMS「HP TeamSite(チームサイト)」の事例として、「ブランドイメージ統一と運用効率化を実現したNECのグローバルWeb統合」と題したユーザー事例では、NECマネジメントパートナーの田中滋子氏が講演した。田中氏はNECに入社以来、20年近くWebに携わるエキスパートだ。
NECのWebサイトは1994年にスタートした。当初の役割は情報発信だったが、2001年からソリューション系サイトも立ち上がり、マーケティングサイトとしての色合いが濃くなる。2006年には、NECサイトとしての統一感を持たせるために国内サイトの統合プロジェクトが始まり、社外向けWebサイトの運営体制が整備された。
全体を統括するのは、戦略を立案して基盤を整備するチームと、コンテンツ責任者によって構成されるWeb活用推進連絡会で、日常のサイト運用をサポートするヘルプデスクがシンガポールに置かれている。
NECの海外事業の比率は、2014年度の実績では約20%、現在は25%の早期実現を目指している。Webサイトのグローバル統合も、そのための強化策の一環である。また、NECの海外事業は地域によって得意とする分野が異なるため、地域統括法人を軸とした現地主導型で事業運営を行い、北米/中南米/EMEA/中華圏/APACの5極体制になっている。
Web統合プロジェクト前のグローバルコミュニケーションの課題として、NECでは次のことを挙げている。
- 各国の主要事業が異なるため、ブランドイメージが統一しにくい
- 国によっては、NECの重点事業の認知度が低い
- 現地法人が個別にコンテンツを作り、お客様視点での情報発信になっていない
- コンテンツが有効活用されていない
- 5極体制構想に沿った効率的なWebの運用になっていない
- IT系グローバル企業に比べ、Web基盤やコンテンツの整備が遅れている
CMSのグローバル展開によるデザイン統合と基盤の共通化
NECのグローバルWeb統合プロジェクトは、次の方針で進められた。
- 無法地帯だった現地法人サイトを、統一感あるサイトに
- 海外事業の強化に必要な、Webサイトにおける運営体制の強化
- サイトダウンやドメイン放置をなくし、NECブランドを強化
これらの方針のもと、コンテンツ面とIT基盤/運用面で取り組みを行った。海外のスタッフは指揮命令系統を重視する人が多く、日本のWeb担当者から現場レベルで依頼してもなかなか進まない。そこで、社長から現地法人のトップにレターを出し、トップダウンで進めることとした。
IT基盤/運用面では、CMSとして10年以上利用しているTeamSiteをグローバル展開し、共通基盤とした。グローバル展開に合わせ、日本語化して運用していたものを、もとのマルチ言語対応の状態に戻している。
コンテンツ制作では、統一されたデザインテンプレートを用意した。各現地法人は、デザインテンプレートをもとにコンテンツ制作や現地サイトへのアップロードなどを行う。テンプレートを使うことで、HTMLの知識がなくてもページを作成できる。また、TeamSite内の承認ワークフローによって、コンテンツの品質維持とガバナンス強化が実現する。
従来は、Web関連のシステムインフラについても、各国がそれぞれ準備していた。このため運用も各国に分散し、コストがまちまちで把握できないこともあったが、Web統合後は運用も日本に集約した(北米を除く)。各現地法人からは、そのインフラ使用料を徴収する形で、トータルでの費用削減を実現している。
ブランディングでは、各国でばらばらだったビジュアルデザインが統合された。これはほぼ完了しており、現在は新しいキーメッセージ「Orchestrating a brighter world」のカラーに順次統一が進められている。
コンテンツ共有による情報発信の強化
また、グローバル統合で大きなポイントとなっていたのが、コンテンツ共有による情報発信の強化だ。以前は、企業情報なども現地法人で作成していたため、情報が古いなどの問題が起きていた。そこで、NECグループとしての共通情報は日本国内で作り、翻訳して現地法人に展開することにした。
さらにコンテンツは、日本の本社で作成する「NEC全体の共通コンテンツ」、5極の地域統括法人が作成する「各地域の共通コンテンツ」、現地法人が作成する「独自コンテンツ」の3つに分類した。本社コンテンツと地域統括法人コンテンツは、TeamSiteの共有エリアに格納し、現地法人が各社のワークエリアにコピーして活用するという使い方をしている。
サイト構造は、グローバルサイトと各国サイトの二段構造にした。以前は、一国に複数の販売会社がある国もあり、いろいろなNECサイトが乱立してユーザーにとってはわかりにくい状況だった。そこで、研究所や生産法人は別として、販売会社のサイトは一国に1サイトとした。
ドメイン体系も見直され、グローバルサイトは「www.nec.com」、日本のサイトは「jpn.nec.com」、フランスのサイトは「fr.nec.com」という体系にし、国別サイトは地域統括法人と現地法人が管理する体制にした。NECは「.nec」というドメインを取得しており、今後それが活用される可能性もある。
Webアクセシビリティ対応をグローバルで推進
グローバル統合によって、当初課題だったお客様視点での情報発信やコンテンツの有効活用、5極体制構想に沿ったWeb運用などの課題は解決されている。また、運用面での効率化も図られており、プロジェクトは成功を収めた。
ただし、まだ課題も残っている。1つは、現地法人のWeb要員の問題だ。国によっては他業務と兼務の場合があり、手がまわらずコンテンツ更新がままならないうえ、担当者が代わり、ツールの使い方をそのたびに教え直す必要がある。また、シンガポールにヘルプデスクがあるが、各国からの問い合わせが、統合の際に手伝いに行った担当者に直接いくこともある。直接顔を合わせた担当者に相談したくなるのは、各国共通である。
このため、年に一度、現地法人の担当者に集まってもらうコミュニケーション会議を開催しようという動きにもなっている。各国の取り組みを共有することによって、新しい発見をしたり、同じNECの仲間としてお互いの理解を深めたりする。
今後の取り組みとして、まずはマルチデバイス対応やアクセシビリティ対応など、新ビジュアルガイドラインを現地法人サイトに適用させていく。NECでは、2015年内のWebアクセシビリティJIS規格のAA準拠をうたっており、グローバルでも展開していく方針だ。
さらにコンテンツマーケティングの推進や、動的コンテンツ掲載のためのツールの検討が始まっている。また、コンテンツ共有を促進するための仕組み作りや、コンテンツ制作の効率化のためのセンター管理などが進んでいる。よりよいツールを提供するのがツールベンダーの仕事だが、利用する企業側での組織体制の検討なども重要だろう。
顧客とのエンゲージメントの新しいスタイル
ユーザー会では、米ヒューレット・パッカードからMarketing Optimization担当バイスプレジデントのアンドリュー・ジョイナー氏らが来日し、カスタマーエンゲージメントや同社の各製品についても紹介した。
Webをマーケティングツールとして考えたとき、円滑なマルチチャネルコミュニケーションが重要になる。消費者は、PCだけでなくスマートフォンやタブレットを日常的に利用しており、Googleグラスなどのウェアラブル端末も広がり始めている。これらすべてに対応することが不可欠で、すべてのデバイスに同じ情報が表示されなければならない。また、現在ではWebにアクセスしてきた人の属性データなどを把握することも可能であり、相手に合わせたコミュニケーションが求められている。
これらを実現するためには、CMSやテストツール、分析環境などさまざまなシステムが必要だ。同社は、これらのツールベンダーとして市場で主導的な地位にあり、国内でも多くのトップブランドがユーザー企業として名を連ねている。そのポートフォリオのなかで、Webやモバイルのエクスペリエンスをサポートするのが、ユーザー事例でも紹介された「TeamSite」だ。
HP Marketing Optimization(英語)
http://www.hpengage.com
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