日立製作所、大塚食品、セイコーウオッチが明かすサイト制作・リニューアルの秘訣/第2回Webグランプリフォーラム 前編
企業Webサイト運営する担当者が相互に互いのサイトを評価し、たたえ合う「第2回Webグランプリ」を受賞した各社が、リニューアルやコンテンツ制作の舞台裏を明かす、Webグランプリフォーラムが4月28日に開催された。各社がどのような取り組みを行い、企業サイトやプロモーションサイトを運営してきたのかが、今後の課題も含めて披露された。
※編注 本年度の「2015 Webグランプリ」贈賞式は12月3日に開催される。
B2Bグローバル企業のイメージを定着させるためのリニューアル
企業サイト賞の優秀賞を受賞した日立コーポレートサイトは、2014年2月に大規模リニューアルを果たしている。
生活家電など、B2C企業の印象が強い日立だが、日立グループ全体としては社会インフラを担うB2B企業の側面が強く、ユーザーのイメージとの乖離が大きい。そこで日立では、ブランド戦略の1つとして、Web戦略を最も重要な要素として位置づけた。
B2B企業として「ブランドで選ばれる日立を目指す」と、日立のWeb戦略がスタートしたのは2002年のこと。2003年に初めてデザインガイドラインを策定し、赤を背景とした共通のロゴなどを作成し、2007年にはWeb 2.0に対応するようにデザインガイドラインを改定。
その後は、オウンドメディアという言葉が定着する以前から、Webサイトを単なる情報発信ツールだけではなく、ブランド価値向上のための自社メディアとして利用しなければならないと議論を重ね、他社サイトなども参考にしながら改訂を進めていった。
そのなかで考えられたのは、日本企業っぽさから脱却し、グローバルを意識した斬新さや革新性を目標にすることだった。一般的な日本の企業サイトにするのではなく、グローバルを意識して、大きなビジュアルと動画で社会イノベーション事業を推進していることを示したほか、コーポレートカラーの赤色「Inspire Red」で印象付け、日立のサイトだと認識してもらえるようにしたのだ。
また、グローバルスタンダードを目指す新しいコンセプトを確立させるため、サイト制作は、世界各国のナショナルブランド企業のデザインに携わる海外のクリエーターに依頼した。
日立らしさを感じさせる赤が印象的なサイトへ
こうして2014年2月、日立製作所のトップページは、チルトシフトやタイムラプス動画を背景に採用するなど、多くのWeb技術を取り入れてリニューアルした。
リニューアルでユーザーの印象は変わったのか。ユーザーインタビューによる印象調査やネットアンケート調査では、北米や欧州、シンガポールおよび日本在住の外国人から「Innovative」「Intelligent」「Lively」といったコメントが多数得られ、想定していた通りの良い印象を得られたという。また、コーポレートカラーである赤をリンク色としたことで、アクセシビリティが損なわれないかという議論が社内であったが、ユーザーからは好意的に受け入れられていた。
リニューアル直後からSNS上でも話題となり、一般ユーザーから「かっこいい」「巨大グループとしてのスケール感がでている」「日本の企業サイトには珍しいイメージ重視のデザイン」などの反応が得られた。また、競合他社や他業種のWeb担当者からの問い合わせも相次ぎ、Webメディアなどからも取り上げられることでPR効果もあったと西田氏は説明する。
Webグランプリも受賞でき、我々のやりがいにも結び付けることができた(西田氏)
対外的な評価としては、Webグランプリ受賞のほか、日本ブランド戦略研究所の「企業情報サイト調査2014」において、総合順位が前年の103位から12位まで上昇し、電機・精密業種36社中では1位を獲得している。また、トライベック・ストラテジーの「主要企業Webユーザビリティランキング2014<企業サイト編>」では、2013年の49位から15位に上昇している。
今後の方向性として西田氏は、レスポンシブWebデザインとソーシャルメディア対応を挙げる。すでに日本のコーポレートサイトのレスポンシブ対応は2015年3月に完了しており、2015年上期にはグローバルサイトの対応を進める予定だ。
また、Web担当者の人材育成と、Web業務の地位確立も大きな課題となっており、グループ全体で1,500人いるWeb人材のスキルを底上げするために教育体系も改善していく。
プロモーションサイトとしてキューレションメディアも展開している日立だが、今後は、新gTLDである「.hitachi」を積極的に利用したサイトのオウンドメディア化や、さらなるリニューアルも視野に入れて考えていくという。
ボンカレー誕生50周年へ、共感・コミュニケーションを生み出すブランドサイト
これまではレンジで温められるなど、カレーの機能性を訴えれば買ってもらえると考えてきたが、生活者にはあまり重要ではなかった。ボンカレーは、保存料・合成着色料不使用で、国産野菜を使っている安全・安心な食品であり、電子レンジでも簡単に調理できるようになっているため、より簡単に生活者の生活をより豊かにできるのではないかと考え、コミュニケーション設計を行った(垣内氏)
世界初のレトルトカレーとした誕生した「ボンカレー」だが、今やレトルトカレー市場は価格競争の激しいレッドオーシャン。2014年6月のブランドサイトリニューアルの背景として、垣内氏は簡単に調理できるといった商品の機能性をアピールするだけでなく、ブランディングを行うことが重要であり、生活者の共感を生むようなサイト作りを目指していると説明する。
大塚食品は、実店舗を持たず、以前から運営するWebのセレクトショップも販売に特化したものだったため、生活者と直接コミュニケーションを取る場所はブランドサイトしかない。そのため、同社では情報を一元化して、純度高くブランドサイトを充実させることに意義があると考えている。
そこで企画されたのが、従来のような広告による機能性訴求ではなく、PRと情緒的訴求を中心にし、約3年後(2018年)の誕生50周年に向けてブランド強化することだ。ブランドサイトでは、商品紹介などの基本情報をカタログ的に見せるだけでなく、工場内の様子を見せたり、50年の歴史を紹介したりするほか、生活者にメリットのあるレシピや共感できるコンテンツなどを提供している。
機能性の訴求から共感を生むブランドサイト作りへ
機能性訴求から情緒的訴求へと舵を切った結果、忙しい母親をターゲットにして共感を得る動画「ボンカレースペシャルムービー」の視聴回数は約95万回、更新前に比べてサイトへの流入数は約3倍、メディア掲載数は約2.5倍となり、以前とは露出の仕方が変わってきたと垣内氏は説明する。
また、動画の発表会に参加してくれたタレントがブログに書き込むことによって拡散され、Webサイトへの流入があったといい、情緒的なWeb動画から共感が生まれ、商品の購入にもつながっている。
Webグランプリの審査員からは、「フォトジェニックな画像が多い」「シンプルで探しやすい」「マルチデバイス対応でスマホから見やすい」「消費者の保存食に対する不信感や疑問を払拭している」などのコメントが寄せられた。一方で、アドバイスのコメントも随時サイトに反映するようにしており、すでにレシピなどの付加情報の充実や製造現場の動画などの追加、直販サイトへの導線強化といった改良が行われている。
また、今後の課題として、人的なリソース不足で実施できていないが、よりインタラクティブなコミュニケーションを行うためにソーシャルメディアとの連携なども考えており、「コンテンツを充実させて、積極的に見に来たくなる情報を発信することも随時行っていきたい
」と垣内氏は説明した。
時計をつくる職人の空気が感じられるブランドサイト
企業サイト賞の優秀賞と、浅川賞(アクセシビリティ賞)の「見出しがなくともわかるで賞」を受賞した「時ノ技」は、時計職人を紹介することでセイコーのファン化を推進するサイトだ。
集客したユーザーをどれだけ定着化させるかを考え、ストーリーを伝えることを目的としたコンテンツを拡充。時計作りを支える匠の技にフォーカスし、彼らの仕事内容や想いを伝えることで、魅力に少しでも触れられるようにしている。
企画立案では、腕時計メーカーとしての歴史や製品が非常に多くあるなかで、何を伝えるかが議論された。
セイコーは、以前からテレビ機能やワープロ機能、スケジュール機能など、時計以外の機能をいちはやく搭載するなど、技術革新や特許取得を重ねてきている。これらの歴史や技術力もアピールしたい部分ではあったが、消費者にアピールしたい要素を整理して優先順位を付けた結果、販売店などで好評だった職人の実演が販売に効果的な要素だと捉え、今回の企画では「職人」が選ばれたと馬道氏は説明する。
写真・文章・コストが制作・運用のポイント
実際のサイト制作では、「写真」「文章」「コスト」の3つに注意したと馬道氏は話す。
写真は、インパクトのあるビジュアルで職人の息遣いや緊張感、モノづくりに向かう姿勢を伝えることを心がけた。
文章は、概要、プロフィール、製作工程、インタビューで構成し、それぞれ独立させることでコンパクトにまとめるようにしている。
コストに関しては、限られた予算のなかでブランディングに対する投資を行うことは厳しいため、低コストでの運用体制を心がけた。コンテンツは、デザイナー、カメラマン、ライター、馬道氏の最小メンバーで制作しており、「少人数の低コスト運営であるなか、他の運営者から評価されたことはありがたい。賞をいただけたことは非常にラッキーだったと感じている
」と馬道氏は話した。
サイトの効果については、アクセス数が前年に比べて150%増加しているといい、時計の販売にも好影響を与えているという。また、職人への取材依頼や店頭の実演依頼も増加しており、二次波及効果も出ている。
もっとインタラクティブにしたい、文章が長くなっても説明したほうがよいといったことも考えたが、最終的には説明しすぎることで、職人の空気感を壊すと考え、職人の手で作られる本来の価値を感じてもらえるコンテンツを制作することを心がけた(馬道氏)
また、社内からは「新鮮だけど違和感がない」という意見もあった。その他にも、Webグランプリの一次審査で得たコメントをサイトの改善に役立てているという。
贈賞式で浅川審査委員長から言われた、どうすれば目の見えない人に職人の空気を感じてもらえるか、視覚的な情報と非視覚的な情報をどのように縮めるか、といった課題は、すべての人に正確な時を届けることを目指す企業の一員として真摯に取り組んでいきたい(馬道氏)
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
「Webグランプリ受賞9社に学ぶサイト制作・リニューアルの秘訣、第2回Webグランプリフォーラム」 2015年4月28日開催 Webグランプリフォーラムレポート(1)(2015/06/08)
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