ソフトもハードも開発するJapanTaxi、IoTで変革するタクシーのビジネスモデル
アプリを使って呼び出せるタクシー配車アプリ「全国タクシー」によって、タクシーの利用体験を変えた日本交通。現在、そのIoT基盤を構築しているのがグループ会社のJapanTaxiだ。
Web広告研究会の5月月例セミナーの第二部では、JapanTaxiの代表取締役社長および日本交通の代表取締役会長である川鍋一朗氏が、国内でも先端的な日本交通におけるタクシーアプリの取り組みを解説した。
配車アプリが変革した、100年続いてきたビジネスモデル
川鍋氏は2015年に日本交通の社長から会長となり、交通・モビリティ分野のIT会社であるJapanTaxiの社長に専念。交通・モビリティ分野をITで革新している。
タクシー業界のビジネスモデルは、タクシーが始まった104年前から基本的には変わっていないと川鍋氏は話す。そんななか、5年ほど前にスマートフォンの配車アプリ「全国タクシー」が登場し、車と人の位置をマッチングできるように変化が訪れている。
一方、オックスフォード大学が発表した調査では、ロボットなどの自動化によって今後10年のうちに消えてしまう職業の1つとしてタクシーの運転手が挙げられており、これによってタクシーのビジネスも変わっていくという。
タクシーの原価構成比を見ると、総人件費が原価全体の72.9%を占めており、自動運転技術が確立されて自動運転車の価格が下がれば、大幅なタクシー料金の値下げにつながる。そうすれば、地下鉄や電車よりもタクシーを利用する人が増えると予測されている。
また川鍋氏は、タクシー広告にも力を入れていると説明を続け、広告収入が入れば自動運転と組み合わせて、無料タクシーが登場する可能性があることを示す。タクシーの平均乗車時間は18分、タクシー広告はボリュームで他のメディアに劣るが、対面で接するため深い体験を提供できるという。
現在は、フリークアウトやソラコムと組み、JapanTaxiのタクシーアプリの位置情報を利用し、乗客がいる場所に最適な広告をタクシー内のデバイスに表示させる取り組みもしているという(7月14日、JapanTaxiとフリークアウトは広告事業に向けた合弁会社「IRIS」の設立を発表した)。
※参考 日本交通とフリークアウトが合弁会社を設立 IoT型デジタルサイネージ事業を開始
目的別のタクシーアプリを次々とリリース
JapanTaxiでは、目的型のタクシーアプリを作っていると川鍋氏は説明を続ける。乗務員がガイドもしてくれる「東京観光タクシー」、高齢者や障害者のお出かけに利用できる「サポートタクシー」、子供の送迎を行う「キッズタクシー」など目的別にアプリを作成している。
なかでも、2011年に始めた「陣痛タクシー」は東京都に住む妊婦の約2割が登録している。将来的には、紙おむつやミルクなど、スポンサーを付けることによって無料で病院まで送迎できるようしたいと川鍋氏は話す。その他、キッズタクシーの利用者である子供をターゲットとした広告展開も考えているという。
また、タクシー内にはメーターやドライブレコーダーなど、さまざまなデバイスや機器が搭載されているが、JapanTaxiではソフトウェアだけでなく、これらのハードウェアも開発・製造している。川鍋氏は、これらのデバイスとクラウドを連携させたIoTのアイデアも持っており、広告配信に活用するタブレットも独自に開発したものだという。
タクシーの体験はアプリだけで閉じない
講演の後半は、Web広告研究会 モバイル委員会委員長の森直樹氏が、タクシービジネスやIoTの未来について川鍋氏と対談した(以下、敬称略)。
森:まず会場のみなさんが一番に聞きたいであろうこと、Uberをどう思っているか。
川鍋:Uberにはいろいろと勉強させてもらっている。私は、旧態依然としたタクシー会社の三代目になったと思ったら、いつの間にか、アプリなどのITをやらざるを得ない状況になっていた。
Uberはすごく価値が上がっているが、サービスの本質はマッチングにある。ITと相性が良く、それが快進撃につながっていると感じている。
森:Uberに対して、アプリのUXやデザインなどで勝っているところや、見習いたいと思うところはどこか。
川鍋:アプリだけ切り出せば、現時点では負けている。ただし、タクシーの体験はアプリだけで終わらない。アプリで呼び出して、目的地に到着するまでを含めれば、少なくとも日本ではまだ勝てると思っている。
Uberはアプリで優れているが、日本には良い人と車がある。JapanTaxiでは、いま事業としての基盤を作っているところで、レベルの高いメンバーを採用してアプリ面でも追いつきたいと考えている。
タクシーはサービス業なので、乗客を喜ばせるのはもちろんだが、喜ばせる乗務員がきちんと処遇されないと長続きしない。Uberの注目度や成長度は圧倒的だが、彼らはいま、乗客に寄り過ぎたサービスのバランスを運転手に戻しているところ。
会社の価値は時価総額だけで決まるわけではない。日本交通はリアルな人々の雇用をたくさん生んでいて、お客様と従業員の両方を大切に考えている点が、大きな違いだと思う。
アプリ誕生のきっかけはピザ配達
森:タクシー配車アプリを立ち上げたきっかけは。
川鍋:2010年にドミノピザのアプリを見たのがきっかけ。花見をしている場所にピザを宅配してもらえるのを知って、タクシーでもアプリを作れないかと考えた。そのときはまだ、Uberは見たことがなかった。
電話でもタクシーを呼ぶことはできるが、初めてアプリを使って呼び出したときは鳥肌が立った。何か新しい体験、時代が始まった感覚がある。
森:アプリの作成では、何を重視したか。
川鍋:私は、「タクシーは拾う時代から、選ばれる時代になる」とずっと言ってきた。だから、使いやすさ以外は特に考えていなかった。タクシーを呼ぶというアプリは、普通に作ればUIに大きな違いは出ないと思う。
いまは日本のタクシーの15%ぐらいが対応している。これが3割に達すると、全国どこにいても5分~10分でタクシーが呼べるようになる。数年のうちに実現できると思っている。
また今後は、シェアリングや渋滞した場合の料金の上限設定などができるようにもしていきたい。それを実現するためのエンジニアの確保と、国土交通省との折衝によるルール作りが必要となってくる。
リアル×ITの融合で会社の文化が変わる
森:アプリは210万ダウンロードを達成し、JapanTaxiという会社を立ち上げるまでになった。マーケティングの取り組みや社員の意識は変化してきているのか。
川鍋:乗務員の方々は、ポジティブに捉える人もいれば、面倒だと考える人もいたが、「便利になった」という乗客の声を聞くうちに喜んできている。
広告費で運賃を下げることにも取り組んでいる。アプリでタクシーを呼び、動画を見れば50円のクーポンをもらえるもので、これに対しても乗務員は喜んでいる。事務所側は、「何かやっているな」ぐらいの感覚で仕事の内容自体は変わっていない。
一方、JapanTaxiは文化がどんどん変わってきている。最初は、熱く未来について語っても、なかなか新しいエンジニアの応募が来なかった。タクシー業界とIT業界では文化が違っていたが、CTOを獲得できたことで、ようやくエンジニアを獲得できるようになっていている。
我々は、圧倒的なデータや情報を扱えることが他のIT企業とは違う。リアル×ITをやることができるので、文化の壁を乗り越えられれば、エンジニアの人はものすごく興味を持ってくれる。最初は、タクシー業界とIT業界の融合を目指したが半年で挫折したので、JapanTaxiという出島を作った。
森:JapanTaxiも日本交通も、事業のあり方が変わり、内部の戦力を拡充させているが、今後パートナーに対しては何を求めていくのか。
川鍋:怖くない人がいい(笑)。エージェンシーの中には高圧的な人もいて、ナイーブなエンジニアは萎縮してしまうことがある。同じ目線で話ができる人がいいと思う。
タクシーという領域は、これまでマーケティング対象ではなかったが、媒体としての作り込みを行っている。タクシー広告は、深い世界観でしっかりとコミュニケーションできる媒体なので、ぜひ検討してもらいたい。サイネージもしっかりやり、多言語対応などもやっていこうと考えている。
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「ソフトもハードも開発するJapanTaxi、IoTで変革するタクシーのビジネスモデル」2016年5月27日開催 月例セミナー 第2部(2016/08/10)
ソーシャルもやってます!