エイチームLSのグロースハックチームが語る、スマホサイト改善を高速に進めるポイント
デジタルマーケティングに取り組む担当者にとって、スマホサイトのコンバージョン率改善は頭の痛い課題だ。そこで、スマホ最適化やランディングページ最適化(LPO)に取り組む企業も多い。
エンターテインメント分野、ライフスタイルサポート分野でさまざまなアプリやWebメディアを展開するエイチームライフスタイル(以下エイチームLS)のグロースハックチーム責任者である岩元氏と、LPOのスペシャリストとして200本超のLP制作を手がけ、同社のデジタルマーケティングの支援を行うギャプライズのコンサルタントである鎌田氏が、「Web担当者Forum ミーティング 2016 秋」に登壇した。
2人は「エイチームLSグロースハックチームに聞く、スマホサイトを高速改善するポイント」と題し、スマホサイト改善にスピード感をもって取り組む秘訣や、チームビルディングの課題、失敗談などについてパネルディスカッション形式で語った。
消費者の購買行動に今やスマホは切っても切り離せない存在だ。マーケティング担当者にとっても、スマホサイトの改善はデジタルマーケティング施策における大きな課題の一つである。
岩元氏は、スマホサイトのコンバージョン最適化に取り組む一人だ。エイチームLSでは、1日に1個のペースでA/Bテストが走り、改善のポイントを検証しているという。そのために、担当者の判断でテストが進められるよう権限委譲が進んでおり、チームで当日昼頃に決めた結果を、夕方にはリリースできる体制になっているそうだ。
岩元氏と鎌田氏は、以下の3点についてディスカッションを行った。
- なぜスピード感をもって改善する必要があるか
- どのように改善を進めるのか
- スピード感をもって改善を継続させるためには、どのような体制作りが必要か
なぜスピード感をもってスマホサイトを改善しなければならないのか
1つ目のテーマは、「なぜスピード感をもって改善する必要があるか」という点だ。岩元氏は、スマホサイトの改善が必要な理由について「時代の(進む)スピードが早く、スマホユーザーの要求レベルが高い」点を挙げる。
スマホ向けのサービスは次々と新たなトレンドが生まれており、スピード感をもって絶えず改善のPDCAサイクルを回し続けなければ、ユーザーの要求レベルに応えることができないのだ。
鎌田氏は「市場の競争が激しい分野では、多いところで1日1000回テストを実施するサイトもある」と他社動向について言及した。
スマホサイトの特徴を踏まえ、ユーザーの行動に対する根拠を仮説立てることが大事
2つ目のテーマは、スマホサイトならではの使われ方を踏まえた「改善の進め方」だ。鎌田氏は、典型的なECサイトにおけるヒートマップを比較しながら説明した。
- デスクトップサイトではページ下部はあまり見られていない
ヒートマップではページ下部が青く表示されており、ページをスクロールすればするほどあまり見られていない傾向があることがわかる。
- スマホサイトはスクロールされやすい
スマホサイトでは、ページ下部まで赤く、50%以上のユーザーがページ下部までスクロールして閲覧している。
- スマホサイトは「行動の早さ」もポイント
とある商品ページを表示してから、「カートに入れる」ボタンを押すまでに要する時間の平均は、デスクトップサイトは「平均で42.2秒」だったのに対し、スマホサイトでは「平均31.8秒」だった。
つまり、スマホユーザーはページ全体をサラッと読み流し、行動までのリアクションが早い傾向が強い。
岩元氏は、改善点の仮説を得るために「電車の中などで日常的にスマホに触れる」ことを心がけているそうだ。その際は「利用者は何を思って、これを見ているのか」と目的を意識しながら、ユーザーの行動に対する根拠を意識するよう心がけているのだという。
一方、鎌田氏は、「何をどのように改善したか」の参考に、旅行や金融など、テストを回しながら改善を重ねている業界のサービスやサイトを参考にすることがあるという。会場に次のようなアドバイスを送った。
Internet Archiveなどのアーカイブサービスを活用し、改善の遍歴を辿っていくと、仮説立てのトレーニングの参考になる
もう一つ、忘れてはいけないポイントは、スマホサイトの改善は「必ず実機で確認する」ことだ。シミュレーターを使う人も多いと思うが、実機で見ないとわからないことがあると鎌田氏は指摘する。
デバイスの大型化が進み、スクリーンサイズの大きい端末を使うユーザーは増えているが、実際のユーザーは小さい端末を使うケースもある。可能であれば、少し前のバージョンの端末でチェックすることも有効だ
マーケとシステム担当の衝突は「徹底的に話し合い、リーダーが決める」ことで解決
セッションは、3つ目のテーマである、「スピード感をもって改善を継続させるためには、どのような体制作りが必要か」に移っていく。
ポイント1チーム組成
まずは「チーム組成」の課題についてだ。LPOにはマーケ部門とシステム部門の連携が欠かせないが、岩元氏は実際には次のようなことがあったと振り返る。
数字的根拠を求めるシステム部門と、“感覚”を大事にしようとするマーケ部門との衝突があった
鎌田氏は、サイト改善で起こるマーケ部門とシステム部門の衝突には、大きく2種類あると分析する。
- チーム内にマーケ担当とシステム担当がいる場合
エイチームLSのように、同じチームにマーケ担当とシステム担当がいる場合は、たとえば「CVRを上げる」などの目的は共有しやすいが、改善の具体的な手法、方法論で揉めるケースがある。
なお、岩元氏は衝突の解決のために「徹底的に話す」ことを心がけ、プロジェクトに対する思いや、マーケ担当者の“感覚”をしっかり説明し、徹底的に話し合うことで方向性の違いを解決していったそうだ。
- 両者の部門が異なる場合
この場合は「パワーを持っている部署が主導権を握る」ことになる。鎌田氏は、「組織のパワーバランスを変えることは難しい」としながらも、サイトの改善点を上層部に視覚的に訴えることで、理解を得て、トップダウンで改善を働きかけることが可能だと述べた。
たとえば、ギャプライズがパートナー販売するUX再現ツールの「Clicktale」(クリックテール)は、実際の画面操作を録画できる機能がある。この機能を使えば、「文字が小さくて見づらい」「必要なボタンがファーストビューに入っていない」といった改善点を操作画面として録画し、可視化することが可能だ。こうしたツールを利用しながら、視覚的に訴えていくことも有効だ。
ポイント2チームの意思決定
次は「チームの意思決定」に関する課題だ。岩元氏は、スマホサイトの改善チームの責任者として、2016年1月からギャプライズと組んでプロジェクトに取り組んだ。当初、意識したのは「合議制」だったのだが、次のようなことが起きたという。
みんなで話し合うことを重視すると、スピード感が失われるというジレンマに陥った
その後、スピード感を高めるため、システム部門の人がリーダーとなり、リーダーのもとで改善の施策数が増えた時期があった。しかし、スピードは上がった反面、施策数を増やすため「リーダーの独断で周りの意見を聞かない」といった状況も生まれ、結果、メンバーの当事者意識が欠け、チーム崩壊の危機も経験した。
そこで岩元氏がたどり着いたのは、次のようなことだった。
自分が決めるという意思を持ちつつ、周囲の意見に耳を傾け、客観的に判断する
つまり、会社にとっては、「権限委譲」が一つの大きなポイントということになる。改善施策は、結果がどうなるか、やってみないと分からないことが多い。
この場で決めないといけないのに、持ち帰りというケースは往々にしてある
と鎌田氏は述べ、チームリーダーに決裁権があることの重要性を強調した。
LPOに「停滞期」はつきもの。めげずに改善を回し続けていくことが担当者の成長にもつながる
チームを動かしていくためには、改善の「踊り場」をどう乗りこえるかという課題もある。改善を進めていけば、成果は時間とともに着実に積み上がっていくイメージを持つ人も多いだろう。
しかし実際には、最初の数か月は「耐える」期間だ。岩元氏も、改善に取り組んでいるのに数値が停滞するという苦難の時期を2か月ほど経験している。実際のプロジェクト期間では、2016年の1月の開始以降、同3月から5月頃が「踊り場」の期間だ。
岩元氏によると、その停滞期を超えると「一気に上がっていくイメージ」に転換したという。つまり、成功要因は、「めげずに、スピードを落とさずに改善を回し続けたこと」ということになる。上司がLPOの経験があり、そういう時期があることに理解があったことも、大きなポイントとなった。
一方、鎌田氏は次のように指摘する。
教育、人材育成の側面を、プロジェクトに持たせるとよい
というのも、停滞期の経験は確実に担当者の成長につながるからだ。テスト自体にリスクはない。また、鎌田氏は次のようにも述べた。
チャレンジと捉え、経験を積ませるという視点があると、停滞期を乗り越えられることがある
最後に、岩元氏は、LPOのポイントを総括した。
まず、スマホサイト改善のためには、スピード感をもって、テストを回し続けることが欠かせない。そのためには、権限委譲を行い、改善のPDCAが高速で回るようなチーム組成が求められる。そして、リーダーはプロジェクトに対する覚悟と思いを持ち、マーケティング担当者の“感覚”を理解した上でシステム部門との調整を行っていく。
具体的な改善の進め方は、「ユーザーを知ること」が大事だ。これまでのLPOはどちらかというと、導線改善などを目的に行われることが多かった。これを「どんなユーザーが訪れて、何を感じ、どう行動したのかを考え尽くす」ことで、どうしたらコンバージョンに至るかを施策化できるようになる。
そして、仮説立てについては、「下までスクロールされやすい」「行動に至るまでの時間が早い」などスマホ特有の使われ方を理解する必要がある。
岩元氏は、こうしたポイントを踏まえ、「変化のトレンドの早いスマホサイトで、ユーザーニーズにスピーディかつ柔軟に対応しながらコンバージョンを高めていきましょう」と会場に呼びかけ、セッションを締めくくった。
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