運用型広告ってどこがすごいの? いまさら聞けないネット広告と運用型広告の歴史
自社のネット広告運用はうまくいっているのだろうか?
広告運用の基礎は網羅できているのだろうか?
春も過ぎ、新たにインターネット広告担当になられた方は、社内の基礎研修が一通り落ち着き、広告運用についてもっと知りたいという欲が出てきたころではないでしょうか。あるいは、冒頭のような課題を感じ始めているかもしれません。
そんな疑問に答えるため、ネット広告担当者として知っておくべきネット広告の基本知識を、運用型広告を軸に解説します。広告運用の目標設定の仕方、配信ロジックの理解など、全4回で解説していきます。
第1回は「いまさら聞けないネット広告と運用型広告の歴史」と題して、運用型広告が主流となったネット広告の歴史を振り返っていきましょう。
運用型広告がインターネット広告市場の主役へ
電通が毎年発表する「日本の広告費」によると、2016年のインターネット広告費(媒体費+広告制作費)は前年比113%の1兆3,100億円。このうち、運用型広告費が7,383億円を占めており、インターネット広告市場の成長を牽引していることがわかります(出典:2016年 日本の広告費)。
運用型広告が伸びている背景の1つとして、テクノロジーの進化が挙げられます。特定のユーザーに絞って広告を配信する「ターゲティング広告」の機能向上によって、広告主は効果的かつ効率的な広告運用が可能になったのです。最近では、AIを活用して自動入札を行う広告主や代理店もいます。
テクノロジーとともに進化してきた運用型広告ですが、そのステージは大きく3つに分けられます。それぞれ振り返っていきましょう。
① リスティング広告が生み出した広告ランクという考え
世界で初めて登場したインターネット広告は、1994年に米国の通信会社が掲載したバナー広告だといわれています。日本ではYahoo! JAPANが1996年にサービスを開始し、同年にバナー広告の販売も開始されました。
それから数年、2002年になってリスティング広告(検索連動型広告)をグーグルとヤフーが開始します。そして、リスティング広告の登場とともに「広告ランク」という考え方が生まれます。
リスティング広告以前のネット広告といえば、Yahoo! JAPANのようなポータルサイトにある「決められた広告枠」を買い取って掲載する枠売りが主役の時代です。純広告とも呼ばれます。
一方、リスティング広告は入札方式で定価の広告費がありませんから、当時は「値段も掲載場所もわからないような広告にお金は払えない」など、戸惑いがあったものです。
リスティング広告の仕組み自体も今ほど複雑ではなく、当初は入札金額だけで掲載が決まる完全な金額オークション方式だったため、1クリック2,500円する広告もありました。
ただし、入札金額オークション方式では掲載広告が特定の広告主に片寄りすぎてしまうため、入札金額と品質スコアを掛け合わせた「広告ランク」によって順位を決める仕様に変更されていきます。現在はランディングページなどの要素も加わり、より複雑になっています。
- 入札金額のみで順位が決まる
- 入札価格が高騰する問題がある
初期のリスティング広告は「入札完全オークション型」。一番入札金額の高い広告が表示されるため、予算の大きな特定の広告主に寄りすぎてしまうという課題があった。
- 広告の掲載順位は広告ランクで決まる(入札金額×品質スコア=広告ランク)
- ユーザーの関心が高い広告の掲載順位が上がりやすくなる
現在は、入札金額だけでなく品質スコアを加味した「広告ランクオークション型」。品質スコアは、検索キーワードとの関連性、クリック率、ランディングページの利便性など、多数の要素が複雑に関係している。
また、2003年にはディスプレイ広告の一種として、サイト内のコンテンツを読み解いて内容に関連した広告を掲載する「コンテンツ連動型広告」も始まりました。検索結果以外にも広告を表示できるようになり、これ以降、運用型広告の基本として、広告ランクや広告ランクを構成する重要な要素である「品質スコア」に基づき、ユーザーの関心のある広告を出すという考えが定着していったのです。
② Cookieを活用して興味関心のあるユーザーに広告配信
2005年から「Cookieの時代」に入ります。Cookieは、Webブラウザを通じて、Webサイトが訪問者のコンピュータに一時的にデータを保存させる仕組みです。Webサイトの訪問履歴などを保存しておけるため、特定のサイトにアクセスした人にだけ広告を見せるなど、興味関心のあるユーザーに絞って広告配信することに応用できます。
リターゲティング広告が登場したのも2005年です。サイトの訪問履歴をもとに、興味関心の高い人に絞って配信できるリターゲティング広告は費用対効果を上げやすく、多くの広告主が出稿しました。この時代から、「広告を配信したい人をどのようにセグメンテーションして広告配信するか」が重要になっていきます。
2011年には、複数の媒体やアドネットワークの広告を一括で買い付けて配信できる広告プラットフォーム「DSP(Demand Side Platform)」が登場し、リアルタイムの広告取引(RTB:Real Time Bidding)が本格化します。複数媒体の広告をリアルタイムに売買するプログラマティック・バイイング時代への突入です。同時にターゲティングの自由度も上がり、より細かな運用が可能になりました。
このころから、上記の広告関連技術を総称する「アドテクノロジー」という言葉を頻繁に耳にするようになります。
2012年にはレコメンド広告が登場します。厳密にはリターゲティング広告の一部ですが、企業サイトの訪問履歴だけでなく、どのような商品を見たかまでデータとして保持し、自動でバナー広告に反映させることができます。たとえば、ショッピングサイトでは直前に見ていた商品の内容を広告に反映させることで、費用対効果が上がる傾向にあります。
2013年には、インターネット上に蓄積されたさまざまなデータを管理するためのプラットフォーム「DMP(Data Management Platform)」が登場します。Cookieの情報と企業が保有するCRM情報(会員情報、会員ID、店舗の購買履歴など)を関連づけて、独自のユーザーセグメントやターゲティングを設計できるようになりました。
このように、Cookieの時代はサイトの訪問者へのターゲティングから始まり、リアルタイムな広告取引やパーソナライズされた広告表現、さまざまなデータの広告への活用を実現してきました。
その後も、Cookieデータを統合・加工し、さまざまなターゲティングニーズに応えるアドテクノロジー製品が続々とローンチされており、技術進歩による運用型広告の発展は今もなお続いています。
③ ディスプレイ広告はPCからスマートフォンへ
2012年以降、スマートフォンが急速に普及して「スマホ時代」に入ります。総務省の「通信利用動向調査(平成27年)」によると、2015年末時点のスマートフォン保有率は72%(前年比7.8ポイント増)と、上昇を続けています。
グーグルの検索数において、モバイルがPCを上回ったのは2015年のこと。それまで、PC向けの広告配信では、ヤフーとグーグルが主要プレイヤーでしたが、スマートフォンではFacebook、Twitter、ニュース・キュレーションアプリなど、アプリ内広告も配信されるようになりました。
スマートフォン広告のなかでも、最近注目を集めている広告フォーマットが「インフィード広告」です。インフィード広告は、スマートフォン版のYahoo! JAPAN、FacebookやTwitterのようなタイムライン型のサイトに表示される広告であり、その市場規模はリスティング広告に迫る勢いで拡大しています。
実際、始めに紹介した「2016年 日本の広告費」においても、スマートフォン広告費がPCの広告費を上回る結果となっていますが、インフィード広告が新たな成長領域として挙げられています。
多様化・複雑化するユーザーの閲覧環境
端末の普及とともにネット広告市場の多くを占めるようになったスマートフォン広告は、運用型広告において今後さらに重要なポジションとなっていくでしょう。
しかし、近年のスマートフォンユーザーの行動は、使用用途によりWebブラウザとアプリを使い分ける傾向があります。
従来のCookieを利用したターゲティング手法のみでは、限定的な配信になってしまうため、Webブラウザとアプリを横断したIDベースでのターゲティング配信や、オンラインとオフラインを掛け合わせて配信するO2O配信など、新しい技術を取り入れた配信設計も重要になってきています。
このように運用型広告は技術進歩やユーザーの環境変化により複雑化・高度化してきていますが、運用型広告を実施するにあたり押さえておく基本的なポイントは変わりません。次回からは、実践編として運用型広告の重要なポイントを整理して解説していきます。
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