NEC・資生堂が語るデジタルネイティブな仕事の進め方、アナログとデジタルの施策を融合させよ
デジタルネイティブ時代の今、企業では人材や体制をどのように整え、どのようにデジタルメディアを活用しているのか。9月月例セミナーの第2部では、「デジタルネイティブな仕事の進め方」について、NECの田中滋子氏と資生堂ジャパンの中條裕紀氏が広告主の立場から取り組みを語り、アビームコンサルティングの本間充氏と議論を交わした。
液晶のスクリーンだけがデジタルメディアではない
パネルディスカッションの冒頭、本間氏は第1部の講演「本当にデジタルネイティブな仕事の進め方」の感想を田中氏と中條氏に求める。
田中氏:2017年のWAB宣言は「企業デジタルネイティブ時代」として、デジタルネイティブとはいえない世代も含めて、企業全体として抵抗感なく仕事を進めることを考えてきた。第1部では、メディアの垣根を越えて、横連携を強くし、どのようなメディアにも興味を持つことが語られたと思う。今までやってきたことに固執することなく、新しいチャレンジを行うことが大事だと感じた。
中條氏:そもそも、どこまでがデジタルメディアなのか定義する必要があると感じた。デジタル広告として、PC、スマートフォン、タブレット広告などのモニタの中に出る広告を指している企業は多いが、本間さんの話を聞いて、もっと広くメディアをとらえなければならないと思った。昔からの企業の広告宣伝活動の流れで、もののとらえ方が固定的になっていたが、改めて見直すきっかけとなった。
本間氏:以前、20代の学生ボランティアと話したとき、「テレビにはあまり出ない、好きなアーティストの番組を聞くためにradikoをよく使っている」と聞いたが、その若者は「ラジオ」という言葉は知らなかった。今、社内でメディアのとらえ方を議論することはあるのか。
中條氏:メディアを知るきっかけとして、第1部のような話や、生活者を知るような活動があればいいが、なかなかそのような議論は起きにくい。マーケティング活動のなかでインタビューを行っているが、彼・彼女らはメディアを我々とは違うようにとらえている。解釈の仕方が変わってきていることは感じている。
社内で不足しているのは人材か、それとも知識か
本間氏:今日は、デジタルメディアよりも、メディア全般の話をしたほうがいいと思っている。メディア戦略を再考するとき、「人材育成や人材不足」という話と、「知識や知見が足りない」という話がでてくるが、本当に不足しているのはどちらなのだろうか。
田中氏:人材不足については、Web広告研究会のいくつかの委員会でも議論している。マーケターの人たちがデジタルを特別なものとせず、知識を身に付けて進める必要があると思う。しかし、テクニカルな部分が複雑で、さまざまなことを知らなければならないことがネックになっている。どこまで勉強すればいいのかという指針が必要で、社内、社外で誰が何を知っているのか共有し、ネットワーキングして知識を貯めていくことも重要だと思う。
中條氏:知識の方が重要だと考え、モノのとらえ方や業務プロセスを変えなければならないと感じている。人材不足はずっと前から言われているが、すべてをこなせるスーパーマンは存在せず、今いる人間でやっていくしかないとも考えている。知識は、欲しいと思わないと得られない。たとえば、デジタルメディアに詳しくなろうと考えても、どこまでがデジタルメディアなのか、とらえ直すことが重要だと思う。
メディアごとの縦割りから部門を越えた融合へ
本間氏:これまでは、20代のデジタルネイティブ世代を雇って、デジタルやメディア戦略を任せるのがいいのではないかとも議論されてきた。しかし、就職市場が活況で人材を取りにくい状況になり、いきなり即戦力というのも考えにくい。デジタルネイティブ世代に任せたほうがいいのか、それともほかに方法があるのか。
田中氏:どの企業も年齢層が高くなり、新しい人が入ってこないという問題があるのではないか。新しい人に入ってほしいとは思っているが、実際は今いる人たちで何とかしなければならない。個人的には、若い人には細かな指示をせず、自由にやってみてもらい、我々が知らないデジタルメディアの活用法を試してほしいと考えている。
中條氏:新入社員が我々の部署にはじめから来ることはないが、2~3年目の社員がジョブチャレンジで配属されることはよくあり、若い世代も多い。組織で動いているので、スーパーマンが入ってきて属人的になるよりも、人が変わっても同じパフォーマンスのマーケティングができるような仕組み作りが企業にとって重要だと思う。
本間氏:資生堂では、デジタル担当とアナログ担当を分けているのか、それとも限りなく融合させようとしているのか。
中條氏:メディアごとに担当がいる。うちの部は3グループに分かれていて、1つがペイドの担当として4マスとデジタルを受け持つ。もう1つはPR、もう1つがデジタルのサポートグループになっている。私がいるグループとデジタルサポートのグループが一緒に動くと、OOH(屋外・交通広告)をデジタルで活用できないかなど、融合しやすくなる。
田中氏:NECもメディアごとに担当している。従来メディアにはそれぞれ担当がいるが、デジタルに関しては広告宣伝部門だけでなく、事業部も含めたさまざまな人が関わっている。それを統括すべきだという話もあるが、商材の特性なども知らなければならないため、集中的にやるのは複雑で難しい。たとえば、SEOのキーワードが社内でバッティングするようなことがあるため、もう少し効率的に実施する必要性も感じている。
「デジタルネイティブ時代」という言葉が指す意味
本間氏:元々、Web広告研究会でデジタルを理解すべきだと言ってきた背景には、「デジタルを理解できないと仕事にならない」という意味合いがある。去年までのWAB宣言にはそれが含まれていた。今年の「企業デジタルネイティブネイティブ時代」は、どのような意味を指しているのか。
田中氏:今年のWAB宣言は、「デジタルをあたりまえのこととしてとらえて、みんなでデジタルに取り組んでいこう」と、少し柔らかくなっている。
本間氏:第1部の講演は、WAB宣言のアンチテーゼでもあって、そもそもアナログがないと言っている。
田中氏:デジタルとリアルの垣根を越えて、抵抗感なくやっていこうという意味なので、同じことを言っていると感じている。新しいアイデアと発想で取り組むことが重要になる。
本間氏:今の若手の広告担当者は、メディアの比較はやっていても、実際にテレビ局やラジオ局、新聞社に行ってみたり、出稿価格を調べたりしていない気がしている。新聞社の輪転機を実際に見たことがある人や、テレビ局やラジオ局に行ったことがある人は少ない。
中條氏:デジタル以外の、他のメディア研究もやるべきだと思う。知らなかったことを知ることで、発想が変わるきっかけになるかもしれない。
本間氏:ラジオのCMは、定価を聞くと非常に安いと思った。新聞では日経新聞の出稿価格がサイトに出ているが、ブランドパネルと比べると非常に安い。どれも意外とやっていなかった。
田中氏:デジタル以外のことを知るという意味では、ジョブローテーションでいろいろな経験をすることは、マーケティング目線で非常に重要だと思う。これまで、デジタルの人はずっとデジタルのことを考えてきていた。
本間氏:おそらく、今はデジタルを知るみなさんの方が、メディアと対等に話せるのではないか。残念ながら、これまでの新聞やラジオの担当者は、新たな技術革新を追いかける気持ちがないと感じている。一方、放送局や新聞社は、技術革新で新しい事業をやりたいと考えている。
今のラジオは、過去のオープンリールを回していた時代からは考えが及ばない世界になってきており、radikoでラジオを聞ける時代となり、47都道府県の視聴者のスマートフォンにターゲティング広告を打つことも考えられている。今までのように、性年齢でターゲティングしようとすると大変だが、ラジオはコンテンツごとに明確な趣味嗜好があるというのも見逃せない。
田中氏:従来通りの発想ではなく、新しく何かできないかと考えることが非常に重要だということ。そのためには、人が変わったり、やることを変えていったりすることが必要になる。そうすることで新しいアイデアが生まれやすくなると思う。
中條氏:メーカーも縦割りの担当となっているところが多いが、広告会社の組織もメディア単位で縦割りとなっている。その垣根をまたいだところで新しいものができてくる気がしている。デジタルの担当者だけでなく、テレビやラジオの担当者も交えて話し始めていくことからやろうと考えている。
本間氏:旧来の広告主の宣伝部は、紙メディアを担当した後にテレビかラジオに行くケースが多かった。しかし、今はジョブローテーションを組む広告主が減ってきている。今日、参加されている方はデジタル担当者が多いと思うが、いろいろなメディアの垣根を崩して話しを進めていってもらいたい。
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「NEC・資生堂が語るデジタルネイティブな仕事の進め方、アナログとデジタルの施策を融合させよ」2017年9月26日開催 月例セミナーレポート 第2部(2017/11/30)
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