「アウトドア」の再流行の背景には、IT技術の活用がある ― 仕掛け人が明かした“ぶれない理念”
ショッピングや予約、友人とのコミュニケーションなど様々なことがインターネット上で可能になり、あらゆることが便利になってきています。
ですが、その反動からか、現代人が日常生活の中で大自然の中に身を置く機会はどんどん減っているのではないでしょうか。
そんな中、自然とともにあるアウトドア業界は盛り上がりを見せています。近年発表されたオートキャンプ白書によると、アウトドアアクティビティの中でも特に人気の高いキャンプは、5年連続で参加人口が増加しているとのこと。
大きな盛り上がりをみせるキャンプ業界の中でも著しい成長を続けているのが、新潟を代表するアウトドアメーカー 「スノーピーク」です。
スノーピーク取締役のリース能亜氏は、同社の急成長の一端にはIT活用があるといいます。
実際、スノーピークでは2018年3月、フラーと共同開発したスマートフォン向けの公式アプリを公開してから約半年という短期間で、Webの全機能をアプリに集約させるなど、ITへの取り組み強化が急ピッチで進んでいます。
スノーピークはいったい、ITをどう捉え、どう活用していくのでしょうか。
アウトドア業界が盛り上がりを見せる理由からスノーピークのIT活用まで、その全貌をリース氏に聞きました。そこには、ユーザーとのより深い繋がりを考える姿勢がありました。
経営コンサルタントを経て、2017年、株式会社スノーピークに執行役員ビジネスプロセスイノベーション本部長として入社。2018年取締役執行役員経営企画管理本部長、2019年1月より取締役執行役員商品本部長CSOに就任。
デジタル中心の世界で本当に必要な「繋がり」
―― 現代人は生活の中心にインターネットがあり、アウトドアへの接点が減っているように感じます。そんな中、なぜアウトドア産業が盛り上がりをみせているのでしょうか?
「技術の進歩で何がどう変わったか整理すると、まず大きく変わったのはコミュニケーションのあり方です。
インターネットが普及するまでは、コミュニケーションは対面が基本でした。ですが、今ではメールやオンラインチャットなどが多くなってきています。リアルな世界で繋がる機会があっても、SNSを通じて連絡を取り合うように。自然と人との繋がりも同様です。すぐそこに自然があるのに人はインターネット上で自然を感じようとしています。」
「そんな中、技術の進歩で繋がりが弱くなっているからこそ、家族の絆や友人との絆を大事にしたいと考え、キャンプを始める人たちがいます。そういった人たちが年々増加しているため、バブル期から減り続けていたキャンプ人口が徐々に増加しているのだと考えています。」
実際、子連れでキャンプを楽しむファミリー層が全体の6割以上となっていることからも、キャンプで家族との絆を深めている人たちが一定数いることがわかります。
しかし、キャンプの人気が徐々に高まる一方、いまだにキャンプは難しいというイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
キャンプのネガティブなイメージは、キャンプに挑戦する際の心理的なハードルから生まれているとリースさんは言います。
キャンプを始める3つのハードル
「キャンプには、
- ノウハウ
- コスト
- コミュニティ
という3つのハードルがあります。
キャンプしようと思い立ったとき、どう準備するのか、どう楽しむのかわからない状態からスタートするのが普通だと思います。ですが、そういう状態でキャンプしようとすると、『また今度やろう』、『今回は準備不足だから』という風に、諦める理由を探してしまうことになりかねません。
そのハードルを乗り越えたとき、次にぶつかるのがコストの壁です。初めてのキャンプで道具を一気に買い揃えようとすると、なかなかのお金が必要になりますが、レンタルだと手順がわからないなんてことが起こってしまいます。
最後のハードルは、誰とキャンプに行けばいいのかわからないこと。キャンプ人口が増えているとはいえ、日本では人口の6%程度しかキャンプ人口はいないので、身近にキャンプに興味を持っている人がいないなんてことはありえる話。一緒にキャンプを楽しむ人を見つけるには、キャンプコミュニティに参加するのが手っ取り早い手段ですが、キャンプコミュニティとの接点を作る段階でつまづいてしまう人が多いのが現状です。」
リースさんが指摘する3つのハードルは、他のアウトドアやスポーツなどでも共通なんだそうです。
多くの業界に共通する課題なのに、いまだに残っているということは、解決が難しいということ。
スノーピークはこれらのハードルを下げるためにどのようなアプローチをしているのでしょうか。
「それぞれのハードルを下げるため、コミュニティの形成に力を入れ続けています。というのも、スノーピークユーザー同士が繋がり自発的なコミュニティが生まれることで、キャンプのノウハウがコミュニティ内で共有されるようになり、キャンプにかかるコストを支払うことに対する考え方も変わってくると考えているからです。
また、スノーピークのユーザー同士だけでなく、スノーピーク社員とユーザーを繋げたり、社員やユーザーと、キャンプ未経験者を繋げるイベントも開催しています。キャンプ業界は、ファッション業界のような流行に左右されるビジネスモデルではないため、固定ユーザーの存在はブランドを支える大きな資産となります。ユーザーとのつながりを大切にしながら、そのコミュニティの輪を広げていくことに力を入れています。」
人同士の繋がりを大切にするスノーピークだけあり、問題へのアプローチも、繋がりが中心。
今回、アプリをアップデートした影にも繋がりを強める何かがあるのでしょうか。
ITに力を入れるスノーピーク
――ユーザーを大事にするスノーピークのスタンスと、Webの全機能をスマホアプリへ集約した今回の施策には、何か関係があるんでしょうか?
「今の時代、顧客との接点はモバイルデバイスが中心です。実際、ウェブサイトへのトラフィックは6-7割がモバイルデバイスからきています。
一昔前の勝負所は、各企業がポイントカードを発行し、そのカードが財布の中に入っているかどうかでしたが、今の時代、デジタルな世界での顧客接点の有無が命綱です。
特に、私たちのようなブランド企業は顧客に直接的に価値を提供できる接点がないとブランドとして成り立ちません。そのため、時代に合わせた顧客接点を作り続けていく必要があります。今の時代、アプリは実店舗・Web・イベントなどと並ぶ、顧客とブランドの重要な接点。公開当初はアプリの機能が顧客管理や購買活動、ニュース配信といった購入前のバリューチェーンのみに限定されていましたが、今回のアップデートにより、スノーピークの大切にしている購入後のアフターケアを含む、Web上にある全機能がアプリに集約され、新たな顧客接点として確立されたと思っています。」
今回のアップデートで、Webサイトに追いついた形となるスノーピーク公式アプリ。今後、公式アプリにどのような変化が起こっていくのか気になります。
「Web上の機能をアプリに集約したことで、アプリを通して顧客データを収集する基盤が出来上がりました。
とはいえ、今はどのようなデータを集め、どう活用していくのかを検討している段階。イベント参加や、購入ギアのサイズ・種類、実店舗訪問履歴などをアプリで取得し、顧客へネクストアクションを提案できるような形はいいかもしれませんね。」
技術の活用を支えるぶれない理念
リースさんは、テクノロジー活用はアウトドア業界でも必要不可欠だと前置きした上で、最先端技術、特にAIの活用はまだ時期尚早だと語ります。
「繰り返しになりますが、スノーピークは顧客とのリアルな接点を大事にしてきたブランドです。だからこそ、コールセンターなどの顧客接点には人対人のコミュニケーションが必要だと考えています。
効率化のためにAIを導入するのはいい選択だとは思いますが、私たちは顧客に対してより親身なサービスを開発するために技術を活用していきたいと思っています。」
アプリも最先端技術も、結局は目的達成のための手段です。流行手法の利用を手段ではなく目的化し、失敗してしまう会社が多い中、スノーピークが急成長を続けているのは、ぶれない理念のために技術を手段として使いこなしているからなのかもしれません。
「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちらデジタル中心の世界で再流行するアウトドア。仕掛け人が明かすIT活用2019/01/31
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