若い世代に寄り添い、実務に役立つ団体であり続けたい――Web広告研究会 新代表幹事 POLA中村俊之氏インタビュー
初の30代代表幹事が誕生した。
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会は、第7代となる新代表幹事に、ポーラ CRM戦略部 課長の中村俊之氏が就任したことを発表した。
中村氏は、新卒でコニカミノルタに入社。計測器事業の営業、販売企画を皮切りに、新規事業開発、企業ブランディング、インターナルブランディング、グループのデジタルマーケティング統括に従事したのち、2018年ポーラに入社し、現在はCRM戦略を担当している。
代表幹事就任にあたって、そのミッションをどのように捉えているか。Web広告研究会の現状や課題、今後の運営方針などについて、中村氏と、同会事務局オフィスマネージャーの林博史氏に、お話を伺った。
中村氏が考える、代表幹事の役割とは
――代表幹事就任おめでとうございます。Web広告研究会、業界内では「Web研」の通称で知られています。創立20年、会員社も300社を超える、Web業界内でも歴史の古い、大きな業界団体ですが、7代目にして初の30代での代表幹事就任ですね。
中村: 確かに、お話をいただいたとき、年齢的なところで少し戸惑いがあったのは事実です。まさか代表とは。
林: 驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、Web研は現場で手足を動かしている実務担当者が中心の組織なので、やはり代表幹事も実務がちゃんとわかっている人がいいというのは、選考の際の一致した見解でした。実務がわかっていて、さらにマネジャークラスとなると、中村さんくらいの年齢は妥当だと思います。
――中村さんが考える、代表幹事の役割とは、何でしょうか?
中村: 業界の発展に寄与することが大前提として、次世代が活躍するための土台づくりが、私に課せられた役割なのではないかと、考えています。
――次の世代というのは、中村さんよりも、さらに下の世代?
中村: はい。私も幹事会などでは「若手」と言われますが、社会人的にはもうそんなに若くはなく、現場には、もっと若い子たちがたくさんいます。Web研とは、彼らがさらに大きく活躍していくときに、役に立ち、寄り添える団体でなければならないと思います。
――それこそが、業界の発展に寄与するとお考えということでしょうか?
中村: はい。Web、デジタル業界の発展は、Web研という組織の一番の命題です。しかも、Web研とは、立場に関わらずデジタル関連の業務に精通している人たちが多く集まる団体です。だからこそ、「現場の人間のためになる」、「実務に役立つ」団体であり続けたい、そう思っています。
代 | 就任年 | 氏名 | 所属(就任時点) |
1 | 1999 | 岩城陸奥 | 資生堂 |
2 | 2002 | 真野英明 | キリンビール |
3 | 2005 | 棗田眞次郎 | 味の素 |
4 | 2009 | 渡辺春樹 | 本田技研工業 |
5 | 2010 | 本間充 | 花王 |
6 | 2015 | 田中滋子 | NEC |
7 | 2019 | 中村俊之 | POLA |
Web研は、さまざまな立場の人が垣根を越えて議論できる場
――そもそもWeb研とは、どういう組織なのでしょうか?
中村: Webという名前はついていますが、Webサイトだけでなく、デジタル関連業務に携わる人たち、それも、広告主だけじゃなく、ベンダーやサプライヤーなどのビジネスパートナーも一体となって議論する場です。業界の今だけでなく、次代を見据えた発展的なテーマで議論をする機会も多い。それがWeb広告研究会の一番の特徴だと思います。
――受発注という立場を抜きに語り合える場、ということが一番の特色なのですね。
中村: そうです。広告業界の中でも非常に独立性が高いのは、そういった垣根なく、議論をしながら話ができる場であることを、大事に続けてきたからだと思います。
Web研の特色、存在意義って何ですか?
――Web研が発足した当時は、そういった同業他社との交流の場はほとんどなく、非常に貴重な会だったと思います。その後、SNSによって個人間での交流も簡単になり、セミナー・イベントも増えました。そういった中で、これからのWeb研の存在意義というのは、どこに求めるべきなのでしょうか?
中村: 時代に沿った立ち位置を明確化することが、これからの一番の課題だと認識しています。
林: 1つ、他の団体や組織と違うところがあるとすれば、参加プロセスの違いでしょうか。Web研の入会資格は「インターネット広告、マーケティング、コミュニケーションに関わっている法人、団体」で、一口年間20万円の年会費をお支払いいただきます(一口で2名登録できる)。個人で参加するということはできません。会社できちんと承認プロセスを経て、組織として参加している。ここが大きな違いです。
――会員社の皆さんには、会社を代表して参加している意識があるのでしょうか?
中村: そこは、人それぞれかなとも思いますが、一般的なイベントやセミナーの場合は個人が単発で申し込むことも多いですが、Web研の場合、少し違います。業界団体としての母体となる組織があって、そこに連なる会員社があり、その企業に所属する社員がメンバーとして登録されます。委員会に参加すれば月に一度は顔を合わせて議論ができる。その構造が違うところかなと思います。
林: 長い企業さんだと、20年ずっと会員として活動しています。メンバーは変わっていきますが、大筋の枠では変わらない。この継続性が特徴的なところだと思います。
――会社の垣根を超えた勉強の場であり、交流や情報交換の場なのですね。
中村: そうですね。Web研でも公開セミナーを行っていますが、各委員会での議論や調査の結果や、重要だと考えるテーマについての得られた知見を会員社へ共有するための場であって、商売的な考えはないんです。また委員会参加メンバーは必ずしも目の前に担当業務に直結した調査をする必要がないので、セミナーのテーマも少しチャレンジングであったり、ピュアなものが多いかもしれません。
「デジタル業界の変化に合わせて、我々も変化しなくてはいけない」
――現在の一番の課題は、他所との差別化に尽きるのでしょうか?
中村: 実をいうと、まだ「これが一番の課題だ」と明確に言い切れる状態ではないです。というのも、先日、代表幹事に就任して初めての幹事会で、改めてこれからのWeb研のあるべき姿を、一緒にみんなで考えていきたいということをお話ししましたが、そのための最初のステップとして、現在、会員社や幹事、業界の有識者など、Web研のステークホルダーへヒアリングを始めています。かなり辛辣な意見も出てきていますが、今は、それらを踏まえて、どう行動すべきか、情報を整理している段階です。
――まだぼんやりとしか見えないけど、課題はかなり多いという意識なのでしょうか?
林: デジタル業界の急激な変化に対応していかなくてはいけないという意味での、危機意識はかなり持っています。Web広告研究会が設立された20年前は、企業のデジタル担当とは、大企業であっても、1人か、いても数人が普通でした。1人がWebやデジタルに関するすべてを全部やっていた時代から、今は、データ分析、ソーシャル担当、広告出稿、コーポレートサイト担当と、かつてはなかった仕事も増え、しかも個々の仕事が部署として独立して存在するような状態になって、企業によっては担当者が数百人レベルというのも珍しくなくなりました。
Web研は、現在11の委員会と、そこに付随するワーキンググループ、3つのプロジェクトから成りますが、かつてはこれらが一体となってWeb研という1つの組織として成り立っていました。ただ、Webやデジタルが当たり前になり、個々の専門性が高まるにつれて、Web研の中でも委員会同士の関係性が希薄になりつつあります。自分の担当領域とは異なるから、隣の委員会のことなど興味ない。そういった雰囲気が強まっている現状には、危機感を感じています。
――組織としてのアイデンティティが薄れつつあるのではないか、ということでしょうか?
林: かつてのWeb研は、ひとりきりでさまざまなデジタル関連のタスクをこなさなければならなかったWeb担当者たちの互助会的な側面もありました。ただ、業務が細分化した現在にあっても、経験や興味のない分野も含め幅広く知見を広げることは、必ずプラスになるはずですし、それはかつてWeb研の会員社さんの多くが経験されてきたこと。そこをもう一度取り戻すような活動とは何か、それがこれからの大きな課題です。
中村: ここ数年のデジタルに関わる業務の幅の広がり方は急激ですし、IoTのようなコミュニケーション業務の枠におさまらないテーマや、経営課題に直結するようなミッションも増えています。だからこそ、もともとあったフレームみたいなものを、ちょっと外して考えていかないと。今はそういうタイミングだと感じます。
――組織構造自体を、変える可能性もあるということですか?
中村: 今までもビッグデータ委員会やイノベーション委員会など、時代の変化に合わせて委員会は増えています。どこまでカタチを変えるかは未知数ですが、世の中の変化に合わせて、我々も変化していく組織でなければいけないとは思います。
クローズドだからこそのメリットもある
――Web研から外への情報発信は、これまでは、Web担でもセミナーレポートという形で、取り上げさせていただきましたが、どうお考えですか?
林: もちろん、今後もセミナーレポートは外部公開していくつもりですが、ただ、これはWeb研のメインの活動ではないんですよね。
――Web研のメインの活動は、基本、クローズドで行う委員会活動である、と。
林: はい。もう少しオープンにしてもいいのではという意見も以前から出ていますが、これまでの歴史や経緯を考えると、閉ざされた場所だからこそ、いろんなことを議論し合えるというメリットは大きい。その良さをなくさない範囲で、変えるところ、変えてはいけないところを、論点を整理し、議論する必要があると思っています。
――若い人でも、Web研の存在を知って興味を持つ人も少なくないと思います。でも、会社として参加しなきゃいけない、会社の中で代表に選ばれなきゃいけない、とツーステップがあるので、かなりハードルが高いですよね。
林: 実際、入会を検討している企業に説明しに行くと、1回お試しで参加してみたいというニーズはすごくあるんです。ただ、今までは、それはすべてお断りしているので、そういった部分を変えるだけでも、大きく変わるのかなという気はしています。
――会員社の入れ替わりは激しいのでしょうか?
林: 会費は年額なので、更新の段階で辞められる会社ももちろんあります。ただ、辞められる会社のほとんどは、1年ほぼ委員会活動をしていないので、それは仕方ないと思っています。ただ、活動しなくなるということに対しては、何らかの対応をしなければいけないと思っています
中村: やはりWeb研という団体の良さを、きちんと棚卸しして、魅力を磨いて、わかりやすく伝えることが、大事だと考えています。委員会などで研究された内容を、セミナーという形で世に出す。それを聴けるのは、1つのメリットです。でも、Web研の一番の良さは、委員会に出ることで、登録メンバーだけが定期的に集まる特別な空間ならではの闊達な雰囲気の中で、垣根を超えて議論できることだと思います。会社や年齢、立場や専門などが違う方とのやり取りは本当に勉強になりますし、仕事に活かせます。そこでの出会いからつながりができて、仕事の範囲や人脈が広がっていくことも、少なくありません。自分も体験してきたその「良さ」というのを、もっと伝わるようにするべきだと思います。
中村さんはどういう人?
――中村さんがWeb研と関わりを持つようになったのは、いつからですか?
中村: もともとWeb研の親団体の日本アドバタイザーズ協会の研修などに参加していましたが、2012年に、当時勤めていたコニカミノルタのSNS担当としてWeb研に加入したのが契機で、林さんとのお付き合いもそのころからです。
――その当時の、中村さんはどういう印象でしたか?
林: 当時から、相手の年齢や役職などをきちんとリスペクトしながらも、自分の意見をきちんと伝えられる人でした。昔のWeb研は、他社のやっていることであっても、それはおかしいんじゃないの? とはっきりおっしゃる方が非常に多かったのですが、最近はそういった雰囲気がちょっとずつ薄れつつある中で、久々にそういう方がきたな、と(笑)。
中村: あまり言い過ぎないように気を付けないと(笑)。
林: いやいや、きちんと自分の意見を言うことは、コミュニケーションの基本だと思っていますが、それがきちんとできる方だな、と。特に、2017年に動画活用委員会の副委員長になってから頻繁に接する機会が増えましたが、議論の進め方にパワーがあるなぁと、ずっと思っていました。
事務局・林さんから中村さんに期待すること
――林さんから中村さんに期待することは何ですか?
林: 先ほど申し上げたとおり、多くの部分をクローズドで活動してきたがゆえに、どのような活動をしているのか理解してもらえていないというのが現状だと思います。それでも、以前であれば、こういう活動をしているのはWeb研しかなかったので多くの方が集まる場になっていましたが、現在は違います。
多くの場所でセミナーや勉強会、ユーザー会などがあり、担当業務が近い人同士・年齢が近い人同士など、自分が参加しやすい場を見つけやすい状態になっていると思います。
Web研は、デジタル業界で頑張って働いている人、その全体の拠り所というか、何かあったときに、あそこなら相談できると思ってもらえるような場所として機能したいと思っています。
中村: 私自身、Web研に出入りし始めたころは、デジタル関係は初心者だったのですが、Web研から得られた学びや出会いを頼りにしながら業務をしていました。入門編的なことだけではなく、時代の最先端を教えてくれる人や委員会があって、それを学ぶこともできる。この恩恵を実感した私だからこそ、それをわかりやすく、Web研のメリットとして伝えていきたいですね。
自分より若い世代をサポートできる団体にしたい
――最後に、改めて意気込みと抱負をお聞かせください。
中村: 私は、入社以来ずっとデジタル畑というキャリアではなく、メーカー営業からスタートし、新規事業の立ち上げなどを経験してから、Web、デジタル業界に入ってきた人間です。その経験から強く感じるのは、デジタルに関わる業務の幅は、今や大変なスピードで広がっているということ。自分自身の役割やミッションも、短いスパンで変わったり、加わったりしています。時代の変化に合わせた団体の新しいカタチを、会員社や幹事会、その他さまざまなステークホルダーの皆様と一緒に作っていきたいと思っています。
もう1つは、自分よりも若い世代に対して、仕事の幅を広げたり、働く上での可能性を広げたりできるよう、サポートできる団体にしたい。そのために課題の整理や、ビジョンの策定などを、皆様と議論しながら成し遂げたいと思っています。
これら2つを通じて、業界の発展に貢献していきたいです。
――最後に、せっかくですので、Web研には参加していないけれども興味がある方たちに向けて、何かコメントを。
林: 最終的に参加するかどうかは別として、なんとなくでも興味をお持ちなら、呼んでいただければ、ご説明に伺います。皆さんが、何が知りたいか、何がしたいか、どういうふうになりたいかを、お聞かせいただくのは、私どもとしてもありがたいことなので。これからのWeb研がどう変わっていけばいいのかを考える材料になりますし、入会しようか迷っている企業にとって、より役に立てる場に変わっていけるのではないかと思っています。
中村: 興味がある会社の方は、ぜひ林さんにお問い合わせください。いろいろな学びがあり、意義ある団体なので、一緒に業界に盛り上げていくという意味でも、ご参加いただけると嬉しいです。
――ありがとうございました。
中村・林: ありがとうございました。
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