キリンが語る「デジタル販促」で分断された顧客の購買行動を把握。BtoBtoCの課題を解決したLINE活用事例
キリンのようなBtoBtoCの業界では、メーカーとお客様との間に店頭が入るという業界構造上、メーカーが直接、お客様の購買行動を把握できていなかった。その課題を解決するために、「LINEを活用したデジタル販促」を行ったという。
LINE主催の「O2Otech」に登壇した、キリンビールの野際氏、博報堂DYメディアパートナーズの窪田氏、LINEの江田氏がそれぞれの立場について言及しながらデジタル販促の事例について説明した。
メーカー、代理店、プラットフォーマー3人の関係性を確認
登壇した3人はまず、お互いの関係性について説明した。
野際氏は、キリン内でLINEを担当していた。窪田氏は博報堂でキリンの営業担当としてLINEを使ったデジタル販促の提案し、プラットフォーマーであるLINEの江田氏がLINE活用のサポートを行ったという。
根本課題は、お客様の購買行動を把握できない
そもそもデジタル販促をするに至った理由の一つとして、キリンの野際氏は、BtoBtoCという業界の構造上、お客様の購買行動(データ)が把握できないことが課題だったと指摘。
その課題を解決したのが、LINEを活用したデジタル販促だったという。
たとえば、自社アプリを作って、デジタル販促キャンペーンを行う方法もある。しかし、その場合、自社アプリをユーザーのスマホにダウンロードしてもらう必要がある。その後、ようやく販促キャンペーンに参加してもらうという、ステップを経るとなると、アプリの開発コストやダウンロードを促すための広告費も掛かる。そもそも、アプリをダウンロードしてもらうことのハードルが高い。
その点、LINEならば、すでに月間7,900万人のユーザーに使われているため、LINEを活用してキャンペーン施策をする方が効率的だという。
今までの主なキャンペーンは、商品にべた付きでプレゼントをしたり、はがきで応募したりするアナログなものが王道だった。しかし、アナログのキャンペーンでは、キャンペーン期間中の改善が難しく、次回のキャンペーンの時に改善することがほとんどだった。
これが、LINEを使った販促であれば、キャンペーン期間中の改善を目的とした1to1のプッシュ通知が送れるという。実際に行った3本買うことに「LINEポイントが100ポイント」もらえるというキャンペーンを例に説明する。
1対1の対面販売のようなコミュニケーションが実現できる。たとえば、次のようなことが可能になる。
- LINE応募なので、会員登録不要だとお知らせ
- 締め切りが間近であることをお知らせ
- キャンペーンを行っていることをお知らせ
- 3本目を買い忘れているお客様にリマインドのお知らせ
キャンペーン実施中に、「未応募者」「休眠者」「締め切り間近」というタイミングで、お客様にプッシュ通知を送ったところ、キャンペーン参加が増加。プッシュ通知を送ったタイミングで、ユーザーが反応して、キャンペーンに参加してくれているデータも得られた。
通常行っているはがき応募の参加率に比べても、圧倒的に参加率が高い結果が得られたという。
LINEを使ったデジタル販促の利点としては、次のような点が挙げられる。
- アプリのダウンロードが不要で、キャンペーンの実施ができる
- ユーザーの購買、行動データが取得できる
- ユーザーの行動に合わせた1to1のプッシュ通知が送れる
野際氏はこのキャンペーンを振り返り、次のように述べた。
デジタル販促であれば、キャンペーン実施中に、データを見ながらPDCAが回せる。また、プッシュ通知を送ることでユーザーの行動に変化を与えられ、効果があるということが見えたことは大きな価値(野際氏)
自動販売機にLINEをかざすと、ポイントがたまる「Tappiness(タピネス)」
次に、LINE Beaconの活用事例を紹介する。
キリンの自動販売機「Tappiness(タピネス)」をご存じだろうか?
Tappiness(タピネス)とは、LINEと自動販売機をBeaconで連携して、購入ごとに自動販売機にスマホをかざすと、ドリンクポイントがたまるというもの。
自動販売機を「販売装置」から「マーケティング装置」へ変換する施策だという。
たとえば、自動販売機は「どの商品が何本売れたか」というデータを把握できても、「いつ・誰が・なにを・何本買ったか」まではわからなかった。これがLINE Beaconと自動販売機を連動させることで可視化できる。
先述した事例同様、自社アプリを開発してやろうとすると、アプリの開発コストもかかるうえに、ユーザーのスマホにダウンロードしてもらう必要性がある。ダウンロードするということ自体のハードルが高い。やはり、多くのユーザーが馴れ親しんでいるLINEと手を組んで施策を進める方が効果的(窪田氏)
実際にコーヒー購入者のデータを分析したところ、ユーザーの約10%が売上の45%を作っている。ミドルユーザーとヘビーユーザーを合わせると、実に、売上の70%~80%を担っていることがわかった。
また、朝7時~10時が一番購入される時間帯で、売上全体の40%を占めていることがわかった。時間帯別の行動データが把握できれば、その時間に合わせてプッシュ通知を送ることも可能で、打ち手が見えてくるという。
社内調整が実は一番重要
このような施策を実施しようとしても、実現が難しいこともあるという。江田氏も、周囲から「キリン自動販売機 Tappiness(タピネス)はどう実現させたのか?」と質問されることがあるという。
この点に関して、野際氏は「組織体制の変化が大きい」と言及する。
従来の組織体系は、事業部ごとに予算があり、お客様とのコミュニケーションも個別最適になりがちだった。デジタル部門の役割も、プロモーション領域に限るといった、限定的な形が多く、全体最適なコミュニケーションが難しかった。
そこから、お客様を中心に、各事業部が横串を刺す組織体系に変化し、デジタル部門が旗振り役となり、横断的に顧客データを取得して、分析するという体制に変わった。この組織の変化がTappiness(タピネス)誕生につながったことは間違いない。
とはいえ、事業部ごとに役割や予算があるので、一つひとつに対して、丁寧に説明して、細かな調整を行って実現できたと、野際氏は言う。
LINE Beaconは魔法の箱ではない
実施に際して、かなりのトライ&エラーがあったという。江田氏も「LINE Beaconは魔法の箱ではありません。自動販売機にBeaconを取り付けたら、ひとりでに購入者がスマホをかざしてくれるなんてことはない」と強調する。
初回利用者に対して、ドリンクポイントがたまることを知ってもらい、さらに、スマホを手元に取り出してもらって、自動販売機にかざしてもらう必要がある。そのためには、実際の自動販売機を見てもわかるように、アナログのPOPが欠かせない。
アナログな領域にもPDCAが必要。スマホをかざす場所は、自動販売機の中央(赤枠)だが、それに気が付いてもらえないことも。右上の使い方説明ステッカーにスマホをかざしている人もいた(窪田氏)
また、習慣的に利用してもらうようになることも難しいという。リアルの店舗と違って声掛けができない、そのためプッシュ通知などでお客様に対して、習慣的に使うことをお知らせする仕組みが必要だ。
Beaconの向き、不向き
江田氏は現時点でのBeaconの特長を次のように示した。
Beacon不向き: 無人の店頭での期間限定キャンペーンなど。Beacon施策は認知して初回利用されるハードルが高く、期間限定のキャンペーンの場合は強い告知や、魅力的なコンテンツとのセットで施策を組み立てない限りは不向き。
Beacon向き: 習慣性があり、継続的なキャンペーンとして取り組む場合。初回利用のハードルを超えた上で、2回目・3回目以降の継続的な利用にこそBeacon施策は向いている。
まとめ
デジタル販促と一言で言っても、やはり実現するには、メーカー内の社内調整、実施に向けた代理店の協力、プラットフォーマー側のニーズに沿ったプロダクトの検討という三者三様の協力体制が欠かせないと述べ、講演を終えた。
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