成長戦略のカギを握る「Webサイト多言語対応」の課題と処方箋
グローバル化が進み、さらにデジタルシフトが求められている中で成長していくため、重要なカギを握るのが外国人戦略とMX(Multilingual Experience:多言語体験)だと語るのは、15,000以上のWebサイト・アプリが利用するWebサイト・アプリ多言語化ソリューション「WOVN.io」「WOVN.app」を提供するWovn Technologiesの小林弘佑氏だ。
オンラインで行われた「Web担当者Forum ミーティング 2020 春」のセッションで、小林氏は多言語対応のニーズの高まりと先行事例を紹介。そして実現に向けた課題と解決策について解説した。
成長戦略のキーワードはMX(多言語体験)
「新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、かつてないほど不確実性の高い経営環境になっています。これまでも様々な経済危機や災害がありましたが、デジタル分野は順調に成長を続けている」と小林氏はいう。
また、新型コロナウイルス(COVID-19)が瞬く間に世界中に広がったことからも、「世界がつながっている」ということが再認識されました。、そのような状況下において、小林氏が掲げるキーワードが、「外国人戦略」と「MX(Multilingual Experience:多言語体験)」だ。
「MX」が自社のビジネスにかけ合わさったとき、どのような価値が生まれるのか。今まさに、具体的なイメージを考える時期なのではないか(小林氏)
高まるWebサイト多言語対応の必要性
世界のインターネットユーザーの中で日本人の占める割合は3%
多言語対応は、世界的な傾向といえるようだ。その背景には、当然ながらインターネットの世界的な普及がある。世界人口77.5億人のうち、インターネットユーザー数は45.4億人にものぼる(2020年1月時点)。その中で日本人が占める割合はわずか3%に過ぎず、日本語だけで情報発信やサービス提供している場合は、世界中で3%だけに向けたものになってしまうという。
さらに、インターネットユーザーの利用言語割合をみると、日本での外国語対応で筆頭にあがる英語の利用者ですら全体の約25%にとどまる。
今後は中国語やスペイン語など非英語圏への対応に加え、経済成長が著しい新興国の言語対応も必要になるだろう(小林氏)
また公用語を複数もつ国が多いことや、米国などでもすでに多言語対応が標準となっていることを鑑みても、デジタル戦略で多言語化が重要なのは明らかだという。
日本人をターゲットとしたマーケットは縮小傾向
日本の人口は2008年をピークに減少傾向にあり、2060年までに約4,000万人減少すると予想されている。さらに、少子高齢化が加速しており、日本人のみをターゲットとしたマーケットは中長期的にみて縮小傾向にある。
国内の外国人比率が高まると予想される
また、国内においても外国人比率が高まることが予想されており、さまざまな事業・サービスの多言語対応が求められる。しかし現在は、他国と比較しても仕事や子育てなどの生活環境における外国人対応が十分できているとはいえない。特に災害時における迅速な情報提供は、早急に解決すべき課題となっているという。
そうした社会課題に対し、Wovn Technologiesでは、交通事業者との協業により交通情報の多言語による即時発信や、災害情報の翻訳精度向上を目的とした緊急対策チームなどの取り組みを進めてきたそうだ。
4つの外国人市場とMX
日本を取り巻く外国人市場は、次のように大きく4つに分類できるという。
- 国内×toC=在留・訪日外国人向け:交通インフラや店舗、自治体のサービスなど
- 国内×toB=外国人従業員向け:社内システムやイントラネット、マニュアルなど
- 海外×toC=在外外国人向け:越境ECやSaaS、データサービスなど
- 海外×toB=グローバル展開:コーポレートサイトやIRなど
そして、いずれも新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、世界全体でリアルからデジタルへの移行が加速している。たとえば、オフラインマーケティングはオンラインに、店舗販売はECにという具合だ。そしてその先にMXの最適化も重要になるという。
これまでは、日本人の顧客体験(CX)や従業員体験(EX)の最適化を考えればよかったが、そこに外国人のお客様や従業員が加わっており、今後は外国人の多言語体験(MX)の最適化が重要となる(小林氏)
Webサイト多言語対応によってMXを高めた事例
実際に、多言語対応によってMXを高めた事例として、次をあげた。
メガバンクのWebサイト多言語化
銀行口座の開設は在留外国人が最も苦労する部分だが、銀行の各支店に外国人対応の人員を配置するのは現実的ではない。そこで三井住友銀行ではWebサイトを多言語化し、オンライン上での口座開設を容易にすることで、銀行側の負担を最小に抑えながら外国人客を取り込むことに成功した。
大手航空会社のWebサイト多言語化
大手航空会社のWebサイトの多言語化では、増加する在留外国人に対して、“旅前”から“旅後”まで快適な航空サービスの提供に一役かっているという。
SaaSの多言語化
昨今の多様化する組織形態において、社内のクラウド型人事・労務システムや稟議システムを多言語対応させることで、外国人従業員の増加に対応し、従業員体験の向上を実現した。
ほかにも、アパレルブランドのECサイト多言語化による海外販売強化や、大手製造業のグローバルサイトの多言語化によるお客様サポートの強化など、多彩な事例が紹介された。
SaaSの活用で多言語対応が手の届く時代に
言語別開発は不要、運用自動化を実現
さまざまな事例からも「外国人の多言語体験(MX)の最適化」は重要だとわかるが、これまでは多言語化には多額の開発費と期間が必要であり、対応後も複雑な運用が求められ、スキルをもつ人材確保の難しさもあった。
しかし、「WOVN.io」のようなSaaSによる多言語化サービスを活用することで、導入・運用の負担は大きく軽減できる。「WOVN.io」は既存のサイトに後付けする形で導入ができ、運用も大部分を自動化できるようになるという。企業ニーズに合わせた最適な多言語対応を実現できる環境を提供しているといえるだろう。
さらに「WOVN.io」のデータベース上で翻訳資産を一括管理することで、これまでグループや企業内でバラバラだった翻訳品質やポリシーが統一され、作業効率・品質の向上や費用削減にも貢献している(小林氏)
Webサイト多言語対応で課題となる3つの領域と処方箋
小林氏は、Webサイトを多言語化する際に考慮すべき領域として、次の3つを挙げた。
- 翻訳
- UI/UX
- 海外プロモーション
翻訳
「翻訳」については、ニューラルネットワークの台頭によって機械翻訳の品質が向上しているが、固有名詞や複数の意味をもつ言葉など予測できないエラーも多いそうだ。
かといって人的対応では、決済ページやマイページ、リコメンドなど動的なコンテンツへの対応が困難である。そこでプロダクトとしての「WOVN.io」と人的対応をうまく組み合わせることで、精度やカバー範囲をあげていくことが現実的だという。
UI/UX
「UI/UX」については、言語によってテキスト分量が異なることもあり、レイアウト崩れが生じやすいことが課題となる。
そこで「WOVN.io」では、各ページを閲覧して「UI/UX」を確認しながら、担当者が表現やテキストの大きさを調整できるようにしているという。また国によってコンテンツを変えたいときには、CSSやJavaScriptなどを使って自動的に差し替えることも可能となっている。
海外プロモーション
作成した多言語対応サイトをより多くの人に閲覧してもらうには、「海外プロモーション」がカギになる。とはいえ、当然ながら、アウトバウンド(在外外国人)、在留外国人、インバウンド(訪日外国人)など「外国人の行動タイミング」によって施策も異なってくるため、すべての経験があるという人は日本では皆無に近い。相談先もなく、効果や継続的な運用に関する知見なども不足しがちだ。
小林氏は、「そうした海外プロモーションの経験や知見の蓄積も、多言語対応のパートナー選びで考慮すべきポイントとなる」と語り、「当社は15,000以上のWebサイト・アプリへの導入実績があり、そこで得た知見を生かした提案・対応ができる」と自信をのぞかせた。
最後に小林氏は「今後デジタルシフトが加速することは明らかであり、デジタル上のUXの重要度が増してくる。加えてMXについても考える時期にきていることは間違いない。その上で、ご自身の事業や仕事とMXをかけ合わせたときに、どのような価値が生まれるのか、そしてグローバルな社会に最適化できるのかを考えていただきたい」とあらためて強調。
「今後もWOVNは多言語化社会に向けて、尽力していく」と語り、セッションのまとめとした。
また、記事の内容をより詳細に知りたい場合は、Wovn Technologies株式会社 取締役副社長 COOの上森久之氏が執筆する「Multilingual Experience 外国人戦略のためのWEB多言語化」(日経BP社)が参考になるだろう。
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