デイリーポータルZのバズるコンテンツ企画術は「高カロリー」「芋」「楽しそう」がキーワード
オウンドメディアの運用において、多くの人が頭を悩ませることの一つがコンテンツの企画だ。オンラインで行われた「Web担当者Forum ミーティング 2020 春」に、18年の長期にわたって平日は毎日記事を公開し続けているデイリーポータルZの林雄司編集長が登壇。
これまで公開してきた記事から、バズる企画、コケる企画の傾向について語った。
月間来訪者の8割が新規読者だが、PVの7割はリピーター読者
デイリーポータルZは、2002年に開設以来、読んで役に立つことよりも、読むことの楽しさを追求しているウェブサイトだ。現在は毎日3本、年間約1,000本の記事を公開している。そんなデイリーポータルZのサイトは、月間訪問者200万人のうち8割が新規訪問者だが、PVの7割はリピーターが支えているという。
リピーターが多いデイリーポータルZのこだわりの一つが、ライターの記名と顔出しだ。記事中でも、個人的な体験や感覚を前面に出し、写真にはライター本人が登場するようにしている。その理由について、林氏は以下のように語った。
バズった記事をきっかけに初めて来訪した人は、どのサイトに来たか意識していない人がほとんど。しかし何度か来ているうちに、ライターを認識するようになる。4月のクラス替えで区別がつかなかったクラスメイトが6月くらいになるとわかるようになってくる感覚に近い(林氏)
つまり、バズる記事で新規読者を集め、読者が何度かサイトに来ているうちにライターの顔を認識して、ライターや媒体に対して親しみを持ってもらって有料会員になっていくというフローを想定している。
そして、デイリーポータルZはPV向上を第一の目的にしていないという。1日に公開する記事3本のうち、1本は読む前からおもしろいことがわかるバズ狙いの記事。あとの2本は読んでみればおもしろいリピーター向けの記事だ。
PVにこだわらない理由は、収益構造にある。デイリーポータルZはB2Bの記事広告が収益の6割を占めるため、PV数で稼ぐ必要がなく、独自性を打ち出すことの方を重視しているのだという。そして、PVがライターの原稿料に影響することもない。「モチベーションを下げないよう、PVを気にせず書きたいものを書いてもらっている」と林氏は語った。
20万UU以上の記事からバズる記事の共通点を探しだす
本セミナーで林氏は、2010年以降の記事のうち、20万UU以上のアクセスがあった記事をピックアップし、その傾向を分析した。すると、特にここ最近の流行り傾向を踏まえて、次のキーワードがうかびあがった。
それぞれについて、詳細と具体例を紹介していく。
- 高カロリー
肉、脂、揚げ物などのカロリーの高い食べ物を紹介する記事。
例:自宅でできる二郎風ラーメンの作り方https://dailyportalz.jp/kiji/141020165435 - 安いけど時間をかける贅沢
本当に高価なものを食べるのではなく、高級な調味料を使ったり、時間をかけて贅沢なことを楽しんだりする記事。
例:超高級いつもの朝ごはん
https://dailyportalz.jp/kiji/141103165530 - 芋・とり肉
食材として、芋ととり肉の記事はウケる。他にも、うどん、100円ショップ、サイゼリヤ、ホットサンドなどは、ネットの文化に近いのかウケがいい。意外にラーメンは競合が多いためか難しい。
例:芋はホイルで包むと包まないでは焼き上がりの味が違うhttps://dailyportalz.jp/kiji/140207163226 - 古い
ネットでは古いもの、昔ながらのものがウケる。過去ばかり振り返るのは後ろ向きなので、未来志向の記事を出すことがあるが、未来はウケない。未来は共通の思い出、共感がないからかもしれない。
例:古い「暮しの手帖」のくらべ記事を調べてみたhttps://dailyportalz.jp/kiji/131114162337 - コンプリート
全種類食べ比べ、全店制覇などのコンプリート系の記事は、「(いい意味で)どうかしている」とTwitterでシェアされやすい。さらに、「全部乗ってますよ」感があるとウケるのもポイント。例で紹介している記事は「芋」「高カロリー」「コンプリート」でウケた。
例:フライドポテト、チェーン店別徹底比較
https://dailyportalz.jp/kiji/compare-french_fries - すぐできる調理法
簡単にできる調理法で「できそう、やってみようかな」と思える記事は人気。
例:平成最後のキッチン革命「酒蒸し法」
https://dailyportalz.jp/kiji/sakamushi-kakumei - 過剰(数、大きさ)
「安いもので時間をかけて贅沢」に加えて回数を過剰に増やしたもの。数字が大きいものはウケるので、素材に自信がなければサイズを大きくしたり、数を増やしたりするとよい。
例:納豆を1万回まぜる
https://dailyportalz.jp/kiji/170816200427 - 地方で安い
「地方の食事は安くてうまい」というみんなの願望があるので、それを擬似的に体験できる記事。意外性は不要。
例:金沢の近江市場が楽しい3つの理由
https://dailyportalz.jp/kiji/140908165114 - そういえば
みんなが普段目にしているけど、深く考えたことがないものを調査する。たとえば、商品ラベルの原材料に書いてある文字を読んでみると、「これはなんだろう?」というものが出てくるので、それを調べて記事にする。
例:ラーメンの麺に入っている「かんすい」ってなに?
https://dailyportalz.jp/kiji/160304195856 - 思ったことはあるけどさ
誰でも一度は思ったことはあるものの、実際にはやらないことを試す。本当にやったら恥ずかしい、という封印を解くことが重要。編集会議では「馬鹿なことを言った者勝ち」の雰囲気を作り「ちゃんとしなくちゃ」という気持ちをなくすようにしている
例:スーパーのうずら卵から、ひな鳥ピヨピヨ!
https://dailyportalz.jp/kiji/170811200393 - 楽しそう
記事にライターの楽しそうな表情の写真があるとウケる。反対に自虐に走ると失敗するので、ライターには遠慮しないで楽しんでいいと伝えている。
例:僕たちはWANIMAのように写真に写れるか
https://dailyportalz.jp/kiji/wanima-photo - 家族
家族のあたたかいエピソードは、Twitterでシェアされやすい。「やさしい記事をRTするといい人に見られる」という意見もあった。
例:義父がペッパーを買った
https://dailyportalz.jp/kiji/150914194547
ウケなかった記事
反対にウケなかった記事の特徴については、次のキーワードをあげた。
- テクノロジー
デイリーポータルZでは、テクノロジードリブンの記事はウケない。タイトルを読んでも、中身が浮かんでこないのも良くないのかもしれない。ただし、身の回りにあるものにテクノロジーを加えた記事はウケている。 - 説明不足
タイトルから記事の内容が想像ができないものはわかりにくい。「めでたいぞ!花マン」は、入場門などにつける手作りの花が好きだから体につけてみた、という内容だが、タイトルから花を付けた経緯がわからないので、新規ユーザーを集められなかった。しかし、既存読者、ライターのファンからはウケたカルト的な記事となった。 - 馴染みのない単語
読者に馴染みのない単語をタイトルに使うと、ウケない。 - ハードルの高さ
記事の内容をすぐに真似できそうなものはウケるが、真似するのにハードルが高いものはウケない。 - 願望が独特
記事の願望への共感性がない記事はウケない。タイトルにストーリーが感じられないと、唐突になって共感されない。「外で歯を磨くだけでキャンプ気分」という記事は「ステイホームでもバルコニーで歯を磨けばキャンプ気分」というようにストーリーを持たせればよかったかもしれない。 - 東京ローカル
東京の感覚であるあるネタをやると、東京の人にしかウケない。無意識にローカルネタになっていないかは注意が必要だ。 - パロディが伝わらない
商標を意識しすぎて、元ネタから遠いタイトルになったら、パロディということが伝わらず、ウケなかった。
SNSでバズれば、PVがあがるわけではない
セッションの後半では、SNSで話題になったトップ10の記事とUUの数値が公開された。SNSで1位の記事はUUでもトップだったが、2位以下はUUにはそれほど影響していないものも多いそうだ。
SNSで話題になった記事トップ10
さらに、下記の画像で赤線が引かれている3つの記事(3位、5位、7位)に注目してほしい。SNSでの反応は良いのに、UUでは27位、51位、162位だ。林氏は、これについて以下のように見ている。
記事の画像のインパクトが強く、ユーザーはTwitterのタイムラインで画像だけ見て満足して、記事にはアクセスしない人が多い。タイムライン上でコンテンツが消費されているのだ(林氏)
企画を考えるときのポイントとして、林氏は「悪意がないこと」と語った。ウケると思っても、記事内に悪意があると反感を買ってしまうからだ。
セオリーに当てはまらないこともある
ここまで、バズる記事、コケる記事の傾向を紹介してきたが、「セオリーに当てはまらない記事もある」とのこと。
たとえば、「ローカルになるとコケる」の反証として「筑波大学が広すぎる」という記事がある。筑波大学をテーマにし、ローカルネタで記事を出したのにウケたのだ。これについて林氏は、「実はたくさんいるのに、自分たちがマイナーだと思っている集団、内輪の感覚を持っている集団をみつけてそこに向けて書くと数字が伸びることがある」と語った。また写真がきれいで見ごたえがあると、マイナーなネタでもウケることがあるという。
最後に林氏は、デイリーポータルZの運営について以下のように語った。
デイリーポータルZは『わかる:わからない=6:4』くらいの配分で運営している。言い換えれば読者に寄り添う気持ちが6割、4割は読者が見たことないものを見せて驚かせたいという気持ち。後者はすべってもいいと思ってやっている(林氏)
デイリーポータルZならではの記事を真似することはできないが、同様の手法で自社のバズった記事、コケた記事をピックアップして、その傾向を分析してみれば、今後のコンテンツ企画の参考になりそうだ。また、ライターのモチベーション管理、記事への姿勢などについても自社のコンテンツマーケティングで参考にしてほしい。
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