データ活用革命のヒント

AIエージェントの時代到来! 企業の競争力を左右する「データの質と量」

注目を集めているAIエージェントについて、インティメート・マージャー簗島亮次氏が解説します。

データ活用やDXに取り組む企業が増える中で、「データを活用したいけれど、うまく活用できていない」という悩みを抱える企業が少なくありません。

その背景としては、「工数」と「専門知識」という課題があるのではないかと思っています。

今この課題に対して、大きなパラダイムシフトが起きています。生成AIの出現と、その先にあるAIエージェントの発達です。

AIエージェントとは、「いわゆる自律的に、AI自体が連続的な思考をして結論を出していく仕組み」です。かつては膨大な時間と専門知識を要した分析作業が、AIエージェントによって高速化・自動化され、これまでとは比較にならない次元へと進化しているのです。

本記事では、この大きな変化の流れをわかりやすく説明し、企業が激しい競争の中で勝ち抜き、優位に立つために必要な「データ活用」と「生成AI・AIエージェントの活用」について紹介します。

従来型データ分析の課題

従来のデータ分析は、非常に人間的な、そして職人的なプロセスでした。

そこでは、与えられたデータに対し、「人が介在することによって、そこの背景データにある意味だけを見つけてくる」という、深い洞察力が求められました。しかし、このプロセスには常に2つの大きな課題が付きまとっていました。

膨大な工数

データ分析には、「データ集計・加工」と「基礎集計・考察」に、たくさんの時間とコミュニケーションが不可欠でした。

たとえば、ある製品の売上データを分析するにしても、販売データ、顧客データ、Webアクセスログなど、複数の情報を突き合わせ、仮説を立て、検証を繰り返すという地道な作業に、数週間を要することも決して珍しいことではなかったのです。

専門人材への重度の依存

こうした複雑な分析を遂行できるのは、「データサイエンティスト」や「データ分析官」といった、高度な専門知識を持つ人材だけでした。彼らがいなければ、企業はデータという宝の山を前にして、ただ途方に暮れるしかありませんでした。

しかし、日本にはこうした専門人材が少なく、採用は極めて困難です。結果として、多くの企業において、データドリブン経営への道を阻む最大の要因となっていました。

その結果、収集したデータを活用できないという状況が、多くの企業で常態化していたのです。

生成AIの登場による進歩と課題

2022年後半からの生成AIの爆発的な普及は、この膠着した状況に風穴を開けました。生成AIを使うというアプローチにより、データ分析の風景は一変します。

分析時間の劇的な短縮

生成AIがもたらした最大のメリットは、分析のスピードが大幅に速くなったことです。

これまで人が手作業で行っていたデータの集計や、可視化のためのコード作成をAIに任せることで、分析の効率が格段にアップしました。以前は数日かかっていた分析が、今では1時間や2時間で終わるようになったのです。

この変化は、分析の回数を大幅に増やせることを意味しています。つまり、試行錯誤のサイクルをすばやく回せるようになり、それが大きな進歩となりました。

依然として必要な「設計と思考」という人間の役割

とはいえ、生成AIは自律的に動くわけではなく、人間からの指示を忠実に実行する「ツール」にすぎません。分析全体の方向性を決める「司令塔」の役割は、今でも人間が担っています。

質の高い分析を行うには、明確で適切な指示、つまり高度なプロンプト設計が欠かせません。分析の重要な部分は、人間が考えて設計しなければならないのです。

そのため、専門知識がない人がただデータを入れるだけで、意味のある洞察を得るのは、まだまだ難しいのが現状です。

AIエージェントの「自律思考」がもたらす2つの巨大な変化

そして今、私たちは、AIエージェントによる真の革命期に突入しています。生成AIが「指示待ちの優秀なアシスタント」だったとすれば、AIエージェントは「自ら考え、行動するプロジェクトマネージャー」です。この「自律性」が、データ分析の世界に2つの巨大な変化をもたらしました。

巨大な変化①:AI自身による「試行錯誤」と「外部要因の調査」

AIエージェントは、これまで人間が担ってきた「データ分析の試行錯誤」を、自律的に実行する能力を持っています。しかし、その真価はそれだけではありません。社内のデータという閉じた世界を飛び出し、自ら外部の情報を探索し、分析の文脈に組み込むという作業もデータ分析とともに実現可能です。

たとえば、ある保険会社が自社の契約データを分析し、「特定の顧客層で契約率が急に下がっている」という現象に気づいたとします。従来であれば、担当者が社内データを分析して原因を推測するしかありませんでした。

しかしAIエージェントは、この異変をきっかけに自らインターネット上の情報を検索し、「ちょうどその時期に競合他社が、その顧客層を対象に大規模なキャンペーンを実施していた」という外部情報を見つけ出します。

これは、AIが「自社のデータ」と「外部環境の変化」という異なる情報を自律的に結びつけ、データの背景にある構造や意味を理解・整理してくれるということです。人間が見落としがちな、あるいは時間のかかる複雑な要因も、AIがすばやく解き明かしてくれます。

こうした進化は、分析のあり方そのものを大きく変える、まさに革命的な一歩だと言えるでしょう。

巨大な変化②:「そのまま使える」アウトプット

もう一つの大きな変化は、AIプラットフォーム側のアウトプット機能の進化です。分析結果をただテキストで返すだけでなく、そのままビジネスの現場で使えるレベルのビジュアルに自動で変換して出力してくれるようになりました。

たとえば、Claudeの「アーティファクト」は、 分析の過程で生成されたコードやグラフ、表などを、独立したウィンドウで分かりやすく表示・編集できる機能です。

また、Geminiの「インフォグラフィックス」は、 分析結果を、見栄えの良いグラフやチャートに自動で整形してくれる機能です。

これらの機能によって、分析からレポート作成までのプロセスがシームレスにつながり、さまざまな業務に特化した自動化が可能になってきました。もはや、AIが出力した結果を人間がわざわざ資料にまとめ直す必要は、ほとんどなくなりつつあります。

さらに、こうした変化が組み合わさることで、「これまで知識や経験がないと難しかった分析や調査」も、自動で実行できるようになってきました。専門家でなくても、高度なインサイトを得られる時代が、いよいよ現実になったのです。

MCPが実現する「業務プロセス」の完全自動化

AIエージェントの進化は、まだまだ続きます。今後は、MCP(Model Context Protocol)と呼ばれる、より高度な仕組みの登場によって、「データの収集」から「分析結果に基づくアクションの実行」まで、分析の前後にあるすべての工程が自動化されていくと予想されています。

データ収集の完全自動化

これまで、分析に必要なデータを準備するには、SQLやクローリングなどの専門的な知識が不可欠でした。MCPを搭載したAIエージェントは、それらの作業を不要にします。

たとえば、「〇〇データベースの中身を自分でSQLを書いて調べ、分析に必要なクエリを自動で作り出す」といったことが、自然言語の指示だけでできるようになるのです。これにより、データ収集を難しくしていた高い壁が、ついに取り払われることになります。

アクションの実行までを自動化

さらに将来的には、AIエージェントが分析結果に基づいて、具体的なアクションまで自動で実行するようになると考えられています。

広告運用では、分析結果をもとにGoogle 広告への出稿を自動で行うことができるようになります。さらに、広告の効果を見ながら、AIが自動的に予算配分を調整するなど、これまで人が判断していた領域まで担うようになります。

また、CRM(顧客管理システム)との連携も進みます。特定の顧客に離反の兆しが見えた場合、AIが営業担当者のCRM上にアラートを出し、最適な対応方法まで提案するといったことが可能になります。

ここまでくると、もはや「分析」だけの自動化ではありません。業務そのもの——つまり業務プロセスや工程全体が、AIエージェントによって自律的に運用される未来が現実味を帯びてきています。

これまで人間が行ってきた専門的な作業が、MCPのような仕組みによってどんどん代替されていく時代が、すぐそこまで来ているのです。

AIエージェント時代を勝ち抜く唯一の武器とは

では、誰もが優れたAIエージェントを使えるようになったとき、企業の競争力の差はどこで生まれるのでしょうか。その答えは、「質の高いデータをどれだけ持っているか」が、競争優位を決める大きなポイントになるということです。

もしAIエージェントを一流のシェフに例えるなら、データはその「食材」にあたります。どんなに腕の良いシェフがいても、良い食材がなければおいしい料理は作れません。つまり、AIエージェントの力を最大限に活かせるのは、良質で使いやすいデータを豊富に持っている企業だけなのです。

この変化により、企業は「勝ち組」と「負け組」に二極化していくでしょう。

勝ち組の企業は、CDPやDMPなどの仕組みを導入し、日々データを集めて整理・統合しています。彼らは、整ったデータを「CDPに入れればすぐに使える」状態にしているため、強力なAIエージェントというエンジンを手に入れて、競合を圧倒的なスピードで引き離していくでしょう。

一方で、負け組の企業は社内にデータが散らばっていて、誰も活用できていません。こうした企業は、AIエージェントを導入する前に「データ収集」から始めなければならず、大きなハンディキャップを背負うことになります。

世の中は単なる「データドリブン」から、AIエージェントを活用しながらデータを使いこなす時代へと変わっていきます。そして、その世界で最も強いのは、多くの良質なデータを持つ企業なのです。

まとめ

データサイエンスやデータ分析が以前よりも簡単にできるようになり、それによってビジネスが大きく変わる未来は、もはや確実です。

AIエージェントは、データ分析の方法だけでなく、ビジネスのあり方そのものを根本から変えようとしています。この変化はまだ始まったばかりで、これからますます加速していくことは間違いありません。

ぜひ皆さんも、この大きな変化の波を見据え、自社の「データ」という資産に改めて向き合ってみてください。この変革期を乗り切るためのヒントが、きっとそこにあります。

用語集
CRM / DMP / DX / SQL / インフォグラフィック / キャンペーン / クエリ / 外部要因
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