顧客インサイトを知るには「アンケート」より「インタビュー」である理由
製品開発やマーケティングをすすめていく際に、あなたは顧客のことをよく理解できていると胸を張って言えるだろうか? 顧客にマーケティングメッセージが届かない、顧客のことがわからないという課題を抱える方も多いのではないだろうか。こうした状況を打開するカギは、顧客をより深く知ることにある。
東京大学 FoundX ディレクターの馬田氏は、「Web担当者Forumミーティング 2021 春」に登壇し、顧客以上に顧客のことを知る「カスタマーマニア」になろう! と呼びかけ、顧客のインサイトを深く探るインタビュー手法について紹介した。
カスタマーマニアへの第一歩! 「顧客の事実」を集めることから始めるべき理由
「カスタマーマニア」とは顧客以上に顧客のことを知ることだが、「顧客を顧客以上に知っている状態」とはどういった状態なのだろうか。
これについて馬田氏は、「顧客は自身が何を欲しているのか、不満があってもうまく言語化できないことが多い。そういったときに、企業から『あなたが欲しかったのはこれですね』と差し出されると、『それが欲しかった!』と気づくことがある。これがまさに『企業が顧客を顧客以上に知り、欲しい商品を提案している状態』だ」と言う。
企業が顧客のニーズに先回りして、優れた製品やサービスを提供できるようになるためには、顧客に関する事実を集めることが重要だ。推論や洞察が正しく行なえてもベースとなる事実が誤っていたら、誤った結果を導いてしまう。事実がすべての起点になるのだ。
「事実を集めるときは、自分自身を探偵だと思って取り組んでみてほしい」と馬田氏。たとえば、シャーロック・ホームズが初対面でワトソンを「アフガン帰りではないか」と分析できたのは、洞察力・思考力もさることながら、「足を引きずっている」などの小さな事実に気づいたからだ。そうした「隠れた事実」に気づき、見つけ出すことができれば、洞察にも大きな差がつく。
顧客の事実を集める4つの手法
「顧客の事実」を集める手法として「顧客インタビュー」から「没入」「同化」「コンサル」の4つの手法を紹介した。
「顧客インタビューは、さまざまなフェーズで活用できるので、“最もコスパが良い手法”だ」と馬田氏。事業のフェーズごとの顧客インタビューの活用場面を示したのが下記の図だ。
「広めのニーズ調査」の段階では探索を目的として、「初期の仮説生成」の段階では仮説を絞ってインタビューし、さらに「仮説検証の段階」では実際に作成したマーケティングメッセージなどへの反応を見る。そして製品開発を行い、実際に使ってもらうようになったら、「機能改善の調査やカスタマーサクセス」「ユーザビリティの調査」などの段階で製品の改善や施策の振り返りを目的にインタビューを行うこともできる。
顧客の深い事実を得るには「アンケート」より「顧客インタビュー」
インタビューは、定形の質問と選択肢だけでなく、比較的自由に情報を聞き取りやすいので、アンケートよりもずっと濃い情報が30分程度で得られます(馬田氏)
定性的なエピソードではなく、定量的なデータが重要なのではと疑問を抱く方もいるかもしれない。それに対して、馬田氏は、「データとエピソードの両方があることで、顧客理解がすすむのであれば、リソースの範囲内で両方行うのがよい」とした。
とはいえ、アンケートに比べるとインタビューのハードルは高い。なぜアンケートではなく顧客インタビューである必要があるのだろうか。
アンケートだけでは知りたい事実がわからないことも多く、正しい質問ができない可能性もある。また、対象ユーザーが少なく、参考になるデータが集まらないこともある。一方、インタビューなら相手の様子を見ながら質問を変えたり、対象ユーザーをピンポイントで依頼したり、フレキシブルな対応が可能だ。
顧客の“意見”ではなく“事実”を聞く。事実を引き出す5つのポイント
効果的なインタビューを行うには、どのようにすればいいのか。馬田氏は顧客インタビューの基本を紹介した。第一の重要事項として「インタビューの目的を決めて行うこと」を挙げた。顧客インタビューの目的は、「仮説の探索 or 検証」と「課題 or 解決策」の2軸で、次の図のように大きく4つに分かれる。その中から、特に顧客の課題を把握するためのインタビューについて紹介が行われた。
どのインタビューでも基本姿勢は「傾聴」にある。8割聞き、2割話す割合で、相手に気持ちよく話してもらうことが大切だ。相手を師匠と思い、相手に弟子入りするつもりで“聞く”に徹しよう。顧客インタビューは自分のアイデアをぶつける「ピッチ」ではない。自分が話しすぎないように注意しよう。
また、多くの顧客は優しいので、製品やアイデアなど提示されたものに対して、ネガティブな意見を言うことは少ない。アイデアをぶつけると、「良さそうですね!」と当たり障りない言葉を返してくれることが多いため、事実誤認につながる恐れがある。
馬田氏は、次に重要なポイントとして「顧客の“意見”ではなく、“事実”を聞くことが大切だ」と語る。一般的に顧客の意見は、その場の思いつきであることが多い。メモはとっておいた方がよいが、意見は参考にしつつ、事実の方に注意を払うべきというわけだ。
馬田氏は顧客インタビューで「事実」を聞く時の5つのポイントを次のようにまとめた。
- ピッチや説得ではなく、「聞くこと」に注力すること
- 想像や未来ではなく、「今日現在」について聞く
- 結果ではなく、「プロセスを」聞く
- 抽象的にではなく、「具体的に」聞く
- Yes/Noのクローズドクエスチョンではなく「オープン」なクエスチョンをしていく
まずは半構造化インタビューのテンプレートを使って行うのがおすすめ
これらを常に意識しながらインタビューを行うのは難しい。そこで馬田氏がすすめるのが、「半構造化インタビュー」だ。予め質問を大まかに決めておき、状況に応じて横道にそれたり、深掘りしたりながら行うものだ。
馬田氏はいくつか、インタビューテンプレートの参考になる本を紹介し、その中から、インタビュー用の質問テンプレートを紹介した。
「インタビューに自信のある人も、最初は騙されたと思って、半構造化インタビューのテンプレートを使ってやってみてほしい。有効なインサイトを取れる可能性がある」と馬田氏は強調し、「ただし製品開発のために作られたテンプレートが多いため、マーケティングやメッセージなどの検証には、テンプレートを調整して使うのがよい」と語った。
深掘り質問をする際の具体例も示された。
(1)想像をさせず、直近の過去の実際のことを聞く
(2)クローズドクエスチョンで誘導せず、オープンに聞く
(3)抽象的に聞かず、具体&プロセスを聞く
(4)希望の機能を聞かず、競合やその課題を聞く
(5)自己分析をさせず、事実を聞く
「インタビューを通じて顧客の日々の生活や普段はみれない側面などを知りつくそうという意識でインタビューをしていくと顧客のことを知っている『カスタマーマニア』になれる」と馬田氏。
インタビューを効果的に行うための7つのポイント
インタビューをより効果的に実施するために、下記のポイントも紹介された。
- 2人1組でインタビュアーとメモ係を分担して行うことで、交互に行い学び合うことができる
- 詳細にメモし、言いよどみや沈黙も細かく記録しておくことで、その場の雰囲気が残せる
- 箇条書きではなく「物語を書いている」つもりで記録することで、深い理解に繋がり、文脈も理解できる
- 例外が重要。インタビュー相手のユニークな点を掘り下げることで、本筋からずれることから示唆が導けることが多い
- 相手の業界知識を持ち、相手の言葉が分かるように備えておくことで、理解が深まる
- フォローアップとして再度インタビューにつながる可能性を伝えておくことで、関係性を作れる
- 相手が黙考しても60秒は待つ。自分から喋らないほうがいい情報が得られる
馬田氏は「顧客に刺さる質問ができれば、顧客は見違えるように前のめりで反応してくれる。その兆候が見えれば良いインタビューになっている。どんどんインタビューをして、いいインタビュアーになろう」と語った。
インタビュー相手と出会うには?
インタビュー相手と出会う方法としては、紹介が最も望ましく、ランディングページを用意して応募してもらう、Twitterなどでスカウトする、関係するイベントに参加して拡大していく方法がある。また、日頃からユーザーコミュニティを作っておくと、インタビューの相手には困らないだろう。
インタビューを実施する人数は、1つの仮説検証に5人くらいがおすすめだと、馬田氏。仮説はどんどん変わるため、「いい仮説」にたどりつくには、製品開発であれば新しい情報が入らなくなるまでに50〜100人くらい、また、既存製品のマーケティングキャンペーンなら20人くらいが妥当な実感値だという。
顧客を深掘りするため、現場に行こう
ここまでやってもまだ「カスタマーマニア」の入門編にすぎない。インタビューを極めたら、解像度を高めるために、次は“個”に迫る「没入」が必要となる。顧客へ没入するためには「現場・現物・現実」に接することが大切だ。没入の技法には、「観察・参与観察」や「競合テスト」などがある。
馬田氏は「1人の顧客がどこを見て、何を考えているのかを知らなければ、マーケティングはできない。そのためには『ユーザーと共に生きる』ことが大事。それによって、本当に価値を感じていただいている体験が理解できる」と語り、Airbnbの創業者がユーザーの泊まっている家を1軒1軒回って宿泊をしながら、ユーザーと生活を共にしていたことを紹介した。
「没入」の他の手法として、シャドーイングや文脈的調査、n=1分析などを紹介。「1人の顧客を深掘りするためには現場に行くことが非常に大事」と強調した。
マーケティングや製品化のための調査となると、データから大きな数字ばかりを見てしまいがちだが、数字の先には一人一人の人がいることを忘れてはいけない。一人一人を思う「想像力」を鍛えるためにも顧客に会うことが重要だと馬田氏は語った。
自分が顧客になることによって、顧客のペインを実体験する
「没入」の次は「顧客との同一化」だ。もっと濃い情報を得るために、自分が顧客になるという手法である。自分が顧客になることによって、ペインを実体験するというわけだ。現場で働く、自分たちで店舗を持つといった方法がある。
その中で、サービスの課題や解決策、自動化できることや、オペレーションなども見えてくるという。顧客の立場になってさまざまな不具合や不便を実体験することで、解像度が高まっていく。
一見、コストパフォーマンスが悪いように見えるが、意外と効果的なことが多いという。競合や他企業の顧客となって体験するのも手だろう。その時は、単に体験するだけではなく、外部の視点で新たな問いと仮説を見つけよう。問いを現場で発見するためには細部に気づく、文脈を知る、概念化することが大事になる。
目の前の1人の顧客をよく知り、その1人を幸せにしてみよう
最後のフェーズである「コンサル」について、馬田氏は「たった1人の顧客に対して解決策を提供することを考え、コンサルのように実行してみよう」と語る。顧客に解決策を提供できるようになるためには、顧客以上の知識を持っておくことが大切であり、業界知識を知っておくことが必須となる。本を読むもよし、業界紙や業界ニュース、専門家のインタビューを読むのもいいだろう。
知識をつけてコンサルティングしてみると、本当にいろんなことが見えてくるという。解決しようとすることによって新たな課題に気づくという点も多いという。「知識をつけて、顧客の課題を解決して感謝されるようになれば、カスタマーマニアに近づけている」と馬田氏。
自社のサービスや製品をより良いものとし、マーケティングなどの効果を高めていくには、ペインも含めて顧客をよく知り、適切な解決策を見いだすことが不可欠だ。そうしたカスタマーマニアになるには、「顧客インタビュー」からの一連のプロセスが有効というわけだ。「目の前の一人一人のことをよく知って、その1人を少しでも幸せにしようとすることが、カスタマーマニアになる秘訣の一つ。ぜひ、あなたの好きな人=顧客のことを知るところから始めてほしい」と馬田氏は語り、セッションのまとめとした。
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