すべてのメーカーがサービス提供事業者にならなくては生き残れないと言われる昨今、新規事業の立ち上げや、事業モデル変革の支援依頼が増えています。本記事では、大手企業に共通する課題と、D2C事業立ち上げのポイントを、電通デジタル 岡田宣之と中溝由里絵が紹介します。
大企業がD2C事業を成功させるための秘訣とは【電通デジタルコラム】
※この記事は、2022年9月に開催したウェビナーの内容を採録し、編集したものです。
※所属・役職は記事公開時点のものです。
なぜ大手企業はD2C事業の立ち上げでつまずくのか?
中溝 : 大手企業の新規事業を支援する中で、多く寄せられるお悩み・ご相談は大きく2つあります。
1つ目は「顧客ニーズ」に関して。お客様理解の解像度を上げたいけれど、ニーズの移り変わりが早く、かつ複雑化・多様化しているために捉えがたいというお悩みです。
2つ目は「事業変革」に関して。既存事業の先行きが見通せない中、その売り上げに匹敵するような新規事業を立ち上げられないかというご相談です。
電通デジタルの調査によると、「生活者は自分たちの価値観にスピーディかつ柔軟に寄り添ってくれる企業を選ぶ」という傾向が出ています。生活者のニーズは刻々と移り変わるため、企業にとって生活者に寄り添う難易度は年々高まっています。
企業としては、複雑化・多様化した生活者のニーズを捉えた事業構想をしようとしますが、既存事業を上回る成長性や既存事業の代替となる事業規模を求められ、構想が実現しないケースが非常に多く見られます。顧客の”尖ったニーズ”に寄り添うという話と、既存事業の代替となるような事業規模が欲しいという話、その両者の折り合いがつかないというのが実状のようです。
そのような場合は、「事業規模だけではない価値」を含めて議論できると、より速やかに事業を推進することができます。
新規D2C事業によって得られる「2つの新しい価値」
中溝 : 「事業規模だけでない価値」を見出した2つの事例を紹介します。
1つ目は、P&Gの「新たな事業プロセスを獲得した」という事例です。ニュースでも取り上げられているように、P&GはD2Cブランドの買収が進んでいます[1]。
買収当初から約4年にわたって、知見獲得・社内転用という位置づけでD2Cブランドを買収していました。経営含めて、赤字でも文句は言わず、失敗しても知見を獲得する環境を作り、直近では、知見を社内に転用し、売上貢献に寄与させています。
2つ目は「社会課題解決」という位置づけで新規事業を推進している事例として、ミツカングループの「ZENB JAPAN」を紹介します。
ミツカンでは「ミツカン未来ビジョン宣言」を策定し、「ZENB initiative(ゼンブ イニシアティブ)」という新たな組織を設立[2]。食を取り巻く課題に取り組んで「食べること」「食文化」をもう一度見つめ直し、事業活動を行っています。事業なので、日々のPDCAももちろん見ていますが、最終的には中長期的に、ミツカンが策定しているビジョンの達成に貢献しているか、が評価軸となっています。
ここで紹介した「新たな事業プロセスの獲得」「社会課題解決」は、新規事業について、いずれも事業規模だけではなく、新しい価値を持たせています。
「新たな事業プロセスの獲得」であれば、D2Cで獲得した学びが既存事業変革にどれくらい寄与したのかをKPI化して測定する。「社会課題解決」であれば、どれくらい社会課題解決に貢献できたかをKPI化する。それができれば、事業規模だけではなく、一歩進んで「新たな価値」のもと、大手企業ならではの強みを活かしながらD2C事業を推進できます。
D2C事業を推進するために意識すべき3つのポイント
岡田 : D2C事業の立ち上げ時に意識を払うべきポイントは、3つあります。順に説明します。
①スモールマスなターゲットにブランドの世界観と体験を届ける
1つ目のポイントで最も重要なのが、「共感を生むこと」です。すでに成功しているD2Cのブランドにもさまざまな形態がありますが、共通して言えるのは、顧客に熱狂的なファンが多く、大きな共感を生んでいることです。
事業の立ち上げ時、顧客視点でペルソナを考える際は、自分あるいは少なくともチームのメンバー1人でも、実際に提供しようとしているものに共感している人、実際に購入したいと思っている人をしっかり入れて、構想を練っていくことが大切です。
共感できるストーリーを発信する際のポイントは、以下の3つです。
- ”文脈”をつくる
- 共感が強い人(N=1)の具体的な原体験を活かす
- 多くの具体から人に響く要素を抽象化し、コンテンツとして顧客へ伝える
②さまざまな顧客のデータやフィードバックをもとに改善をし続ける
初期投資額が大きくなると、なかなか利益が出せるモデルになりません。システムへの投資は最小限に抑えつつ、「小さく産んで大きく育てる」イメージで、データをとりながらPDCAを回せる環境をつくることが大事です。
すでに会社にあるBIツールやCDPをうまく活用して、データ環境や分析基盤を整えて、アジャイル的にデータのフィードバックを繰り返して改善を行っていく。もちろん事業戦略上、自社ECとモールECを一緒に立ち上げることはあり得ると思いますが、データを取得して改善を続けるためには、自社ECとその分析環境を作り込んでおくことが大切です。
なお、データを活用したPDCAには、実際に商品や体験を改善するための「体験のPDCA」と、事業全体を最適化するための「事業のPDCA」の2種類があり、両輪を回していくことが重要です。
③口コミなどを通じて自然と広がるファンコミュニティをつくっていく
3つ目のポイントは、SNS時代を意識したものです。「推し活」という言葉もあるように、ファンの方々が商品やサービスを紹介してくれて、ファンがファンを呼び込むという状況がいろんなところで起き始めています。また、そうしたことを意図的に起こせるようにもなってきました。
キャンペーンなどと並行して、エンゲージメントの高いお客様の発信する情報が可視化され、拡散しやすくなるような仕組みをつくるようにすることが必要です。
たとえば、食品のD2Cを展開する企業では、レシピ投稿ができるコミュニティサイトを用意したり、開封動画をSNSにアップしたくなるようにパッケージに凝ったり、ファンの活動が可視化される仕組みを提供しています。それにより、ファンのコミュニティが形成され、ファンがファンを呼んでいるのです。
各企業の状況や課題感に応じてD2Cの事業立ち上げに伴走
岡田 : 電通デジタルでは、皆様の課題や現在のステージなどに応じてさまざまなアドバイスやソリューションを提供しています。
たとえば、ECを始めるにあたって、マーケットのポテンシャル調査を行ったり、ブランドアイデンティティの構築や顧客体験設計を支援したり、すでに商品ができている場合には、コミュニケーション設計とそれに基づいたD2Cサイト構築といったお手伝いも対応可能です。ぜひ、お気軽にご相談ください。
脚注
1. ^ "Procter & Gamble buys Tula Skincare". Retail Beauty(2022年1月19日)2023年3月6日閲覧。
2. ^"「ミツカン未来ビジョン宣言」策定について". ミツカングループ.(2018年11月15日)2023年3月6日閲覧。
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