MIXIが挑む! “モチベーションを誘発する”組織開発 デザイン職独自の評価指針策定と狙い
MIXIデザイン本部では、2019年頃から組織力強化の取り組みを推進している。その一環として、全社人事制度をデザイン職向けに翻訳した評価指針を策定した。「Web担当者Forum ミーティング 2023 秋」に登壇したMIXI執行役員 CDO デザイン本部本部長の横山義之氏は、評価指針を定めた裏側や策定方法、運用方法などを紹介した。
デザインするように組織開発を行う
MIXIのパーパスは、「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」。このパーパスのもと、「家族アルバム みてね」などのライフスタイル事業や「モンスト」などのデジタルエンターテインメント事業、さらにはJリーグの「FC東京」などのスポーツ事業といったドメインで事業展開を行っている。
組織開発は、マネジメントチームで実行していった。開発にあたり、横山氏は「デザイン組織をデザインするように組織開発した」という。
デザインは、デザインに触れる人に寄り添うこと、共感することから始まるといわれていますが、組織開発においても、マネジメントの対象であるひとりひとりのデザイン職が何を考え、どう思っているのか、から始めました(横山氏)
普通に考えれば、誰もが「良い仕事」をしたい。疲れた、休みたいなどと思うことはあっても、良くない仕事をしたいと思う人はまずいないはずだ。横山氏は、「だとすると、組織にとっての<良い>と個人にとっての<良い>が、時にずれることがあるのが問題だ」と考えた。
個人にとっての<良い>が組織にとっての<悪い>につながることがあるなら、それがどういう状態なのかをまずは明らかにする必要がある。そして、そうならないように、それぞれの期待値をすり合わせて約束事をつくる。それができればうまくいきそうだ。
組織は個人の<良い>を束ねた集合体ではなく、まず上位に組織の目標やマネジメントの意思があって、それに合った個人の<良い>活動をする集合体であれば良さそうだと考えました(横山氏)
デザイン職個人にとっての<良い>とは、たとえば以下のようなことが考えられる。
- 知的好奇心や職人性/作家性の専門性が満たされる
- 仕事の機会ややりがいが与えられる、切磋琢磨する仲間がたくさんいる環境で働ける
- これらを踏まえた承認や評価、報酬の設計が行われる
ところが、個人にとっての<良い>が組織にとっての<悪い>につながる例としてよくあるのが、個人の「つくったんだから評価して欲しい」といった考えだ。つくるべきものではなく、自分がつくりたいものを自分の使いたい技術でつくることは黄色信号で、組織にとっての<悪い>につながってしまう可能性がある。その場合は、マネジメント側がうまく調整したり、方向転換を促したりすることが必要になる。
そのような、個人の<良い>と組織の<良い>の齟齬が起きてしまったら、当然対処はするが、起こる前に未然に防ぐことができるようなガイドがあれば効率がいい。組織の<良い>の中にいかに個人の<良い>を散りばめていくかが、マネジメントするうえでのポイントで、モチベーションを誘発する組織の条件になりそうだ。
デザイン職に特化した評価指針の策定
MIXIには、全職種共通の人事制度ルールブックがある。このルールブック自体はとてもよくできているが、全職種共通なので抽象度が高い。このため、デザイン職に特化したものに翻訳する必要がある。
また、昨今デザイン職においては、大きく分けて2つの問題がある。
- デザインに期待される領域が拡張し続けている:ここ5~10年、デザイナーが学びながら成果を出さなければいけない分野が広がっているため、仕事の中でメンバーをどうマネジメントするかは難易度が高い。
- デザインの表現や演出、制作の専門性が深まり続けている:テクノロジーが発達したことにより専門性が深まってきているが、マネージャーがその新たな技術などを評価しなくてはならないため、マネジメントの負担が増え続けている。マネージャーが勉強しているかいないかで差が出てしまう。
こうした状況下で、全体としてマネジメントの負担が増え続け、エラーが起こりやすくなっています。そこで、マネジメントの負担軽減のためにも、若手が自ら成長するための環境をつくるためにも、人事制度ルールブックを翻訳する形でデザイン職独自の評価指針をつくることになりました(横山氏)
全職種のルールブックはG1から6まで(数字が大きいほど上位)の、6つの等級で定義されている。以下の図では、グレーの部分にあたる。これに対して、オレンジがデザイン職の定義で、こちらはJuniorからJediまでの6段階で割り振った。
さらに、デザイン職向けの評価指針は、「視座」と「スキル」と「登り方」という、3つの項目で構成している。
「視座」とは 高くなるほど見晴らしが良くなり、影響範囲を見据え、物事の本質をより理解し、デザインに向き合う力のこと。「スキル」は 高くなるほどデザインの品質や技術が向上するとともに、より抽象度の高いものもデザインしていける力。「登り方」は、次のグレードに上がるためのコツを見つける力。これらの3つを定義している。
たとえば以下の図で、全職種のG1の定義(グレーの部分)に対応するのが、デザイン職向けのJuniorの定義(オレンジ色の部分)になる。
ここでいう「目の前のタスク」とは、つくるものが決まっていてアサインされている状態。「デザイン要件を満たせる」とは、つくるものがどう作用してほしいか決まっていて、それに応えるデザインやクリエイティブをつくれる状態だ。これがデザイン職のスタート地点となる。
これができるようになって、次のグレードに進むための登り方としては、以下の図のように「1人でタスクを回せるようになる」などがある。
Youngは、何かをつくるだけでなく、つくる行為を通して目標にリーチしていくことを意識することや、目標のベクトルの中でそのデザイン品質を追求していくスタンスでデザインに取り組める状態だ。最初は周りのサポートを受けながらでも、自走できるデザイン職になっていく工程がYoungである。
次のグレードMiddleに進むためには、下図のようなことをクリアする必要がある。黄色のマーカーは、運用する中でマネージャーが追加で定義して評価指針に組み込んだものだ。評価指針はマネジメントチームで日々アップデートを重ねている。
G3とMiddleの評価指針は下の図になる。Middleになると課題解決に向けてデザインでアプローチできるようになる。いわゆる一人前のデザイン職になったといえる。
MiddleからSeniorへと登る際には、最初の分岐点をむかえる。以下の図をみてわかるように、ここは「マネジメント」と「スペシャリスト」のどちらをキャリアの主軸にするかを決めるターニングポイントだといえる。
以下に、SeniorからJediまでの定義を図で紹介しておく。
最後のJediという段階は、経済産業省の定義でいうところの高度デザイン人材にあたる。企業においてはCXO(Chief x Officer)などのデザイン責任者などになり、業界でひっぱりだこ状態になるレイヤーだ。
評価指針策定後の効果測定
さて、評価指針はつくるだけでなく、きちんと機能しているかどうかが重要になる。現在、横山氏はここに向き合う日々だという。
デザイン組織の変貌
さまざまな取り組みを経て、MIXIでのデザイン組織は大きく変貌をとげている。2019年4月と2023年4月を比較すると、予算比2.6倍、採用枠比2.4倍、人数比1.6倍と成長している。
デザイン職の評価も大きく伸び、グレード別の比率も変化しています。たとえば2019年4月ではYoungが半分以上を占めていましたが、2023年10月ではMiddleが過半数となり、馬力のある組織になりました(横山氏)
モチベーティブな組織へと成長
デザイン組織への取り組みは、モチベーティブな組織への成長にもつながった。下の図は2023年の社内アワードの様子だ。
2023年の社内アワードでは、新しい表現や技術を導入して全社配信しました。このような取り組みがデザインの現場から自然とあがってくるような組織にまで成長してきました(横山氏)
横山氏は、「モチベーティブな組織をつくる理由は、僕らがデザイン組織だからでもある」という。デザインする人が楽しんでデザインにチャレンジしないと、デザインを受け取る人が豊かな気持ちになれないからだ。つまり、モチベーションがデザイン品質に直接関わる。だからこそ、モチベーティブな組織をつくって運用し続けなければならない、というのが横山氏の考え方の根底にある。
モチベーティブな組織の活動は社内にとどまらず、デザイン業界へのナレッジシェアも推進している。今期だけでも17本のWebメディアに対して技術や表現の露出をしているが、少数の特定のデザイナーだけで行っているのではなく、29人のデザイン職がそれぞれ発信しているのも素晴らしい点だ。
評価指針の運用
今回紹介している取り組みはマネジメントチームで実行してきたものだが、そのマネジメントチーム自体の規模も大きくなり、リーダー3.5倍、マネージャー2.8倍、部室長3.0倍と、各レイヤーで増えている。
その過程で、グレードの定義と同様に、デザイン職のマネジメントに期待することも言語化して運用している。以下は、「マネージャーに期待することの抜粋」だが、なかでも最後のひとつは重要だという。
【マネージャーに期待することの抜粋】
- 部室目標に基づくグループ予算策定と戦術策定(人軸/物軸/金軸)を部室長と行う
- 上記をふまえたグループ目標(ゴール)と運営方針と実行計画(マイルストーン)を策定し、部室長承認をとり、メンバーに共有する
- 一次評価者としてグループ目標とメンバー個人目標を紐付け、成果につながるマネジメント(ナビゲーション)をする
- 成果をあげたメンバーの評価にコミットし、メンバーの仕事が事業や組織に対しどう良いのか、定性/定量で可視化して部室長へ伝える
- 成果未達メンバーにどのようなフィードバックで訴えかけ、期待値をすり合わせていくかを部室長と相談し共に実行する
- デザインを学んできたのと同量、マネジメントについても学ぶ
【部室長に期待することの抜粋】
「部室長に期待すること」については、以下のように定義している。
- 経営の優先度に基づくデザイン職の機動的アサインの実行と効果測定
- 部室長会議等で経営動向や他部室の動きを積極的にキャッチアップし、本部を超え他部室長とリレーション構築
- 事業成果や事業価値向上×デザインの現場の接続
- 撮影スタジオとサウンドスタジオの効果的な設備投資の実行と可視化
- マネージャーを巻き込み、部室成果/ケイパビリティ強化/透明性ある組織運営にコミットする
- 人事コミッティを開催し、Next人材の発掘/育成/抜擢の効果測定
- 部室に迎え入れるべき、優秀な新しい仲間の獲得に最優先コミット
- 本部長の仕事を能動的にもらいにいく
MIXIの事業創出を牽引したい
今後の展望としては、「事業責任者への登り方」も指針として追加していきたいという。MIXIという事業会社の中で「デザイン職が事業責任者になることは、これまでとはまた違うMIXIらしさが出せる可能性がある」と語った。
そして最後に横山氏は、「デザインからもMIXIの事業創出を牽引したいと思っているし、そのためにもデザイナーという物づくりの人たちがモチベーション高く働ける場を提供していきたい。それがCDOとしての仕事だと思っている」とまとめた。
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