総フォロワー数520万人 ANAのSNS戦略! ショート動画でファンを拡大
さまざまな企業がSNS運用で顧客とのエンゲージメントを高めようとしている。航空業界も例外ではない。ANAでは、動画を中心としたSNSマーケティングを展開し、販促やリクルートだけでなく、将来お客様になってくれるファンも拡大しようとしている。
ANAの吉﨑優花氏が「Web担当者Forumミーティング2024春」に登壇し、ANAらしさを伝えるコンテンツをどのように作り出しているかを紹介した。
ANAのSNSアカウント
吉﨑氏は、もともと客室乗務員(以下、CA)としてANAに入社し、2022年までフライトしていたという。2023年から広報部所属になり、SNSの運用担当者になった。
ANAでは、4種類のSNSアカウントを活用しているが、昨年からSNSの強化をはかっており、合計フォロワー数は約520万人。それぞれ運用の目的は少し異なる。
Instagramは、SNSを強化した昨年からフォロワー数が20万人ほど増えて、現在は100万人弱となっている。年齢層は20~30代が多いものの、幅広くフォローされている。動画、ライブ配信、写真のフィード投稿など、まんべんなく行っていて、旅行に行きたくなるような動画など、販促目的のコンテンツも多い。
YouTube
YouTubeを開設したのは2021年4月。広報部として力を入れ始めたこの1年で、フォロワー数は3~4万人増えている。年齢層は幅広いので、さまざまなコンテンツに取り組んでいるところだ。
TikTok
TikTokは若年層が多いメディアなので、若い人向けのエンタメ性の強い動画を投稿している。ANAとの接点がない人に認知を広げることをメインの目的にしている。また、TikTokはライブ配信できるので、それも積極的に活用している。
TikTokはInstagramと違ってフォロワー以外にも届きやすいという特徴があるので、ライブ配信も積極的に行っています(吉﨑氏)
たとえば、営業終了後の羽田空港で、飛行機の機体を洗浄する様子をライブ配信するコンテンツがある。人がホースとブラシで大きな機体を洗う様子は、飛行機に乗るために空港を利用しているときには見られない光景で、かなり人気のコンテンツだという。だいたい23時から翌日3時までの深夜のライブ配信だが、海外の人にとっては時差で昼間ということもある。日本国内でも、眠れない夜には楽しめそうだ。
X(旧Twitter)とFacebook
X(旧Twitter)とFacebookは、動画は少なく、テキスト・写真による情報提供をメインに運用している。運行情報やチケットの案内などを配信するが、特に台風のときの変更などを迅速に情報提供しているため、フォロワー数は多い。
SNSに力を入れ始めたきっかけと目的
航空業界は、コロナ禍で大きく環境が変わった。2020年度からの2~3年は、国内線も国際線も利用者が激減し、「お客様が10人で、フライトに同乗しているCAが10人ということもあった」(吉﨑氏)という。当然、売上が減り、利益も減る。必然的に、広告・宣伝費は大幅にカットされる。さほど費用のかからないSNSを強化するのは、当然の成り行きだった。
また、ANAはスタッフのおもてなしに自信を持っているが、コロナ禍によって顧客接点が減ってしまった。これを補うために、デジタルチャネルなどを通じてANAの良さをアピールしようというのが、SNS強化のもう一つの理由だ。
2021年にYouTubeとTikTokの公式アカウントを開設し、2022年4月にはInstagramを内製化して、YouTubeも2023年4月に内製化を開始した。強化を開始して、フォロワー数は順調に推移している。
“飛行機×風景”から“社員×親近感”へ
投稿内容も工夫をしている。具体的には、Instagramのプロフィールページの画面を見るとわかりやすい。
変化を一言でいうと、「“飛行機×風景”から“社員×親近感”へ」ということだ。以前は、いかにも航空会社をイメージさせる、飛行機や風景の写真を掲載していたが、最近は人にフォーカスしている。
社員とお客様の接点が減ってしまったので、社員の顔や個性を伝える投稿で「ANAはこういう会社なんだな」と伝わることを目指しました(吉﨑氏)
ここで、吉﨑氏はInstagramに投稿したリールをいくつか紹介した。
最初に紹介されたのは、上図の3つのうち左側のサムネイルのリールで、CAが髪を自分でササッと結い上げている様子が撮影されている。このような動画を作ったきっかけは、あるクリエイターから「制服を着ている社員が別の世界の人に見える。もっと親近感を出した方がいい」といわれたことだ。そこで、お客様からは見えないところや仕事の裏側、社員が仕事外で話している様子などを投稿するようになったという。
真ん中のサムネイルのリールはさまざまな観光地でCAを撮影したシリーズもので、「旅行に行った気分になれる」動画。「旅行に行きたいな」と思わせる、販促につなげることが目的のコンテンツだ。
右側のサムネイルのリールは、親近感を抱いてもらうことを目的として、CAが“各地のお気に入りの食べ物”や“CAのあるある”を紹介している。
撮影・編集はすべて内製、社員も出演
撮影・編集はすべて内製で、社員が多く出演している。グループ会社の人も含めて、なるべくたくさんの社員に出演してもらうことで、グループの一体感を伝えることも意識しているという。さらに、ANAで働いてみたいと思ってもらうことを意識した投稿もある。
上図の左側のサムネイルの動画は、立教大学出身の社員が立教大学に行って、学生にインタビューするという内容だ。採用強化につながることを意識している。
真ん中のサムネイルの動画は、30秒チャレンジで、自分について1問1答の質問に答えている。この人は、グランドハンドリングという職種の制服を着ているが、駐機場などで、滑走路に出る前や到着後の飛行機に対する作業を行う仕事をしている。基本的にはお客様と接点のない職種だ。こうした社員インタビューで個性を引き出すことで、ANAでの仕事にも興味を持ってもらうことを目的としている。
右側は人気ユーチューバーのコムドットに制服を着てもらったもので、ものすごい反響があった。若い人に人気のある人に登場してもらうことで、ANAにはさほど興味がないが、このユーチューバーのことは大好きという人にもANAのイメージが届くことになる。将来ターゲットになる若い人に向けた動画だ。
5年後、10年後のANAファンを開拓
コムドットとのコラボ動画のようなコンテンツは、5年後10年後のANAのファンを開拓するのが目的だ。他にも、アイドルやスポーツ選手、ゲームキャラクターが登場する動画などがある。これらは、見た人が将来ANAに就職したり、顧客になってくれたりすることにつながるためのコンテンツとして企画している。
今ご利用いただいているお客様はもちろんだが、就職活動を考えるよりも前の若い方にもANAの楽しいイメージを伝えることで、ANAのイメージアップを狙っています(吉﨑氏)
ANAがリーチできない層に届ける
若い人に人気のタレントをショート動画に登場させることで、ANAがリーチできない層にも届けることができる。これはショート動画ならではの特徴に関係している。ショート動画は、ユーザーの視聴履歴によって次々と新しいものが表示されるため、ユーザーは自然とそれを目にすることになるからだ。
InstagramのリールもTikTokも、ユーザーの好きなものがお勧めされてくるので、今はショート動画のコンテンツが広がりやすいです(吉﨑氏)
最後に吉﨑氏は、「動画を通してANAを認知してもらい、さらにプロフィール画面にきていただくことで、ANAが伝えたい情報をお伝えしていけるよう制作している」と語り、セッションを終えた。
ソーシャルもやってます!