仕事に飽きてしまったときの対処法は?|キリン公式note責任者が語る「続けるための秘訣」
「モチベーションが続かない」「プロジェクトに対して興味が薄れてしまう」。
これらは多くのビジネスパーソンが抱える悩みである。フォロワー1万7,000名以上を擁するキリンの公式noteの責任者である平山氏も、自身を飽きっぽい性格だと語り、モチベーションを保てずに転職したこともあるという。
限られたテーマのオウンドメディアを担当していると、仕事に飽きてしまうのではないかと思いがちだが、彼は「今の仕事は全く飽きない」と述べている。では、継続的な熱意をどのように保っているのか、実体験を交えてアドバイスをしてくれた。
新規事業の頓挫がきっかけに、ファンビジネスを企画
マイルール1 1年後にやっていることが想像できたら黄色信号
危機感を持ちやすい性格で、1年後の自分がしている仕事が想像できるようになったら、それは危険だと考えています。自分の仕事が変わり映えしないと感じたら、キャリアチェンジや新たなことを仕掛けるタイミングです(平山氏)
平山氏は大学卒業後、Web広告代理店に入社し、営業職を経験した。入社当時はリスティング広告やバナー広告などが全盛だった。その後5年ほど経つと、SNSが浸透し、スマートフォンが普及し、情報量が爆発的に増加した。
それまでは、ネットで検索している人に広告を見せていましたが、今後は情報をこちらから見せにいくことができる。コンテンツが重要になる時代だと直感しました。これまでのデジタルの経験を生かして、コンテンツに関わっていく仕事をしたいと考えはじめました(平山氏)
その後、平山氏はクライアント先でもあった「ことりっぷ」という旅行ガイドブックで知られている昭文社に、新規事業の立ち上げメンバーとして転職した。しかし、新規事業はさまざまな事情により頓挫し、半年ほど自由な時間ができた。その期間に、平山氏は新たなビジネスプランを探り、「ことりっぷ」が競合と比べて指名検索が多く、ファンが多いことを知る。
ファンビジネスに転換できる可能性があると思って、稚拙ながらWebやアプリの構想を練り、社長にプレゼンの機会をもらいました。その結果、新規事業を任されることになったんです(平山氏)
平山氏は、既存のマス広告やインターネット広告に依存しない、コアなユーザーが集まるコミュニティを作り上げ、その取り組みは今でも続いている。
実は、当時から現職のキリンの取り組みに触れる機会が何度かあった。もっとも印象に残っているのは、キリンがCSV経営の一環で当時行っていた「地域創成トレーニングセンタープロジェクト」という取り組みだ。地域を活性化させた経験をもつ凄腕のプロデューサーたちが集まり、次に注目される可能性のある地域のプレイヤーたちと共に、二泊三日のワークショップを行う。旅に強みをもつ「ことりっぷ」も何か連携ができないかという相談が寄せられ、平山氏はワークショップに参加した。
私がずっとやりたいと思っていた取り組みでした。旅メディアとして、すでに知られている観光地だけでなく、次の場所をつくっていきたかったんです。だからこそ、キリンの取り組みがすごいと思いました(平山氏)
この出来事が転職の直接のきっかけではなかったが、平山氏がその後キャリアチェンジを考えたときに、キリンのことを覚えていて応募した。選考に通過した平山氏は、キリンの一員となった。
予算ゼロで始めた公式note
マイルール2 席を奪うよりも、つくる
キリンの公式noteのフォロワー数は1万7,000人以上に上る。平山氏が入社した当初、noteは存在せず、立ち上げを提案したのが平山氏だった。そのきっかけとなったのは、入社直後に自社ECサイト『DRINX』のディレクションを担当していたときの経験だ。
当時はビールと食事のペアリングを紹介する記事が多かったのですが、それよりも私が興味を持ったのは、キリンの作り手たちが何を考えているかでした。そこで社内の作り手にインタビューしてみたら、実直で真面目に取り組まれている研究者気質の方が多く、とてもおもしろかったんです。実際にインタビュー記事を公開すると反響もありました。
当時は社員の想いを伝えている企業はまだまだ少なかったし、キリンで働く3万人の想いが資産になるかもしれない。定期的に発信できる場所をつくれば、会社のカルチャーに新しい軸ができるのではないかと考えました(平山氏)
会社の内面を発信する場所を想定したときに、平山氏が注目したのが「note」だ。Webサイトを新たに立ち上げようとすると相応の予算がかかるが、noteなら初期費用がかからない。そう考えた平山氏はさっそく提案をまとめて稟議を通し、キリンの公式noteを立ち上げることが決定。予算ゼロで始めたため、当初は平山氏自身が記事のライティングも担当していたという。
企業公式noteはまだ少なかったので、記事をリリースするとTwitter(現X)のトレンドに入ることもありました。社内にはあまり告知をしていなかったのですが、一部のプロダクトのブランドマネジャーが見つけてくれて、『うちのブランドを出してほしい』と連絡をくれました。現在では、noteに掲載している記事の9割が社内からのオファーです。寄せられたオファーを基に、どんな企画なら読者に読んでもらえるか一緒に企画を立てています(平山氏)
平山氏はキリンに入社後、公式noteの立ち上げ責任者という役割を自らつくり出した。前職でも、自身の提案で新たな事業や役割を得るなど、自ら仕事をつくり出してきている。
席を奪い合うのは性分に合わなくて『席をつくる』という意識でいます。空いている席がなくても『ここにも席が必要なんじゃないか』と考えて、小さな椅子かもしれないけど自分でつくってしまうんです(平山氏)
マイルール3 足は内側に、目線は外側に
オウンドメディアのイベントに登壇したり、副業として企業のコンサルティングを手がけたりする平山氏がよく相談されるのは、オウンドメディアの企画や運営の難しさだという。そんなとき、平山氏が伝えているのは「足は内側に、目線は外側に」もつことだ。
オウンドメディアを運営するには、会社が目指している方向性や課題への合意形成をしっかりと行うことが重要です。ただ、課題を解決するヒントは、実は社外で見つかることが多いんです。だから、軸足は社内に置きながらも、目線は常に外を見ておくことが大事です。会社に対して愛をもちながらも、俯瞰的に自社を見る冷静な視点ももつ。すると、パーパスやMVVのようなきれいな言葉だけでは表わせない、会社の人格が見えてくるはずです。
きれいに括られた言葉には、そこに至るまでにプロセスがあるわけです。そのプロセスを想像する視点をもつことを忘れないようにしています。その言葉に決定した裏側と、きれいな言葉の間にあることに会社の個性があります(平山氏)
また、「オウンドメディアを継続して運用していたとしても、アプローチや切り口はいくらでも変えられる」と平山氏は言う。たとえば、公式noteで最近連載している「晴れ風ができるまで~若手従業員の挑戦~」は、「晴れ風」というブランドの訴求のように思えるが、実は「キリンで若手が活躍していることを伝えたい」という人事部からの要望から生まれた。
オウンドメディアという名前は発信の場所を指しているだけなので、さまざまな役割をもつ場にしていきたいと思っています。表面上のアウトプットはオウンドメディアを継続しているように見えるかもしれませんが、裏側では全然違うアプローチをしているんです。キリンに勤めて5年が過ぎていますが、いまの仕事は全然飽きないです(平山氏)
仕事に飽きないための、次なる打ち手とは
マイルール4 ルールは則るのではなく、創造する
自分のことを飽きっぽい性格だと語る平山氏。飽きが来ないように自分に課しているミッションもあるという。
ルールに則って穴埋め問題に回答するように仕事をするのではなく、どうせ働くなら自分でフレームを1個つくるくらいのスタンスで取り組もうと心がけています。フレームをつくるという姿勢を持つと、自然と仕事の解像度が上がっていくんです(平山氏)
公式noteには社内から多くのオファーが寄せられ、さまざまな役割が増えている。そのうえで、平山氏はオウンドメディアの一歩先を見つめている。
コロナ禍を経て、学びやテーマに人が集まっていることを感じています。そこで、複数の大手企業と連携して『大人の学び場』のような接点をつくることを構想しているところです。たとえば、『フードテック』というテーマであれば、業界のオピニオンの方をお呼びしながら、同じような取り組みをしている企業さんと近い未来を語り合うこともできると思っています。市場としては競合でも、未来に視点を移せば共創ができる。いわばオウンドメディア連合をつくろうとしています(平山氏)
こうした動きを思いついたのは、オウンドメディアの新たな展開を考えていたときに、各社がそれぞれのメディアで実は近しいメッセージを発信していることに気付いたからだ。声をかけた他社にはその課題意識が伝わり、連携は実現に向けて動き出している。
日々新しいオウンドメディアは増えていますが、多くの課題を抱えています。我々のメディアももちろん、何かしら手を打たなければジリ貧になるのではないかという危機意識があります。私はオウンドメディアの本を書いたりもしたので、ともすれば先生的な立ち位置として声をかけられることもある。とはいえ、本で書いた時点では見えなかった問題は山積している状態で、現状に満足してしまうことはリスクになると思っています。だからこそ、新しいことに挑戦して、たとえ失敗しても自分を追い込みたいのかもしれません(平山氏)
最後に、今後の展望について平山氏に聞いた。
直近の課題は、オウンドメディアの取り組みがどうしても属人的になっているので、インハウスエディターを教育していくことです。編集スキルについては学べる場が他にもあるので、オウンドメディア担当者としての心構えや視点についてまとめているところです。また先述したように、コロナ禍を経て『場』の重要性が増しているので、何かしらの形でコミュニティや場づくりもしていきたいです(平山氏)
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