デジマ4つのマイルール

「いまWebサイトを作るならStudioで」25歳で起業したデザイナーの「納期を半分にする仕事術」

デジタル業界のキャリアを掘り下げる連載。今回は、25歳でデザイン会社を起業した株式会社gazの吉岡さんのマイルールに迫ります。

前倒しで進めたいと思いつつ、結局納期に追われてしまう――そんな経験のある人は多いのではないだろうか。そこで参考にしたいのが、Web制作会社gaz(ギャズ)代表・吉岡氏の「納期を半分に設定する」という考え方だ。「速さでもてなす」を信条に、多くのクライアントから信頼を得てきた吉岡氏。実際、どのようにして納期半分を実現しているのか。その仕事のマイルールを聞いた。

株式会社gaz 代表取締役CEO 吉岡泰之氏

納期の基本設定は50%

4つのマイルール

ルール1 速さでもてなす

クライアントワークの納期の基本設定は50%です。1カ月後の納期なら2週間後。最終的に3週間後にクオリティの高いものを提出できたら、お客様からすれば期待値も速度も超えているのでリピートにつながります。同じものが出てくるなら、早くて悪いことはひとつもありません。仕事だけじゃなくて料理など日常の体験でもそうです。同じクオリティのものが1時間後に出てくるのと、5分後に出てくるのでは体験の質はまったく違います(吉岡氏)

Web制作会社gazの代表である吉岡氏は、さらっとそう語る。自分がサービスを受ける側の立場で考えると理屈はよくわかるのだが、仕事の場で実践できる人はなかなか少ないように思う。
納期を半分でクオリティ高く仕事を仕上げるには、前倒しで仕事を進めることになり残業時間が増えてしまいそうだからだ。しかし、吉岡氏は「目指しているのは労働強化ではなく、生産性向上」と話す。

生産性高く制作をするために、私たちが活用しているのは『Studio(スタジオ)』というノーコードでWebサイトを制作できるツールです。コーディングが必要ないので制作スピードは1.5~2倍になります。時間は巻けば巻くほど余裕も生まれます。短縮できた時間を休息に充ててもいいし、仕事の質をさらに高める学びにも充てられます(吉岡氏)

こうした速さを重視した吉岡氏の方針によって、gazは創業から5年で400以上のサイトをStudioを用いて制作し、その実績では肩を並べる会社がいない状態になった。

制作実績

新卒入社半年後に会社を辞める

ルール2 一次情報を重視する

生成AIや検索、SNSなどで手軽に情報を手に入れられるようになった今、直に見聞きした一次情報の重要性が語られることは多い。しかし、吉岡氏は大学生の頃から自分の目で見て考えることを重視してきた。実は、吉岡氏がWebデザインの道を選んだのもこうした行動の積み重ねの結果だ。

高校生の頃はファッションデザイナーを目指していて、ファッションなら本場はパリだと考え、大学ではフランス語を専攻しました。大学では研究旅行で実際にパリに行きました。ファッションの研究をしようと思っていたのですが、パリコレクションと時期が合わず、興味をもったのが都市景観デザインでした。デザイナーの仕事はファッションだけではないと知り、思いつく限りのデザインの仕事について調べてみました(吉岡氏)

デザインの仕事について調べていくうちに、たまたま知ったのがAirbnbだ。吉岡氏は代表のインタビューを読み、「自分がやりたいのはこういうことだ」と強く感じた。

Airbnbは3人の経営者が共同創業していて、2人が美大でデザインを学んでいて、世の中の仕組みや課題を解決する手段としてデザインを活用しています。自分たちの住むエリアのホテルが満室で困っている人がいることを知り、エアベッドを膨らませて朝食をつけてロフトを貸し出すことにしてWebサイトに載せたのが始まりです。自分が考えられる範囲で社会にインパクトを生み出すことがかっこいいと思いました(吉岡氏)

自分にも何かできるのではないかと感じ、さっそくWeb制作を学ぼうとアルバイト代と祖母に借りたお金でMacbookを購入。知人のスクールで短期間学び、その後は独学でWebサイトを制作できるようになった。その後の大学時代はフリーランスとして仕事も請け負っていたという。

就職活動の時期になったとき、吉岡氏には入りたいと思う会社があった。ZOZOグループのアラタナというEコマース領域のサービスを展開する企業だ。創業者である濵渦氏はその後、NOT A HOTELを創業している。

アラタナは宮崎県で創業した会社です。私は福岡出身だったので、宮崎で創業した企業が東京のプロジェクトをたくさん受けて、ZOZOに注目されて30億円で売却したと知り驚きましたし、ワクワクしました。この会社に入ろう!と決めました(吉岡氏)

就職はアラタナ以外は考えていなかったという

当時、アラタナは新卒でWebデザイナーの募集をしていなかったが、吉岡氏は個別に応募書類を送り、インターンに参加することができた。課題に取り組んでプレゼンを終えて、内定を手にしたのだ。入社後も吉岡氏はスピードを重視するあまり、さまざまな交渉をしたという。

入社後に3カ月の研修があったのですが、すぐ実践で仕事をしたかったんです。大学時代に基礎は身につけていましたので交渉してテストを受けさせてもらい、無事にパスすることができました。さっそくプロジェクトにアサインしてもらいました(吉岡氏)

まずは小さなプロジェクトを経験し、大きなプロジェクトにもアサインされるようになったある日、吉岡氏はアラタナの代表である濵渦氏にこんなことを言われる。

「吉岡くん、いつか起業するよね? 早ければ早いほうが良いよ!」

その翌月、新卒入社半年後に吉岡氏は会社を辞めた。

『圧力がかかる環境にいち早く身を置く方が成長する』と言ってくれたと解釈しています。ストレスがかからない環境でチャレンジして成功してもすごくないんですよね。スポーツと同じで、練習でうまくいくことが大事なのではなく、本番で疲労していて敵も強く切羽詰まっているときに、練習と同じパフォーマンスが出せてこそ一流。企業の経営者もそうです。借金を背負って社員を採用して、その人生や家族も背負う経験が非常に大事だと思っています(吉岡氏)

吉岡氏のこれまでのキャリア

資本金50万円、25歳で起業

ルール3正解を疑え

新卒入社の半年後に会社を辞めた吉岡氏は、学生時代フリーランスとして活動していたときに知り合った友人のスタートアップに誘われ、経営層として参画した。しかし、約2年間経営に携わった後、会社は規模を縮小する形となった。初めて企業経営に携わった経験を吉岡氏はこう振り返る。

組織としても個人としても、足りないものだらけであることを痛感しました。優秀なメンバーもいたのに、伸ばせなかったのは経営層の責任だったと思います。会社が規模を縮小することになり、自分が採用したメンバーを辞めさせなければならなかったのは、つらい経験でした(吉岡氏)

会社を退職したのが2019年4月のこと。その翌月に吉岡氏はgazを自己資金だけで立ち上げた。

スモールビジネス型のクライアントワークなので、外部資本に頼る必要はありませんでした(吉岡氏)

とはいえ、創業当初、取引先は1社もなく、資本金は50万円という状態だった。パソコンとデスクを購入し、入居しているスタートアップ支援施設の賃料も払う必要がある。しかも、前職のインターンを採用して社員も一人いたため、資金はすぐに底をつきそうな状況だった。

UIデザインの伴走サービスをリリースして、3~4社から問い合わせをもらうことができました。初めて依頼されたWeb制作はプロジェクトサイトを紹介する1ページのサイト。納期は10日ほどでしたが1週間で納品し、クオリティにも満足していただけました。依頼があるものはすべてやるという感じ、自転車操業を続けながらなんとかやっていきました(吉岡氏)

吉岡氏がgazを創業したときに決めたのは、制作会社としては王道である分業制度を取らないことだった。一般的にWeb制作会社にはデザイナー、コーダー、エンジニア、ディレクターなど多くの職種が在籍するが、gazはデザイナーを中心とした組織にすることを選んだ。

その選択をした理由を吉岡氏は「ノーコードツールでWeb制作をすると決めたから」と話す。

創業0年目のgazが全国規模の仕事をしたいと思ったら、実績を積み上げていくのに10年はかかります。当時ノーコードツールは登場していましたが、大規模な制作会社が制作体制を転換するには、さまざまな職種の役割を変える必要があるため時間がかかるだろうと思いました(吉岡氏)

デザイナーが一気通貫で作れるのがgazの強みである

なぜ、Studioを選んだのか

ルール4 全振りの意思決定

gazはさまざまあるノーコードツールの中で、Studioのみを活用するという選択をした。

中小のWeb制作会社の場合、幅広いニーズに応えられるようにどんなツールでも使えることを売りにしていることも多いです。たしかに選択肢を増やすことは安全かもしれませんが、それでは企業として尖れないと考えました。急成長するには、ハイリスク・ハイリターンです。だからリスクを取ってStudioと共に成長しようと決めました(吉岡氏)

結果として、5年でStudioはツールとしての認知度を高め、gazは高いパートナーランクを維持している。吉岡氏のStudioに全振りした意思決定によって、先行者利益をつかむことができたのだ。

ツールを活用したWebサイトの制作は吉岡氏も言うようにリスクが伴う。もし、Studioというツールがなくなってしまったら、Studioで制作されたサイトは表示できなくなるリスクも考えられる。だが、吉岡氏はクライアントにもリスクを説明した上で了承を得て実績を積み重ねてきた。なぜ、Studioにそこまで賭けることができたのだろうか。

Studioがまだ数名のスタートアップだった時代に、オフィスを訪ねたことがあります。どんな会社なのか、自分の目で確かめてみたいと思ったからです。その結果、きっとStudioは成長すると直感したんです。ツールとしての完成度は今とは比べ物にならないくらい低かったのですが、高い理想を掲げて、優秀なエンジニアがいる会社なので、成長しないわけがないと思いました(吉岡氏)

「Studio Design Award 2024」で受賞。
Studioの成長と同時にgazも拡大している(写真:本人提供)

最後に、今後目指していることを吉岡氏に聞いてみると、「日本の働く環境を変えること」という答えが返ってきた。

今の日本は仕事に対するストレスを抱えていて、月曜になると仕事をするのが憂鬱だという人がとても多いと思います。この環境をどうしたらひっくり返せるのか。ひとつの答えとして、gazで楽しくて世界水準の成果を出せる組織を実現したいと考えています(吉岡氏)

こうした思想のもと独自の組織運営を進めているという。例えば、そのひとつが「50%セルフマネジメント」だ。

ティール組織のように100%セルフマネジメントではなく、日本企業には50%くらいのセルフマネジメントが合うと思っています。それによって、中間管理職の負担を軽減して中小企業でも実現可能な組織作りをしていきたいです。

今はセルフマネジメントの土台として『思想習慣』の浸透をしています。たとえば雨が降ったから憂鬱だと思うのではなく『新しい傘が使えて楽しい』と考えるなどコントロールできることに目を向けることが大事です。目標設定はメンバーが主体性をもって決めることを大切にしています。

まずはgazが楽しく働ける環境を体現して、スケールして大きな組織にすることができれば、日本の社会にもインパクトを与えられるのではと考えています(吉岡氏)

4つのマイルール(再掲)

gazの知識を詰め込んだ「Studio」入門書を発売

株式会社gazが執筆した、Studioの知識を学べる書籍が2025年3月21日(金)に発売されます。現在、Amazonで予約受付中です。Webサイト制作を始めたい方は、ぜひチェックしてみてください。

書名:知識ゼロからノーコードではじめる Studio Webサイト制作入門
著者:株式会社gaz
出版社:インプレス
発売予定:2025年3月21日(金) 
ページ数:240ページ
サイズ:B5変形判
定価:2,420円(本体2,200円+税10%)

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