Google Marketing Live 2025 〜AIが切り拓く広告の新境地:Googleの最新戦略〜
2025年5月21日(米国時間)、Googleは同社の広告ならびにコマース関連プロダクト群に関する最新アップデートや、開発の方向性を発表するGoogle Marketing Live 2025(以下、GML2025)を開催しました。
本記事では、日本時間5月22日午前1時よりライブストリーミング配信されたGML2025のメインセッションであるキーノートスピーチの発表内容に加え、その後、ブログやヘルプで発表された内容を統合した上で記事化しています。
主要テーマは引き続きAI、だが検索とYouTubeの強さも健在
GoogleのSenior Vice President兼Chief Business OfficerであるPhilipp Schindler氏によってキックオフされた本イベントは、今年もベイビューキャンパスでの開催・中継で、12回目の開催となるそうです。

冒頭からGemini 2.5、Imagen 4、Veo 3などのAIモデルの性能の向上、NotebookLMやWaymo(自動運転自動車)などのアプリケーション、Google Deepmindが手がけるAlphaFoldによる医療領域への応用など、GoogleのAI分野における開発力をアピールしました。量子コンピューティングなどAIを支えるインフラ技術についての言及もあり、今後の計算能力の飛躍的な向上と、それに伴うAI応用の可能性が広がることが示唆されました。
ユーザーはオンライン上で、検索をしたり、ストリーミング動画を見たり、Webサイトやアプリをスクロールしたり、ショッピングをしたりと、絶えず行動を繰り返しています。そのような中で、従来のマーケティングファネルの概念はほぼ消滅し、ユーザーの行動を予測することがますます困難になっています。
この複雑な状況において、リアルタイムでユーザーにタッチし、最大限のリターンを実現する手助けをすること――それこそが、AIの真のパワーだと言います。
もちろん、この後、キーノートセッション全編にわたってAIで強化された広告プロダクトや機能についての発表が行われたわけですが、特にSchindler氏のパートでは、Googleの全事業の中核である「検索」と「YouTube」がいかにマーケターにとって魅力的なプラットフォームであるかをあらためて力説していた点が印象的でした。
これは、昨今のAI検索エンジンとの激化する競争や、Googleが直面している反トラスト法訴訟に対する不安を払拭し、Googleの自社サービス群の強みをあらためて訴求することが目的だったのではないでしょうか。
Googleの広告プロダクトの方向性
昨年、Google 広告部門のトップ(Vice President / General Manager, Ads)に就任したVidhya Srinivasan氏は、自身のセッションで「広告の未来はすでに始まっている」と述べ、現在Googleが提供する広告プロダクトがどのような価値を実現しているかを説明しました。
- ユーザーの体験を邪魔しない広告
- ユーザーとブランドを自然につなげる広告
- ユーザーにとって適切なタイミングで届けられる広告
- ユーザーに最適化されたクリエイティブによる広告
- 成果が測定可能な、パフォーマンスドリブンな広告
- ユーザーにインスピレーションを与える広告

検索の未来が広告にもたらすもの
Srinivasan氏はさらに、広告の未来が広告主にもたらす価値について言及し、現在Googleが開発を従来の2倍のスピードで強化している三つの重点領域を挙げました。
AIによって強化されたユーザー発見:検索意図がはっきりしない場合でも、AIが文脈を理解し、適切な広告を通じてユーザーとブランドをつなげます。
マルチモーダル理解の進化:テキストだけでなく、画像・動画・音声などさまざまな形式の情報をAIが横断的に理解。ユーザーが「何を知りたいか」だけでなく「なぜそれを知りたいのか」といった深層の意図まで読み取る、次世代の検索体験を実現します。
エージェントを活用したインテリジェントなアクション:AIエージェントがユーザーの検索行動に基づいて、たとえば商品購入のチェックアウトを支援するなど、検索からアクションまでをシームレスかつ賢く導きます。
また、Srinivasan氏はAI Overviews上に表示される広告の拡大と、AI Modeにおける広告テストの開始を発表しました。Googleは、AIが広告パフォーマンスの向上、特に高いROI(投資対効果)を実現する鍵であることを強調しています。
具体的には、以下の三つの要素を組み合わせたAI主導の広告ソリューションが、業界でも最高水準のROIをもたらしていると述べました。
- 業界最高レベルのAI技術
- P-MAXに代表される自動最適化型広告ソリューション
- 検索・動画視聴・スクロール・ショッピングといった行動から抽出されるユーザー意図
さらに、Googleが実施したリサーチデータとして、以下のような成果も紹介されました。
- Google検索に1ドル投資すると、平均で6ドルのリターンが得られる
- YouTubeはテレビやソーシャル広告と比べて、長期的に高いROAS(広告費用対効果)を実現
- Google検索とYouTubeを組み合わせることで、他メディアと比べて21%高いROASを記録
以下、今回のイベントやヘルプ、ブログ上で発表されたプロダクトや機能について特に「検索」と「広告」領域を中心に紹介します。なお、今回のイベント開催前にすでに発表されているものや、直近のGoogle I/Oで発表された内容も含みます。
検索広告:AIによる回答 + 広告表示の新潮流
Googleは、AIによる検索体験の変化に合わせて、広告表示も進化させています。ユーザーが求める情報にAIが回答する、AI OverviewsやAI Mode上で広告表示を模索しており、より効果的にブランドとユーザーを結びつけるための新しいアプローチが導入されます。
AI Overviews(AIによる要約)への広告表示:ユーザーがAI生成の検索結果を見る際、その中に広告も表示される新方式。検索体験に溶け込んだ自然な形で広告が表示されます(一部の国では、デスクトップとモバイルで英語版を近日公開予定)。
AI Modeによる検索体験の変化:会話型インターフェースでの検索が前提となり、広告もより文脈に即した表示へ(米国で利用可能)。
SEOガイドラインの刷新:Google検索におけるAI体験(AI OverviewsやAI Modeなど)で自社のコンテンツが適切に表示されるようにするためのガイドラインを提供。

P-MAXキャンペーンの透明性、コントロール強化
Googleは、P-MAXキャンペーンの運用において、広告主がより詳細なインサイトを得て、きめ細やかなコントロールを行えるよう、透明性と管理機能を強化しました。これにより、キャンペーンのパフォーマンスをより深く理解し、最適化を進めることが可能になります。
チャネルパフォーマンスレポート:各チャネルごとのパフォーマンスを可視化するレポート機能が追加(グローバルでベータ展開中)。
検索キーワードの可視化:P-MAXキャンペーンにおいて、検索キャンペーンやショッピングキャンペーンと同レベルの検索レポートの粒度でデータを得られるようになります(グローバルで近日公開予定)。
新しいキャンペーンコントロール:ワンクリックで、自社ブランドを検索している人、自社YouTubeコンテンツをクリックした人、自社Webサイトを訪問した人、自社アプリを使用した人を簡単に除外設定可能(ベータ版は今年後半に公開予定)。

検索広告の機能強化
Googleは、検索広告のパフォーマンスをさらに向上させるため、AIを活用した新たな機能や最適化ツールを導入します。これにより、広告主は未開拓の検索ニーズを捉え、より効率的にコンバージョンを獲得できるようになります。
AI Max for Search キャンペーン:部分一致(インテントマッチ)やキーワードレステクノロジーにより、キーワードを拡張し、未開拓のパフォーマンスの高いクエリを見つけ、キャンペーンを最適化するための新しい実用的な洞察を得ることが可能になります(ベータ版は近日公開予定)。
Smart Bidding Exploration:Smart Bidding Explorationをオンにすることで、広告グループ粒度でスマート自動入札を利用し、既存のリーチ内でさらにコンバージョンを獲得する実験を後押し(グローバルでベータ版公開中)。

Google マップの広告拡張
Google マップは、ユーザーが場所やビジネスを探す上で不可欠なツールとなっています。Googleは、この強力なプラットフォーム上での広告機会をさらに拡大し、企業がより効果的に実店舗への来店を促進できるよう、新たな機能を提供します。
- デマンド ジェネレーション キャンペーンのGoogle マップ対応:デマンド ジェネレーション キャンペーンで、Google マップのプロモート ピン機能を通じて、さまざまな企業や場所を閲覧しているユーザーにリーチすることが間もなく可能になります。
動画はよりショッパブルに。アプリはiOS強化
Googleは、YouTubeをはじめとする動画コンテンツを購買に直結させるための機能と、アプリプロモーション、特にiOS環境での効果測定・最適化を強力に推し進めています。AIの力を借りて、ユーザー体験を損なわずに広告効果を最大化する新たな取り組みが発表されました。
- クリエイター パートナーシップ ハブ:企業がYouTubeクリエイターと直接コラボできる専用のプラットフォーム(20以上の地域で利用可能)。

インサイトファインダー:YouTube上のトレンドクリエイターや人気コンテンツをテーマ・カテゴリ別に発見できるツール(20以上の地域で利用可能)。
YouTubeのマストヘッドがショッピング可能に:YouTubeトップに掲載される「マストヘッド」広告がショッピング対応に(現在、グローバルで利用可能)。
コネクテッドTVでのショッパブル体験:デマンド・ジェネレーションキャンペーンやP-MAXを使ったCTV広告に、QRコードなどで直接ショッピング導線を実装し、テレビで広告を見た視聴者がスマホで即アクションできるように(数か月以内にグローバルで公開予定)。
Peak Pointsフォーマット:GeminiのAIがYouTube動画の最適な広告挿入ポイントを自動特定し、自然な流れで広告を挿入する新フォーマット(現在:米国、英国、カナダ、オーストラリアで英語で利用可能)。
デマンド・ジェネレーションの高速購入:YouTubeの動画視聴中に、商品紹介から直接購入手続きに進める機能。広告視聴→購入を1ステップで完結できるように(米国英語環境で利用可能)。
検索・画像・ショッピング面への動画広告拡張:P-MAXに動画アセットを加えることで、検索結果・画像検索・Googleショッピング面にも動画広告を配信可能に(米国・カナダで公開予定)。
生成AIで動画のリサイズ・拡張:既存の動画素材をもとに、AIが自動でアスペクト比を補完。縦横比が異なるプラットフォームにも適応した高品質な動画を自動生成(グローバルで利用可能)。
WebキャンペーンからアプリのCV測定:Web広告の流入からアプリインストール→アプリ内アクションのコンバージョンまでを一気通貫で計測可能に(近日公開予定)。
Google 広告のWebとアプリの統合:Webとアプリをまたいだ入札・コンバージョンの一元管理が可能に(すでに利用可能)。
iOSアプリキャンペーン向けtROAS入札:iOSアプリ広告でも、目標広告費用対効果(tROAS)に基づいた入札がグローバル対応。
イベントデータによるプライバシー対応CV測定:iOSアプリのイベントデータを用いて、デバイス上で匿名のままコンバージョン測定を実行。個人情報を一切クラウドに送らず、広告最適化とプライバシー保護を両立(今後数週間でベータ版公開予定)。
より密接になるクリエイティブとコマース
Googleは、AIを活用してクリエイティブ制作とコマース体験をさらに密接に連携させるためのさまざまな新機能を発表しました。これにより、ユーザーはよりパーソナライズされたショッピング体験を享受でき、広告主はクリエイティブ制作と成果を最大化できるようになります。
アセットスタジオ(Asset Studio):Google AI を使用して高品質のアセットとバリエーションをGoogle 広告の一つの配信先で作成できます。アセットを作成、生成、インポート、プレビューすることで、クリエイティブの作業全体を効率化。また、商品をフィーチャーした画像を生成できるようになるため、商品に動きをつけたり、リッチなライフスタイル画像を作成したりが可能(この機能は、すでに広告とMerchant Centerで利用可能となっており、アセットスタジオでもグローバルで公開予定)。
AI Modeでのショッピング:Geminiとショッピンググラフを統合し、ユーザーに最適な商品提案を行う対話型のショッピング体験(近日中に米国で公開予定)。
バーチャル試着:ユーザーが自身の写真をアップロードすることで、AIが服を自動的に合成し、着用イメージを表示(米国のSearch Labsで実験展開中)。

ブランドプロフィール:Google検索上でのブランド情報の表示を、Merchant Centerでも一元管理できるように(近日グローバルで提供予定)。
コンテンツハブ:Merchant Center内の新機能で、企業サイトやSNSから動画コンテンツを自動的に収集・合成し、広告キャンペーンに活用可能(米国、カナダ、オーストラリア、英国でまもなく公開予定)。
実用的な予測インサイトの提示:Merchant Centerで販売機会を可視化する新機能。A/Bテストの提案、価格割引の最適化提案、コンテンツ改善のアドバイスなどをAIが自動で提示し、日常の運用判断をサポート(米国で公開予定)。
Product Studioの新しいAIツール(Generated for you):コンテンツの提案、ブランドイメージの生成、動画の自動作成など、マーケティングアセットの企画から配信までを一括支援するAIツール(米国、英国、カナダ、インド、日本で利用可能)。
計測、最適化、投資判断を支えるAIとツール群
広告効果を最大化し、適正な投資判断を下すためには、正確なデータ計測と分析が不可欠です。Googleは、AIと進化するツール群を通じて、マーケターがより深いインサイトを獲得し、キャンペーンの最適化から将来の投資計画まで、あらゆる局面でデータに基づいた意思決定を支援します。
新規顧客獲得目標:デマンド・ジェネレーションキャンペーンで「新規顧客の獲得」を明示的な最適化目標として設定可能に(グローバルで近日公開予定)。
より簡単で迅速なインクリメンタルテスト:全キャンペーンで増分効果(広告が本当に成果に貢献しているか)を手軽に測定可能に。
ブランド検索行動の測定(アトリビューテッドブランデッド検索):広告に触れたユーザーが自社ブランドを検索したかどうかを定量的に把握可能に。
コマースメディア・スイート:小売事業者のファーストパーティデータとGoogle AIを活用した売上増加と新規顧客獲得のためのソリューション。Google 広告、ディスプレイ&ビデオ 360、検索広告 360で利用可能(現在は限定ベータ中)。
メリディアン・シナリオプランナー:GoogleのMMM(マーケティングミックスモデリング)ツール「メリディアン」に、新たに将来の投資配分をシミュレーションできるインタラクティブな機能が追加。
MMM Data Platform API:GoogleやYouTubeのデータ(検索ボリューム、リーチ、フリークエンシーなど)を活用するためのAPI。
Google アナリティクスにおけるマルチタッチアトリビューションの強化:インプレッションやVTC(ビュースルーコンバージョン)を含む複数接点を考慮したアトリビューションが強化(グローバルで近日公開予定)。
Google アナリティクスでのクロスチャネル予算管理:Google アナリティクス上で異なるチャネルにまたがる広告予算の配分・最適化が可能に(グローバルで近日公開予定)。
データ・マネージャーの機能拡張:検索広告 360とキャンペーンマネージャー 360にも対応。Data Manager APIでファーストパーティデータをより広範にGoogle 広告製品と接続可能に(グローバルで近日公開予定)。
Google タグ ゲートウェイ:広告主のタグ管理を効率化する新機能。サイト上の信号収集が最適化され、より精度の高いコンバージョン測定とインサイト取得が可能に。導入企業ではシグナル収集量が平均11%向上(現在グローバルで利用可能)。
AIエージェント導入による自動最適化支援
Googleは、マーケターの日常業務を強力にサポートするため、AIエージェントの導入を加速しています。これらのエージェントは、データ分析から戦略立案、さらには実行支援まで、幅広い領域で広告運用の自動最適化を促進し、業務効率を飛躍的に向上させます。
Google 広告のエキスパート:Google 広告の運用をサポートするAIエージェント。広告キャンペーンのパフォーマンスやビジネスデータをもとに、入札戦略、予算配分、クリエイティブ最適化などの改善提案を自動で提供(現在ベータ版で利用可能)。
Google アナリティクスのエキスパート:Google アナリティクス上に実装されるAIエージェント。ユーザーの複雑な質問に対して、分析結果の可視化や戦略的な提案を行うことで、分析から意思決定までのプロセスを効率化します(現在ベータ版で利用可能)。
マーケティングアドバイザー:Google Chromeに統合される対話型エージェントで、Webサイトを閲覧中のコンテキストを理解しながら、音声での対話を通じてマーケティング課題に対応。複数のタブやサイトを横断しながら、最適な情報や手順を提示し、業務をナビゲートします(近日中に公開予定)。
今回のイベントを振り返る
今年も数多くの新機能が発表されました。AIの存在感は昨年から際立っていましたが、今年はさらに一歩進み、さまざまな場面で実際に活用されるようになっています。
特に、生成AIを用いた素材制作においては、クオリティが飛躍的に向上しており、その進化を強く感じさせました。実際、イベント内で披露されたVeo 3のみで制作された映像は、まるで映画を観ているかのようなリアリティを備えており、大きなインパクトを与えていました。
また、キャンペーン運用における壁打ち相手から、効果最大化のための改善提案、さらには実行までをAIエージェントが担う世界が、もはや「未来の構想」ではなく「すでに実現されている現実」であることを、Googleは明確に示しました。
こうしたメッセージを通じて、Google 広告の進化と、その市場における揺るぎないポジションが、より強固なものとなった印象を受けました。
AI OverviewsやAI Modeにおける広告表示は、Googleの真骨頂である「ユーザー体験を最優先し、その後に広告を配置する」という原則を守りつつも、同時にこれまでの広告モデルを自ら揺るがしかねないリスクも孕んでいます。
果たして、屋台骨である検索ビジネスをGoogleは守り抜くことができるのか。その行方は、今後も注視する価値があるといえるでしょう。
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