サードパーティーCookieの代替策、推定IDの「IM-UID」とは何? インティメート・マージャーに聞いてみた
Google ChromeによるサードパーティーCookieの規制強化や、改正個人情報保護法の施行に伴い、これまでと同じ精度や手法でデジタルマーケティングを行うことが困難になる可能性が懸念されています。
今回は本連載の筆者である杉原氏がインタビュアーを務め、株式会社インティメート・マージャーが提供する共通IDソリューション「Intimate Merger Universal Identifier(IM-UID)」について、同社の代表取締役社長 簗島 亮次 氏にお話をうかがいました。
ユーザーを類推することで、可能になるマーケティング施策の広がり
インティメート・マージャーは、国内最大級のデータマネジメントプラットフォーム(DMP)「IM-DMP」を提供しています。簗島氏は、
ID事業(IM-UID)は、DMP事業(IM-DMP)の延長なんです(簗島氏)
と話すように、DMPで収集したデータを活用してIM-UIDは成り立っています。
IM-DMPは、「提携のポータルサイト」「生活情報サイト」「Q&Aサイト」「まとめサイト」などの大規模メディアやインターネットリサーチを通じて、約4.7億ユニークブラウザのオーディエンスデータを取得しています。
オーディエンスデータは、インターネットリサーチを通じた属性情報や提携メディアの閲覧状況を考慮した興味・関心の傾向などからセグメント化することができ、広告配信はもちろん、MA、CRMツール、インターネットリサーチやポスティング・ダイレクトメールなどにも活用できます。

IM-UIDは、サードパーティCookieに代わる推定IDとして注目されており、広告配信はもちろん、商品やコンテンツのレコメンドエンジンやMAツールとの連携なども可能です。
技術的には、初めて訪問したECサイトであっても、IM-UIDからそのユーザーの属性や好みを類推して、コンテンツを出し分けるというような活用方法も可能です。収集するデータに、デバイスに紐づく位置情報なども含まれていれば、そのユーザーのライフスタイルに合わせたレコメンドも実現できます。
日本はファーストパーティデータが圧倒的に少ないです。自社で構築したCDP(Customer Data Platform)の場合、保有するデータの種類や量には限界があるため、広告配信・レコメンドの最適化には限界があります。
一方、IM-UIDは、圧倒的なボリュームがあり、高い精度でユーザーを類推できるので、自社データだけでは補足できない興味・関心などを踏まえた広告配信・施策ができます(簗島氏)
IM-UIDの仕組み。類推の精度は96.5%の一致率
ここで、IM-UIDの仕組みを解説しましょう。
IM-UIDは、「IPアドレス」「ユーザーエージェント(OS、ブラウザ、ブラウザのバージョン、デバイス種別など)」「タイムスタンプ」「アクセス先URL」「ドメインに紐づくファーストパーティデータ」などの情報を使って、類似した動きをしているユーザーをクラスターに分類し、クラスターに割り振るIDです。

たとえば、Aさんが夕方5時に自宅のWi-Fiから、ECサイトBにアクセスしているとします。使用デバイスとブラウザはMacのChromeのバージョン132です。今、この瞬間に同じ条件を持っている人は、それほど多くありません。
その後、Aさんがさらに新聞社のメディアCにアクセスすると、同じIPアドレス、ユーザーエージェントが記録されます。この時、ECサイトBを訪問したユーザーと新聞社Cにアクセスした人は、たくさんあるアクセスの中で類似点が多いことから、同じ人である可能性が高いと類推して、IM-UIDを付与します。

説明ではシンプルにしましたが、実際には時系列での動きなども分析したうえで類推します。
DMP事業で大量のデータがあり、類似する動きをしている端末を日本中から見つけることが可能でした。以前、アンケート会社のモニターのログを調べて、IM-UIDとモニターIDの一致率を検証してみたところ、96.5%の精度であることがわかりました(簗島氏)
クロスデバイスによる類推については、ユーザーエージェント以外の情報でユーザーを類推することになります。

IM-UIDを自社の会員データと連携すれば、自社サイト外での行動も追跡できる
IM-UIDを開発した背景には、サードパーティCookieの規制があります。特に2017年にAppleがSafariブラウザに、サードパーティCookieを段階的に無効化するITP(Intelligent Tracking Prevention)を導入しました。それがきっかけとなり、2018年頃からIM-UIDの開発に着手しました。現状では、サードパーティCookieが使えるブラウザは、おおむねAndroidに限られており、IM-UIDが代替となるIDとして活用できます。
開発にあたって、
- 精度が高い確定ID(メールアドレスなどをベースにしたID)を使うのか
- 精度はやや劣るがボリュームが多い推定IDにするのか
を検討した結果、ターゲットできるボリュームが大きいほうがデジタルマーケティングでは重要だと考え、推定IDを選択しました(簗島氏)
IM-UIDを自社が持つ会員データと紐づけることもできます。これにより、会員になっているユーザーの自社サイト以外での行動をデータで把握することができます。たとえば、競合商品に関心を持っている可能性が高い会員に「特別なクーポンを配信する」といった活用が可能です。
IM-UIDは個人関連情報になるため、自社の会員IDと突合する場合は、ユーザーの許諾が必要ですし、プライバシーポリシーにも明記する必要があります。
ユーザーの許諾を得るステップにハードルを感じる企業は多いものの、企業によってはサービスを利用するには、許諾が必要という仕組みにしているところもあります。IM-UIDの許諾は、オプトアウト形式(デフォルトで許諾になっていて、許諾しない場合は外す)になっています(簗島氏)
媒体社、広告主、消費者のメリット
IM-UIDの媒体社、広告主、消費者のメリットについては次のようになります。
媒体社(パブリッシャー)
サードパーティCookieがなくても、IM-UIDによってオーディエンスターゲティング、リターゲティングによる広告配信が可能になり、広告の品質が上がる。競争力のある広告主が出稿してくるため、結果としてCPM(Cost Per Mille:広告が1,000回表示されるごとにかかるコスト)が高くなる。CPMが高ければ、同じ広告インプレッション数でも収益が増える。
広告主
ターゲティング精度が低い広告枠よりも、精度が高い広告枠に広告を出稿できることで、CPMが上がったとしても、広告効果が高くなる。自社のターゲットに広告をピンポイントで出稿できることがメリットとなる。広告主は、IM-UIDを使うための設定などは必要ないケースが多く、意識せずとも、iOSも含めたターゲティングができる状況になっている。
消費者
許諾をした状態でデータが使われて、自分の関心にマッチする広告が配信される。
四方よしを目指して
パブリッシャーは広告枠を管理し、広告を販売するためのツールであるGoogle アド マネージャー(GAM)を使って、自社サイトの広告枠をさまざまな広告主に販売しています。もともとGAMに登録されている広告枠の中には、Google 広告が広告主の代理として、ダイレクトレスポンス広告を頻繁に配信していたものが含まれています。現在はGoogle 広告とIM-UIDは、連携されていないためGoogle 広告では利用できません。
一方で、IM-UIDと連携している国産のDSPは、Google 広告の競争がない状態で広告枠を購入できており、これにより、CPMが極端に上がり過ぎず、適度な価格でコンバージョンが出やすい状況になっています。
消費者の視点では、自分に関連のある広告が表示されることにメリットがある一方で、ターゲティングされることへの拒否感もあります。
たとえば、ファーストパーティデータと紐づけて、よいタイミングでのレコメンドやクーポンを消費者が受け取れるような仕組みになると、「パブリッシャー」「広告主」「消費者」そして「弊社」の四方良しになるかと思います。テクノロジーが進化してターゲティング精度がさらに上がれば、消費者のメリットも大きくなるでしょう(簗島氏)
IM-UIDを導入を意識するのはパブリッシャーのみ。導入は簡単、コスト負担もなし
パブリッシャーがIM-UIDを導入する場合、3パターンの方法があります。
1. ヘッダー入札(Header Bidding)を経由
ヘッダー入札(Header Bidding)は、複数のSSP(Supply-Side Platform:パブリッシャーが広告枠を広告主へ売るためのプラットフォーム)や広告ネットワークを同時に競争させる仕組みです。
Prebid.jsやGoogle Open Biddingなどのヘッダー入札ソリューションのラッパー(複数のSSPや広告ネットワークをまとめて管理し、一括で入札プロセスを制御する仕組み)を経由して、IM-UIDの発行をオンにします。
2. SSP経由
SSPの中には、IM-UID発行の仕組みがすでに組み込まれている場合も多いです。SSPを経由すると、IM-UIDが発行されます。
3. Google アド マネージャー(GAM)経由
GAMに、IM-UIDをオンにする機能があります。
大手のパブリッシャーであれば、上記3つのいずれかを使っているので、任意の方法でIM-UIDをオンにすれば活用できます。導入のための技術的なハードルは低いです(簗島氏)
なお、パブリッシャーはIM-UIDをオンにしたところで費用は発生しません。費用は、DSP(Demand-Side Platform、広告主向けプラットフォーム)が支払います。費用の流れは以下のようになります。
1. 広告主
DSPに対して広告出稿費用を支払う(例:リターゲティング広告を実施して費用を支払う)。
2. DSP
IM-UIDを活用してオーディエンスターゲティングを実施し、その際に発生したトラフィック量に応じて、広告主から受け取った広告費の一部をインティメート・マージャーに支払う。
インティメート・マージャーは、DMPを祖業としていることから、データ流通、つまりIM-UIDが付与されたトラフィック量に応じたビジネスモデルを採用しています(簗島氏)
インティメート・マージャーは、すでにCriteoなどと連携をしており、CriteoはDSPとして広告が売れるようになってきているという感触があるということです。
IM-UIDは、広告効果の最適化のためにも活用できる
簗島氏は媒体における計測の役割は、「広告効果を正しく計測すること」と「配信とコンバージョンの関係を大きく把握すること」の2つあると考えています。
「IM-UIDは広告効果の計測に使えるものの、類推であるため、広告成果についてはGoogle アナリティクスや、基幹データを使って計測してほしい」と、簗島氏。一方で、コンバージョン最適化には、IM-UIDのデータを活用することがマッチすると言います。
IM-UIDは国産のDSPとはすでに連携ができており、海外ではCriteoと連携しています。一方で、Googleが提供するDisplay & Video 360(DV360)、前回取材をしたThe Trade Deskなどは連携していません。
また、SSPはグローバルを含めてほぼ全てのプラットフォームと連携できており、fluct、Index Exchange、Media.net、PubMatic、Open Xなどと連携しています。DV360はSSP経由でIDを発行して連携してターゲティングすることもできるそうです。
DSPが直接連携している場合は、サードパーティCookieとほぼ同じようにターゲティングができて、ID単位でのフリクエンシーコントロール、リーセンシー管理などができます。SSP経由で連携する場合は、ユーザー単位でのフリクエンシーコントロール、リーセンシー管理ができません。個人を特定せずに、特定のオーディエンス、属性に配信するイメージです(簗島氏)
よりよい顧客体験のために、IM-UIDのトラフィックを増やしたい
冒頭で述べたような、初めて訪問した人であっても、Webサイト側でその人に適したコンテンツを表示するような活用は、今後広がっていくでしょう。その人の関心が高い情報が表示されたほうが、サイト内で迷ったり調べたりする必要がなくなり、スムーズな体験につながり、よりよい顧客体験が提供できるようになります。
将来的には、広告だけでなく、その人に合わせてレコメンドを出したり、特定のニーズが生まれたことを察知した時に、最適なチャネルでコミュニケーションできたりするような世界を目指しています。
IM-UIDはユーザーを理解するためのデータが大量にあるので、顧客体験が良くなる活用をするための究極系のITソリューションだと自負しています。広告に閉じずにこのIDソリューションを世の中に広げていきたいです(簗島氏)
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