失敗事例から学ぶ隠れた落とし穴とその回避法
対話を拒絶したコミュニティは10日で閉鎖する
TEXT:新世代マーケティング研究会
あらゆる業界で、ブログやSNSなどのUGC※1を活用した新しいタイプのプロモーションが数多く実施されている。本連載では、企業が実際に行ったプロモーションの事故事例をケーススタディとして、その経緯、失敗や炎上の理由、その回避方法などを考察する。
華々しく語られる成功事例は多いが、ユーザーとの関係構築が必要なオンラインプロモーションでは、うまくいかなかった失敗事例だからこそ得られる教訓やノウハウがあるはずだ。その知見を明らかにすることで、読者のマーケティング施策に少しでも役に立てればというのがこの連載の目的だ。
新機能の理解促進をmixiで
マスメディアを中心にした“一方向的なコミュニケーション”に限界を感じ始めている企業がユーザーを巻き込んだインタラクティブなコミュニケーションに新しい道を見出そうとするのは当然だろう。
実際に2006年4月には、フレンテ・インターナショナルがタブレット菓子「Pinky」の新商品ローンチキャンペーンの一環として、キャラクタ「ピンキーモンキー」をmixi公認ユーザーとして登録し、わずか6日間でマイミク(友人)上限の1,000人に達し、SNSを活用したプロモーションの成功事例として注目を浴びていた。
しかし、UGCは従来の(マス)メディアとは根本的に性質が異なる。そのため、クチコミプロモーションの企画や手法など、まだまだ模索しながら試験的に実施している企業が多かった。そんな中で、NTTドコモ(以下「ドコモ」)は、mixiを活用したクチコミの施策を実施した。
ドコモは、2005年に新機能「プッシュトーク(Push-to-Talk、以下「PTT」)」を搭載した902シリーズを発売した。PTTとは、同時に5人まで(現在は登録によって200人まで)パケット通信で同時会話が可能というトランシーバのような機能である。ドコモは、この新機種に人気グループのメンバーを起用したTVCMを大量に投下し、消費者の認知は瞬く間に拡大した。しかし、「そもそもPTT機能が良くわからない」という声も多く、どう便利なのかといった機能やベネフィットを伝えきれていなかった。
そこでドコモはPTTの機能を消費者に理解してもらい、その有効な利用方法についてユーザー同士やドコモとの間で意見交換をすることを目的に、mixi内に「プッシュトークです、どーぞっ!」という公認コミュニティを開設した。6月13日のことだ。“電話でもない、メールでもない、新しいコミュニケーション”プッシュトークの輪を広げたい気持ちからできたドコモのオフィシャルコミュニティ、それがコミュニティの紹介文の内容だった。
混乱、そして炎上へ
このコミュニティが他のmixiコミュニティと少し違っていたのは、独自の利用規約が定められ、「管理人の承諾のないトピックの作成はご遠慮ください」「特定機種の話題についてはオフィシャルホームページをご覧ください」などの注意書きが掲載されていたことだ。さらにコミュニティの管理人「プッシュガール」は利用者とのコミュニケーションを拒絶するとも取れる「こちらのアカウントは管理用なのでマイミクの申請などにはお応えできかねます。ご了承下さい」としていた。
公認コミュニティとは、mixiでは禁止とされている広告や宣伝を行うための有料のサービスだ。しかし、公認コミュニティであるかどうかはコミュニティアイコンまわりのデザインでしかわからないうえに、公認コミュニティが何かをmixiのユーザーすべてが理解しているわけではない。当初はトピックの主旨に合った質問に対しては、ドコモからも返事が書き込まれていた。しかし、徐々に「本当にドコモが運営しているコミュニティなのか、だれに許可を得てやっているのか」などといった、トピックの主旨から外れたコメントが増えてきた。そういった質問には返事がされなかったため、「なぜ返事をしないのか」「ユーザーから声を掛けているのだからコメントしようという姿勢をもっていいのではないか」といった種類のコメントが増え、それが悪循環となり「コミュニケーションを拒否するのか」「質問に答えろ」といった批判の書き込みが増えてしまった。いわゆる炎上だ。結局、このコミュニティは開設からわずか10日後の6月23日、閉鎖してしまった。
ドコモによると、「宣伝や販促が目的ではなく、あくまでもPTTに関する情報交換が目的」で開設したコミュニティで、閉鎖の理由としては、「批判や揚げ足とりのような発言が増えてしまい、結果として善意でコミュニティに参加しているmixiユーザーにとっても本来の目的である情報交換ができなくなったため、続けるのが適切ではないと判断した」のだという。
コミュニケーションを行わないコミュニティ?
mixiのようなSNSは、本来ならば、一生活者が共感を共有したり、意見交換をしたり、純粋におしゃべりをしたりする自由な広場だ。そこは、さまざまな想いをもったさまざまな人たちが緩やかにつながる、双方向コミュニケーションの場なのである。そのコミュニティに企業がマーケティング目的でお邪魔する場合は、細心の注意が必要だ。人が仲間と気持ち良く語り合っている部屋に、突然企業が土足で入ってきて商品を売りつけようとするようなものだからだ。そのため、コミュニティを活用したマーケティングを実施する場合は、あくまでも利用者と対等な立場や目線で、真摯に向き合わなければならない。mixi公認コミュニティとはいえ利用者にとっては「いつものmixiの延長の場」なのに、ドコモは「PTTに関する情報交換の場」ととらえていたため、そこに意識のずれが生じていたのではないだろうか。利用者が当然のように求めていた「ふつうの会話」に対応しなかったドコモは、極端な言い方をすれば「利用者との双方向コミュニケーションは行わない」という決断をしたとも言えるだろう。
そもそも、SNSやブログなどのUGCでは、投稿やコメントについて企業側がコントロールすることは不可能だ。そこに飛び込んでいくならば、企業が想定していないまたは望んでいないような発言を利用者はするものだという前提で、mixiという「場」の性質に合わせて利用者のコミュニケーションに立ち向かう準備をしておくべきだったのだろう。企業の看板を背負って利用者と真摯に向き合えば、初期の目的を達成するだけでなく、市場調査やグループインタビューでは得られないような、本当の「生の声」に触れることも可能だったのではないだろうか。
もしくは、公認コミュニティという商品を販売しているmixiが、不慣れな企業に対してコミュニティ運営に関するサポートを提供するべきだったのかもしれない。
この事例は、残念ながら最悪の結末を迎えるに至ってしまった。しかし、多くの企業がクチコミマーケティングの実施に二の足を踏む中で、日本を代表する企業の一社であるドコモがチャレンジしたことについては讃えたい。ドコモは、混沌とする近年のマーケティングコミュニケーションにおいて、「企業は如何に生活者と向き合い、会話をするべきなのか」という課題とヒントを身をもって示してくれたのだ。
挑戦の結果を評論し、笑うことは誰にでもできる。しかし、失敗した企業はそれだけ多くの知見を得ているのだ。実際にドコモでは、「今後mixiや他のSNSで同様の施策を行う具体的な予定はない。しかし、クチコミといっても広い。何らかの形での利用者とのコミュニケーションをあきらめたわけではない」としている。
企業の宣伝担当者は、この事例をケーススタディとして、これからますます盛んになるであろう、UGCを活用したプロモーションに役立ててほしい。
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウ vol.3』掲載の記事です。
コメント
●お客さまの審判は「はっきり」している!
ただシンプルに、「本当はどうなの?」を知りたいのだと思います。
個人的には、思惑をもった企業が、コミュニティーを運営するのは
いかがなものでしょうか?