コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の十八
メルマガ冬の時代。ほぼ日の終刊
暖かくなると埼玉県方面からくる暴走族が、爆音を轟かせるのが春の風物詩の足立区です。彼らは数が減ってもゼロにならないから不思議です。季節感の乏しいネットの世界ですが、メルマガを発行していると毎年GWのような長期休暇になるとやってくる風物詩があります。互いのメルマガで紹介しあい、読者増を期待する「相互紹介」の依頼です。しかし、これも年々減り続けており、メルマガは永い冬のまっただ中です。
2000年から続いていた「ほぼ日デリバリー版(ほぼ日刊イトイ新聞発行のメルマガ)」が3月で終わり、終刊直前号では糸居重里さんが変化という文脈から「ブログ以後」と触れていましたが、メルマガ発行者の誰もが感じていることではないでしょうか。
「ブログ以後」の世界で何が起こったか
メルマガは2002年頃からちょっとしたバブル状態に入りました。アマゾンで「メルマガ」というキーワードで検索すると、「成功法則」などのハウツーものが2003年発行の書籍から急増していることから、当時をうかがい知ることができます。ネットでのブームが書籍になるには半年から1年のタイムラグがあるのです。
金儲けのツールとして脚光を浴びた直後に、「ブログ」がネット業界を席巻しました。コメントにトラックバックといった「双方向性」がネットの住民の心を捉え、メールボックスに溢れる「エロメール」から目的のメルマガを探すよりも、自分の好きなときだけ見にいけばいい手軽さが支持されたのです。
メルマガ衰退の影で暗躍する情報起業家たち
ITバブルの余熱が残る中、誰でも金持ちになれるという風説が情報起業家(インフォプレナー)により流布されました。彼らの商品は「儲けられるかもしれない情報」で、メルマガも読者を集めて客にするという手法で紹介されました。
複製コストの少ないデジタルの世界では、情報は瞬時に広まります。結果、同じ切り口・文体が氾濫し、メルマガ全体の質が低下し、さらに彼らの「商品」の中には迷惑メールと同じものもありメール不信が拡大しました。
2002年にドコモが迷惑メール対策を始めたことにより「私信は携帯メールで」という流れに拍車が掛かかったのも見逃せません。
メルマガかブログか。演出で炎上させたくないのなら
眞鍋かをりさんがブログの女王になった頃には「メルマガは終わった」が定説となっていました。ブログでもRSSを利用することで、プッシュ型の告知ができるということからメルマガの終焉がまことしやかに語られたのです。
商売用なら両方やるのが「最適解」なのですが、白黒をつけたがり、新しいものを偏重するのもネットの住民の特徴で、振り回されると本質を見失うことがあるのでご注意下さい。
ブログもいいですし、メルマガもまだまだ有効です。
メルマガでは演出しやすいという利点があります。ブログでも演出できますが、炎上というリスクと背中合わせとなります。一方、メルマガは発行者の裁量だけです。前書きで挨拶をし、体験談を入れ、商品説明をして編集後記でダメ押しする。
商売用ならメルマガのほうが「簡単」なのです。
三河屋のサブちゃんに学ぶ接点の作り方
商売用のメルマガなら週1回は発行しなければなりません。「毎週売る商品なんかない」という会社もあるでしょうが、三河屋のサブちゃんが売り込みばかりしないことを想像してください。
アニメ「サザエさん」にでてくる酒販店「三河屋」の店員サブちゃんは、新商品をお勧めすることもありますが、勝手口からご用聞きに伺い、注文がないときでも「カツオくんがそこの公園で」というチクリを入れ、磯野家と常に「接点」を持つようにしています。
商売は忘れられれば終わりです。相手のメールボックスに飛び込んでいくメルマガは、接点を保ち続けるのに力を発揮します。だから、売るものがなくても週一回は「こんちは。三河屋です」とご挨拶に廻る必要があるということです。
もちろん、しつこいのは論外。近所のパチンコ店のメルマガ会員になってみると1日5回もメールが届き、即日怒りのおまけ付きで解約しました。朝から晩までサブちゃんが来たら、温厚なフネさんでも切れることでしょう。
メルマガオーナー:読者≒ラジオパーソナリティー:リスナー
メルマガは三河屋のサブちゃん。接点を持つ意味はわかった。で、どう書けばいいんだ。よくある質問です。
イメージするのは「ラジオのパーソナリティー」。私の世代ですと「とんねるずのオールナイトニッポン」の感じです。ちょっと年上の友達がなんでもない日常を呟く感じです。売ろうとなんてせずに、くだらない日常を綴るだけでよいのです。
メールは「個人」に届くパーソナルメディアです。だからこそ、自分にだけ語りかけていると錯覚を起こさせるぐらい、なんでもない会話(普通の言葉)が大切です。字数が尽きるので別の機会に譲りますが、メルマガは人柄を売るものです。
メルマガは死なず。商売用ホームページでの攻めの役割
ニュース評論に真贋不明の告白やエッセイについてはブログが圧倒的に優位ですし、ニュースサイトは同様の技術で更新されています。しかし、商売用メルマガはまだまだ死んでなんかいません。
成功するのをただ待っていることを「神頼み」といいます。SEOも基本は待ちの手法です。しかし、メルマガは見込み客に対して攻めることができます。サブちゃんのご用聞きです。
また、「顧客の育成」というアプローチからは新しい顧客層を開拓することもできます。お得意様へのフォローに使っていなければ実にもったいない話です。
まだままだメルマガは死んじゃいません。ただしメルマガでいきなり売ろうとすると失敗します。サブちゃんが押し売りを始めたら波平が黙っていないようにです。
♪今回のポイント
商売用ホームページのメルマガは大切なツール。
メルマガは接点作りのDJサブちゃん。忘れられないための接点作りとして。
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コメント
思わず、1時間も拝読しました!
宮脇 さま
JP利用のDMの項
大変参考になりました。
特に、封筒にメリット印刷が定石だったとは!
結構自社のことは、認知していただいていると
自惚れず、初めての人が自社のDMを開封してくれる原則ここにあり
ありがとうございました。
3000通の封筒印刷にさっそく、取り入れました。
大仏太郎
daibutu100@gmail.com
筆者の宮脇です
コメントありがとうございました。
そして返信遅くなりましたことお詫び申し上げます。
さて、私は相談者によくこういいます。
「あなたの会社はあなたが思っている以上には知られていませんよ」
軽いショック状態の相談者にこう続けます。
「だから知って貰う努力・工夫が必要なんですよ」
有名無名を問わずに知って貰う努力はとても大切です。さらにいえば
知って貰ったら「覚えて貰う(記憶される)」こともです。
だから私の名刺は変わっています。お会いしたらしばらくは思い出して貰えるように。
宮脇