【事例で実践編】同じ広告費で顧客転換率を向上させるLPOの手法
仮説! 検証!
実例でわかるマーケ実践術
ネットイヤーグループ株式会社 金澤 一央
成功するウェブマーケティングには、仮説と検証が存在しなければならない。さらに適切にデータを検証することで、「間違いに可能な限り早く気付き、迅速に手を打つ」というPDCA(Plan Do Check Action)サイクルをいかに高速回転できるかが、今後のWeb担当者のテーマであると言える。
この記事では、マーケティング施策の概念解説とともに、実際に筆者が担当した企業の事例を元にした実践的なノウハウをお伝えする。
前回はLPOの概要を解説したが、今回は、私が実際に担当した事例をもとにLPOを説明する。
クライアントの詳細は伏せさせていただくが、仮にA社とする。A社は情報産業大手。年末のハイシーズンに際し、見込み客獲得のためにマス(テレビCM)とネットの連動型キャンペーンを展開した。この際のCVR(コンバージョン率)最適化施策として、LPOの実施が決定した。
キャンペーンとLPO施策の概要
このキャンペーンとLPO施策の概要は次のとおりである。効果測定およびランディングページの最適化は、このストーリーの下に展開された。実際にLPO施策を計画する場合、このような項目を検討しておくのが大切だ。
- キャンペーンの目的
- ハイシーズンを前に見込み客を獲得する。
- これまでA社の弱点であった西日本の特定地方からの獲得に重点を置く。
- マスとネットにおけるクリエイティブの連動性を検証する。
- ねらい
- LPO施策により、キャンペーン中、継続的に高いCVRを維持する。
- 経路分析を平行して行い、ランディングページ別のユーザー行動、流入属性、CVRなど、さまざまな関係性を分析することで、次回のキャンペーンで精度を高めるためのノウハウを獲得する。
- 行動仮説
- インタラクションのあるリッチコンテンツの方がCVRが高くなるだろう。
- モチベーションの高いユーザーは、申し込みフローへの最短距離を進むだろう。
- ユーザー属性に合ったページに着地させた方がCVRが高くなるだろう。
- CM、チラシなどマス広告の投下直後はサイト流入効果が高くなるだろう。
など
- 効果指標
- 平均CVR2%以上(申し込み完了セッション÷全流入セッション)
- 平均CVR2%以上(申し込み完了セッション÷全流入セッション)
- 認知/流入のための施策
- テレビCMによるキーワードおよび商品名の訴求
- 約2000キーワードのリスティング広告確保
- Yahoo! JAPANなど主要サイトへバナー掲載
- アフィリエイト広告、Eメール広告の断続的展開
- 最適化のための施策
- 振り分け型DLPOおよびA/Bテストの採用
- ビッグキーワードはキャンペーンのトップページに誘導
- スモールキーワードは各商品カテゴリのトップページに誘導
- 都道府県など具体的属性が判別できる場合はクリエイティブのパーツを最適化
- キャンペーンのトップページでA/Bテストを行い、クリエイティブ効果を測定
- 効果指標(KPI)
- セッション数、ページビュー数
- 総合
- ページ別
- CVR
- 基本測定ポイントは「ランディングページ→申込開始→申込終了」
- 行動属性別CVR
- 属性別:流入サイト(媒体)ごと、キーワードごと
- 経路別:商品詳細ページ経由と直接申込
- ランディングページ別CVR(5秒のFlash、3秒のFlash、テキストのHTMLをA/Bテストによって露出量をコントロール)
- セッション数、ページビュー数
本キャンペーンでは、オーリックシステムズ社と協力することで、生成型と振り分け型のDLPOを併用し、さらにA/Bテストも行うことで、経路分析との突き合わせも行った。極めて短期間でここまで複雑な仕組みを実現していただいた同社にはこの場を借りて厚く御礼申し上げたい。
A/Bテストの運用と成果
DLPOを行うことによって、最も具体的に導入効果を実感できるのはA/Bテストかもしれない。今回のキャンペーンでは、Flash(5秒尺)、Flash(3秒尺)、HTMLという3つのランディングページをプログラムによって露出をコントロールし、それぞれのCVRを測定した。
A/Bテストを行う際の仮説としては、次のものを設定していた。
ところが、実際にA/Bテストを行って得られた結果は、仮説とまったく異なるものであった。
Flashは作成にかなりの時間を費やした自信作だったのだが、実際にCVRが高かったのは、HTMLページだったのだ。多少の波はあったにせよ、一貫してFlashよりもHTMLのほうが高いCVRを維持し続けたのである。
この事実には、私もクライアントも愕然とした。ただ、重要なのは、この衝撃の事実よりも、いち早く露出コントロールを変更できたことである。
もう少しA/Bテストについて解説しよう。当初は、次のような露出比率で展開していた。
- Flash(5秒尺):25%
- Flash(3秒尺):25%
- HTML:50%
しかし、明らかにHTMLのほうが効果が良いとわかった段階で、次のように露出設定を変更し、高いCVRの維持を優先した。
- Flash(5秒尺):15%
- Flash(3秒尺):15%
- HTML:70%
キャンペーン開始以後、最短3日ペースで露出比率を調整し続けた結果、キャンペーン終了の2週間以上前に目標顧客獲得数を達成することができた。もし、従来どおり1枚のランディングページだったならば、少なくとも早期目標達成は難しかったに違いない。また、キャンペーンの後半では、クリエイティブテストの意味合いを強くし、新ページの投入や実験的試みを展開し、極めて有意義な検証結果を得ることができた。
DLPOは、クリエイティブテストと継続的な最適化の併用を可能にする。データ蓄積のみならず、迅速な最適化は、今後のインターネットマーケティングにおける重要な要素であり、DLPO技術は極めて大きな意味を持ってくるであろう。
最終的に、資料請求の目標値は大幅に達成することができた。成功要因は、さまざまな面で裏切られた行動仮説を迅速に修正したことにある。
経路分析の重要性
今回、LPOと同時に経路分析も行った。経路に関する仮説は次のとおりだった。
結果は、ほぼNoであった。今回のキャンペーンでは、以下それぞれのCVRを比較した。
- トップページ→申し込み
- トップページ→詳細ページ→申し込み
通常、申し込みへの障壁はできるだけ少ないほうがよく、Web担当者は、少しでも階層を浅くすることに腐心する。ところが、今回は明らかに後者のほうがCVRが高かったのである。
階層が浅いだけではCVRに貢献することはできないという事実から、ユーザーを顧客転換するには、必要十分な情報の提供が必須であることが推察される。どれぐらいの分量が最適なのか、どんなナビゲーションが良いのかは、今後のキャンペーンで蓄積していくべき重要な情報である。
一時期神話のように持てはやされた「1クリック購入」は、それさえあればCVRが向上する万能ツールではないことがわかる。
振り分け型DLPOでロングテールにマッチング
以下のような仮説も立てていた。
この仮説の結果は、予想通りYesであった。
今回はユーザーの属性仮説に応じて、約60パターンのランディングページを用意し、2000のキーワード広告をそれぞれに割り振った。属性仮説は、下記のとおりである。
- デモグラフィック別(都道府県など)
- サイコグラフィック別(購買動機など)
今回は、入力したキーワードによって上記の属性を取得する方法をとったため、ダイレクトアクセスなど属性が判別できないユーザーはすべて汎用のランディングページに誘導し、属性が明確にわかる場合は、詳細ランディングページに誘導した。
結果として、詳細ランディングページに直接着地したユーザーは20%~50%と極めて高いCVRを計測した。
しかし、下記の問題点も明らかになった。
- 属性の判別が困難なため、大半は汎用ランディングページに着地している。
- 圧倒的に母数が少ないため、統計的に確かな値だとはいえない。
この2つは、DLPO施策に常に内包される問題でもある。
属性判別には、ユーザーの一意判定とこれに突き合わせる属性データの存在が不可欠である。通常、CookieやユーザーIDと顧客データを結び付けることで判別するのだが、新規顧客獲得の場合は、突き合わせられるデータが極端に少ない。このため、先述の多変量解析によって、確率論に立脚するやり方や、現在注目されている行動ターゲティングによる分析結果の突き合わせが今後進んでいくことになるだろう。
また、属性を細かく判別すればするほど適合するユーザーは少なくなる。これを検索キーワードに置き換えると、いわゆるスモールキーワードや複数語のコンビネーションに該当し、いわゆるロングテール部分にあたる。おそらくどこまで行っても全体の絶対的な訪問数は大きくはならないが、確実に顧客転換に貢献しているのは事実である。ここは本来費用対効果の低いユーザー属性であるが、DLPOを採用することで最適化が可能になる領域である。
これは参考例であるが、CVRは主要の10属性程度を測定し、ロングテール領域はあくまで獲得顧客上積みへの貢献と次期キャンペーンのシーズを発掘するとして区別して考えるのも手であろう。
クロスメディアとLPO
以前から私は、マス広告の刺激による受け皿媒体としてのキャンペーンサイトでLPOを含むキャンペーン効果の測定をしてみたかった。立てていた仮説は次のとおりだ。
この仮説は、予想どおりYesと証明された。ただ、驚くべきは、次のような点である。
- 思ったほどテレビCMによるセッションピークは稼げなかった。
- チラシ投下から3日で、キャンペーン目標の大半を獲得してしまった。
- CVRはセッションピークに反比例するように徐々に増えた。
今回はキャンペーン開始直後にテレビCMを投下し、その後約2週間で折り込みチラシを打った。テレビCMは、ほぼキャンペーン終了まで同じ内容で流し続けた。結果として、テレビCMの効果は投下直後から徐々に低下し、約1週間で安定し始めた。これに対して、CVRはテレビCMの投下直後が最も低く、徐々に向上してチラシ投下でピークを迎えた。
ただ、今回はLPOによる最適化を継続していたのでCVR向上はLPOに起因する部分が大きいかもしれない。
また、テレビCMはメインターゲットである西日本を中心に露出したため、首都圏のアクセスを稼げなかった可能性は高い。しかし、西日本に限定してアクセスを見ても、反応は思ったほどではなかった。
テレビCMとキャンペーンサイトの連動性は確かにあるものの、決して万能ではないという結果が見て取れる。
とはいえ、チラシが良好なパフォーマンスを出した理由として、事前にテレビCMによる訴求があったことやLPOによる効果あったことは否定できない。残念ながら、テレビCMを打たないケースでのチラシの効果を測定していないので比較することはできないが、この極端な反応から鑑みると、因果関係は容易に推察できる。また、チラシ投下の約1週間前にA/Bテストの結果からランディングページの露出比率を最適化し、同時に日々変化するSEO流入への対応もチューンナップし続けていたのも事実だ。
一般的な傾向から考えると、単純なテレビCMとウェブサイトのクロスメディアキャンペーンであれば、CVRもCMの鮮度劣化に伴って減少していたであろう。鮮度劣化をLPOで補填し、最大チャンスであるチラシ投下時の効果を最大化したことが、このキャンペーンの成功要因であったといえよう。
LPOの効能
引き金となるメディアやニーズそのものの多様化が叫ばれる現在では、何らかのDLPOソフトウェアを用いたユーザー意図への細やかな対応が重みを増してくる。リスティング広告に限らず、自社サイトへの流入経路は今後も圧倒的速度で増え続けて行き、その数だけ、LPO施策は必要になってゆく。
LPO施策を展開することは、手法はともあれ、今後のWeb担当者にとって必須事項になっていくことは間違いない。他サイトや他メディアとの最適な関係性を維持するための施策として、LPOは極めて直接的な効果をもたらすことができる施策だからである。
しかしながらその背景には、仮説と検証が存在しなければならない。「間違いに可能な限り早く気付き、迅速に手を打つ」というPDCA(Plan Do Check Action)サイクルをどれだけ高速回転できるかが、今後のWeb担当者のテーマであると言える。
LPO施策の実行は短期的なCVRの向上のみならず、今後のインターネットマーケティングにおいて重要な要素を極めて具体的に教えてくれた。そして、掛け替えのないノウハウと経験とともに得られた重要な感想はこれだ。やっぱり、ちゃんと考えないとだめだな。
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