文京区役所+SITE PUBLIS(株式会社ミックスネットワーク)
取材・文:加藤さこ
写真:編集部
区の顔として区民のための情報を発信してきた文京区の公式サイト。2006年に大幅にリニューアルし、区のお知らせや催し物などの情報をリアルタイムに配信できるようにした文京区だが、以前は更新作業、サイトの見やすさなど、さまざまな問題を抱えていた。
ホームページ作成ソフトでのページ作成、紙ベースでの内容承認、FTPソフトによる手動でのアップロードという、サイト更新のワークフローを解決し、サイトを使いやすくするために行ったCMS(コンテンツ管理システム)の導入は、どのように行われたのだろうか。
ウェブサイトの基本的な情報や利用CMSに関する情報はページの末尾に記載。
CMS導入の目的
- 各職員がホームページ作成ソフトを使わずにページを作成できるようにしたい
- ページ内容の承認から公開までの作業を紙ベースではなくパソコンで完結させたい
- 情報公開の即時性を向上したい
- ページ構成やデザインを統一したい
共用パソコンでホームページ作成ソフト、紙ベースの内容承認……
文京区の公式サイトは1999年に立ち上げられた。当時はホームページ作成ソフトを利用して各課に1名ずつ担当者を置き、作成用のパソコンを共用していた。
昨年度まで企画政策部 広報課で広報主査を務めていた田中 邦彦氏は、当時の様子をこう語る。
「課単位でページを作れるように、各課で担当者を選び、講習会を開いて専門知識を身につけていきました。
実際の作業としては、限られた台数のパソコンにのみインストールされているホームページ作成ソフトを使用して担当者がページを作ったら、1ページずつプリントアウトして紙ベースで課内決済を取るというものでした。その後、FTPソフトで広報課へ協議申請を行い、広報課で審査した後、広報課の職員がFTPソフトで公開サーバーにアップロードしていました。
しかし、このやり方では、作成から公開まで1週間ほどかかってしまいます」(田中氏)
講習会の他にマニュアルも用意したが、もともと専門知識のない職員たちには内容が難しく、なかなかページが増えない。また、ホームページ作成ソフトをインストールしたパソコンの台数も限られており、担当者が使いたいと思っても他の人が利用していて空くのを待たなければならないという問題もあった。
「広報課でも、各課から提出されたデータの文字表現をチェックしたり校正したりするために、1枚ずつプリントアウトして確認するという作業を行っていました。中には機種依存文字を使用しているものもあったので、作業に追われる毎日でした」(田中氏)
作成から公開までに何日も要するようでは、情報公開の即時性が利点のネットをうまく活用してはいけない。
経験を重ねるうちに担当職員のスキルは上がっていったが、それでも3000ページもの情報を管理するのには、限界があると田中氏は感じていた。
担当者によってページ構成などもバラバラになってきて、統一を図ろうと思っても思うようにできない。担当者と広報課が、ともに力技を駆使して運営してきたが、ここにきて抜本的な解決が必要だと感じるようになってきた。
サイトを見直して環境を整える
それにはCMSの導入が必要だ
サイト内のページを見やすく分類したい、情報の即時性を保ちたい、アクセシビリティを徹底させたい。サイトを充実させようという思いはあっても、各課担当者が日々の業務に加えて、ホームページ作成ソフトの操作に習熟するというのは、現状ではなかなか難しい。
さらには、コンテンツ作りのルールが統一されていないために、サイトの訪問者が欲しい情報にたどり着けないということもあった。
このような問題を解決するために見直しが行われた。対策として上がったのは、専門知識がなくても、だれもが気軽に利用・更新できる環境を作ることだった。
「ExcelやWordが使える程度の知識でも利用できるのが理想でした」(田中氏)
解決するには、CMSの導入が必要だと判断し、今から3年前の2004年、導入に向けて予算を組んでリニューアルを試みることになった。東京23区のリニューアル予算を調査し、文京区では、それより少し安い金額を目安としたのだという。
CMSを利用したリニューアルの実施が決定したら、次の問題は、その業務をどの業者に委託し、どんなCMSを導入するかだ。文京区はまず委託業者を募り、CMSに求める仕様を徹底的に洗い出した。
「仕様についての条件は、数百の自治体や企業のサイトを参考にし、サイト構造やページ構成などをチェックしました。さらにメディアパートナー(公募区民)とどのようなページが良いかを話し合い、区民の声も取り入れていきました」(田中氏)
東京23区の公式サイトはすべてチェックし、評判の高い企業サイトを見ていくうちに、田中氏はシンプルな構造のサイトが良いことに気付いた。それまでの文京区のサイトは、トップページに多くの情報が集中していた。情報が多すぎると、ユーザーは必要な情報を探しにくくなってしまう。また、区民の声によって押さえるべきポイントが絞られ、気付かされることもあったという。
そうしてまとめた仕様は、大小あわせて合計50項目。「コンテンツ作成機能」「管理・運営機能」「アクセシビリティ」「コミュニケーション機能」「サーバー関連」「移行作業」「保守・サポート」「その他」の8分類にまとめ、「リニューアル業務委託に求める仕様」を作成していった。
応募要項を設定し、説明会を開催したところ、9社が応募。各社の提案書とプレゼンを総合評価し、価格を含めて提案内容に対して点数をつけて順位を決めたところ、ミックスネットワークの「SITE PUBLIS」を含めた応募の業者に決定した。要望条件を満たし、さらに新たな提案を打ち出してきた内容が評価されたのだ。
応募から決定までの経緯を、企画政策部広報課の畑中 貴史氏は次のように語った。
「1年ほど情報収集をして作成した要望項目だったので、文京区が求めている機能や仕様の提示は非常に明確でした。それに沿って書面審査をし、二次審査としてプレゼンテーションを行ってもらいました。どの企画も良いものだったのですが、点数の付け方も百数十項目にわたる項目をあらかじめ細かく決めてチェックしていったところ、微妙な違いの中で最適なものがSITE PUBLIS(サイト・パブリス)だったんです」(畑中氏)
各業者に対して個々に説明会を開催し、審査の前にヒアリングをしたため、選定には2か月を要した。何度も説明をしていくうちに、田中氏はサイト構成などに関する知識が増えていくという利点があったという。
「何をするサイトなのか、どういうデザインにするか、理想とするものがはっきりとしたので、その後の作業も非常にラクになりました」(田中氏)
CMSの操作は簡単に習得
ページ作りがより身近なものに
委託業者が決まり、2006年の4月から約5か月かけてリニューアル作業が始まった。
委託業者に既存の3000ページの中からどのコンテンツをどこに配置するかなど細かい指示を出しながら進められた。既存コンテンツの移行作業は委託業者にまかせ、リニューアルの作業は10月1日のオープンに向けてスムーズに進行した。
9月頭にはシステムが完成し、説明会を開催。作業練習を兼ねて各課担当者が新たなページを入力していった。
「全体のシステムと作業の流れについての説明会は開きましたが、操作自体が簡単なので、担当者には実践しながら短時間で覚えてもらえました。
以前、ホームページ作成ソフトを利用していたときには、説明会の当日は理解していても、次の日にはわからなくなるという人もいましたから、CMS導入は職員にとっても、非常に好評でしたよ」(畑中氏)
SITE PUBLISは、Wordと同じような操作で内容を入力し、プレビューを見ながらドラッグ&ドロップでページを簡単に作成していける。専門知識をもっていない職員も、「これならできる」と積極的に作成に取り組むようになったという。
逆に、知識をもつ一部の職員からは「物足りない」という声も上がったが、課内に更新できる人が増えるというのは全体の効率アップに欠かせないことだ。
以前は、更新・追加データをすべて広報課でチェックしていたのだが、各課内だけでチェックするようにして課長レベルで承認・公開できるようにしたため、全体の作業効率も格段にアップしていった。広報課の役割は全体の管理とトップページに載せる注目情報を管理することとし、細部については各課の責任としたのだ。これが可能になった理由として、アクセシビリティや機種依存文字など不適切なものをCMSが自動的にチェックして、問題があればそのページを入力不可にしたことが大きいという。
「過去の古い情報を自動的にアーカイブで残しておけるのがうれしいですね。公文書館の機能を果たしてくれて、検索で記事を拾えるのは非常に役立っています」(畑中氏)
各課担当者は、カテゴリを選択してからページを作っているので、以前のように分類がバラバラになってしまう事態も防げるようになった。CMSを導入したことで、情報が探しやすくなり、見やすく、使えるサイトとして生まれ変わったのだ。
更新が頻繁になり、アクセス数も1.5倍に
順風満帆に見えるリニューアルだが、まったく障害がなかったわけではないと田中氏はいう。やはり初期投資に多額の経費がかかり、手間も要ることで反対意見もあったのだ。しかし、田中氏は、5年間の保守経費を含めて比較検討することで、将来的に見ればCMSの導入は時間もコストも削減できることを提示したのだという。
作業時間の削減は、導入後すぐに効果を発揮した。各課が行う更新のペースが向上し、時限設定機能を利用することにより、最新情報などをタイミングを図って手動でアップする必要がなくなった。そのため、掲載する情報が豊富になり、ユーザーのアクセス数が10万PVから15万PVへと、約1.5倍になった。
「更新状況、アクセス数、手間、コスト、すべてにおいてリニューアル後の評価は良好です。このおかげで、サイトは『育てていくものだ』という実感が湧きました。ページを増やし、他サービスなどを効率良く連携させたりしながら、サイトを成長させ続けることができるんです。このような考えは、リニューアルしなければたどり着けなかったものだと思います」(畑中氏)
一点だけ気になっていることを田中氏は指摘した。これまではデータをプリントアウトしてチェックしていたため、紙で形を残すという形で管理してきたが、電子承認になり機械まかせの管理のみになった分、保守の面でリスクを感じるのだという。もちろん、それ以外にはリニューアル決定時に想定したとおりのサイトができている。
Google Mapsを利用して地図情報を提示することで域情報をよりわかりやすく区民に提供できるようになったというが、将来的には携帯電話用サイトの充実も図っていきたいと畑中氏。
「サイト上でアンケートを実施し、区民をはじめとした利用者の皆さんのニーズを汲み取り、以後のサイト運営に活かしていきたいと考えています」(畑中氏)
CMS導入成功の秘訣は目的意識と綿密な計画
今回、文京区のCMS導入では、事前の調査を綿密に行い、どのようなサイトにするか、何が必要かを割り出して理想とする形を明確にすることの大切さがわかった。
コスト削減できて便利だからCMSにしようという理由だけでなく、CMSを入れることによって何を変えていくか、ユーザーはサイトに何を求めているかを知ったうえで理想に近づけていくサイトを作ることが重要なのだ。ビジョンがあれば、CMSを選定する際に、必要な機能が明確になり、将来的に必要な機能も見えてくる。
Web 2.0的に“成長するサイト”を目指すとき、CMS導入は欠かせないプラットフォームとなっているようだ。
URL | http://www.city.bunkyo.lg.jp/ |
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目的 | 東京都文京区の公式ホームページ。区民への行政情報の提供と区内外への区の紹介など |
総ページ数 | 約5000ページ |
オープン | 1999年 |
更新頻度 | ほぼ毎日更新 |
製品名 | SITE PUBLIS(サイト・パブリス) |
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提供事業者 | 株式会社ミックスネットワーク |
URL | http://www.micsnet.co.jp/ |
出力形態 | 静的HTMLファイル出力/動的ページ生成 |
対応OS | Linux(Red Hat系)、Solaris 8 |
特徴 | デザイン構築からコンテンツ作成、承認ワークフローによるコンテンツ公開までウェブサイト運営のすべてのフェーズを管理する。プログラムが不要な動的コーナーを多数標準装備し、ページごとの編集・管理権限の設定など充実した機能を低価格で実現している。また、オリジナルのプログラムをコンテンツに導入できるプラグイン機能もある。 |
- インストール型を選択
- 静的HTML生成タイプでサイト・パブリスの機能で公開サーバーにHTMLをアップロード
- サイト全体をリニューアル
- 制作会社のスタッフが既存のコンテンツの9割以上をCMS化
- 提案募集に1か月、提案の選定に約1か月、リニューアル作業に約5か月、職員のトレーニングに約1か月
- 東京23区のリニューアル予算を調査し、それよりも少し安く設定
- 庁内グループウェアの認証情報を共有してシングルサインオンを実現できること
- ログインユーザー(ページ作成者)ごとに操作できるページを制限できること
- 作成中のページのプレビューが可能なこと
- 公開承認システムは、3段階以上を設定でき、差し戻し理由を添付して差し戻しが可能で、複数の承認経路を設定可能なこと
- コンテンツの公開日、公開時間、削除日を設定すれば、自動でコンテンツが更新されること
- 画像のalt属性(代替テキスト)の入力漏れや、使用してはならない色、深い階層など、アクセシビリティを妨げるページ作成はシステムで受け付けない、または警告を発すること
- JIS規格に準拠していること
- RSS配信機能を設置すること
- 適切なナビゲーション(パンくずリストなど)が設置されていること
- 携帯電話サイトが生成できること
などの要求使用に対して最も適合している提案を採用。
※社名、所属部署、利用サービス、価格など、この記事内に記載の内容は、取材当時または記事初出当時のものです。
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