クラリオングローバルサイト
+FatWire Content Server(FatWire株式会社)
取材・文:加藤さこ
写真:編集部
クラリオンは、4年にわたる「グローバルウェブサイト統合プロジェクト」により世界30言語49サイトを構築・統合し、それまで各国バラバラだった同社のグローバルサイトの統合を完了した。
「ユーザーニーズに応え、サイト内でのユーザー経験を通じてクラリオンブランドを強化すること」を目的に2003年から進められていたこのプロジェクトにより、同社のサイトは、日本国内に設置した共通プラットフォームでグローバルに統合して管理されることとなった。
日本発のグローバルサイトとしては最大規模となるこのシステムに採用されたのは世界でも有数のCMS「FatWire Content Server」だ。若くしてプロジェクトを企画・推進したクラリオンの福本氏に、プロジェクトの経緯とCMS導入について伺った。
ウェブサイトの基本的な情報や利用CMSに関する情報はページの末尾に記載。
CMS導入の目的
- 管理もデザインもばらばらな世界中のクラリオンサイトを統合する
- 各国のサイト運営の負担を軽減し、高品質なサイトを全世界のステークホルダーに提供する
- ユーザー経験を通じてクラリオンブランドを強化できるサイトにする
同じ「クラリオン」に見えないバラバラな各国サイト
グローバルに統合せねば!
クラリオン株式会社は、1940年の創業以来、カーナビやカーオーディオなどの車載機器専業メーカーとして、国内はもとより世界中でビジネス展開をしている。
2007年12月には、クラリオンのDVDセンターユニットとDVDディスクチェンジャーがNASA(アメリカ航空宇宙局)に採用された。国際宇宙ステーション「ISS」に滞在する各国の宇宙飛行士や科学者などのアミューズメント・エンターテイメント機能として装備され、カーAV機器として初めて宇宙へ飛び立つことが決まったのだ。
その製品が世界中どころか宇宙へも広がっているクラリオンがウェブサイトを立ち上げたのは96年頃。とはいえ、当時のウェブサイトは商品カタログや会社案内のためのものだった。2001年頃からは、インターネットの普及に伴って世界中にクラリオンサイトが立ち上がってきた。しかし、日本以外のサイトは各国が独自に構築・運営していたため、それぞれ見た目から何からまったく別のサイトとなっていた。
「EUへの統合の影響でヨーロッパは比較的統一感がありましたが、それでも国や地域によってイメージがバラバラ。ウェブサイト制作の代理店に任せっきりな国もあれば、社内Web担当者の手作り感がにじみ出ているサイトもあり、とても同じクラリオンのサイトだとは思えないような状態でした」(福本氏)
現地法人のある地域はともかく、代理店しかない地域もあり、クオリティの高いサイトを単独で構築・運営するには、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源の問題を抱えている地域もあった。
このような状況の中、インターネットは一般に広く普及し、消費者だけでなくさまざまなステークホルダーに向けて情報を公開する必要性も出てきた。そこで福本氏は、各国支社の負担を減らし、高いクオリティのサイトを全世界の各地域に提供するための本社主導プロジェクトを企画し、社内の投資案件コンペに提出した。2003年のことだ。
そして当時のクラリオンの「攻めに出る」という企業方針に適しているとして、福本氏の企画「グローバルウェブサイト統合プロジェクト」が採用され、プロジェクトが開始されたのだ。
福本氏はこのプロジェクトに明確な目的を設定していた。それは、「ユーザーニーズに応え、サイト内でのユーザー経験を通じてクラリオンブランドを強化すること」というものだった。
FatWireの選択により
統合管理体制を敷く柔軟なサイト構築が実現
「ウェブサイトの運営や管理については、本社が主導するということから、全世界のサイトを統合管理でき、だれがいつコンテンツを更新したのかが把握できるようにする必要がありました。そのためにはCMS導入は不可欠です。非常に大規模なプロジェクトになるため、これまで取り引きのあった制作会社では厳しいと判断し、CMSを選定する前に、まずは新たなパートナーを募ることになりました」(福本氏)
こうして、2003年の夏にパートナー探しが始まった。既存の取引先からの話を参考にしたり、売り込みのあった会社を検討したり、インターネットを見て良質なサイトがあれば制作会社をチェックしたりしてパートナーを探し、コンペを実施した。こうして2003年11月にはパートナーがキノトロープに決定した。
「今回のプロジェクトほどの大規模な実績を持つ会社は残念ながらありませんでした。まるで未知の世界だったんですよ(笑)。ですから、過去の実績はもちろん、プロジェクトの進め方や体制について重視しました。その点でキノトロープさんが優れていると判断し、クラリオンの現状を把握してプロジェクトに必要なことを考えるための協力要請をしました」(福本氏)
サイトの設計に関してはキノトロープと一緒にプロトタイプを作り始めたが、問題はどのCMSを使うのかだ。CMS選定については、大手ベンダーのものを中心に何製品かを候補として比較を行った。条件としては日本語と英語はもちろん、タイ語、アラビア語、中国語、韓国語など多言語展開ができること。また、中長期的には全世界で何人がウェブサイトに携わることになるのかわからないことから、ライセンス形態はユーザー単位ではなくCPU単位であることが必須だ。検索や問い合わせフォームは動的生成、コンテンツは静的生成と、両方対応していることも含まれた。もちろん将来的にはコンテンツを動的に配信することも視野に入れられている。
「ワークフローについては、国によって規模も違いますし、社内にWeb担当者がいたり外部に委託していたりとさまざまなので、複雑なフローから単純なフローまで、柔軟に対応できることが必要でした。キノトロープからの提案を交えて比較検討した結果、FatWire Content Serverに決まりました。これが2005年3月ですね」(福本氏)
選定条件のほかにFatWireを選択する決め手となったのは、「ページを管理する」CMSではなく、「コンテンツを管理する」CMSであること。FatWireでは、コンテンツをボディ用、ナビゲーション用などのアセット(テンプレート)単位で管理できる。さらに、1つのテンプレートの中でテキスト、画像、リンク、リストなどさまざまな種類の“ブロック”を組み合わせてレイアウトできる仕組みにカスタマイズした。ブロックを組み合わせてページを構成できるため、同じページテンプレートでも、ブロックの組み合わせ次第でさまざまなページが作れるのだ。また、どの言語でも共通の部分(ロゴ画像など)は全体で1つのアセットとして管理し、言語によって異なるコンテンツに埋め込んでもストレスなく簡単に管理できる。
プロトタイプで進めていたサイトの設計をもとにFatWire用にテンプレートを設計・開発して調整する作業には6か月を費やした。
各国で説明とヒアリング
ネット先進国アメリカからの強い抵抗には事前に対策
福本氏は2003年12月から、サイト構築の基盤を作るためのヒアリングを開始した。本社主導の統合といっても、サイト構築や運営には各国の協力体制は欠かせない。福本氏はプロジェクトを説明して合意をとるために、主要地域に足を運んでプロジェクトの説明をして合意をとり付けて回り、要望のヒアリングと市場調査を行った。
「それまで各国では曲がりなりにも自国サイトを構築・運営してきているし、各市場の理解は本社よりも自分たち現地法人のほうが上だという自負もあるため、国によっては統合への抵抗があることが予想されました。しかし、プロジェクトの原点である“ウェブサイトを通じてクラリオンブランドを強化する”ためのサイト統合であり、そのためには本社が主導するべきだという点では、各国からの異存はありませんでした」(福本氏)
また福本氏は、各国で取り引きがある既存の現地ウェブサイト制作会社への配慮も欠かさなかった。
現地の担当者にとって、現地の制作会社という存在は、これまで接することのなかった日本の本社Web担当者よりも身近で信頼できる相談相手であるはずだ。その制作会社が、このプロジェクトによって仕事を奪われるのではないかという危機感もってしまった場合、統合に横槍を入れられかねない。そこで、そういった制作会社にもプロジェクトへの参加を要請した。
「既存の取り引き先に参加を呼びかけたのは、プロジェクトにとって非常に良い結果になりました。多くの国では、ウェブサイトに明るくない現地法人のサポート役として活躍してもらえましたから」(福本氏)
もちろん、日本の主導でのプロジェクトに対して「本社の暴力だ」という批判もあった。特にインターネット先進国のアメリカは、ウェブサイト制作の先駆者としての誇りがあり、相当な抵抗があることは初めから予測された。そのため福本氏は「アメリカ対策」としてブランド強化のために本社が主導するしかないことを強調し、不安解消のために何度もTV会議やメールでフォローを行った。また、FatWireがアメリカ製のCMSであることも説得材料として有効となったようだ。
「ブランドを主軸にしたサイト構築ということを強調すれば、反対の余地はないはずです。しかし、アメリカではディーラー情報やクラリオン製品取り扱い店の紹介など独自のコンテンツサービスを行っていて、新システムになると対応できなくなるのではないかという不安があったようです。独自コンテンツができる余地を残すテンプレートを作るなどして問題を解決し、根気良くコミュニケーションをとりながら気になる点を解決していきました」(福本氏)
インフラを日本のデータセンターに設置して全世界から利用するため、ウェブサイトへのアクセスや、各国のWeb担当者がFatWireにログインして作業する際にネットワークが遅くなる可能性もあった。セキュリティも通常に増してしっかりとしなければいけない。その対策としては、NTTコミュニケーションズのAGILITホスティングサービスを利用した。帯域設定を柔軟にでき、回線も多重化されていて、ネットワークの障害対策も万全なサービスだ。
「各国のWeb担当者にとって、CMSを導入すること自体が大きな制約となります。それ以上の制約を課してしまうと、運営意欲を損なってしまう可能性も出てきます。そのために、現地のWeb担当者には、各国サイトを自由に管理できる権限を持たせました」(福本氏)
CMSだからできる各国ウェブサイト間のフォローアップ
CMS導入後、各国でサイトを作成し、足並みをそろえて運用していくためにもFatWireのシステムとクラリオンで作成したテンプレートに関してトレーニングが必要だ。福本氏は現地に赴いて説明会を開催した。開催地はアメリカ、シンガポール、チェコ、フランス、ブラジル、メキシコ、オーストラリア。世界中を回っての大掛かりなトレーニングとなった。マニュアルとしては、FatWireやキノトロープが用意しているものがあったが、内容が技術者向けでWeb担当者にはわかりにくいと判断し、画面キャプチャを撮ってクラリオン独自の詳細マニュアルを作成した。
「トレーニングの実施は、世界各国に行けるという楽しい面もありましたが、やはり大変でした。特にブラジルは、直前に航空会社が倒産して飛行機が飛ばなくなるなど、予想外の事態がいろいろと発生して大変でしたね。トレーニングには制作会社のスタッフが3名参加してくれたのですが……数か月後には3名とも辞めていて引き継ぎもされておらず、トレーニングが無駄になってしまったというトラブルも発生しました。ラテン気質なんでしょうかね(笑)」(福本氏)
このように、わかる人間がいない状態になった場合でも、グローバルにサイトを統一したメリットがある。システムを理解している他の国の制作会社がサポートする体制をすぐに整えられるのだ。
また、サイト運営に関して体力のない国は、新製品のリニューアルなど、更新にボリュームがあると対応しきれないこともある。そういった場合でも、CMSのおかげで本社がコンテンツを強制的に更新させることが可能となった。
「インターフェイスが同じですから、国際分業も可能です。たとえば、本社でおおもととなるコンテンツを作成しておいて、それをもとに各国向けコンテンツをいくつかの制作会社で手分けして作り、グローバルに展開するということもできます。テンプレート化しているので、スキルも必要ありません。現地でもCMSは好意的に受け入れられていて、実際に更新頻度がアップしていますよ」(福本氏)
かくして各国のサイトを順次完成させ、2007年11月には30言語49サイトの統合が完了した。すべてのサイトが統合管理されているため、どの言語のサイトでだれがいつどのコンテンツを更新したかを本社で把握できるし、スペインのサイト用に作ったコンテンツを南米のサイトで使うなどのコンテンツの共用も簡単にできる。FatWireの導入は成功し、福本氏が描いていたプロジェクトの全体はおおむね達成されたという。
とはいえ、運用してみて初めて気づいた問題点もあると福本氏は言う。
「些細な点ですけどね。更新履歴をさかのぼって確認できるロールバック機能は非常に便利なんですが、ロールバックしないと履歴のプレビューができない点は不便ですね。あとは、ブロックをたくさん使用しているテンプレートのコンテンツを編集しようとすると、処理が複雑な分、ちょっと古いPCでは入力インターフェイスの表示に時間がかかってしまうとか」(福本氏)
ブランド強化のためにも
先行したプロジェクトが重要な役割を果たす
クラリオンでは、このプロジェクトとは別に、2004年ごろからブランド力強化に向けた新しい取り組みを始めていた。
「クラリオンはカーメーカー向けのOEMビジネスの比率が高いのですが、時代の変化と共に、たとえOEMであっても製造元の自社ブランド力は必要で、ブランド力の差で純正品への採用や販売価格にも影響がでるようになってきていたのです」(福本氏)
しかし、ブランド力強化といっても当初は具体的にどんなアクションをとればいいのか明確ではない。そこで、ブランド強化を主な目的として先行していた福本氏の「グローバルウェブサイト統合プロジェクト」で蓄積されたノウハウが、同社のブランディング戦略に重要な役割を果たした。
「ブランドは、そのブランドとのあらゆる接点で積み重ねられた経験によって形成されます。だから、CI統一や広告宣伝だけでなく、社員一人ひとりの意識や働き方を改善していく努力が重要なんですね。そういった認識が、ウェブサイトという具体的でわかりやすいアウトプットによって、迅速に共有されました」
福本氏は、ブランド強化に関して、ウェブサイトが次のような役割を果たしているという。
- 全世界のユーザーに高品質なサイトを提供できる
- 社外向けにだけでなく、社内に対してもブランドの方向性を伝えられる
- メディアミックスを考えて他メディアでも各国があまり突飛なことをしなくなる
- 短期間のトレーニングにより、だれでも高い品質のコンテンツを制作できる
また、マーケティング的な面では、すべてのサイトのアクセス解析を同一のシステムで行えるようになったこと、国による人気製品の違いなど詳細を把握できること、グローバル規模でのキャンペーンが簡単に行えることなどのメリットもあるという。
「サイトを統合しているおかげで、キャンペーン効果を同じ条件で解析して同じ指標でアクセス解析データを判断できます。これからは各国に対しても本社提供のコンテンツだけでなく、ブランド統一下での独自性を出してローカル情報の充実を呼びかけていきます」(福本氏)
今回のプロジェクトでは、まだやっと最低限の情報提供やコミュニケーションの基盤を整備した段階だと福本氏。今後はリッチメディアコンテンツの拡充を図り、投資家、関連会社などのさまざまなステークホルダーとの密接なコミュニケーションを実現させるツールとしてウェブサイトを活用してく予定だ。
URL | http://www.clarion.com/jp/ http://www.clarion.com/top.html(グローバルサイト一覧) |
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目的 | ユーザーのニーズに応え、サイト内でのユーザー経験を通じてクラリオンブランドを強化するために、クラリオン製品やIR情報などを掲載 |
総サイト数 | 30言語49サイト、数万ページ |
オープン | 1996年ごろ |
更新頻度 | 毎日 |
製品名 | FatWire Content Server(ファットワイヤ・コンテント・サーバー) |
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提供事業者 | FatWire株式会社 |
URL | http://www.fatwire.co.jp/ |
出力形態 | 静的HTMLファイル出力/動的ページ生成 |
対応OS | Windows/Solaris/AIX/Linux |
特徴 | 多言語のグローバルサイト群の管理にも対応する高機能コンテンツ管理システム。通常のCMSに求められる機能は備えており、コンテンツをページ単位ではなくアセット単位で管理できるのが特徴。サイト数や管理者数を増やしてもコストは変わらず、テンプレート数も無制限。オプション機能も豊富に用意されており、動的コンテンツ生成用のキャッシュサーバー、WYSIWYG編集機能、セグメントマーケティング用ツールや、動的に行うアクセス解析をコンテンツに反映できるOneToOne用ログ解析機能などがある。また、555万円で導入できる「FirstSiteLite」というセットも用意されている。 |
- 世界30言語49サイトを1つのCMSに統合
- 延べ4年のプロジェクト
- ウェブサイト設計やデザインのプロトタイプ作成・調整に約4か月
- CMSのテンプレート設計に約3か月
- CMSのテンプレート開発に約3か月
- 約2年かけて全世界49サイトを完成
- 旧コンテンツは基本的に閉鎖(破棄)
- システムやインフラは日本国内のデータセンターに設置し、各国の担当者はIP-VPNでCMSにログイン
- コンテンツは基本的に静的HTMLで作成
- 通常のサイト運営に必要なすべての権限を各国の現地法人・代理店の担当者に与えて運営
- CMSサーバー2台、データベースサーバー1台、テストサーバー1台、ウェブサーバー2台
- CMSのライセンス費用は約1,500万円(750万円×2サーバー)、年間保守料が240万円。
- データベースはOracleだが、ホスティングサービスを利用しているため単独の費用は発生せず
- ホスティングサービスは月額200万円程度、各国担当者がCMSにアクセスするIP-VPNの費用が月額50万円程度
- テンプレートやワークフローの設計と開発の費用が約8,000万円
- グローバルに1つのシステムに統合するため、日本語、英語、タイ語、アラビア語、中国語、韓国語など多言語展開ができること
- 世界中のスタッフが利用するため、CMSを利用するユーザー数が増えてもコストが変わらないライセンス形態であること
- 検索や問い合わせフォームは動的生成、コンテンツは静的生成と、両方対応していること
- さまざまなパターンのワークフローを設定可能であること
- ページを作成するのではなく、コンテンツはアセット単位で管理でき、そのアセットを組み合わせてページを作れること
※社名、所属部署、利用サービス、価格など、この記事内に記載の内容は、取材当時または記事初出当時のものです。
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