コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の六十九
よくある会議室の風景
「さっきのページに戻って」「悪くはないけどインパクトが」「色が派手じゃない」。パワーポイントでのプレゼンは便利なようで不便な気がします。重箱の隅がつつきやすく、指で示せるヴィジュアルが「思いつき」に説得力を与えます。
他社のサイトを例に挙げた会議で「クイズコーナーがいいね」と、本筋とは無関係の「捨てページ(遊びとも呼ぶ)」に役員が反応します。彼らの顔を立てるのも会議の技術ですから「なるほど」と賛意を示し、「それではどんなクイズを?」と尋ねると「同じ様な」と中身には興味がありません。
中身=コンテンツの重要性を論じるのは今さらですが「ホームページの果たす役割」から再確認することができます。余談ですが、パワーポイントよりプリントでポイントだけ見せるほうが話はスムーズです。
本末転倒の蔓延る背景
クイズを推奨した理由は「滞在時間」と「リピーター」いう概念を仕入れ、そこからクイズが役立つのではということでした。どちらも大切なことですが、小手先(手法)だけ真似しても期待した効果は望めません。昨年紹介した「人が集まる楽しい公園を作り無料で利用させる」も、コミュニティサイトを作り滞在時間を増やしリピーターを獲得するという手法だったのでしょうが、最終目的が「落とし穴を仕掛けて入会」だったら詐欺と同じです。
クイズも公園も「手法」として間違いではありませんが、「滞在時間」や「リピーター」がすべての商売用を計る尺度とはなりません。滞在時間が長くても、商売用ホームページでは商品を買ってくれなければ見てるだけのお客ですし、ただ迷っているだけかもしれません。リピーターもクイズ目当てでは意味がありません。
指標として把握しておくに越したことはありませんが、それを追求することで「本末転倒」となることさえあるのです。
そして、すべての「商売用」で忘れてはならないことは自社専属メディア(広報媒体)だということです。
天下無敵の偏向メディア「M3C」
「インターネットメディア」という一般的な概念ではなく、公明正大も不偏不党など必要ない、自社に有利な偏向報道の垂れ流しができる専属メディアだということが重要です。何でも英語の頭文字にまとめたがるIT界の因習に則れば「M3C(Media of the Company, by the Company, for the Company.)」といったところでしょうか。著名な演説をリスペクトしております(ゲティスバーグ演説)。
商売用では自社を中心に地球が廻っているぐらいの報道でOKです。この放送局では「社内報」だって立派なコンテンツです(※関連記事:LOHASな更新術)。後に掘り下げますがテレビや新聞などの「大メディア」はもっと阿漕な偏向報道を垂れ流しているのですから。
ジャパネットたかたにみる究極
通販業者の中にはオリジナル商品を扱っていないことを理由にコンテンツ不足と嘆く方もいます。
「ダイレクトテレショップ」「ショップジャパン」「プライムショッピング」「ジャパネットたかた」などなど大メディアに番組(コンテンツ)を提供している通販業者を挙げればきりがありません。取扱商品を「身内褒め」で配信すれば立派なコンテンツとなることを教えてくれています。
その中でもジャパネットたかたは専属メディアの追求に余念がありません。自社スタジオを持ち、社員を出演させ、取扱商品を褒めまくります。主観と客観を織り交ぜる「話芸」はお捻りを投げたくなるほどです。そして、地上波の自社番組枠にとどまらず、CSでは専門チャンネル「ジャパネットスタジオ242」までもっています。お見事。
ホームページという専属メディアは安価に「放送」を流せます。商売の世界に起きた「チープ革命」です。数万円のPCとネット回線で「メディア」を手にしました。大メディアがネットを敵視してきたのは、専売特許である「自己宣伝」を奪われてしまうと怖れたからかと邪推してしまいます。
天下の公器(笑)という事実
テレビやラジオは「限られた資源」の「電波」で商売をしております。限られているので「免許」で国が管理し、新規参入が難しい商売です。この春、TBSは城下町に作った「赤坂サカス」の情報を垂れ流し、例年通りならば本稿公開時のフジテレビでは「お台場学園」が喧伝されます。汐留も六本木も同種の「報道」が。映画を作れば特番が組まれ、限られた資源を使い力一杯の自己宣伝を繰り返します。
新聞に目を移せば、主催のビジネススクールに文化センターが「再販制度」という「国民の知る権利を守る制度」だかなんだかに守られている紙面を飾ります。
「商業活動」を批判するつもりはありませんが、メディアの「天下の公器」という代名詞に“(笑)”をつけたくなるほど「専属メディア」は自己宣伝に活用されています。
リピーター対策の本質
大メディアの「偏向」ぶりをみれば、中小企業の商売用ホームページは、贔屓の引き倒しぐらいでちょうどいいと気がつくのではないでしょうか。自社製品を褒め、社員を褒め、自社のお客さんを褒めます。自画自賛万歳です。
私が自社サイトで「伸びる会社は知っている」というメルマガをオリジナルの内容で発行し続けるのも「専属メディア」だと意識しているからです。メルマガを本放送、バックナンバーが再放送という位置づけです。
前号で他社依存のリスクを指摘したように、メルマガスタンドやブログサービスは、突然の閉鎖や規約変更というリスクがあります。しかし、「専属メディア」をもっていれば、いつでも自分だけの偏向放送が流せ、リスナー(読者)と情報交換ができます。これもホームページが本来持っている力です。
滞在時間やリピーターも重要な指標であり課題ですが、専属メディアというアプローチから考えれば「コンテンツ」の重要性を再確認でき、本末転倒を遠ざけることができます。
………あの人やあの人がテレビ局を欲しがったのは言葉通りなら「本質」を掴んでいたといえます。まぁ女子アナとの合コンだけが目的だという週刊誌の話しの方が興味はそそりますが。
♪今回のポイント
自分のメディアを持つという意識。
大メディアがネットを怖れる本質もそこにある……のか?
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