[コラム]IA視点のWebプロジェクト

プロジェクトリーダーに求められるIA視点――プロジェクトアーキテクトという役割

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前回はIA(情報アーキテクチャとインフォメーションアーキテクト)の言葉の定義と、プロジェクトのタイプごとにインフォメーションアーキテクトのアサインを変える必要があることを記しました。今回は、どうしてそうなっているのかを説明します。

情報アーキテクチャ設計の影響範囲

情報アーキテクチャとは、前回の記事で取り上げたように、サイト内での情報の分類や、情報のつながりを定義することです。定義するということは、その情報の優先順位を明確にして、意志を持ってルールを作ることだとも言えます。

一般的な企業サイトの構築において、この「情報を収集し」「整理し」「優先順位をつける」ことは、単にデータや情報を対象とするより、もっと広い意味で捉える必要があります。情報自体の複雑さや扱い方のパターンを精査するよりも、さまざまなレベルの意志決定をすることの方が重要だからです。たとえば、広報や製品担当者、デザイナなどのサイト設計に関係する各部門の担当者と「解決すべき問題の中で、最も優先される事項は何か」「サーバなどのインフラ環境がどのような状態で、何らかの制約条件があるのか」「運用フローはどのようにするべきか」といった数々の要件に対して調整を行っていくのです。このため、多くのプロジェクトにおいては、情報アーキテクチャの設計知識に秀でていることよりも、プロジェクト全体を見渡し適切な判断を下せることのほうが優先されます。

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また、情報アーキテクチャ設計の多くはプロジェクト序盤のまだ要件が固まらない段階での作業となります。具体的には、サイト構造はどの部分の詳細化に気をつけなければならないとか、サイト内のどの部分が高頻度の更新に対応できる仕組みになっていないといけないとか、コンテンツを統合する必要がありそうな箇所がある場合、いったいそれはどの部署が影響するのか、といった内容です。

これらは、デザインやシステム開発、原稿作成、そしてそれぞれの工程の確認作業といった、その後の多くの作業に影響を及ぼすことになります。ですから、こうした一つ一つの作業について、それらがどういう状態なのか、プロジェクトの他の領域への調整が必要かどうかを見極めることが必要なのです。

このため、サイト構築におけるプロジェクトリーダーと情報アーキテクチャ設計担当者(インフォメーションアーキテクト)とが別になっていると、プロジェクトリーダー側は、どのような調整が必要で、プロジェクト内のどの部分に重きを置くべきかを十分に把握できず、情報アーキテクチャ設計担当者にプロジェクトを丸投げする状態になってしまったり、あるいは逆に、情報アーキテクチャ設計担当者に断片的な情報しかインプットされず、網羅的な検討ができなかったり、検討するための情報や判断材料が圧倒的に不足していたりすることが起こりえます。

特に後者は、プロジェクトリーダーが情報アーキテクチャ設計担当者(インフォメーションアーキテクト)を魔法の玉手箱(あるいはブラックボックス)だと誤解して、「なにか情報を与えれば、使いやすいサイト構造が上がってくるだろう」と都合よく考えてしまうことで発生します。また、情報アーキテクチャ設計は、その与える情報そのものを検討する段階からはじめなければならないのですが、プロジェクトリーダーにとってみれば、その行為自体がなかなか面倒なわけです

もちろんこれは、インタラクションデザインやグラフィックデザインなどの領域にも言えることであり、情報アーキテクチャ設計に限ったことではありません。しかし、情報アーキテクチャ設計はサイトの基本構想に関わるプロジェクト初期段階の重要なフェーズです。その影響範囲や方向性の振れ幅がその後のさまざまな作業に影響するのです。

プロジェクトアーキテクトという考え方

以上のことを考えると、サイト内での情報を収集し構造化する情報アーキテクチャ設計は、プロジェクト自体を設計、管理する立場の人(プロジェクトリーダー)が行う方が効率がいいことがわかります。それができれば苦労しないわけですし、すでにそうやっているよ、という声も多いかと思いますが、その際には、プロジェクトリーダーが情報アーキテクチャ設計についてある程度体系的に学ぶ必要があります。

最近では、ようやく情報アーキテクチャ設計、ナビゲーション設計についてある程度体系化された書籍なども出ていますので、それらを活用したり、セミナーやワークショップ等で学んだりする方法もあります。今後、このコラムの中でも、「情報アーキテクチャを学ぶ」活動について紹介できればと思います。

さて、話を戻して、プロジェクトリーダーが情報アーキテクチャ設計を扱うといった考え方ですが、実は同じような話が建築プロジェクトの分野でも起こっています。

実際の建造物を構築する建築のプロジェクトでも、最近では情報システムを設計時に融合させたり、利用者の動線を考慮した表示看板の設計などを同時に考えたりと、工程が複雑化しています。こうした流れを受けて、「プロジェクトアーキテクト」として、設計担当者とプロジェクトリーダーとを融合する考え方が生まれています。

2007年のIA Summit(情報アーキテクチャに関しての国際会議)でも、建築家レム・コールハース氏の事務所でシアトル中央図書館のプロジェクトを担当した、ジョシュア・プリンス・ラムス氏がプロジェクトアーキテクトの重要性をテーマに基調講演を行いました。

シアトル中央図書館は、総工費1億6000万ドルをかけて建設し2004年に開館されたシアトル中心部にある公共図書館です。ガラス張りのユニークな外観を持ち、12階建ての8階から11階まではゆるやかなスロープでらせん状になっていて、用意された開架スペースは階数を意識することなく移動できます。

シアトル中央図書館
シアトル中央図書館(シアトル公共図書館)の概観
出典:The Seattle Public Library

独自性の高い建設であるため、建材も調達から仮組、保管等まで綿密にスケジュールを組む必要があり、それに加えて、書籍というソフトウェアを扱うため、どのように施設を利用させるかというユーザーエクスペリエンスの検討とそれに伴った導線設計やそれらを生かすための設備、表示看板の設計などを行うというさまざまな工程を同時に進める必要がありました。

このため、プロジェクトの総指揮者となった建築家であるラムス氏は、建築設計はもとよりプロジェクト設計に比重を置き、プロジェクトマネージャーとしてプロジェクトを進めたのです。

Webサイトの構築プロジェクトも、いま徐々に大規模化し、実店舗、製品、サービスなどとの連動が多くなってきています。こうした具体的な設計の専門家である建築家が、プロジェクト全体を率いるプロジェクトリーダーとして振る舞った例は、Web業界のプロジェクトのありかたの一つの参考になるといえるでしょう。

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