建築分野に学ぶWebサイト設計――“変化するWebサイト”をどう捉えどう発展させるか
前回の記事では、実際の建築プロジェクトにおいて、建築家が建築現場の指揮をとったという実例を紹介しました。今回は設計寄りの話題に移して、プロジェクトだけではなくWebの設計面においても建築分野から学べる考え方があるというお話をしたいと思います。
Webサイトは変化し続ける
Webサイトは構築されてから情報が追加されたり、修正されたりしていきます。
これは情報を扱うメディアとしては当たり前のことで、たとえば、雑誌などでも創刊号でつくられたコンセプトを、その後発行する各号でより磨きをかけたり、軌道修正させたりします。
しかしながら、この「変化」は、ただやみくもに変えていけばいいのではなく、その影響範囲や必要性を検討しながら行わなければなりません。今回は、この「変化するWebサイト」についてのありかたを、情報アーキテクチャの観点から考えてみます。
こういった「変化」をWebの設計にどういった形でおり込むのかは、IA Insitute(旧AIfIA)※1やIAサミット※2などでは、かなり早い段階(2000年頃)から議論されてきました。そのときに着目された観点は、クリストファー・アレグザンダー氏が、提唱した「パタン・ランゲージ」やスチュアート・ブランド氏の著書『How Buildings Learn』内に登場する「建築物の時間変化による層(ペースレイヤリング)」という概念でした。
「パタン・ランゲージ」と「ペースレイヤリング」
「パタン・ランゲージ」とは、建築分野における「国家」「都市」「コミュニティ」という大きなくくりから「広場」「中庭」「玄関」「軒先」といった空間を形作る要素、「ドア」「窓」といった個々のパーツに至るまで、さまざまな要素が持つ階層ごとの役割を明確にし、相互の密接な関連性を説いたものです。アレグザンダー氏は、長年の建築分野での活動をまとめ、それら関連性をもった不変的な要素(パターン)を定義しました。そして、これらの組み合わせによって建築設計を行う可能性を示したのです。
この考え方は他分野にも応用が可能で、現在でもプログラミングの世界での「デザインパターン」や、ユーザーインターフェイスデザインにおけるパターンライブラリーなどの考え方に継承されています。
参考:The Yahoo! User Interface Library(YUI)(英語)
そして、このパタン・ランゲージの考え方をもとに生まれたのが、スチュアート・ブランド氏の著書『How Buildings Learn』です。ブランド氏は、この本の中で建物の構造における「時間変化による層(ペースレイヤリング)」という概念を提唱しました。
「ペースレイヤリング」とは、建物の構成要素について、その変化のしやすさ(しにくさ)を「土地」「構造」「外装」「サービス」「空間計画」「モノ」という層に分け、生活スタイルや家族構成の変化、地域の発展などによって、どういった層が影響を受け、どういったところが変わっていくのかといったことを、フィールドリサーチを元に分析をしたものです。
この本は、建築分野だけでなく、社会学や民俗学の研究者からも注目を集めました。そしてこの「ペースレイヤリング」という考え方はWebサイトの設計においても成り立つのではないかという議論が、情報アーキテクチャ業界で話されてきたのです。実際に2001年のIAサミットでは、スチュアート・ブランド氏に基調講演を行ってもらっています。
Webサイトにおける「ペースレイヤリング」
その後、情報アーキテクチャ業界では、Webサイトでの「ペースレイヤリング」にはいくつか考え方があるという見解が示されました。Webサイトを具体的な一つの建物としてとらえてそれらを層に分ける方法や、Webサイト設計の要素一つ一つについて、それぞれの変化を考えていくような方法もあります。その一つの例を図に示します。
サイト構造について考えてみると、エンタープライズ情報アーキテクチャ(EIA)と呼ばれる、企業グループ全体でのコーポレートサイトやブランドサイトなどの関係性は、その影響範囲が広く、また多くの組織がその戦略に従ってサイトを構築していくものであるため、一度方針を策定するとなかなか変えることはできません。建築物でいうと、土台となる「土地」の部分を意味しています。
個々のサイト構造は、その企業グループの全体像に比べると方針の変更は容易であるといえます。さらに、各ページの表現(デザインルール)や、「ユーザー登録フロー」などの個別の要素(システム)はそれぞれごとに最適化を図っていくことができるため、変更の難易度はさらに低いものになります。
企業の体制やバックエンドのシステム構成など、企業ごとの事情で多少順序が入れ替わることもあると思いますが、その企業中で「簡単に変更が可能なもの」と「変更が難しいもの」をレイヤーに区切って明示化することができるのです。そしてそのレイヤーごとの必要となるタイミングや頻度、重み付けを検討する際に、明示化された基準を判断材料として用いることができます。
同じ目的で異なった二つの(あるいはそれ以上の)方法を両方試して比較する方法。たとえば日付を選択させるために、カレンダーを表示させる方法と、プルダウンメニューから選択させる方法の両方を試して効果を比較する。
- 簡単に変更が可能なもの
Webサイトの構築においては、基本的にはユーザー要件やビジネス要件などによって、サイト構造やコンテンツ、ユーザーインターフェイス(UI)の検討を行います。しかしながら、簡単に変更が可能な部分は、あまり議論に時間をかけ過ぎずに、ABテスト※のような方法を採用したほうが効果があがる場合が多いです。
もちろん、単に思いつきだけでいろいろ試すと、たとえうまくいったとしても「なぜそれがうまくいったのか」がわからないため、仮説を立てたうえで実施することは重要です。ただし、表現の部分や詳細なユーザーインターフェースについては、あまり議論を続けても判断できないことも多く、そういった場合はβ版と考えて試してしまった方がいいのです。
- 変更が難しいもの
逆に、なかなか変更が難しいメインナビゲーション項目や企業グループ内のサイト構造などは、ユーザーニーズを明確化させ、企業側のロードマップや競合他社の状況などをもとに、サイトコンセプトを再確認したうえで実現していきます。
こういった影響範囲が大きな要素を変えようとすると、サイト全体を変更しなければならなくなり、コストも大きくかかります。また、利用するユーザーからしてもサイトの根本が変わってしまうため、せっかく慣れたサイトをまた一から学習し直さなければならなくなります。
Webの黎明期であればサイトのリニューアルプロジェクトとして「そのサイトすべてのリニューアル」が行われていました。しかし、それはコスト効率の面からもサイト価値の面からも無駄が多く、いまや時代遅れです。これだけWebサイトが企業にとって重要となり、また、社会的にも必要不可欠な存在となったいま、Webサイトは企業にとっての情報基盤として、ペースレイヤリングを明確にしてより磨きをかけていかなければならないのです。
そしてそれとともに、その企業ならではのWebサイト構築ノウハウをためていかなければなりません。次回は、このサイト構造以外にも企業内で成長させていくべきノウハウについて書きたいと思います。
米国をはじめとして世界中で活躍するインフォメーションアーキテクトおよび情報アーキテクチャに関心を持つ人々の組織。地域活動の支援や、教育プログラムの開発などを行っている。設立当初はアシロマ情報アーキテクチャ研究所(AIfIA)という名称だった。
→http://iainstitute.org/
ASIS&T(American Society for Information Science and Technology)が主催する、情報アーキテクチャに関する国際会議。年に1回、北米で開催されている。
→http://iasummit.org/2009/
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