上司にアドワーズの予算アップを認めさせる数字作り - エクセルでできる自動入札ツール同様の予算最適化
検索エンジン業界の大規模イベント「SMX(Search Marketing eXpo)」の上級者向けカンファレンスである「SMX Advanced」が2010年6月8日と9日の2日間、米国のシアトルで開催された。このレポートでは、リスティング広告トラックの「Amazing PPC Tactics(リスティング広告の驚くべき戦術)」というセッションで、米ウェブメトロ社のミハエル・ベーレンス氏が講演していた「グーグル入札単価シミュレーション(Bid Simulator)を使った予算シミュレーション」をご紹介しよう。
企業のリスティング広告担当者が会社によく聞かれる質問は、次の2点だ。
そもそも今の予算は効率的に活用できているのか?
○○円の予算アップが認められたとしたら、どのくらい売り上げが増えるのか?
会社に広告予算を認めてもらう難しさは、米国でも日本でも同じのようである。
それもそのはず、予算の予測は容易ではないからだ。どれ位の追加トラフィックが見込めるのか、競合の広告ランクや品質スコア、入札金額の差、上位入札した際に期待されるクリック率など、計算や予測に必要な要素はわからないことだらけである。リスティング広告は、自分のキャンペーン以外の情報に関してはオークションという仕組みである以上、透明性が低いのである。つまり、「入札単価を上げたらどうなるか?」という問いかけに対しては、魔法の水晶玉でもない限りは、答えることは難しいのだ。
では、どうすれば予測することが可能なのか? その答えの1つが、SMXでも紹介された、グーグルが広告主向けに提供する入札単価シミュレーションツール「Bid Simulator(入札シミュレータ)」を使う方法だ。さらに、エクセルのソルバー機能を使った、主要キーワードによるポートフォリオで、予算アップした際の費用対効果のシミュレーションが比較的簡単にできるのである。
グーグルの入札単価シミュレーションで効果を予測
グーグルの入札単価シミュレーションツールは昨年8月頃に日本でも導入された機能で、アドワーズの管理画面で確認できる。入札シミュレータは、現行の入札単価と異なる入札単価を設定した場合の広告掲載結果を、キーワード単位でシミュレーションできるというスグレものだ。たとえば、過去7日間に異なる入札単価を設定していたとしたら、どの位のインプレッションを得ていたかを再計算できる。さらに、そのインプレッションから発生するクリック数や費用を計算し、入札単価ごとのシミュレーション結果をグラフで確認することもできる(図1、図2)。
エクセルと組み合わせて現行キャンペーンの効果が最大化されているかを検証する
では、どのようにして予算をシミュレーションすればいいのか、SMXで紹介された、エクセルを使ってシミュレートする方法を説明しよう。まずは、入札単価シミュレーションのデータからポートフォリオに入れるキーワードを選択してコピーし(図3の例では「ゲーム素材」)、それぞれの値をノートパッドなどのテキストエディタに貼り付け(図4)、それをさらにコピーしてエクセルに貼り付ける(一部体裁の調整は必要)。
入札単価シミュレーションの値をエクセルに貼り付けたら、エクセル上で推定クリック数を項目軸にし、推定費用の値をプロットしたグラフを作成する(図5)。続いてグラフのメニューから「近似曲線線形を追加」を選択し、オプションの「累乗近似」と「グラフに数式を表示する」を選択する(図6)。累乗近似の方程式、y=axbから割り出された、キーワード「ゲーム素材」の定数aとbの値(例の場合、a=0.0095、b=2.4853)を書き出す。
以降の例では、カンファレンスで取り上げていた数字を活用して紹介する。費用はドル表示である。
コンバージョンの最大値をシミュレートする
ここからはコンバージョンをシミュレートする方法を紹介する。エクセルに、コンバージョンをシミュレートしたい入札キーワードと、前述で説明した方法で算出したキーワードごと毎の定数aとbの値を記入する。また、最大クリック数、コンバージョン率(今までのリスティング広告の運用履歴から割り出したおおよその値)、新しいクリック数、新しい費用、新しいコンバージョン数を記入する(図7)。ここでの目的は「新しいコンバージョン数」を最大化することだ。
次に、エクセルのソルバー機能を使う。ソルバーは、簡単に説明すると目的セルに入力された数式の最適値を求めるための機能だ。ソルバーはエクセルのアドイン機能なので、使っていない場合は、アドインメニューからインストールする必要がある。エクセル2007であれば、スタートメニューにある「Excelのオプション」のアドインメニューから「ソルバーアドイン」を選び、アクティブにするだけで完了する。
ソルバーのパラメーターは次のように設定する。
- 目的セルを「新しいコンバージョン数」の合計に設定(図8の例では「$D$26」)
- 目標値を最大値に設定
- 変化させるセルを「新しいクリック数」の行に設定(図8の例では「$B$24:$C$24」)
- 制約条件を「新しいクリック数<=最大クリック数」、「新しい費用<=7854」になるように設定(7,854は新しい費用の合計)
- ソルバーオプションの「非負数を仮定する」と「単位の自動設定」にチェック(図9)。
このケースは、現状の広告費用の合計7,854(ドル)のなかで、コンバージョン数が最大どれ位獲得できるかというシミュレーションだ。ソルバーを走らせた結果、キーワード1の費用は上がり、キーワード2の費用は下がった。この結果から、キーワード1への予算配分を増やしてクリック数を増やすことで、コンバージョン数を88から90へと上げられることがわかった。
この結果をもとに、それぞれのキーワードの入札単価シミュレーション(図2)に戻り、新しいクリック数を実現するための新しい入札単価を設定する、という手順になる。
予算アップした際のシミュレーションを行う
次に予算アップをした場合のシミュレーションを行い、会社に上申するための資料を作る。使うデータは先ほどまでの例と同じだが、クリック数を増減させ、コンバージョン数と費用も変更した(図11)。ソルバーを使った同様の手順で、クリック数を「変化させるセル」に設定しそれぞれの予算の中でコンバージョン数を最大化するクリック数を割り出す。図11の例の10,244(ドル)は、2つのキーワードを最大クリック数で運用した場合の費用である。
ここまでシミュレーションできれば、会社としてもビジネスの読みが立てやすいし、上司も予算を認めやすくなる。担当者である自分も会社もハッピーということだ。プレゼンテーションをしてくれた米ウェブメトロ社では、この手法で割り出した結果をかなり提案に使っているとのことだった。
ただし、エクセルでは100キーワードが上限で、かつ、入札単価シミュレーションではトラフィックが少ないキーワードは想定クリック数などが出ないため、トラフィック、コンバージョンの多い、主要キーワードに限定されることは言及しておこう。とはいえ、高額な自動入札システムが内部でやっているのとほぼ同じようなことを、タダでできるのは魅力的だし、使ってみる価値は十分あると考える。
グーグルアドワーズAPIにも入札単価シミュレーションのデータを取得する機能はベータで提供されており、システムを構築すれば、上記で説明した手順を自動で行えるだけではなく、より緻密なモデルや制約条件を使って高度なシミュレータを手にすることも可能だ。一歩先を行く提案を検討しているリスティング広告の担当者はぜひ試してほしい。
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