小さなWeb屋のビジネスチャンス。CMS物件が放置される近未来
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百八十弐
ハイパーヨーヨー再び
いま、小学生のあいだで「ハイパーヨーヨー」が流行っています。いわゆる「ヨーヨー」から進化したもので、空転(スリープ)しやすい構造をもち、さまざまなギミックによってアクロバティックな動きを実現しています。と、ここまで読んで、若い読者の方は「いまさらハイパーヨーヨー?」と驚かれるかもしれません。アニメ化もされた漫画「超速スピナー」の人気と相まって、1997年ごろに大ブームになっているからです。そのハイパーヨーヨーが3回目のブームを迎えています。ちなみに「ヨーヨー」は昭和にも「コカ・コーラ」の販促グッズとしてブームになったことがあります。
ハイパーヨーヨーは「トリック」と呼ばれる技を競います。基本的には昭和の「ヨーヨー」と同じで、「空回し」は「ロング・スリーパー」に、「犬の散歩」は「ウォーク・ザ・ドッグ」に呼称は変わりましたが、道具が進化してもやることは同じということ。それはWeb屋にも通じます。
大量生産の果てにまっているもの
ホームページをつくっている
ある編集者との打ち合わせでこのように告げると驚かれました。ブログを筆頭にしたCMS全盛の「いまどき」、更新はお客がするものではないかというのです。それに答えます。
編集さんのように文章を書ける人は多くないですよ
CMSは道具であって文章を書いてはくれません。シックスアパート社の「Movable Type」を筆頭に、「WordPress」、最近では「Jimdo」など次々と新しいCMSが登場しています。より便利なツールが登場するのは文明の必然です。しかし、便利になったからすべてが解決するというのは妄想で、コンテンツを作るための作文能力は人間だけがもつ技術です。ハイパーヨーヨーでも空転が苦手な人はトリックができないように、作文が苦手な人はコンテンツ(文章)を作るのに苦労します。
そして「更新できる」と「更新する」の間には大きな溝があり、さらに「ちゃんと更新する」のは困難です。
誰でもつくれるという虚構
近所の不動産屋が3年前にCMSを導入しました。なんとか物件情報が更新されていますが、掲載される間取り図は募集している部屋番号と異なり、半年前に外壁リフォームをしていても、掲載されている写真は以前のすすけた外観です。トップページには「ピックアップ」された物件情報が25件並び、4画面分スクロールしないと「お盆休みの案内」にたどり着けません。商売用のページで「ちゃんと更新する」とは、一定以上の品質の「コンテンツ」を維持し続けることです。
そもそも「誰でも更新できる」という主張は、「PageMill」や「ホームページビルダー」といった、Webオーサリングツールが登場した90年代にも喧伝されていたことですし、「ホームページ」そのものが「簡単な記述で世界に情報発信できるメディア」とその手軽さをはやし立てていたのです。すぐに手軽さを強調するのはWeb屋の悪いクセです。
そもそも論でいえば
今、私の所にもちこまれる相談に「ブログ型」が増えてきました。CMSの「簡単」な更新方法すら忘れたお客や、無目的に更新し続けて「とりとめ」をなくしたコンテンツ、そして
Web担当者の退社
更新できなくなったために開店休業状態のサイト。中小企業では1人の担当者に依存しているケースが多く、担当者の退社はサイトの停止を意味します。つまり、今後、CMSを納品されたクライアントが持て余す可能性が高いということです。こうした企業の「サポート需要」は魅力的な市場です。
余談ですが、潜在的に「社内Web担当者」を欲している企業は少なくありません。読者で「転職」をお考えの方がいましたら、入りたい会社を見つけたら「Web担いりませんか?」と売り込みをかけてみてはいかがでしょうか。
ちいさなWeb屋だからできること
本稿の読者で「商売にホームページは不用」という人はいないでしょうが、作っただけで役立つと祈る人もいないでしょう。「商売の役に立つホームページ」にするには、コンテンツの充実とサイト運営の両面からのサポートが必要で、「PageMill」が「Jimdo」に変わっても、作文(ライティング)、写真撮影、企画立案は同じですし、次々と現れる各種ネットサービスの活用法の本質は、メルマガもツイッターも大差はありません。それは「犬の散歩」というトリックの本質がハイパーヨーヨーとヨーヨーで同じなように、コンテンツを作り、サイトを管理する技術はCMSでもHTMLでも同じだからです。
ただし中小企業が支払える月々のWeb費用は決して多くなく、「サポート需要」は濡れ手で粟と儲かる市場ではありません。
そこに宝が眠る
そしてこれはここだけの秘密です。
一度サイト運営に失敗した会社は付き合いやすい
3つの理由があります。1つ目は、ある程度の基礎知識を持っているためゼロからの説明が不要だということ。2つ目は、前の制作業者や、Web担当者に問題があったことから別の業者を探しており、その「問題」を解決、あるいは「提案」するだけで信頼関係を構築できることです。これは専任の営業部署をもたない小さなWeb屋さんにとって大変有利に働きます。たとえば、Web担当者の退社にともない機能不全に陥っていたのならこう語りかけかけます。
我々はプロです。やめることはありません。ご安心を
信頼関係構築も「営業コスト」で、この削減は利益率向上に大きく貢献します。
最後の1つは、失敗するサイトの99%は基本的なSEOができていないことです。CMSで構築されたコンテンツで「タイトル」に主要キーワードが反映されていないことがあり、これを修正するだけで結果をだせることが多々あることが理由です。それは、おいのハイパーヨーヨーで「ウォーク・ザ・ドッグ」を実演してみせ、彼の尊敬を集めることに似ています。もちろん私がやってみせたのは、昭和に「コカ・コーラ」のヨーヨーで覚えた「犬の散歩」ですが。
続々と登場する「新型ハイパーヨーヨー」のCMに、Web業界が重なって見えたのは私の乱視が進んだからでしょうか。
今回のポイント
Web業界は「システム」を売りたがる。
客が本当に欲しているのはノウハウの「サポート」。
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
- 企業ホームページ運営の心得の電子書籍
「営業・マーケティング編」「コンテンツ制作・ツール編」発売中! - 『完全! ネット選挙マニュアル』
現場の心得コラムの宮脇氏が執筆した電子書籍がキンドルで2013年6月12日発売! - 『食べログ化する政治』ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある(2013年8月1日発売)
コメント
同感です
毎度ですが、同感です。
システムだけをばら撒いているCMSは、好きでやっている個人としっかり部署をもっている大企業は使いこなせても、肝心要の中小企業ではきちんと運用できず退廃していく、逆ドーナツ化現象を誘発させていると思います。
とはいえ、だからといってCMSがダメということではなく、プロとの二人三脚と、そうした運用がしやすいCMSの提供が重要なのでしょう。
鎌田さん、いつもコ
鎌田さん、いつもコメントありがとうございます。
その通りです。CMSに罪はありません。もともとないですが。
私がコンサルを受けた際に、必ずアドバイスするのが
「近所のプロを捜してください」
プロにも色々で新規案件ばかり、相談すればすぐに「リニューアル」といい、流行すれば「いまはツイッターです」ともちかける業者もいるので、
「プロを吟味する相談」
も顧客フォローとして行っております。ちなみにというか、今回の続編。
「メンテナンス契約を取る究極の口説き文句」
を再来週に掲載する予定です。…ボツにならなければですが。そしてその時はツイッター的にいうところの
「拡散希望」
WEB屋が本当に中小企業の力となれば、日本の景気は必ず回復するため、私は「飯のタネ」を惜しまずに公開することをここに誓って…というのはいつものことでした。
確かにお客さんに「
確かにお客さんに「文章作ってください」とお願いして、
スケジュールどおりに上がってくることはほとんどありません。
ツール云々の問題ではなく、文章を作るという作業に慣れていないのでしょうね。
ただ問題は、文章を作るような、広報なり総務の人があまり居ない規模の会社が、
コンテンツの更新にあまりお金を出したがらない傾向にあることかと思います。
(もちろん制作会社側の営業力の問題もありますが)
この文章で言われている「宝」に注力することが制作会社の収益向上にどこまで影響するのか、
数値ベース、工数ベースで考えてみると、「宝」は大げさかなぁ…という気がしないでもないです。
私の作文技術は
私の作文技術は「コンテンツ」により磨かれました。どうすればお客の一番良い部分が「伝わる」かと。
広告屋あがりということもありますが、客が商売のプロならこちらは広報、広告のプロ…であるならベストの選択をすべき、しかし予算はドコも厳しく、ならば自分で「書く」ことにしたのです。
匿名希望さんとは仕事に対しての価値観が異なるようですね。すると「宝」への評価も異なります。その「宝」へのアプローチを営業戦略と置き換えてもいいでしょう。そして私は他人を折伏する趣味は持ちませんし、この宝に参入する「同業者」が少なければ少ないほど、私の老後は安泰となりますので、よろこばしい限りです。
数値ベース、工数ベースという視点は大切ですので、そのアプローチからのヒントをひとつ提示します。
「中間業者が一番儲かる」
数的管理できる世界で、リース屋さんあがりの、自称WEB屋の採用している営業戦略です。
これは真実を付いて
これは真実を付いていると思いました。
確かに、日本語が話せるからって、ネットのような不特定多数に対して情報を発信するツールに、戦略的に文章を書くことが出来るとは限らないですよね。あと、日本の中小企業のどれほどが、自社のWebを持っているかと考えると、Webに当てる資金、経営者の高齢化、サイトの敷居の高さ(何となく難しそうと思うとか)からしても、そんなに高くなさそう。こういうビジネスもよさそうですね。私も、足立区の隣の荒川区限定のお店を開こうかと真剣に考えています。