急拡大の中国市場、主役は「小皇帝」 | はじめての中国EC#1
架空のアパレルメーカー「リラアパレル社」を舞台にしたマンガ(登場人物紹介)と、
中国ECを豊富にてがけたセールス・インチャイナ株式会社のスタッフによる解説の2本立てでお届けします。
3兆円規模の中国EC
世界最多の人口、13億人を有する中国が急激な経済成長を遂げている。その勢いを、いくつかのデータで見てみよう。
GDP
2010年度のGDPは約5兆4742億ドルの日本を抜き、世界第2位となる約5兆8786億ドルまで市場規模を拡大した※1。小売市場
小売市場でも日本は97年をピークに緩やかな減少傾向をたどり2009年度には132兆3280億円※2まで市場規模を落としたが、中国は2008年に小売市場が約157兆円まで成長し日本を抜き、翌年には約166兆円まで規模を拡大している※3。EC市場
前年比20%増を記録していた日本EC市場は4.2%増と陰りを見せている※4のだが、中国EC市場はCtoCですでに3兆円規模となり成長率も150%から200%だ。
日本の総人口の4倍となる4億5700万人もの中国インターネット人口※5は現在も年8000万人のペースで急増し続けており、世界有数のビッグマーケットに成長しつつある。
中国EC市場の主役は「80後」と「90後」の世代
中国EC市場の主役は、「80後」と呼ばれる80年代と、「90後」と呼ばれる90年代に生まれた世代だ。彼らは1979年に施行された一人っ子政策(中国の人口抑制政策)により、兄弟や姉妹を持たずに育ったものが多い。そのため、なんでも欲しい物を買ってもらえる環境で育ち、「両親と両親の祖父母の6つの財布を持っている」と言われるほど甘やかされて育った世代として、別名「小皇帝」と呼ばれている(女性の場合は「小公主」)。
90後は情報収集能力に長けており流行に敏感に反応するため、消費行動も突発的なものが多く興味を示す商品の移り変わりが激しい。また、80後も非常に強い購買力と購買意識に加えて自己表現意識を持つといわれる。
80後の女性の40%が自己表現意識を満たすために「外見」を重視している。これは消費習慣にも現れており、20~30代の女性の消費習慣を見ると56%もの女性がファッションや香水、化粧品の購入に給料の4分の1を費やしている。一方、50年代生まれの女性は、ファッションについてはあまり高い関心を示さず、倹約し必要な支出以外を押さえるが、ビジネスで成功した女性の場合は自分のご褒美として高級ブランド品や旅行などに支出する傾向がある※6。性別、世代別の消費習慣を把握し、効果的に自社の商品を販売していくことが重要である。
中国のなかでも地域ごとに異なる文化、趣向を掴むのが鍵
だが、そもそも日本の製品は中国で受けいれられているのだろうか。
その答は「イエス」だ。現在、中国の衣食の文化に日本の製品は多大な影響を与えている。マンガの主人公である圭子さんが参入しようとしているファッション業界は、なかでも顕著な市場だ。
中国の主要都市のブックスタンドには数多くの女性ファッション誌が置かれているが、売れ筋は日本の雑誌である。たとえば、『昕薇』という雑誌は日本の女性ファッション誌『Vivi』(講談社)を中国人向けに編集したもので、2009年に95万部の販売部数を記録している。また、20代前後の学生やOLを対象にした『Ray』(主婦の友社)も中国人向けに編集されて『瑞麗』という名で同年に105万部を売り上げた。
日本以外の海外ファッション雑誌も置いているが、売上は『昕薇』や『瑞麗』の約半数。フランス発の『世界時装之苑』(ELLE)は50万部、アメリカ発の『服飾与美』(Vogue)は30万部だ。欧米のファッション雑誌は白人や黒人モデルを起用しており小柄な中国人には欧米企画の服や着方が真似しづらいが、体型の似ている日本人企画の服ならお洒落だし真似られることから、日本のファッションが好まれているようだ。特に80後や90後の女性にとって日本のファッションは最先端のお洒落なのだ。
しかし、現地で雑誌に掲載されるようなすべての日本のブランドがヒットしているかというと実はそうではない。日本のファッション雑誌でみたものに「似ている」服を韓国系やローカルブランドで購入するケースが多いのだ。そうした購買行動の原因の1つとしてあげられるのが、日本では人気の「柔和な色調で自然な雰囲気を醸しだす、さりげないファッション」というコンセプトが現地の中国人にはわかりづらいことがある。さらに、土地によって好まれる服や色の系統が違う。上海では比較的ナチュラル色が好まれるが、四川省、貴州省などでは彩り鮮やかな色合いに人気がある。カラーパターンやサイズなど日本で販売するよりも多く揃えなればいけないのだ。
また、中国のなかでもエリアによって市場の成長度合がかなり異なるため、安易に都市中心部に進出することが正解とは限らないことにも注意が必要だ。中国国内で最も発展している沿岸部には上海、北京、広州など1000万人を超える都市が並ぶが、そうした都市では百貨店や専門店の商業施設の過密化により、地価やテナント費用の急激な高騰で企業の新規参入が困難になっている。
一方、内陸地の南西部に位置する重慶は、一人当たりのGDPが上海の約3分の1と少ないものの、人口では1.5倍の2859万人を有する。リーマンショックなどの世界規模の金融危機の影響を受けず、次々とショッピングモールなどの商業施設も建設されている。初期投資を考えると店舗を構えようとする小売業にとって沿岸部より新規参入しやすく、今後の市場規模の拡大にも期待できる。とはいうものの、そうした地域は主要貿易港である上海から1000キロ以上離れているため、輸送で大きなハンデを負う可能性があり、一長一短であるのが悩ましいところだ。
面積にしても日本の25倍もある中国。地域によって文化や趣向、市場の問題点、成長度合などすべてが異なるが、その分、ファッション業界に限らず多くの日本の製品が中国で売れる可能性を秘めていることは確かだ。どの地域が成長してくるかを見極め、その地域固有の文化や趣向を把握することが中国のビジネスには必要不可欠なのだ。
では実際に中国でのEC進出を進めることを考えた場合、初期投資や今後の小売市場を考えると、やはり百貨店などのリアル店舗よりも、手堅いECのほうに軍配が上がる。しかし、ECで参入といってもビジネスに必要な現地での具体的な手続き、セグメントの平均収入と詳細な購買習慣、ライバル社と価格帯の把握など知らなければならないことは山ほどある。ましてやこの不況、長期スパンで収益になるような新規参入では、企業の体力的に耐えられるか不安なところ。勝算を高くするために、現地の生の情報が不可欠である。
次回は、今回学んだ概要をもとに、現地でしか知りえない必要不可欠な情報を交えながら、一歩踏み込んだ中国市場を解説していく。
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